概要
『機動戦士Ζガンダム』の外伝作品として、株式会社サンライズとKADOKAWAのタイアップのもと、電撃ホビーマガジンにおいて連載された。
著者は多くの推理小説を手掛け、モデラーでもある今野敏。キャラクターデザインは斎藤卓也、メカニックデザインは藤岡建機による。
KADOKAWA単独でのコミカライズは、みずきたつが担当。
『Ζガンダム』において主人公達と敵対した組織ティターンズ側の視点で、物語が進む。
グリプス戦役会戦前~終戦までを描いた「T3部隊編」と、グリプス戦役後に行われた主人公エリアルド・ハンターの軍法会議を描いた「法廷編」で構成されており、この二つのエピソードが交互に展開する事で物語が進んでいく。
ガンダムシリーズにおいては初めて本格的な軍法会議の内容を描いた作品であり、ガンダムの小説作品や立体物をメインに展開するホビー雑誌の連載企画としては若干の異彩を放っている。
ただし漫画版に関してはエリアルドのティターンズ入隊からグリプス戦役終結までしか描かれていない。とは言え、こちらは漫画版オリジナルキャラクターを加えて人間関係がより明確に描かれているのが特徴。
既存のモビルスーツ・モビルアーマーをベースとし、追加パーツを施した「TRシリーズ」と呼ばれる試作機群、兎をモチーフとしたエンブレムや指先を赤く塗装したマニピュレータなど、その独特なメカニックデザインも特徴。
また、メカニックの設定にはΖガンダム劇中で登場したティターンズのMSの系列を整理するという側面も見られ、本作で登場したMSの一部パーツの技術が後に他のMSやMAに転用され使用される、という設定が多く見受けられた。
ティターンズ側のテスト兵器名は全てイギリスの児童文学「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」が出典であり、機体のマーキングもうさぎにちなんだものが描かれている(後述)。
あらすじ
地球連邦軍の若き将校、エリアルド・ハンターは、念願かなって憧れのティターンズへ配属された。
新型モビルスーツのテストの傍ら、様々なミッションや実戦を繰り返し、パイロットとして成長していく。
だが、僥倖にも『グリプス戦役』を戦い抜いたエリアルドを待っていたのは、軍事法廷という新たな戦いだった……。
法務官コンラッド・モリスはエリアルドの弁護人となり、彼の無罪を証明するため、エリアルドのかつての仲間を探し求める。
主な登場人物
ティターンズ
- エリアルド・ハンター
本作の主人公。
地球至上主義を掲げるティターンズでは稀なスペースノイド。階級は中尉。
真面目で正義感が強いが、同時に甘さと純粋さも併せ持つ。T3部隊マーフィー小隊(ブラック・オター小隊)へ配属され、ティターンズの掲げる正義と仲間を純粋に信じて戦い続けた。
- カール・マツバラ
エリアルドの同期であり、良きライバルである戦友。階級は中尉。
白人主体のティターンズでは珍しい日系人であり、髪は気分によって染めている。
明るく素直だが少し皮肉屋の気質があり、一見悩みなどない軽い人物に見えるが、内心ではしっかりと物事を考えている。
- ウェス・マーフィー
T3部隊所属のマーフィー小隊の隊長。階級は大尉。
一年戦争終盤のチェンバロ作戦で初陣を飾り、デラーズ紛争でも活躍した歴戦の勇者。
ティターンズ設立以前にはエイパー・シナプス大佐の直属の部下だった経験があり、シナプスがデラーズ紛争の全責任を負わされ処刑されたことに強い不満を持ち、それがきっかけでT3部隊に回されてきた。
厳つい顔に似合わず大のうさぎ好きであり、運用機のコードネームやマーキングデザインにうさぎが用いられているのは彼の趣味によるもの。
- オードリー・エイプリル
マーフィー小隊の紅一点。階級は中尉。
エリアルド達より2年先輩で、時にはエリアルドたちを叱責するなど、前向きで意志の強い性格をしている。器量もよく、カールからは美人と評される一方でメカ・フェチの一面があり、メカニック達からも一目置かれている。
- オットー・ペデルセン
コンペイトウを拠点とするアレキサンドリア級アスワン艦長。階級は大佐。
大局的な視点を持った、時勢や戦局を的確に把握出来る有能な指揮官であり、部下思いで人情に厚い。スペースノイドに対する偏見を持っていないため、バスク・オムのやり方には反感を持っている。
ティターンズ上層部の欺瞞と劣勢に傾きつつある戦局を察しながらも、あくまでエリアルド達の信じた正義を守るべく、アスワンの艦長でありつづけた。
グリプス2を廻る戦闘でエリアルドに「ある命令」を下し、戦死した。
- ヘンドリック・ネス
アスワンの整備主任。階級は大尉。
高齢ながら、機体の入れ替わりが激しいテスト部隊たるT3部隊のメカニックを任されるだけあってその腕は一流であり、部下のピート・シェルトンなど若手からの信頼も厚い。
アスワンの中でも年長者という事もあり、マーフィーらの良き理解者としての一面も見られ、その苦労を心配して何かと声をかける事も多い。
- トーマス・シュレーダー
士官学校時代に「氷柱(つらら)」とあだ名されたサラミス改級イズミールの艦長。階級は大佐。
一年戦争末期に20代の若さでサラミスの艦長になり、今まで部下を一人も死なせた事が無いことで連邦軍内では一種の伝説となっている人物。部下を生かすためならば平気で憎まれ役を引き受ける大きな器を持つ。
エゥーゴ(ジオン残党軍)
- ガブリエル・ゾラ
乗機に「ジオン・アライブ」のマーキングを入れるジオン公国軍元大尉。
一流のMSパイロットであり、ザンジバルを乗艦としてゲリラ活動を行っていた。後に乗艦ごとエゥーゴに移籍するが、制服はエゥーゴの物は使わずジオン軍服を着用し続ける。
無口で無表情、無愛想だが、その腕前と信念の強さから周囲の信頼は篤い。
当初はジオン再興に執念を燃やしていたが、混迷を深める戦いの中で繰り返される各勢力の政治抗争に辟易し、次第にその興味を失っていく。その一方で度々T3部隊に苦汁を舐めさせられたことで、グリプス戦役終盤には完全にティターンズのガンダム(=T3部隊)打倒の妄執に取り付かれる事になる。
- カザック・ラーソン
ジオン公国軍元大尉。
ゾラとは一年戦争時からの戦友で、彼と共にゲリラ活動を行っていた。
当初はモビルスーツパイロットとしてゲルググに搭乗していたが、T3部隊との戦闘で左足を失い、その後ザンジバルの艦長に就任する。
ゾラの数少ない理解者の一人。
- ヒルデガルド・スコルツェニー
漫画版に登場。元ジオン公国軍キルマイヤー小隊所属の女性MSパイロット。
キルマイヤーが計画したガンダム強奪作戦のため、ティターンズの新型のパイロット(=エリアルド)に接近する。
ザクⅡに搭乗して作戦を行うもエリアルドらに阻止され、コロニー外に逃走。後にエゥーゴに参加し、ゾラ隊にエゥーゴに参加するよう交渉を行う。
ゾラ隊のエゥーゴ編入後は同隊の一員としてエゥーゴ上層部との兵器調達などの交渉も行う一方で、ゾラの身を案ずる。
エリアルドと出会った時は戦う理由を見失いかなり無気力だったが、その出会いによって自らの目標を見出し、エゥーゴ時は年相応の活発な女性としての面が大きく出ていた。
地球連邦軍
- コンラッド・モリス
もう一人の主人公。
軍人でありながら弁護士を勤める、地球連邦軍法務局所属の法務官。階級は少佐(宇宙世紀ガンダムの主人公としては珍しい佐官)。
元はMSパイロットだったが、一年戦争のソロモン攻略戦で左足を負傷してパイロット生命を絶たれ、歩行杖が欠かせない体となった。
その後、軍に残るためにロー・スクールに通い弁護士資格を取得し法務局に転属する。
前線を知らない「政治家」達が指揮を執る現在の連邦軍の体質に辟易しており、その体制への反発心から、グリプス戦役後に行われたティターンズ構成員への軍事裁判の一つの中で「絶対に勝ち目のない」と評されたエリアルドの弁護を受け持つ。
- ジョアンナ・パブロア
コンラッドの秘書官。階級は中尉。ロシア系の美人。
秘書としての能力は高く、コンラッドの忠実な右腕として活動する。元は広報部門の出身であり、何人かのジャーナリストともコネを持っている。
- マキシム・グナー
デラーズ紛争時のマーフィーの戦友。階級は大尉。
高機動型ガルバルディβと新型武装のテストのためにアスワンへ赴任するが、本人は30バンチ事件などの真実を知っており、それが原因で部下を自殺に追い込んだ事を悔いていた。そのため連邦軍の正義に疑問を抱き、アスワン赴任直後に機体ごとエゥーゴへと寝返った。
小説版ではその後は語られていないが、漫画版ではグリプス2攻防戦でマーフィーと対峙している。
- オルトヴァン・ジェスール
漫画版に登場。
地球連邦軍のMSパイロット。階級は中尉。
エリアルドがティターンズに入隊する直前に配属されていたMS中隊での同僚で親友だった。
ティターンズ発足当時は自身もティターンズを志願していたが、後にティターンズの実態を知り連邦軍内の反ティターンズ派に属する事になる。
登場メカ
アドバンス・オブ・Zを参照。
専門用語
T3部隊
ティターンズ・テスト・チーム。通称T3。
ティターンズの権力拡大に伴って戦力増強を目的としたティターンズ専用の新型機の開発を行う「TR計画」遂行の為に発足された技術試験部隊。
コンペイトウ(旧ソロモン)を拠点とし、同施設を母港とするアレキサンドリア級「アスワン」を母艦とする。
TR計画
ティターンズによる大型決戦兵器「[インレ]」の開発計画。
大型かつ複雑な構造を持つインレをいきなり開発することは困難であった為、試作機であるTR-1~5までの各TRシリーズに試験項目を分割、最終的にティターンズは元より連邦軍のすべての機体の規格をTR-6で統一・代替する機種統合計画が派生した。
TRシリーズ
TR計画で開発された各試験機群。
ティターンズや連邦軍で採用されているモビルスーツ、モビルアーマーをベースに、ガンダム・インレ開発の為の試作パーツを換装している。
エリアルドの罪状
法廷編においてエリアルドに掛けられた四つの罪状。
グリプス戦役におけるエリアルドとその周辺人物の行動が密接に関連している。
- 30バンチ事件への関与
- アッシマーによる飛行規律違反
- コロニーレーザー争奪戦における敵前逃亡
- 新兵器を無断で破壊
タグに関する注意喚起
先述した通り、ティターンズ側のテスト兵器名の多くは「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」から名称が引用されており、日本でもそれを機にウォーターシップダウンの名前が再浮上するようになった。そのため、日本でマイナー気味なウォーターシップダウンの知名度向上に大きく寄与していることは間違いないのだが、一方でpixivに限らずネットでキャラ名・関連用語を調べるとガンダム関連で埋め尽くされてしまう(いわゆる「検索汚染」である)。
検索の際には植物由来は勿論のこと、lapine由来の名前であろうと作品名の併記・一致検索・マイナス検索(例 -ガンダム -AOZ -TR 等)を利用するなど工夫する必要が生じている。
本サイトでは、本来であればウォーターシップダウン関連になるはずの記事をガンダム関連が独占していた時期があった(現在では半ば解消されている)。今後の棲み分けは慎重に行って頂きたい。