CV:大塚周夫
人物像
ペガサス級強襲揚陸艦 アルビオンの艦長。ガンダム試作2号機追撃の指揮を執った地球連邦軍の将校。階級は大佐。
一年戦争以前からの艦艇を操る生粋の船乗り。平時こそ沈着冷静だが、公式をして短気と言われるような一面を稀に覗かせる。ガトーからは「連邦にしては真面目な軍人」と評されており、柔軟な思考と高い指揮能力を持つ。更に、部下の意見に耳を傾ける度量の広さと紳士的な態度を含む人格者であり、その事もあって部下に信頼されていた。終盤では処罰覚悟と思われるコロニー落とし阻止作戦を独断で結構する際、退艦を薦めたニナが乗艦を継続すると答えた際は「軍から給料は出ませんぞ」と冗談を言うなど、意外な一面も見られた。
オーストラリア・トリントン基地にてガンダム試作2号機の重力下テストと、同機に使用する核弾頭を受領の為に寄港するが、その際にアナベル・ガトーによって試作2号機を強奪され、のちにデラーズ紛争と呼ばれる戦乱に巻き込まれていく。
2号機奪還作戦を展開しながらも、ほとんど支援は与えられず、しかも核攻撃阻止に動いていたワイアットとの密会を意図せず壊してしまい、ついには2号機によるコンペイトウへの核攻撃を許してしまう。
そして、ガンダム開発計画の責任者としてアルビオンを支えていたジョン・コーウェンがジャミトフ・ハイマンによって失脚させられ、孤立無援の状態に陥りながらも独断によってデラーズ・フリートのコロニー落としを阻止するべく奮闘する。
しかし、連邦に寝返り友軍となったシーマ艦隊と対立関係となり、コウが同艦隊を独断で制圧してしまった。(ただしデラーズの殺害によりシーマがどっちつかずと思われても仕方ない状況下)
結果、アルビオンの私物化、機密兵器の横領等の罪から、デラーズ紛争終結後、彼は軍事裁判にかけられ、極刑が下された。
ただし、これは作中でも対立したバスク・オム主導の見せしめ的な施策であったようで、一説にはティターンズ系の勢力が完全に連邦軍から駆逐された後、エゥーゴ系の軍人らの尽力でジオン共和国の消滅の一年前にあたる宇宙世紀0099年(デラーズ紛争から16年後)にその名誉は完全に回復され、死後特赦が与えられたという。
様々な考察
「有能だが不運ゆえに非業の最期を遂げた艦長」という立ち位置である。
しかしSFマニアなど、当時から居たディープな考察マニアからはシナプスの判断ミスが全ての原因と言われてしまいがちである。
人物評など
結果論だけで評価すればデラーズ・フリートの策を何一つ止めることができず、知らなかったとはいえ星の屑を止めるチャンスをいくつか潰しており、全ての行動が裏目に出ている。
しかし同情する余地がないかと言えば、それらの失敗は味方の動きの鈍さや政治的な不正に巻き込まれた結果でもあり、失敗の原因はむしろ連邦軍に追求するべきで、少なくとも彼個人だけ見れば誤った判断はほぼないと言っていい。
前半は連邦軍全体目線での援護不足。これは公式サイトにも記されているため、コーウェン派だけで内々に鎮圧しようとしたからという論は通用しない。核弾頭の強奪とて警備は艦を預かっている基地側の責任(つまりマーネリ)の方が大きい。(長くなるので詳細は余談にて)
中盤ではワイアットの裏取引を潰した件は当人の前準備・配慮不足が原因で、シナプスは真面目に仕事をしたに過ぎず、むしろ部隊の大黒柱を喪う被害を被る羽目になった被害者でもある。
一番突っ込まれる終盤とて重大なタイミングでコーウェンを爪弾きにし、最低限の報連相すら欠いたのが問題なのは明白である。情報漏洩を避けるためと理由を付けても指揮系統の限られた人間のみに通達すれば良いだけの話で、劇中ではヘボン個人ではなくクルー全員に計画の全貌らしきものを打ち明けているシーンも存在するのでこの線も薄い。
よってシナプスの失態とされるものの多くはどれも大なり小なり友軍サイドにも大いに問題が存在する。試作3号機の強奪とて連絡がしっかりしていれば起こらなかった越権行為である。
これら全体を加味してもし、本作における最大の戦犯をあげるというなら地球上の連邦軍であり、「あれだけ追撃しながら任務を遂行できなかったシナプス及びアルビオンは無能の集まり」という劇中の連邦軍同様の評価は、幾分か身勝手なものと言えるだろう。
ただ最終的にシナプスがそれらの責任を取って極刑、というオチは最後の一件だけでも妥当と言わざるを得ないのは、どう取り繕っても変え難い認識である。ただこの行動自体は極刑を覚悟していたのは明白であるし、他の部下の責任も一身に背負って甘んじて刑を受けたことは評価しなくてはならない。また、コーウェンが失脚してさえいなければシナプス側を弁護出来る要素は数多存在するし、判決こそ妥当としても同情の余地もあり、死刑は免れた可能性は十分ある。つまりこれらの行動からシナプスの評価を著しく下げるのは不当であるし理不尽でもある。
実際、後年の別作品でウェス・マーフィーというシナプスの指揮下にいたキャラクターが登場し、彼が極刑にあったことを不満に思う旨を述べている。これを見ても公式としてはシナプスの境遇への同情を促した描写を総じて描いているのも明白であるし、概要の通り死後のフォローが行われた説が出る要因にもなっているのである。
戦術面
少なくとも戦場における判断に失態はほとんどないどころか現場指揮官として優秀な活躍を見せる。アフリカの戦いでは二重三重に策を巡らせてHLVのおおよその位置を特定。シーマ艦隊との初戦では練度の低い有軍艦こそ守れなかったが、アルビオン自体の被害はコウの暴走さえなければほぼ皆無。全体を通して目立った戦死者はバニングのみと数少ない犠牲者を除き、無茶な独断行動から参加した最終決戦でも犠牲や被害は最小限に留まっており、作中でも屈指の有能さを持つ現場指揮官と言ってよいだろう。
それぞれの決定にリスクがないとは言わないが、そのリスクと現実性を考慮して一つの決断を行うのが指揮官の役目である。
最後の判断にしてもガンダムシリーズ全体で見れば似たことはよくあり、連邦軍とてシーマのタレコミがなければ星の屑の真意には気づけず何ら部隊を展開出来ないという最悪の事態になっていた。それを考えればシナプスだけが非難を受けるのは理不尽であろう。これはやはり結末の悪さとグリーン・ワイアットを極端に美化する目的で対比で悪く言われている面があるのは否めない。
最後の判断も、先述の通りコーウェンづてでしっかり連絡を取って入れば強奪や越権行動は防げた可能性が高いのでまた救いがない話である。
また、バスクとの対話で「これでは軍閥政治ではないか!」と批判しながら、彼自体はコーウェン派に属しているという指摘もある。ただシナプス自体は政治的な働きにはほとんど絡んではいないし、所属しているだけで参加しているとするのはいささか乱暴ではある。そもそもこの台詞自体土壇場で政治に注力しようとするそれに対する批判としての側面もあることに注意するべきである。
「シーマ艦隊を撃墜したことがコロニー落としの成功を確定せしめた」という批判もしばしばある。が、劇中の流れとしてはバスクが想定より少し照射を早める→ノイエ・ジールがコントロール艦を破壊する→照射が中途で終わりコロニーは破壊できず…と悪いことが重なっている。
また、友軍化したとはいえ、もしバスクがコントロール艦の露払いを裏切り者のシーマ艦隊だけに依存していたとすれば、防衛策としては甘すぎると指摘できるだろう。ソーラー・システムの前面に味方は配備できないとはいえ、自軍ではほとんど兵器防衛の動きを見せていなかったのも確かである。
一方で、「コウの介入がなければもう少しマシな状況になったのでは」と主張されればそれを全否定するのも難しい。ただそう考慮し直しても現場の状況は複雑極まりなく、そもそも論も踏まえればアルビオン側に責任を全て押し付けるのは浅慮と言わざるを得ない。また、忘れてはいけないのはコウの暴走をシナプスは止められはしなかったが容認はしていないということであう。また連邦軍も裁判においてシナプスはおろか、手を下したコウもこのシーマ艦隊襲撃の罪状では裁いていないので友軍攻撃として公式には扱われていない。(これは当然連邦軍の腹黒い思惑が絡んでいるのだが)
結末の問題
アルビオンの面々の奮戦が全体を通してほとんど結果に反映されなかったことも、艦長であるシナプスへの批判が高まってしまった理由の一つである。作劇上、度重なる失敗で追い詰められていた、というわけでもなく、連邦軍としての責務を優先し処罰覚悟でコロニー落とし阻止に挑んだ彼等に多少なりとも報いるべき展開を入れるのが本来はセオリーである。だがしかし、Zの前日譚という関係からか一切報われることがなかったというまさかの内容に終始してしまったのであった。
そもそも当初の予定では「コロニー落としは寸前で阻止する」という内容にするつもりだったといい、もしこの結末が予定通り実現していれば少なくともやるべきことをやった結末になるので、シナプスも失意のまま刑を受けることもなかっただろうし、何よりこれほどまでに評価が拗れることもなかったはずである。そういう意味でも報われない中間管理職の典型的なキャラクターとなってしまった。
理想の艦長として
公式としては総じて有能なのに不運で結果が伴わなかった同情すべき人物として扱われている。先のように極刑を不服とするウェス・マーフィーの登場や、シナプスの死後の名誉回復へのフォローが考案されるなどの動きからもこれは明らかである。
総じて「連邦が下したシナプスの評価(仕事の出来ない奴)は妥当なもの」として雑に評する者も多いが、総合的に見れば腐敗した連邦軍の歪みに起因する不運を一手に受け、責任まで全部被らされて処刑されてしまったという不遇の人物である。
このように何かと視聴者の間では賛否が巻き起こるキャラクターではあるが、否の多くはやや閉鎖的なコミュニティや匿名掲示板発祥の主張が主と見られる。結果、前後関係を考慮しなかったり結果だけを見た粗探しのような結論が極めて悪い意味で尾を引いていた。
ただ彼の名誉のために補足をすると、当時から現在に至るまで決して一辺倒に批判されているわけでもない。むしろ過度に貶められてきた評価を、公式と同様に見直したり弁護する声はあった。
よってニナのように公式で無理なフォローを挟まないといけないくらいの嫌われキャラではない。
むしろシリーズ全体で見ても艦長としての人気は高い方で、当時のガンダムシリーズではこのような叩き上げの軍人が艦長として活躍し、計画立てた行動をする機会が少なかったのも、強く印象を残す追い風であった。
また、名優と名高い大塚周夫の好演も、人気の一因となっている。普段、大塚周夫と言えば悪役やワイルドな人物像の外画吹き替えが多い人物であったが、そのイメージから逆転して終始紳士的な人物を演じきった。
大塚周夫はかねてから悪役を演じる際の美学や精神論を熱弁していたほど悪役声優として知られていた人物だが、それだけに数少ない純粋な善玉役であったことも大きいだろう。彼が逝去した際、シナプスの名を上げてその死を悼んだファンが多くいたのも、その好演っぷりが人々の印象に残ったことが頷ける。
単にファンのそれだけでなく、サブカルチャー系の記事でも取り扱われており、例えばふたまん+の記事では「彼の行動には判断ミスもあったかもしれないが不運な面も多かったと見られ、紳士的で人情味溢れる心惹かれる指揮官(要約)」として紹介されている。
『REBELLION』
同作の新約版的な立ち位置とされた『REBELLION』では、先の賛否のそれを受けて展開の多くが変更されている。
- コーウェンの強引な核配備に乗り気でない様子を示す
- 核を奪われる原因となった警備体制は(少し苦しいが)連邦軍の規定通りということを明示。つまり連邦軍の規定に問題があったためという納得の行く形に
- ワイアットの密会において状況を確認しようとする
- 三号機受領は独断ではなくコーウェンの命令として、シナプスの責任のほとんどを排除
- シーマ艦隊との共闘に苦言を呈しながらもコウが攻撃を行わない
など、立ち回りが微妙にいろいろと変更されている。
最終的には原作と同じように極刑にはなってしまうが、「本来ならば降格で済むところコロニー落としの責任を押し付けられた」という形である事がはっきりと描かれており、「有能だが不運ゆえに非業の最期を遂げた艦長」と言う本来のイメージがよりわかりやすい立場となった。
スパロボでは
いずれの作品においても、バニング大尉同様最後まで生存する。原作では登場しなかったブライト・ノアに対しても、立場が近いからか親身に接してくれるなど、原作以上に「人のいいおっさん」というイメージが強い。まあスパロボの性質上、越権行為もクロスオーバーの性質上、状況として問題にならなかっただろうが。
とはいえ登場作品はわずかであり、『第3次スーパーロボット大戦』『第2次スーパーロボット大戦α』『第3次スーパーロボット大戦α』の3作品のみで、自軍で最後まで使えたのは『第2次α』だけ。
『第3次α』では序盤のみ登場し、あとはスポット参戦があるだけで復帰しないと微妙に不遇。カットイン強化されたりアルビオンの回避グラフィックバグが修正されたのにあんまりである。
また、アズラエルに反発して処刑されかけている。
最近はガンダム0083自体が登場していないことや演じた大塚周夫は2015年に死去したため、今後は新規の収録は行われないと思われる(山田伝蔵やアレーティアのように、別の役者か息子大塚明夫が演じる事となれば可能性はあるが)。
余談
- アルビオンの警備怠慢はシナプスの責任としてツッコミに上がりやすいが、少なくともシナプスの仕事の姿勢や人物評を見ても理由もなく怠慢で「警備の配置すらしていない」とは考えづらい。核弾頭の輸送にも当然兵が帯同しており、寄港先であるトリントン側の責任で賄っていたと見るべきである。コウとキースが車で簡単にアルビオンに乗り込めたり、強奪前もガトーの前にコウとキースが簡単に入っているのを見ても、顔見知りだからパスできたと考えるのが自然。ただオービルの言うように連邦は戦後の士気低下に伴い職務に対する意識が著しく低く、警備も含めて職務怠慢であったことは劇中でも示唆されている。
- 指導の不行届の責任自体はマーネリ・シナプス関係なく問われてしまうのは避けられないだろうが、すぐに艦長の職務を降ろされるほどの大失態としては認識されてはいない。もし警備責任がシナプスに全て存在した場合、配置すらしていないとなれば即懲戒になっても仕方ないものであり、同艦の艦長の就任継続はまずありえない。補充パイロットを用意する時間的な余裕もあり、乗員も編成間もないため、交代できるタイミングとしてはトリントン基地がもっとも良いタイミングであった。諸々を考えると、結局、アルビオンを含めた警備の最高責任はマーネリにあったと解釈するのが妥当だろう。
- シナプスになんの非もない、というのは流石に過剰な擁護となるが、最高責任の所在や状況把握は正確にすべきであり、これを雑に認識した視聴者の一部がシナプスの劇中のイメージから逸脱した状況認定を行っていることがほとんどである。