概要
『ジェノサイバー 虚界の魔獣』とは、1991年から1992年にかけて制作されたOVA作品。
企画および制作はアートミック。
生体エネルギー「ヴァジュラ」の圧倒的な力で敵を殲滅する破壊神『ジェノサイバー』となった双子の姉妹「エレイン」と「ダイアナ」の物語である(ちなみにダイアナが姉でエレインが妹である)。
本作は完成後、1993年初頭に発売予定だったが理由未詳のまま国内販売が棚上げになっていた。が、1994年3月2日アメリカ国内にて英語字幕入りのオリジナル版がリリースされたのを追い風に同年5月24日より「バンダイビジュアル・C-MOONレーベル」でのVHSソフト全3巻、LD(レーザーディスク)全5巻でのリリースが実施された(VHSとLDでバッケージが異なるのは各メディアの記録容量の問題に因る)。販売スケジュールは以下の通り。
『Part1ジェノサイバー誕生』:1994年5月24日
『Part2対決!ヴァジュラノイド(前編、後編)』:1994年6月23日
『Part3アークド・グランの神話(前編、後編)』:1994年7月21日
登場人物
- エレイン・リード(声:平松晶子)
- ダイアナ・リード(声:同上)
- ケネス・リード(声:加藤精三)
- グエン・モルガン(声:星野充昭)※1
- ラット(声:嶋村薫)
- 天知(声:篠原恵美)
- 若山(声:若本規夫)
- 勝(声:桜井敏治)
- マイラ(声:勝生真沙子)
- サコミズ(声:関俊彦)
- 艦長(声:江原正士)※2
- 副長(声:小室正幸)
- 神父(声:八木光生)
- リュウ(声:辻谷耕史)
- メル(声:西原久美子)
- グリムソン(声:曽我部和恭)
- ラドネック(声:千葉繁)
- 九竜会長(声:大木民夫)※3
脚注
※1 「ジェノサイバー誕生」のエンディングでは役名の記載無し。「対決!ヴァジュラノイド(前編)」のエンディングで『モルガン 星野充昭』の形でクレジットされている。
※2 各話巻末の次回予告ナレーションも担当。艦長、副長、神父とマイラは「戦略機動基地アレキサンドリア」の乗員である。
※3 「アークド・グランの神話」の「九竜健一郎(但し、正確な表記は不明)」のみ。「対決!ヴァジュラノイド(前編)」の少年会長は演者不明(声質から勝生真沙子氏の「兼ね役」説有り)。「ジェノサイバー誕生」には後述の「九竜大二郎」が台詞中に名前が上がるのみ。
生体エネルギー「ヴァジュラ」
本作の根幹を成す事象存在で、グエン・モルガンがその研究に乗り出した事、それに目を付けた九竜グループ総帥「九竜大二郎(オリジナルサウンドトラックⅠのライナーノーツの記載から、この表記で正しい事が判明)」がモルガンの助手だったケネス・リードと謀って研究を奪った事が全ての始まりとなる。
記録映像でモルガンが語る所によれば、「マインドシャドウ(人体を「高次元スキャナー」で撮影すると体内に多数確認できる影の様な領域。他の宇宙と繋がっていると言う)」を通じて別の宇宙から流れ込んで来る「風」の様な物で、更にモルガンはこれを「気」と同一視している。「ヴァジュラ」と名付けたのもモルガンだが理由については語られていない。
いわゆる「超能力」の源であり、同時に生体活動にも重大な影響を与える(第2部登場の「ヴァジュラノイド」は複数の人間の細胞から生み出された人工生命体であり、ヴァジュラにより細胞の分子構造を変化させて他の兵器等と融合/制御できるが、それ故に生命維持をヴァジュラエネルギーに依存、それに満たされた閉鎖環境=パイロットスーツ内でしか生存できない)。また、その性質上いわゆる「魂(精神や残留思念等)」と反応、その情報を記録、伝播する事も出来る特徴が有る(いわゆる「アカシック・レコード」の一端を成す可能性も窺える)。…が、それ故に大規模な死傷者が発生する状況では犠牲者の怨念等を取り込み易く、「ヴァジュラの『濃度』が高い」、「いわゆる『霊感が強い』人間がヴァジュラ濃度の高い環境に居る」等の条件で、その情報を顕在化する問題が有る(サコミズが本来自らは体験していない「香港島消滅」の状況を幻視した直後、新国連軍の武装ヘリに殺害された少年少女の霊を見たり、空母「アレキサンドリア」の艦載機パイロット「エリス」が先述の少年少女の霊に取り憑かれたあげく甲板上で自殺したのはアレキサンドリアにエレイン(=ジェノサイバー)とヴァジュラノイドと言う巨大なヴァジュラ漏出源が同時に存在したのが原因。…エリスについては「とばっちり」以外の何物でも無いが…)。逆に言えば第3部の導師(オリジナルサウンドトラックⅡのライナーノーツの記載から「マリク」で正しい事が判明)が唱えていた終末論に基づく神話の光景は「霊感は低いが妄想力は強い」導師がジェノサイバーの残骸から僅かに漏れるヴァジュラに触れて「香港島消滅」から「対ジェノサイバー世界大戦終結」までの光景を彼なりに感じとって形にした物とも採れる。※但し、マリクの件については「対ジェノサイバー世界大戦」の過程で人間(じんかん)に広まった終末思想の断片を纏めただけの可能性も無い訳ではない。
因みに機械的な発生・増幅が可能であり、モルガンが「超能力増幅装置『マンダラ』」を開発し研究に充てたり、サコミズ等がヴァジュラノイドの基本システムを確立できたのも、こうした特徴に因る。
また、先述の特徴から「心を繋げて互いに影響を与える」事も出来る為、「アークド・グランの神話(後編)」ラストのメルとリュウの状況に関しても好意的な解釈を行う事が可能である。
ジェノサイバー
ヴァジュラエネルギーの暴走で肉体が消滅したエレインがヴァジュラとしてダイアナの肉体と融合。その際にダイアナの「ヴァジュラスーツ」が二人のヴァジュラをジョイント、虚界の構成元素が集結する形で誕生、実体化した超生命体。全高215㎝、重量279㎏ ボディ材質は(ヴァジュラスーツの構成素材の)超硬バイオセラミックス+α(先述の「虚界の構成元素」)
肉体と精神の主導権はエレインが握っており、戦闘後にはエレインの姿に戻る。
ジェノサイバーその物はヴァジュラエネルギーの実体化した存在であり、エレインは虚界と実界を繋ぐ「門」としてジェノサイバーを「入れ換わる」形で出現させ、自らはその精神寄生体としてこの魔獣を制御している。
背中の翼の基部は「超能力炉」と呼ばれるパーツで闘いの意思から生じた思念波が、これを展開させヴァジュラパワーによる闘気が発生し巨大な翼の様なシルエットを作り出す。このパワーの一部が足下の重力を遮断、その周囲に高密度の反重力空間を作り出し、飛行する。空中で超能力炉を閉じても、残留するパワーで浮遊する事が可能である。翼その物はホログラム映像の様な実体の無い物で、レッド、オレンジ、イエローの3色から成る。これは云わば生体オーラによる疑似立体であり、ジェノサイバーの感情、行動の変化でコントロールされる。
一応、変身ヒーローという立ち位置であるが、目が赤く体色が緑色で翼と尻尾が生えた魔獣のようなデザインであり、ベースが機械でありながら生物的でなおかつ禍々しい外見となっている。
戦闘力は一言でいうと反則的であり、地球上のあらゆる兵器を駆使しても倒せない程であった。「対ジェノサイバー世界大戦」の末期の時点では流石に破損しているが、これはエレインの精神的コンディションと連動している為。また、そもそも「ヴァジュラエネルギーの固まり」の為、近代物理兵器の類いは通用せず、コンディションが万全のジェノサイバーにダメージを与えられるのは同じヴァジュラエネルギーを用いた攻撃手段を持つ存在に限られる。
尚、劇中で「ジェノサイバー」の呼称はグエン・モルガンが記録映像の末尾、妻タニヤの胎内の我が子(この時点では、まだ双子に分裂していない)の映像を背景に口にした物以外は(次回予告を除き)使われていない。これは、カライン湾で新国連軍の武装ヘリ部隊を全滅させた「謎の新兵器」が(モルガンの研究記録を保有している九竜グループに於いても)先述の発言内容と結び付かなかった為である。この為、作品紹介等で便宜上「対ジェノサイバー世界大戦」と表現される戦乱は(作品世界の住人には)先述の呼称では「話が通じない」可能性が高い(そもそも、当事者からすれば「それどころでは無い」だろうが)。
巨大ジェノサイバー
最終回のクライマックスでメルの怒りに呼応したエレインがジェノサイバーを復活させた姿。乳白色と赤のツートンカラーも相まってあたかもどこぞのバイオアーマーを彷彿とさせる(…が、むしろ「進撃の巨人」の「超大型巨人」と言った方がイメージが伝わり易い人も居るかも知れない)。
アークド・グラン・シティ地下から出現し、市長クリムゾンをパレードのオープンカーごと近くのビルに叩き付けて殺害し、口からの業火でパレードに参列した上流階級の市民達を焼き尽くした際には本来の10倍(20メートル近い)に巨大化、更にラドネック指揮下の治安局が持ち出した巨大自走砲に対しては、砲撃を受けた後、グリフォンを彷彿とされる姿に変型、更に火力を上げた業火で治安局武装隊を全滅させ宙に飛び立つと、市庁舎内に拘留されていたリュウを等身大状態で救出している。
実はこの形態、ジェノサイバーの最終形態…では無い!
ダイアナ・リードの記事にも在るが、本形態はメルの怒りと悲しみに呼応したエレインがメルに(文字通り)「力を貸した」存在であり、メルのサイコエネルギーにジェノサイバーのヴァジュラパワーを「上乗せ」した物で在る。外観が「骨質の外殻と赤い筋肉組織」から成る生物的外観(「超能力炉」もより生物的な構造)に変化しているのも、メルと言う「(新たな命を宿した)女性」の要素がその怒りと悲しみと共に反映された為で在る。その最たる特徴が5つの「眼」で、黄色い2つはメルの、青い3つはジェノサイバー(エレイン/ダイアナ)の物であり、この辺りからも本形態は「(ジェノサイバーの力を纏った)メルの怒りの姿」と考えるのが妥当である。
「九竜最終兵器」に対してジェノサイバーが立ち向かう際、ダイアナとエレインがメルを再受肉させ、リュウ共々(バリヤーで保護しつつ)地上に降ろしたのは、二人をこれ以上巻き込まない意味も在るが、既にメルに本形態を維持できるだけの怒りが残っていなかった事も在る。
そもそも、ジェノサイバーの最終形態と呼べる物は「エレインとダイアナの精神が『真に』同調したジェノサイバー」を指しており、グエン・モルガンやケネス・リードが目指していたと思われるジェノサイバーは(姿こそ元の姿に戻っているが)メルを分離した後、エレインとダイアナが互いの想いを一つに「九竜最終兵器」に立ち向かった際のジェノサイバーその物を指している。
余談
本作の日本販売に合わせて「月刊ホビージャパン」誌上にて1994年4月号から半年に亘り立体造形と制作サイドに因る公式設定の紹介を行う短期集中連載が実施された。…だが、これを書籍単行本等の形で頒布する等の動きは(当時のファン層からの要望にもかかわらず)何故か実施されず、本作は再び歴史の闇に埋もれてしまう事になる(また、この連載自体、一部記述に誤植が見られる等、資料として手放しで信用できる物では無い側面が残念ながら存在する)。※因みに、この連載でマックスファクトリーのMAX渡辺社長がジェノサイバーの立体を製作、後にスタチューとしてイベント販売している。
その後、ネット上で動画投稿等の形で人々の耳目を集める事になるが、そもそも膨大な内部設定を有し、副読本等のテキストが無いと作品内容の正確な理解が困難な本作である。やはり、と言うべきかネット上で「レッドマン」が「赤い通り魔」と呼ばれるに因る事態と同様の事案が発生してしまう。
これに関しては制作・販売元である「バンダイビジュアル」がネット上での有料配信にのみ現状での公開を限定している事も事態の悪化に拍車をかけているのだが、何故、ブルーレイ他でのリリースに躊躇しているのかは不明である。
そもそも、この手の話題で指摘されるゴアシーンの問題だが、「遊星からの物体X」や「ヘルレイザー」等の作品が普通に一般市場に流通している現状を見るに理由にはならない。
それだけに、なるべく早期に正規商品の市場投入が行われる事を期待する所である(そもそも、ブルーレイ化の要望自体がこれまで行われていなかった可能性も有るが…)。
なお、製品化の要望に関しては「バンダイビジュアル お客様センター」が受け付けている、との事。※2020年1月現在、リンク先では「製品化の予定の有無に関する質問」としてしか消費者の意思表示を受け付けてない点に注意。
ジェノサイバー自体のデザインは「天使と悪魔の共存」「二律背反」等がコンセプトらしく、特に上半身は天使と悪魔が背中合わせに共存するイメージのデザインとなっている。一方、巨大ジェノサイバーは元々のジェノサイバーの対極になるようデザインされており、片や「少女体型の生体/機械混合体」、もう一方は「男性体型の骨と筋肉の固まり」となっている。巨大ジェノサイバーが(見ようによっては)「痛々しく」も感じる「皮膚を持たない」外観となっているのは、その存在がメルの「怒りの姿」の側面を持つだけで無く、アークド・グランで虐げられ無念の死を遂げた者達の怒りをも体現している可能性が在る。
本作のゴアシーンを始めとする一連の暴力描写は制作サイドの意図としては「暴力の連鎖には因果応報が伴う=暴力的な理不尽の根絶」の表現であり、いたずらに破壊と暴力を肯定している訳では無い。因果応報に関する例を上げると
エレインの身柄を確保し、証拠隠滅を図る為、病院内の人間を虐殺・解体したケネスの手下達は「殺人サイボーグ三人衆」の天知と若山に同じ目に会わされる。
ジェノサイバーとの対決前に周囲の遺体を解体し弄んだ天知は、ジェノサイバーに同じ形で解体、瞬殺される。
等であるが、この因果応報の流れはエレイン/ダイアナにとっても無縁では無い。…そう、ジェノサイバーとして修羅道に身を置かざるを得なかった事が二人にとっての…。
故に、制作サイドの意図したテーマ性が万人に理解されているとは言い難い現状は心苦しい物が在る。