概要
またの名を“悪龍王多羅阿伽”。
天保2年(1831年)に刊行し、弘化4年(1847年)に完結した曲亭馬琴作の長編草双紙『新編金瓶梅』に登場する悪しき龍王。
その正体は蛟の一種である雨龍で、普段は異相の人間の姿を取っているが、体長が約36.6mあまりある蜥蜴の様な、脚が四本ある鰐の様な容姿が本来の姿である。ちなみに燕が好物。
かつては西海に棲んでいたが、ある時、女龍王・乙姫が治め東南の蒼海に南洋の笑鮫(えみざめ)(後述)と東海の虎河豚(とらふぐ)を筆頭とする多数の毒魚を率いて貝の宮を占拠。
そこを根城として様々な悪事を働き、遂には潮の満ち引きを司る千珠万珠の2つの宝玉を竜宮城から奪い取ってしまった。
そこで所を以前助けてもらった恩返しに、ある時追手から逃れる為に乗った船諸共大波に飲まれ、海底深くに沈んだ所を救った亀に誘われて来た武士・大原武二郎武松に多羅阿伽の討伐を依頼。
そして二郎武松の立てた計略に引っ掛かり、宝玉を奪返され腹心の笑鮫と虎河豚や数多くの部下たちを失い激怒した多羅阿伽は、残る部下を引き連れて彼を追うものの、最後は二郎武松に弓で喉から項を射抜かれ絶命した。
その後、遺体は他の部下たちの遺体と共に焼き払われ、塚を築いて弔われたので、怨念も鎮められ、祟りをなすことは無かったという。
笑鮫(えみざめ)
南洋にその名を轟かしていたとされる怪魚で、悪龍王多羅阿伽の部下の1人。
その正体は笑次(えみじ)という名の人間の怨魂が鋸鮫に乗り移り変化した怪物で、多羅阿伽の命を受けて竜宮から潮の満ち引きを司る千珠万珠の2つ宝玉を盗み出した張本人。
千珠万珠の二つの玉を取り返した二郎武松と人魚の遅馬(おそま)たちを追いかけるが、最後は二郎武松に首を切り落とされ絶命した。
余談
天明7年(1787年)に出版された『紅毛雑話(おらんだばなし)』5巻において、瓶に入ったダラーカ(トビトカゲ)図が掲載されており、江戸の民衆に知られていた。
文化6年(1809年)に山東京伝によって書かれた『風流伽三味線』では、翼を持つ蜥蜴のような応龍の蛮名だともいわれる「陀羅阿迦」が登場している。