「あんた、どこまで行くん?
そんなとこに座ってたって、バスなんか来おへんよ」
CV:伊藤沙莉
概要
岩戸鈴芽が「戸締まりの旅」の途中で出会う、兵庫県神戸市にあるスナックのママ。
たくましさと包容力を感じさせるふくよかな体格の女性で、女手ひとつで幼い双子の花と空を育てている。また、彼女は神戸市内の古びたアーケードにあるスナック「はぁばぁ」のオーナーママでもあり、アルバイトのミキとともに年輩の来店客たちを相手にしている。
ルミは愛媛県の松山市に暮らす自身の母親に子供たちを会わせてきた帰り道で、廃線のバス停で雨宿りをしていた鈴芽の姿を見かけて車を停め、さらに彼女が偶然にも神戸を目指していたことを知って気前よく自身の車に乗り込ませている。そうして鈴芽を神戸まで連れてきたルミは、成り行きによって自身の子供たちの面倒やスナックの手伝いを彼女に任せるなかで、彼女の素直で前向きな人柄と触れ合うことになる。
人物
容姿
緩やかに巻かれた栗色の髪と薄い色のサングラス、日焼けとは無縁そうな白い肌が印象的な、柔らかそうに丸みを帯びたふくよかな女性。年齢は鈴芽の叔母である岩戸環よりも少しだけ若いくらいであり、その振る舞いには大人の女性としての色っぽい艶やかさやどっしりとした頼もしさがにじみ出ている。(小説版、111ページ、113ページ)
普段の生活では芥子(からし)色のフレアスリーブブラウスをはじめとするゆったりとした服装をしているものの、スナックの仕事で客前に立つ際には真っ赤なドレス姿となり、髪を巻き上げてメイクもばちっと決めるなど、がらりと異なった印象を見せている。
性格
女手ひとつで仕事や育児をこなすたくましさと、豊富な人生経験による懐の深さを備えた、明るく大らかな性格の持ち主。
作中においても、旅の途中で困っている鈴芽を見かねて手を差し伸べたり、初対面で緊張する彼女に「とって喰ったりせえへんよ」と気さくに笑いかけるなど、持ち前の面倒見のよさを余すところなく披露している。あわせて、ルミの声を演じた伊藤沙莉もまた、収録にあたって「包み込むような優しさ」を印象づけるように心がけていたことを語っている。(『すずめの戸締まり』映画公式パンフレット、11ページ、26ページ)
生活環境
兵庫県神戸市内にある古いアーケード街の隅に2階建ての家を構えており、その1階でスナック「はぁばぁ」を経営している。(小説版、119ページ)
20畳ほどあるスナックの店内はカウンター、テーブル席、ソファーのそれぞれのスペースが設けられているほか、天井にはミラーボールが回っている。店を訪れる客たちは会社帰りの年輩が中心となっており、それぞれがルミやアルバイトのミキと一緒に飲めや歌えやの憂さ晴らしを楽しんでいる。(小説版、129〜132ページ)
また、普段の店の営業はミキとふたりで行なっているほか、新規のバイト店員も募集している。時給については1200円で、週2回・3時間からOKしている。(『すずめの戸締まり』映画公式パンフレット、26ページ)
経歴
神戸市内で生まれ育ったルミは、現在は廃園している山の上の遊園地が開いていたころをよく知っており、自身が幼いころはよくその遊園地まで遊びに連れてもらっていた(小説版、116〜117ページ)。また、若かりしころの素行については、店のバイトであるミキが「家出なんて、うちらもさんざんしましたやん」と口にしたあたりから、何かしらのやんちゃをしていた過去がうかがえる。(小説版、152ページ)
現在では夫のいないシングルマザーとして、幼い双子である花と空をひとりで育てている。育ち盛りのその子供たちはいつも元気いっぱいであり、ルミはしょっちゅう「こらっ! お姉ちゃんの荷物にさ・わ・ら・な・いっ!」などと彼らのいたずらを叱りつけているほか、喰い気味な返事を寄越す彼らとのやり取りに際しても「やんちゃやから、毎日戦争よ」と苦笑する様子を見せている。(小説版、113〜115ページ、118ページ)
岩戸鈴芽との関係
九州の静かな港町で暮らしている17歳の女子高生。
ルミは鈴芽のことを「鈴芽ちゃん」と呼んでおり、対する鈴芽は「ルミさん」と呼んでいる。
愛媛県松山市に暮らす母親に自身の子供たちを会わせてきた帰り道で、廃線になったバス停にひとりでたたずむ鈴芽の姿を見かけたのが出会ったきっかけとなっている。ルミはそんな鈴芽のことを「家出少女」とこっそり推察するとともに(小説版、164ページ)、彼女が神戸まで行きたいと言ったことを受けて「うちも神戸に帰るとこやから、あんた運がええわ」と気前よく彼女を車に乗せている。(小説版、112ページ)
そののち、神戸市内で昼食をとるなかで、ルミは自身の子供たちを預ける予定だった託児所が急な発熱者のため利用できなくなったことを知り、偶然乗り合わせた鈴芽に子供たちの面倒を見るように頼んでいる。また、その日の晩にもスナックの来客が普段より多くなったために鈴芽に店の手伝いをさせており、これまでアルバイトを経験したことがない彼女に対して皿洗いやワイングラスの用意といったいくつもの仕事を任せている。
そんなスナックの営業のさなか、鈴芽は何らかの異変を感じ取って勝手に店を飛び出してしまい、ルミは彼女を心配に思ったまま何時間も待ち続けることになる。そうして深夜の2時ごろに鈴芽がふたたび店に帰ってくると、ルミは「こんな時間に急におらへんようになって、どない心配したか!」とつかみかかるような勢いで彼女に詰め寄っている。店員のミキの取りなしも聞かずになおも鈴芽を問いただすルミだったが、その最中に鈴芽がお腹を空かしていることに気がつき、「……とりあえず、なんか食べよか」と気を取り直して夜食を作ることを提案している。
ルミは鈴芽とミキを交えた3人でメニューをあれこれと模索し、その結果目玉焼きの乗ったポテトサラダ入り焼きうどんを作ることを決めている。3人で分担して取りかかる料理づくりやその後の食事のなかでは互いに切れ目なくしゃべりながら笑い合い、お店にあったジンジャーエールやおつまみも引っ張り出して打ち上げパーティーのような雰囲気を楽しんでいる。(小説版、153〜155ページ)
ルミは鈴芽との交わりを通して、ひとりで旅をしている彼女にかつての自身の境遇を重ね、彼女のことを放っておけないような思いを抱いている。あわせて、彼女と出会ってからの道中やその後の数々の触れ合いのなかで彼女の素直な人柄に接してきたことから、「親御さんには、ちゃんと連絡するんよ」というような親しみのある思いやりの気持ちも向けるようになっている。
余談
- 作品を鑑賞した者のSNS上の感想のなかには、ルミの苗字と名前のそれぞれの元ネタを推察するものがあり、苗字の「二ノ宮」はルミのスナックのあるアーケードの題材(ロケ地)となった二宮筋商店街、名前の「ルミ」は神戸ルミナリエから取られている説が有力となっている。
- ルミが暮らしている兵庫県神戸市は、1995年の1月に大きな震災に見舞われており、作品を鑑賞した者のSNS上の感想のなかには「幼少期のルミも鈴芽のように大変な経験をしていたのではないか」という考えを見ることもできる。
関連タグ
岩戸鈴芽 - 全国各地を巡る戸締まりの旅をしている、九州の静かな町に暮らす女子高生。
おソノさん(魔女の宅急便) - アニメ映画『魔女の宅急便』の登場人物。『すずめの戸締まり』映画公式パンフレット所収のインタビュー(同、16ページ)のなかで、ルミとの比較として名前が挙げられている。
外部リンク
参考文献
- 新海誠『小説 すずめの戸締まり』 角川文庫 2022年8月24日発行 ISBN 978-4-04-112679-0
- パンフレット 映画『すずめの戸締まり』 東宝 2022年11月11日発行