概要
声優は田中秀幸
地球連邦軍所属の軍人で階級は大将。連邦軍の主導者の一人で自ら派閥を持つタカ派の人物。
ただし、同じタカ派でもジャミトフ・ハイマンらが所属していたジーン・コリニー大将らとは派閥が異なる。
イギリス出身であるらしく、演説にイギリスの故事を引き、決まった時間に紅茶を飲むなど英国紳士風の振る舞いに固執している。
腐敗した連邦軍の将校として描かれてはいるが、それと同時に大艦隊の司令官としては一定の有能さを見せる面も描かれている。
大艦巨砲主義が主流でモビルスーツを軽んじる風潮が残っていた当時の連邦軍にあって、モビルスーツによる艦隊直掩の利点をしっかりと把握していた。
またデラーズ・フリートによる星の屑作戦に際してひそかにシーマ・ガラハウと密約を結んで情報を引き出そうとし、暗礁宙域での密会を試みるなど戦術レベル以上の手を打てる人物であることも分かる。
しかし密会に向かう道中アルビオンに遭遇するというイレギュラーな事態に遭遇するも深く捉えず放置してしまう。結果、シーマ艦隊がアルビオンの逆探に引っかかってしまい、緊急出撃をかけられ密会が成立しない事態に陥る。
その旨の緊急入電を受けると、半ば自業自得にもかかわらずアルビオンに怒りを露わにしつつ、シーマ艦隊の旗艦に当たらないように砲撃を行いながら撤退する。
これにより「アルビオンには同艦の想定通りの緊急事態という認識を維持させる」、「シーマにはしっかり交渉の意思を示す」、そして何より「自分達は限りなく安全な立場で逃走に成功する」という、凄まじく複雑な政治的判断を短時間で上手くやってのけるやり手な一面を見せた。
これにはシーマも「いい男だったかな」とその手腕を褒めていた。(状況的に一番立場が弱いシーマがこのアクシデントの詳細を正確に把握しているほうがよほどすごいのだが)
全ての人民に連邦軍の威容を誇ると共に、宇宙に潜むデラーズ・フリートをおびき寄せ一挙に掃討するため、自らルナツー方面軍第二守備艦隊旗艦のバーミンガムに乗艦。コンペイトウにて宇宙艦隊のほぼ全てを集めた観艦式を行い、観閲官として参加。モビルスーツと防御衛星により幾重にも防衛網を張り巡らして待ち構える。
そして読み通りに襲来するデラーズ・フリート襲撃部隊を水際で食い止める事にも成功するが、アナベル・ガトーの操縦するガンダム試作2号機は阻止できず、彼の卓越した操縦技術と大出力機体の機動性により防衛網は突破される。
そして観艦式艦隊の中央に座していたバーミンガムが核攻撃の目標となり、ガトーの放った核弾頭の直撃を受け戦死してしまった。
最高幕僚会議の一員としての立場にあり、ア・バオア・クーを直前にして倒れたレビル将軍の指揮権の一部を引き継ぎ、ア・バオア・クー攻略戦の指揮を執り、勝利の一翼を担った。
なお、ゲームギレンの野望においては劇中では無能として強調されていたこともあり、ゴップやエルランと同じく高い階級のくせに底辺に近い能力値の持ち主。強いて言えば利点はずっと連邦軍所属のため連邦を選んだ場合は別勢力に移動せずずっといること……だが、弱いので居てもしょうがないとしてジャブローでお留守番になることも多かった。
映像内で描かれた活躍が敵との密約か連邦の数を笠に着た恫喝に近いものばかりだったのが運の尽きと言った所だろう。
…が、近年ではある程度の再評価が進み嘗てか、連邦三大無能将軍仲間だったゴップとともに新ギレンの野望では司令塔としてなんとか使えるレベルに上方修正された。そのため三人の中で新ギレンの野望では相変わらず無能ポジなのは、原作でもスパイ行為という利敵行為をしておりORIGINにていざという時の小心者な言動の連続で醜態を晒しまくったエルランのみとなった。
因みにワイアットはイギリス系で見られる苗字で、英国紳士的な立ち振る舞いを好む彼には良くも悪くもふさわしい苗字である。
再評価について
OVA当時は劇中での流れ通りシーマと独断で密約を交わそうとして失敗。結果としてバニング大尉を死なせる遠因を作り、自らも滅んでいったという立ち位置。ただ彼の狙い自体は上手くいけば星の屑を潰せるものだったこともあり、思い通りになればMVPになれる可能性があった。
これを理由に再評価する視聴者が一時期非常に多かったが、この主張は彼の交渉が滞りなく進んでいれば星の屑が綺麗に解決していたという結末を知る俯瞰視点=神視点からくるものが主で、これに反比例してシナプス&コーウェンへの批判が理不尽なまでに盛り上がったこともあって、現在は少しずつ見直されている。
「政治的野心から独断で行動した」点で軍には無断である以上、命令無視の有無があるとはいえシナプスがコロニー落とし阻止のために独断専行をしたのと状態はそう変わらない。むしろ手柄をあげての出世目的が主なので動機だけ見ればなお悪い。おまけに交渉を進めた時期は観艦式直前というタイミングで、アルビオンでなくても式のメインとなる大将艦が所属不明艦と鉢合わせ寸前というそれを見れば、事情を知らない第三者がデラーズ・フリートの謀略や奇襲の可能性を考慮し、緊急事態と即断するのは当然である。
交渉が成功すれば丸く収まった=それを邪魔したアルビオンのミスと断じる論も、順番を考えれば的外れである。何故ならバーミンガムは裏取引を行う現場に向かう最中にアルビオン隊のMSに遭遇し、存在を認知している。シークレットに活動をしないといけないバーミンガム側がここで一切対応しないのも、第三者との接触のリスクをバーミンガムの誰もが認識していないのも異常で、MSの緊急出撃後もやりとりの余地は十分あり、密会のキャンセルも他所への露見を嫌っての保身目的である。以上からワイアットの前準備不足と密約の崩壊はワイアット側のミスという以前に密約をしているという意識に欠けていたのが問題と言える。
政治面にスポットを当てれば、シーマの取引に安易に応じたと見られる点はリスキーだったが、星の屑打倒の手段としてだけ見れば独断でさえなければ極めて妥当な判断であった。また、先の通り、アルビオンの乱入時には憤慨しつつも政治的な立ち回りを優先し、自身にとって比較的安泰な結末に持ち込んだ手腕はシーマの称賛の通りであろう。またコンペイトウで観艦式を行うことでジオン残党をおびき寄せる計画を立て、一定を成功を収めているので軍事でもただ無能なわけではない。
ただこれらの評価点は本編において楽観主義的な部分がそれらを概ね台無しにしている。シーマ艦隊との密会は先述通りの失態から成立せず。観艦式では肝心な試作2号機を止められず自ら破滅と、全体的に詰めが甘い。(後者はご都合主義も加味するべきだが)
もしアルビオンと遭遇せず、シーマ艦隊を上手く転がせていれば、ワイアットは非合法な手段とはいえ他の連邦の将を出し抜いて大手柄をあげられていたため、立場は180度変わっていたと思うと惜しい人である。
対比されやすいシナプスと、実は「不運のせいで輝かしい未来を掴み損ねた人」として、似た者同士なのかもしれない。
REBELLION
原作監督が監修している漫画「0083 REBELLION」においてはジオン海兵隊を厚遇することでジオンの暗部について世に広め、連邦の正義を強調する戦略を立てており、広い視野の持ち主としてしっかり政治的有能さにフォーカスを当てて描かれている。
この戦略が上手く行けばシーマ達の未来は明るいものとなっていた可能性が高いが、一方でデラーズ紛争において早い段階からジャミトフが暗躍する様子も描かれているため、ワイアットの死、もしくは排斥がジャミトフの計画の一部であった可能性もまた高く、取引が成功したとしてもシーマ達に未来があったかどうかは怪しい。
一方でシーマとの取引において、本作では、パトロールしているアルビオン隊にシーマ艦隊が見つかるという凡ミスをしており、このパトロール時にはシーマ艦隊と確認が取れているため、アルビオンに非はなく、アルビオン隊から状況の説明を求められている。
この時に説明をしておけば取引自体うまくいった可能性があったにもかかわらずにシーマ艦隊に攻撃をして逃げだしているなど、本編以上にとっさの判断力に乏しい狭量な人間として描かれている。
この事もあり本編と違い、シーマからは「ワイアットめ!」と憎まれ口をたたかれている。
先のようにアルビオンに非があると突っ込まれないよう、行動の正当性をわかりやすく際立たせたのは良いが、ワイアットの株自体は少し下がってしまっている。