概要
イトグモ科のイトグモ属(Loxosceles)に属する蜘蛛。この属の蜘蛛は英語では recluse と呼ばれており、ドクイトグモ(学名:Loxosceles reclusa)を指して brown recluse と呼ぶ。ちなみに recluse は隠遁者、つまり自らを隔離し人と合わないようにする者という意味。引きこもりとも言える。
生息地はアメリカ合衆国南東部。普段は部屋の隅の方でじっとしており、recluse という呼び名はここから来ている。
体は茶色っぽく、甲羅にヴァイオリン(フィドル)のような模様がある。このことから英語では violin spider だったり fiddle-back spider と呼ばれたりもする。6つの目は2つ1組のペアが3か所に並んでいる。通常は7mmから12mm程だが場合によってはもっと大きく育つことも。
地面に寝そべり脚を広げて構える。日中はジッとしてて、夜になると歩き回って獲物を捕まえるが、落ちてる死骸も食べる。不規則網を作りはするが基本的にこれを餌取りに使わない。飢えに強く餌が無くても数ヶ月以上生存してるのも確認されてる。
危険に晒されると低く伏せたり、死んだふりをしたり逃げたりする。人を噛むのは実はかなり稀有なこと。
珍しくバルーニング(小さい蜘蛛が糸を風に乗せて風船や凧のように飛ばされ遠くへ行くこと)を行わないので狭い地域に留まる。おかげであまり広がらず、遠くに運ばれても駆逐が容易。
人とドクイトグモと毒の恐怖
壊死性の毒を持つ。噛まれても特に問題が起きないこともあるが、酷い場合は数ヶ月に渡り噛まれた部分が壊死したままで治っても傷が残ったり、珍しいケースでは赤血球破壊反応も起こる。7歳以下の子供や免疫系の弱い人では最悪死亡もあり得る…が、殆どの場合そこまで酷くならない。
上記のことから「brown recluse bite」で検索すると人の肉体が変色し陥没したり腫れたりした恐ろしい画像がわんさか出てくる。実は別の壊死性の病気や菌の感染と見分けが付きにくいので紛らわしいことになっており、ドクイトグモに噛まれたかどうかをちゃんと確認しないと医療関係者が判別に困る。この蜘蛛はあまり人を噛もうとしないので、もし噛まれるとしたら何かしらの間違いでその蜘蛛を肌に押し当てたことになった可能性が高い。そいつを瓶か何かで捕まえておけば治療の際に特定が容易になるぞ!ちなみにこの毒は高い温度の方が効力を発揮するので氷で冷やすとある程度抑えられる。
とまぁそんなわけでアメリカ南東部を訪れる際はその点も含め諸々ご注意ください。テキサス州とか…ジョージア州とか…イリノイ州とか…
近縁種にチリドクイトグモというのが存在し、同様に危険な蜘蛛として恐れられる。また、イトグモ(属ではなく種の名前)は元は地中海エリア出身だが人に運ばれ世界中に分布しており、日本にも住み着いている。ドクイトグモほどではないがこいつも歴とした毒蜘蛛なので注意。
フィクションそしてファンタジーへ
上記のことからアメリカでは毒蜘蛛としてのイメージが強烈に広まっており、カードゲームのMTGでは recluse の名を持つ蜘蛛のクリーチャーが多数存在する。
しかし、『青ざめた出家蜘蛛』(Pale Recluse)を始めとししばらく recluse は出家蜘蛛と「間違って」訳されていた。理由は上記にもある recluse の由来であり、隠遁者や世捨て人という意味を出家と訳し、それを蜘蛛と併せた造語を作ったのだ。まさか recluse という単語が蜘蛛の種類を指すのに使われてたなんて思わなかったのである。
最近の recluse クリーチャーはちゃんとイトグモと「正しく」訳されているので安心してほしい。