解説
中国大陸において、20世紀前半の中華民国時代に広まった上下セットの衣装。
上衣は長袖でワイシャツのような立折襟に前開きの5つボタン、両胸と両脇の4か所に外付けのポケットを備える(ポケットは省略されることもある)。これに、同色のスラックスを合わせた服装である。
中国圏では一般的に、中華民国の建国者孫文(孫中山)が考案した服装と言われており、このため「中山装(中山服)」とも呼ばれる。孫文が日本留学中に日本の学生服に感銘を受けて作らせたとも、日本の軍人で孫文の側近であった佐々木到一によって考案されたとも言われる。
中華民国では正装として用いられたが、1950年代末頃には背広が広まり廃れていった。
中華人民共和国では、毛沢東時代に主に木綿製で緑系の色彩の安価な国民標準服・労働服として「人民服」が国策で普及された。額に紅い星のついたつば付きの帽子「人民帽」とセットで着用されていた。
1980年代初めまで男女問わず多く用いられていたが、現在は過去のものとなり、当時のオリジナルの人民服は入手困難となっている。
現在では、主に絹製で仕立ての良い、濃紺や黒の色彩で礼服に用いることができる品を「中山装(中山服)」、緑系の色彩で安価な普段着・労働着を「人民服」と呼び分けることが多い。
中山装は現在でも台湾や中華人民共和国の要人が礼装として用いる場合がある。
一方、人民服はレトロファッションの一種として、またテンプレートな中国っぽさを演出するキャラクターデザインやコスプレの道具として用いられる。
英語ではこの服を「マオスーツ(Mao suit)」と呼ぶが、毛沢東(もうたくとう/マオ・ツォトン〔Mao Zedong〕)から採った名である。
余談
- 2010年の上海万博のジャパンウィークにおいて、ギャル向けの改造が施された人民服が登場した事がある。(参照)
- よく「赤い人民服」というイメージがあるが(例)、実際にそのような人民服は作られた事はない。日本のテクノバンド・Yellow Magic Orchestra(YMO)が有名だが、YMOのコスチュームの元ネタは人民服ではなく明治時代のスキーウェアである。YMOに関しては、ライブ中に人民帽をかぶっていたことや、アルバム「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」(1979年)のジャケット写真でこの赤い服を着用したメンバーの中に人民帽をかぶったマネキンが混ざっていたことなどから、人民服という認識が広まったものと思われる。
- 「マオカラースーツ」という服があるが、別物である。(Mr.マリックが着ているあの服、といえばイメージが湧くだろうか。)人民服(中山装)がワイシャツと同様の立て折れ襟なのに対し、マオカラースーツは学ランのような折り返しのない立て襟を持った背広のことである。英語ではインドの初代首相ジャワハルラール・ネルーが着用していたことから「ネルージャケット」と呼ぶ。