※本記事は、劇場アニメ『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の重要なネタバレ情報を含みます。
「お主、死相が出ておるぞ」
「何を見ても逃げるでないぞ?」
CV:関俊彦
概要
TVアニメ6期のエピソード0として2023年に公開された映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の主人公で、幽霊族の末裔の男。
かつては妻と共に幸せに暮らしていたが、ある日妻が失踪したため、その行方を追って各地を放浪しており、知己からの情報を得て哭倉村へと向かう。
劇中クレジットおよび映画公式サイト上での正式なキャラクター名は“鬼太郎の父”で、つまり後の目玉おやじである(そのため、TVアニメ6期以前の詳細については『鬼太郎の父』の記事を参照)。
ゲゲ郎という名は、劇中で彼の姿を見たとある少年が「ゲゲッ!?」と反応した事から、相棒の水木に付けられたもの。
人物像
一人称は「わし」の老人口調。常に冷静沈着、博識と聡明な見解を兼ね備えているが、そして何よりも妻に関する事となると良くも悪くも人が変わるベタ惚れの愛妻家。平和主義で不必要な争いは好まず、礼儀作法も弁えている。子供には優しく、時弥の事も「トキちゃん」と呼び可愛がっていた。
- かつては幽霊族を迫害した人間を憎み嫌っていたため、人里から離れた山奥で一人、原始的な生活を送っていたが、後の妻と出会ったことで心境に変化が起こったという。
いかにも人ならざるものらしく、普段は達観した様子で物事を語るが、水木との運命的な出会いによって、その姿勢が大きく変化する。
実は非常に涙もろく、感極まったり酒に酔うと直ぐに泣いてしまい、妻からも「泣き虫」と言われる程。
またこの頃から風呂好きだったらしく、作中でも湯にでも浸かって…などと口にしたり、その言葉通り天然の露天風呂で語らう描写がある。
容姿
愛息の鬼太郎とは一見瓜二つで、人間の犬歯にあたる部分には短い牙が生えており、四白眼を持つ。ただし、毛先がバサバサとした白髪で、耳を出しているのが大きな違い。この髪型は「目に見えるものだけを見ようとするから見えないものが見えない、この世は片目で見るくらいがちょうど良い」という信条からきている。
長身痩躯の姿からは飄々とした雰囲気が醸し出されているが、これはバディとなる水木と並んだ時に互いの個性が映えるよう、当時の平均的な日本人男性である水木の身長・体格に対し、ひょろりすらりとした身長・体格に設定されているためである。
服装は次縹(つぎはなだ)色の着物を着用しており、履物は下駄。先祖代々伝わる家宝として『霊毛組紐』を左手首に巻いている(下部画像参照)。なお髪に隠れて見えにくいが、両目とも存在している。
デザインコンセプト
『ゲゲゲの謎』はTVアニメ6期の前日譚として制作されたが、大人向けのホラーにしたいという監督の要望により、14話『まくら返しと幻の夢』に登場する夢の世界での切れ長の目を持つデザインから、水木しげる作品で多用される丸い目のデザインへと変更された。
この新たなデザインについて、キャラデザインの谷田部透湖は「(水木しげるによる)丸い目は、可愛らしさ、格好良さ、不気味な恐ろしさの全てを表現できる」とし、ゲゲ郎は「イケメンではないが色気がある男」であり、作画でもこの点を重視するよう依頼したという。
戦闘能力
リモコン下駄や体内電気、髪を伸ばして敵に巻き付けるなど、息子と同様の能力を用いるが、息子と比べると力任せで荒々しい。その身体能力は多数の相手を翻弄するスピードに、木製の柵を一瞬で握り壊す、建物の床をぶち抜いて足元から敵を捕らえるといったパワーを併せ持ち、凄まじいまでの格闘ぶりを見せる。
- この場面は迫力を出すために、エースアニメーター太田晃博による手描きで制作された。太田はアクションシーンを自ら演じて撮影、その動画を基にして描き上げたという。モップを振り回しての大立ち回りであったらしい。
余談
彼の後の姿である6期の目玉おやじも、逆モチ殺しなどの術を持ち、いざという時には息子を超える威力の指鉄砲も放つなど、愛嬌のある外見とは裏腹に高い戦闘能力を秘めている。
関連イラスト
関連動画
関連タグ
目玉おやじ 鬼太郎 鬼太郎の父 鬼太郎の母 水木(鬼太郎誕生ゲゲゲの謎)
夫として、父として、友としての選択(ネタバレ注意)
※以下、映画本編の重大なネタバレを含みます。まだ視聴していない方や、ネタバレが嫌な方はスクロールする事をお勧め出来ません。
相棒「水木」との出会い
行方不明となった妻の消息を求めて、龍賀一族が支配する呪われし村『哭倉村』を訪れる途中、ゲゲ郎は夜行列車の中で水木と出会い、彼に死相が出ていると告げて姿を消す。
その翌々日早朝、ゲゲ郎は哭倉村を探る怪しい余所者として捕らわれ、殺人事件の犯人として処刑されそうになる。しかしその光景が戦場での体験と重なり、耐え切れなくなった水木は思わず割って入り、克典に事態のとりなしを頼む。その結果、ゲゲ郎は長田家の座敷牢に入れられ、彼の監視を命じられた水木と起居を共にすることとなる。
野心塗れかつゲゲ郎を怪しむ水木と、元々人間を好いていなかったゲゲ郎では当然互いに信頼など無く、東京の話を聞きたがる時弥に明るい話ばかりする水木をゲゲ郎は「お為ごかし」と馬鹿にして彼を鼻白ませ、一方で自身は水木の口八丁に騙されるなど初めは互いに険悪ムードだった。
そのため水木の「大人しくしていろ」という頼みもまるで無視して気ままに行動していた。
しかし、危険だという禁域に向かうゲゲ郎を案じ水木が慌てて追いかけてきた事、逆にその水木が凶暴化した妖怪に襲われるところを助けた事をきっかけに、関係が変化する。
幽霊族という自身の正体を明かしたゲゲ郎に対し、水木は驚きながらもその事実を受け入れ、それぞれの目的の為に手を組もうと持ち掛け、ゲゲ郎は「何を見ても逃げるでないぞ」と告げた上で承諾。調査を続ける中で水木の人柄に触れたゲゲ郎は、墓場で酒を酌み交わす内に、その壮絶な過去と本音を知り、かつての自分と重ね合わせる。
綻びかけた禁域の結界、そこに封じられている妖怪『狂骨』と依り代の存在。
惨劇の果てに謎を解き明かし、二人が辿り着いた窖。そこには欲深き人間の業と、その犠牲となった幽霊族達の怨念が渦巻いていた。
結末
捜し続けた妻と漸く再会したゲゲ郎。しかし妻は長年にわたって血桜に生き血を奪われ続け、かつての美貌が見る影もないほどに窶れ果てていた。長い間一人にさせてしまって済まなかった、と涙ながらに詫びるゲゲ郎に、妻は一人じゃなかったわ、と微笑み、子供を身ごもっている事を告げる。妻を抱きしめ、喜びをかみしめるゲゲ郎。
しかし時貞は彼らを嘲笑し、親子三人『M』の材料として飼い殺しにしてやると宣言、ゲゲ郎は立ち向かうが、時貞が操る幽霊族の怨念が変じた狂骨に敗れ、血桜に捕らえられてしまう。
しかし既の所で水木が呪具を破壊し、制御を失った狂骨は怨念のままに暴走、時貞はその餌食となった。
なおも暴走する狂骨に、妻を庇って立ちはだかるゲゲ郎。そのとき妻の腹の中から上がった赤子の叫び声に、血桜に捕らわれていた幽霊族たちの魂が応える。幽霊族の狂骨は同じ幽霊族の霊毛によって封じられ、編み込まれてちゃんちゃんことなった。
一方、時貞の術が解けたことで窖の結界が破れ、数百年封じられ続けていた狂骨たちが、自分たちを犠牲に栄えてきた村を襲い始める。
怨念は怨念を呼び、新たな狂骨を産む。このままでは日本中が漏れ出した狂骨によって滅びてしまう。
「いいじゃないか、やらせとけ! お前が犠牲になることはねえんだ!」
「我が子が生まれる世界じゃ、わしがやらねばならぬ。それに……」
ゲゲ郎は「自らが依り代となって狂骨の怒りや怨念を受け取める」事を決意。水木に妻と腹の中の子、霊毛ちゃんちゃんこを彼に託し、再会を約束して別れる。
「約束しろ、絶対に生きて戻ってくると」
「ああ、また会おう」
満身創痍の身ながらも、封印から放たれる強風に向かいつつ、ゲゲ郎は初めて得た人間の友への想いを叫ぶ。
「それに友よ、お主が生きる未来……」
「この目で見てみとうなった!」
しかし呪具を破壊し、そこから溢れ出る膨大過ぎる怨念を受けきれず、その体は腐り、醜く崩れていってしまった。
「我が子よ……」
後日譚
彼のその後は、終幕後のスタッフロールにおいて、原作『墓場鬼太郎』のエピソードを取り込んだセリフのないカットで語られる。
- 崩れる全身に包帯を巻き、古寺で愛妻と2人、隠れる様に生活するゲゲ郎。
- 夫妻の魂に導かれ古寺を訪れるが、村での記憶を失っているためゲゲ郎と分からず逃げ出してしまう水木と、追いすがるゲゲ郎。
- 息を引き取った夫妻と、妻の遺体を埋葬する水木。我が子を案じる執念から、目玉のみの姿となって見守り続けるゲゲ郎。
そしてスタッフロール後のラストシーン、墓から自力で這い出して来た赤ん坊の鬼太郎と、何かを悟った様に鬼太郎を優しく抱きしめる水木。ゲゲ郎はその姿を、遠くから静かに見守っていた。
そして、時は流れ……
哭倉村が滅んでから70年後の2026年。
かつてのゲゲ郎……目玉おやじは最愛の息子・鬼太郎や猫娘とともに再び哭倉村を訪れていた。
あれから70年……ついにこの時が来たか。あの男も今日はここに来ているかもしれんのう。
廃村を彷徨い続けていた狂骨たちは、鬼太郎によりすべて成仏させられた。
その最後の1体が、雑誌記者の山田に襲いかかり、鬼太郎は霊毛ちゃんちゃんこで拘束し、髪の毛針でとどめを刺そうとする。しかし目玉おやじは鬼太郎を制すると、その狂骨に優しく語りかける。
それは幼くして未来を奪われ、時貞の我欲の犠牲となった「トキちゃん」こと時弥の亡霊だった。
あの日、”ゲゲ郎”として座敷牢で交わした会話を思い出し、魔の手から救い出してやれなかったことを詫びる目玉おやじ。
互いに変わり果てた姿にはなっていたものの、70年前に果たせなかった「また明日」の再会が、ようやく叶ったのであった。
のう、トキちゃん。あれから長い刻が経った。
この日本は70年前にともに夢見た未来とは程遠く、人々は相変わらず心貧しく苦しみ続けてはいるが、自分は最愛の息子・鬼太郎を得ることができた、と語る”ゲゲ郎”。
そして鬼太郎も時弥の「忘れないで」「僕、ここにいたよ」という願いを聞き入れ、その思いを受け継いでいくことを誓い、時弥の霊はその非業の死から70年越しに成仏していった。
その姿を見届けた目玉おやじは天を仰ぎ、相棒に語りかける。
水木よ、見ておるか?
そこへ、鬼太郎が人間を助ける理由が、この村での出来事だというなら教えて下さい、僕が書き残し、必ず語り伝えます!と意気込む山田記者。
彼の真摯な思いと熱意を受け取った目玉おやじは、自身と水木との出会い、そしてこの村で起きた出来事のすべてを語り聞かせるのであった……。