江原明弘
えはらあきひろ
『LOST JUDGMENT』の作中時間である2021年10月に、電車内で乗客の女性を痴漢し、新宿駅のホームで逮捕された現役の警察官。警視庁所属で交番勤務。階級は巡査長。53歳。
痴漢事件においては、上記の現職であったことに加え、状況証拠や物的証拠が押さえられた上で現行犯逮捕された状況にもかかわらず、見苦しく無実を主張し続けたため、メディアに大きく取り上げられた末に世論から厳罰を強く求められる。
結果、事件から2ヶ月後の裁判で(初犯であるにもかかわらず)執行猶予なしの懲役6月(半年)の実刑判決を受ける。
この事件の痴漢容疑に関しては、当初担当弁護士であった源田法律事務所の城崎さおりは江原の判決前の不遜な態度や、自身が女性と言う事もあってか、半ば弁護を放棄した状況であり、彼の冤罪をほぼ信じていなかった。
しかし、判決が下されたその直後に、突如として、横浜・伊勢佐木異人町で発見された腐乱死体についての言及を始めたことで状況が一変し、事態は予想もしない方向に大きく動き出すことになる。
ゲームのストーリーに大きく絡む人物ではあるものの、勾留中なため基本的にはムービー内にしか登場しない人物。
以下、本作の重大なネタバレとなっています。
「検事や裁判官、あなたのような先生方が何人も知恵を寄せ合った法廷で私は有罪になったんです」
「疑う余地はありません。私も敏郎にイジメはなかったとする判決を受け入れましたよ」
「法廷の下した決定には従うほかない。……そうでしょう? ねえ、そうでしょうが!」
実は、当初の痴漢事件に関しては、痴漢被害者の間宮由衣も含む何人もの人間によって計画された、狂言犯罪。つまり、痴漢に関しては本当に冤罪で、実際には御子柴弘を殺害した真犯人。
彼が狂言で痴漢騒ぎを起こした本当の目的は、検察や弁護士を含めた司法制度そのものを巻き込んで痴漢容疑を確定させることで、御子柴殺しのアリバイを確保し、痴漢犯罪を裁判所や検察に認めさせた上で自身が殺人犯であるということを世間に知らしめることで、法の不完全さを白日の下にさらけ出し、司法制度そのものを嘲笑うため。
(そもそもアリバイ工作に「何故わざわざ痴漢を選んだのか?」については、おそらく年代や職業問わず世間からの注目を集めやすかったからだと考えられる。特に警察官という立場上尚更)
御子柴殺害の際には、殺害の瞬間を録画した上でその動画をデータの捏造も消去もできない「書き切り型媒体のSDカード」に記録し、殺害に使用した凶器のナイフをある場所に隠して保存しており、出所する半年後に、それらの証拠と共に自身の殺人を世間に公開することで、「法」の無意味さや脆弱性を知らしめるつもりであった。
その為、第一審では一貫して無罪を主張したにもかかわらず、実刑判決を食らった直後は一転して有罪判決を受け入れており、当初は控訴する気もなかった。
しかし、城崎からの依頼を受けた八神隆之の挑発に乗る形で弁護士による控訴を受け入れ、第二審に進むことになる。
第二審では、被告の痴漢冤罪を晴らすために弁護側が被告を殺人事件の犯人として告発し、検察側がそんな弁護側の意見を否定するという前代未聞の展開となっており、江原自身もどっちが弁護人なのかわからないとこぼす事態になった。
本作のさらなる重大なネタバレとなっています。
一連のアリバイトリック
①犯行当日。自身に変装した影武者がICカードで池袋駅の改札に入場し、ホームに長時間居座る。その同時刻に、江原は横浜の廃ビルで憎き相手「御子柴弘」を殺害。
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②殺害後。江原は池袋に移動し、ICカードで駅に入場。間宮(痴漢被害者役)と立ち会い、彼女の履いている下着に素手で触れることで痴漢の物的証拠を偽装。
(痴漢事件の多くは、加害者の手に被害者の下着の繊維や微物が付着していることで立件される)
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③一足先に新宿駅ホームへ移動する江原。死角によって監視カメラに映らない場所で待機。
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④一方、影武者と間宮は池袋駅から電車に乗る。影武者は間宮のスカートに手を入れ、彼女の下着に触れているかのように痴漢の演技をした。(指紋が付くため実際は下着には触れていない)
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⑤新宿駅に到着し、ホームへ逃走する影武者。後を追う間宮。
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⑥江原が待機している場所(監視カメラの死角)まで逃げ込む影武者。
ここで影武者に代わって江原が痴漢の犯人として逃走し始める。(この際2人はお互いのICカードを交換した)
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⑦痴漢被害を受けたと騒ぎ立てる間宮。逃走している江原を取り押さえるよう周囲に訴える。
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⑧通行人(共犯者)に取り押さえられる江原。
ゲームストーリーの中核をなす存在と言う事もあって、その名前はゲーム進行中、絶えず出てくる。
その為、実際の出演シーンの数以上に、大きく存在感のある人物となっているが、ゲーム本編中は、刑事事件の被告と言う立場から、サイドケースやユースドラマには登場せずストーリームービーのみの出演となる上に、その出演も裁判シーンや拘置所での面会シーンなど、ごく限られたものになる為、彼の心境を完全に理解するのは少々難しい。
しかし、そんな僅かな出番でも彼の性格や人物像はしっかりと把握でき、御子柴殺害計画にかける大きな執念は理解できるようになっている。
ゲーム中で明らかになった事実を述べると、4年前から江原は妻と別居しており(後の調査では離婚していないのは手続きする気力もないからだとのこと。しかし御子柴殺しについては興味ないと語っていたらしいが、御子柴殺害の凶器をある場所に隠していたことを考えると、御子柴殺しを黙認していた可能性がある)、息子の敏郎は妻のいる横浜の誠稜高校に進学した。
これは中学時代も敏郎はいじめを受けていたが、息子からの相談にして江原は「お前が弱いからいけない」という突き放した態度を取ったことが一因にあるようで、敏郎はいじめと父から逃げるようにして横浜の高校に通ったという。
しかし、皮肉にも逃げた先でもいじめに遭った敏郎は、唯一英語教師の澤陽子にだけ自身が御子柴からいじめに遭っていること打ち明けるものの、澤もいじめを止めることのできる効果的な手を打てず、結果として敏郎は自殺する。
その後、敏郎のいじめの証拠は担任教師に握りつぶされる形で隠蔽され、敏郎の死はただの自殺として片づけられた。
しかし、ネットの噂をはじめとして敏郎の死にいじめが絡んでいるといううわさから、学校を相手に訴訟を起こすものの、上記の理由から証拠不十分で敗訴することになる。
そんな中、澤から敏郎のいじめの証拠を聞かされた桑名仁の働きかけにより、御子柴がいじめの主犯であったことを確信したこと、そしてよりにもよって教師になろうと教育実習まで受けていたことを知り堪忍袋の緒が切れてしまい、彼への復讐を決意する。
それと同時に、敏郎のいじめの証拠を掴み切れず、何よりもその証拠を隠蔽したことでいじめの事実をもみ消した司法制度そのものに強い怒りを覚え、法と言う存在そのものを嘲笑うことを復讐と共にすることを決意したことで、痴漢の狂言犯罪をはじめとする御子柴の殺害計画を実行する。
以上の情報から察すると、どうやら江原は昔気質の仕事人間的な人物であったようで、少なくとも息子や妻との仲はあまりうまくいっていなかったようである。
しかし、息子の死後には全財産を掛けて裁判まで起こしており、復讐計画においては痴漢と言う汚名を被ることも躊躇わず、御子柴を直接手に掛けることまでしている。
また、息子の死に関しては、単純に御子柴への復讐心や憎悪だけでなく、中学時代に自分が息子に掛けた言葉が自殺の要因の一つになったのでは?と考えるなど、失って初めて大切なものに気づくタイプの人間でもあったようだ。
その一方で、澤陽子が自らの復讐の余波(八神曰く「危ないゲーム」)で巻き込まれて殺害されたことに関しては、釈明や罪悪感から逃れるような言い訳を口にするなど、自分の復讐が本当に正しいものであるかどうかに迷いがあるかのような一面も垣間見せており、純粋な意味での復讐鬼という訳ではなく、このあたりを含めても本当の意味で悪人ではない。
- 本作のテーマソングである「蝸旋」は、歌詞の内容が本作のストーリーを深く表しており、聞きようによっては「いじめ被害者の訴え」に聞こえるが、「桑名や江原のいじめによって全てを失った人々の叫び」にも聞こえるような名文となっている。
- なお、前作では本当の痴漢である変態三銃士・変態四重奏・お尻マイスターが登場している。今作にも登場しており、八神によって逮捕されたのが正史となっている。
- 無論、復讐と法の無力さを思い知らせるために行った江原と、己の欲のために犯行を重ねるマイスターとは決して相容れないのは言うまでもない。
- 演者の光石氏は痴漢冤罪を扱った映画『それでもボクはやってない』にて痴漢冤罪で無罪を勝ち取るも検察に控訴された結果、過去に冤罪被害者を出している裁判官によって有罪判決を下されてしまうという悲劇的な役を演じている。スタッフが意識してキャスティングしたか不明。