本稿では映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』のネタバレに触れています。未視聴の方、ネタバレが嫌いな方は閲覧にご注意下さい。
概要
出世という己の野心のために龍賀一族に取り入ろうと目論んでいた水木。
龍賀一族の繁栄の道具として扱われ、悍ましい因習の犠牲となっていた沙代。
沙代の祖父である龍賀家当主・時貞が逝去して間も無い夏の日、村道で草履の鼻緒が切れたために立ち往生していた沙代に、水木が手を貸した事がきっかけで2人は出会う(※)。
この時、水木は龍賀一族に取り入る目的から、沙代に対してことさら紳士的に振る舞っていた。沙代は水木の思惑通り、水木に心惹かれる。
※…脚本の吉野弘幸氏は、このシーンの水木について「かなりの部分で、仕事に利用するつもりでいい男ぶってます」と述べている。spoon.2Di(vol.106)
ただし、沙代の想いは「水木ならこの悍ましい村から自分を救い出してくれるかもしれない」という必死の賭けでもあった。沙代にも沙代の思惑があったのである。
それ故に、沙代は懸命に水木へ好意をアピールする。
一方、水木が村に来てから、人間の所業とは思えないグロテスクな殺人事件が連続で発生していた。また、水木はゲゲ郎(鬼太郎の父の事で、後の目玉おやじ)と出会い、妖怪や幽霊族の存在を知る。
ある日、沙代の父克典は「事と次第によってはあれ(沙代)をくれてやっても良いぞ」と、水木を龍賀の入り婿として迎え入れる可能性をちらつかせ、龍賀内部の秘密を探るよう水木に交渉した。克典も入り婿であり、村では余所者扱いを受けていたため、龍賀の全てを知らなかったのである。
水木は出世のため、克典の交渉を引き受けた。
水木は沙代から龍賀の情報を聞き出すためテラスに呼び出した。そこで、意を決した表情の沙代に「情報を教えるから、その代わりに私をこの村から東京へ連れ出して欲しい」と頼まれた。
水木は情報を聞き出す為、その場しのぎの約束で沙代の頼みを受け入れたが、内心当惑していた。
国からは命を使い捨てにされ、戦場では上官に裏切られ、親類には実家の財産を奪われるという経験から人間不信となり「もう弱者として踏みにじられたくない。どんな手を使ってでものし上がりたい」と野心を燃やしていた水木は「自分は誰かを愛する余裕は無い。そんな器は無い」と思っていた。水木は沙代の思いを「夢見がちなお嬢さんの一時の気の迷い」と見なし、この時点では約束を果たす気は無かった。
それでもゲゲ郎に「人の真剣な心を弄ぶな」と言われた事、また沙代の境遇(後述)を知った事により、次第に「出世の道具」としてではなく、「守るべき存在」として彼女を見る様になっていく水木。
沙代の母乙米は、水木を良く思っていなかった。
乙米は克典が提案した縁談を否定し、水木に追い打ちをかける様に沙代の「龍賀の女の務め」について暴露した。その務めとは、より霊力が強い跡継ぎを産むために、当主(生前の時貞)に身体を犯される事だった。
悍ましい因習を知った水木は嘔吐し、その後沙代の笑顔を思い出しながら「だから俺なんかに……」と呟いた。
乙米は「水木が因習を知れば沙代に嫌悪感を抱くだろう」という思惑(後の台詞で判明)で暴露した。しかし、水木はむしろ龍賀一族に嫌悪感を抱き「あんた達人間じゃねえ!」と怒りを露わにした。これ以降、水木は龍賀への憧れを捨てている。
水木は遂に沙代を東京へ連れ出す決断をし、彼女を一旦安全な場所まで避難させた。
しかし、沙代は安全な場所で待たず、水木と一緒に行動する事を選ぶ。その結果、互いにすれ違う思いを抱える2人は、避けようのない悲劇を迎える事になる。
水木の前では「清楚なお嬢様」として振る舞っていた沙代だが、水木が既に因習を知っている事を乙米に告げられ、ショックを受ける。また、連続殺人事件は因習への恨みで狂骨と同調した彼女の仕業だった事も判明する。最も知られたくなかった事実を水木に知られてしまった沙代は、その場に崩れ落ちる。
一方、水木は全てを知ってもなお彼女を東京へ連れ出すつもりで、沙代に手を伸ばした。しかし、沙代に「嫌よ!」と振り払われてしまう。
全てに絶望した沙代は狂骨を使役して龍賀一族とその手下を殺害したが、水木には狂骨を使わず、自らの手で首を絞めた。腕をだらりと下げ、抵抗を止め死を受け入れる水木。しかし、長田に胸を刺されて斃れる沙代。結果的に水木が生き残った。
沙代を失った水木は、地面に伏して激しく慟哭した。
また、真の敵と対峙した時には「こんな奴の為に沙代さんは……」と彼女の事を思い出し、「(沙代の)代わりはいくらでも作れる」と言われた時には怒りを露わにした。
公式コメント
【編集のルール】
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また、水木と沙代のカップリングについての情報はこちらの記事に集約する事。龍賀沙代の記事はキャラ単体なので、カップリングの話題は不適切である。
公式関係者の発言
- spoon.2Di(vol.106)のインタビューで脚本の吉野弘幸は「当初は沙代を19歳ぐらいの女性とイメージして執筆し、もっと水木とのフラグも立っていたが、その後設定が変更され幼い少女となったため、水木と沙代の間の恋愛感情はほぼ完全になくなった。でも結果的に水木がまともに見えるし沙代の悲劇性も強調できて良い変更だったと思います」とコメントしている。
- その後月刊アニメージュ(2024年8月号)のインタビューで、脚本の吉野弘幸は、『水木は沙代に対して一貫して大人の目線で接してますよね。』というコメントに対して「そこは谷田部さんと監督のレギュレーションですね。僕はもう少し色っぽい雰囲気になってもいいかな、と思っていましたが、谷田部さんから「沙代のつらい身の上を思うと、時貞のしてきたことが連想されてしまう土俵に水木は立たないほうがよいのでは」とチェックが入り、いろいろ調整することになりました。」とコメントしている。また、『沙代は、シナリオでは19歳くらい、完成映像では17歳くらいでしょうか。』という質問に対しては「そうですね。19歳くらいだと色気が出ちゃうので、古賀監督が、水木が絶対に手を出さない年齢感にまで下げたんだと思います。」「男性が見ると、水木の態度は沙代に対してクール過ぎるんですよね。もうちょっと感情的に盛り上がっても、と」等とコメントしている。これに対し、水木プロダクションの原口尚子は「沙代に手を出してたら、多分……(笑)。」ともコメントしている。
- 月刊アニメージュ(2024年8月号)のインタビューで、脚本の吉野弘幸は、『シナリオの決定稿ではテラスのシーンで少し水木がどきまぎする表現がありましたね。古賀監督の絵コンテを経た完成映像では、そこはまるっきりなくなっていました。』という質問に対して「沙代が死ぬときの今際の際も、僕のシナリオではもうちょっと気持ちを残していたので、あっさりと切り替える水木を観たときは「オオッ」って思いました。」とコメントしている。
- その後Blu-ray豪華版のオーディオコメンタリーで、声優の木内秀信は「沙代が死んだ後切り替えられますか?」という質問に「嫌だよ」と答えている。
- 月刊アニメージュ(2024年8月号)のインタビューで水木役の声優・木内秀信は、沙代について「水木は戦争のトラウマもあって彼女の想いを受け止めることはできなかった。沙代の運命を知って不憫だと感じても、それは好きとか嫌いとかの感情には発展しない。収録の時にも、僕自身も恋愛としては考えずに演じていました。そういう考え方で良かったのかな」とコメントしている。
- 絵コンテのト書きには、工場での沙代の暴走の後「水木 憐れみと同時に嫌悪が浮かぶ」と書かれており、木内の「好きとか嫌いとかの感情には発展しない」という発言とは若干異なる。
- X(旧Twitter)で木内のなりきりアカウントが当インタビューの一部を切り取って拡散しているが、木内本人とは関係無いアカウントである。
- Blu-ray豪華版のブックレットでキャラクターデザインの谷田部透湖は「ヒロインには先ほどのラスボスとの権力勾配による辛い搾取設定があるから、主人公側との関係は年齢・精神的に勾配差を感じない大人のキャラクターになるのでは、と話し合われました。でも大人だった場合、既に村に染まり切っているはず、という指摘も出て、この恋愛ヒロイン路線はなくなりました」と述べている。
※上記の通り、沙代の設定変更の経緯については公式内でも様々なコメントが出ており、年齢を引き下げた理由についても諸説あるが、現時点では一応Blu-ray豪華版(2024/11/17発売)のブックレットが最新の情報である。
台本のト書き
※ソースはBlu-ray豪華版の特典
- 水木が沙代に首を絞められるシーンで「沙代がこうなった原因は自分にもあるので 手を離し沙代を受け入れる」と書かれている。
- 沙代が焼死するシーンで「実は 悲惨な最期を見せつけて 水木の記憶に残ろうとする 沙代の復讐であった」と書かれている。
- 劇場版パンフレットのインタビューで声優の種﨑敦美もこのト書きに触れている。ファンの間では首絞めのシーンと誤解されがちだが、正確には焼死のシーンである。
- 水木が沙代の遺灰に駆け寄るシーンで「熱いの気にせずはいより 探してももう沙代はいないが 探すようなしぐさをして」と書かれている。
- 前述のオーディオコメンタリーの木内の(「切り替えられますか?」に対し)「嫌だよ」という回答も含め、水木は沙代が死んでも何とも思わないような冷淡な性格ではなかった事がうかがえる。
「利用」とは何だったのか
水木の「僕も同罪だ。龍賀に近付くために君(沙代)を利用しようとした」というセリフは「具体的に何が利用だったのか」の説明が無いため、ファンの間で「利用」についての考察がなされた。
- 2024/7/31に発売された「’23年鑑代表シナリオ集」には短縮前のセリフが収録されている。「俺も、君を利用しようとした。龍賀の孫と知り、君と結婚すれば一族に入れる。そんな餌をちらつかされ、断り切ることができなかった……。そういう意味では、龍賀の一族と同罪だ」ここでは具体的な「利用」の内容が説明されている。
- 台本のト書きには「“聞きたくない”と耳を抑える沙代」と書かれており、この時水木が“龍賀の名”目当てであった事を知ってショックを受けた事がうかがえる。
その他
- 音声ガイドでは、トンネルのシーンで沙代が「どこまでもあなたと共に」と言った後「水木の頬が緩む」と解説されている。