南郷「何でこんな恐ろしいものを作ったんですか?」
夢野「・・・若かったんだよ」(第48話)
概要
物語終盤より登場する特殊な遺伝子。
今を遡ること15年前、遠山という科学者によって発明されたもので、「生命体や有機物に作用しその細胞を増殖させる」という働きを持つ一方、それが進行するとやがては命を奪ってしまうという危険性も孕んでいる。
一方で、レトロ遺伝子の働きは熱によって変質するようで、作中ではこの変質した遺伝子を含んだガスの作用により、耳など身体の一部が肥大化したり、ガスの採掘地近辺の蔓が生き物のように動くといった現象も確認されている。さらに言えば、極めて高温の状況下では遺伝子自体も消失してしまう。
自身の主導する作戦の中で、偶然にもこの事実を突き止めたジャシンカ帝国のカー将軍は、この変質したレトロ遺伝子の働きにより、「有尾人の尻尾を自在に増やすことができる」との結論を導き出すに至った。本来生まれながらに尻尾の数が決まっている有尾人にとって、これは正しく画期的な発見であるといっても過言ではなかったのである。
しかしそれは同時に、かねてより伝説の「十本尻尾」になることを夢見ていた帝王アトンだけでなく、そのアトンに取って代わるという野心を秘めていた女将軍ゼノビアにも、暗い欲望の炎を燃え上がらせる契機ともなり、ダークナイトの暗躍も手伝って、ジャシンカという組織そのものを揺るがす事態を引き起こすこととなる・・・。
作中での動向
「発見」と争奪
レトロ遺伝子の発見は、全くの偶然というべきものであった。
元々ジャシンカは、カー将軍主導のもとメカシンカ・ドクガスイタチによる大量殺戮作戦を展開しようとしていたのだが、その手始めとして襲撃に及んだとある遊園地にて、毒ガスを浴びた人々が想定通り死に至らず、身体の一部が個人差で肥大化するという奇妙な現象に直面してしまう。南郷耕作もガスを浴び、耳が肥大化して高熱にうなされるという事態に見舞われた。
その原因は、ドクガスイタチがガスの採集地としていた大滝山にあった。作戦失敗を受け、その原因究明に動いたカー将軍は、採集地であるマグマ池の窟上から垂れ落ちる水滴にレトロ遺伝子が含まれていること、そしてこの水滴の混入によってマグマの成分と遺伝子の性質が相互に変化し、前述した現象を引き起こしたことを突き止めたのである。
これが、有尾人の尻尾を増やす秘密の手がかりに繋がると見て取ったカー将軍は、直ちに水滴の確保に当たるも、遺伝子はダークナイトと結託したゼノビアに奪われ、すぐさまダイナマンの手に渡る。一方、ドクガスイタチを撃破した後に再度洞窟内へ入ったダイナマンは、先程まで滴り落ちていたはずの水滴が完全に止まっているという、不可解な事態に直面するに至った。
調査の結果、レトロ遺伝子の開発者が遠山博士であると突き止めたダイナマンは、15年もの間行方を晦ましたままの彼の行方を探るべく、唯一の手がかりが残されていると睨んだ恋人の家を訪ねた。
既に遠山の恋人は故人であったが、彼女が描いた遠山の肖像画は大切に保管されており、これを巡ってダイナマンとジャシンカ、そしてダークナイトとの間でまたしても熾烈な争奪戦が展開されることとなる。そしてその過程で偶然にも表出した肖像画に描かれていたのが、あの夢野総司令と瓜二つな顔であったことは、ダイナマンとジャシンカに驚愕と当惑とをもたらす結果となった。
実は夢野も、先のドクガスイタチの作戦と前後して、治療法すらわかっていないはずの南郷の耳を治療し、他の4人に大滝山へ向かうよう指示するなどの不可解な言動の末に姿を消しており、メンバーの間で夢野に対する疑念がにわかに持ち上がる中、弾は周辺の状況を整理していくうちに、やはり大滝山のどこかにレトロ遺伝子や夢野の不可解な行動に繋がる手がかりがあると推測。再び現地へと赴くに至った。
果たして、弾達は探索の末にとある洞窟内にて、独りレトロ遺伝子を処分しようとしていた夢野と再会を果たすこととなる。
夢野が語るところによれば、レトロ遺伝子は遠山と名乗っていた若かりし頃の彼の「世界中をあっと言わせるような生命工学の発明をしたいという思いの産物」であったという。しかしこのことは、遠山がジャシンカの手先のスパイ組織に狙われるという事態と、その巻き添えで恋人を喪うという悲劇までも引き起こしており、この「若さ故の過ち」をひどく悔いた遠山は自らの名と共に、レトロ遺伝子の存在までも闇に葬り、ジャシンカに対抗するための組織・科学戦隊を造り上げたのであった。
全ての事情を知ったダイナマンは、レトロ遺伝子の処分を完遂せんとする夢野を助けるべく、これを狙っていたジャシンカまでも利用した一大作戦を展開。レトロ遺伝子の入ったボンベの争奪戦に持ち込み、その果てに敢えてメカシンカ・ブーメランジャッカルの手にボンベを渡らせたところで、必殺のニュースーパーダイナマイトを炸裂させ、その大爆発による高温で相手もろともレトロ遺伝子を完全に消滅させたのであった。
内紛の行末
これで現存していたレトロ遺伝子も全て消失し、ジャシンカの目論見も潰えたかに思われたが・・・なおも十本尻尾になることを諦めずにいたアトンは、制作者である夢野総司令の身柄を確保し、改めてレトロ遺伝子を作り出させることで悲願を成就せんと画策。
その命を受け、カー将軍はメカシンカ・コンピュータードラゴンを差し向けてダイナマンを苦戦に追い込みつつ、夢野にその様を見せつけることでレトロ遺伝子を作るよう要求してみせた。夢野もその要求に表向き応じつつ、一方で自ら刺し違える覚悟で単身敵地へ乗り込むのだが・・・この夢野の行動は、カー将軍を失脚に追い込もうとするゼノビアとダークナイトの奸計に利用され、結果としてアトンから疑惑の目を向けられたカー将軍が、自ら汚名返上を期して出撃し、ダイナマンとの戦いの末に落命するという事態へと繋がっていく。
その間に、まんまと夢野の身柄を手中に収めたゼノビアは、アトン達に対しても野心を露わにし、一方では夢野を催眠状態に置いてレトロ遺伝子と、それを浴びるためのシャワーカプセルを作らせることで、アトンを出し抜き自らが十本尻尾にならんと目論んだ。
そしてレトロ遺伝子を浴びたゼノビアは、目論見通り十本尻尾を得ることに成功し、ダークナイトとの一騎討ちに敗れたアトンを後目に勝ち誇ってみせた・・・のも束の間、尻尾と共に神にも等しい力を得たはずのゼノビアを待ち受けていたのは、苦しみながら老化し、最後は白骨になって滅びゆくという悲惨な末路であった。
こうして、レトロ遺伝子を利用して十本尻尾を手に入れんとしたジャシンカの目論見は潰え、直後にアトンの跡を受け継いだ新たな帝王が、尻尾の数にこだわるそれまでの有尾人の姿勢を否定したことで、レトロ遺伝子も事実上その役目を終える格好となったのである。