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- 長沢美樹(『劇団ヘロヘロQカムパニー』第34回公演)
概要
犬神佐兵衛の三人の娘の長女。犬神佐清の母。性格はしたたかで抜け目がなく、さらに執念深い。本人曰く「しんねり強い女」。キセル煙草を愛用している。
異母妹に竹子と梅子がいるが、互いに犬猿の仲。父・佐兵衛のことも、母を正式な妻とせず生涯日陰の身として冷遇されたと思い恨んでいる。
一人息子の佐清を大事にしており、佐兵衛の直系である佐清が犬神家の主となることを願っている。そのため、佐兵衛が若い妾の青沼菊乃を寵愛したことに怒りと危機感を抱き、佐清の将来を守るために利害が一致した妹たちと菊乃を襲撃して、佐兵衛が静馬に贈った家宝(犬神家の全相続権を示す家宝の斧(よき)と琴(こと)と菊(きく))を奪い返した。この一件で菊乃は松子たちを恐れて静馬を連れて佐兵衛の前から姿を消した。
顔に傷を負って戦地から帰った佐清に特注のゴムマスクを着けさせて遺言状の公開に臨むも、願いもむなしく居候の野々宮珠世や因縁ある青沼静馬に比べ、最低限の取り分しか得られぬ内容に激昂する。
その後、珠世の遺産相続の条件に関わる甥の佐武、佐智が殺され、替え玉を疑われた佐清が指紋照合で身の潔白を証明するも、三種の神器の見立て殺人の最後の犠牲者となってしまった。
息子の訃報を聞いた松子は「あいつが最後の復讐を果たしたのだ――― 」と呟いた。
物語の重要人物
以下、物語の核心部分に関するネタバレ記述あり、要注意
一連の事件の犯人。
原作小説では「稀代の殺人鬼」と表現されていた。
弁護士若林豊一郎を買収して佐兵衛の遺言の内容を知った後、若林を毒殺した。
佐兵衛の遺言は、珠世を殺すよりも彼女に選ばれる方が利がある仕組みであったので、幼い頃から珠世が佐清に好意以上の想いを寄せていたことを知っていた松子は、自信をもって復員した佐清を迎えに行く。だが復員してきた佐清は、戦傷で二目と見られぬ醜い顔になっていた。
松子は遺言状の公開を遅らせてでも精巧なゴムマスクを特注し、かつての面影を珠世に想起してもらおうとするが、やはりかつての恋心は見いだせず、かくなる上はと佐清のライバルである甥たちの殺害を企む(この点に関しては、まさに恋する者の勘で、母である松子や探偵の金田一よりも早く、珠世はマスクの下の違和感に勘づいていたことが後に語られる)。
佐武、佐智を次々に殺害し、佐清に珠世への求婚を急かすも佐清は了承しなかった。何度か問い詰めるうちに、佐清が青沼静馬だったと知り、逆上した松子は静馬を絞殺。
その後、本物の佐清が逮捕されて連れてこられたことで、すべての真相を話す。
珠世が佐清に家宝を贈り、佐清が犬神家の後継者に決まったことを見て安心した松子は、すべての罪を清算すべく、若林を殺した毒を仕込んだタバコを吸って自殺。
死の直前、竹子と梅子への罪滅ぼしに、二人の孫にあたる佐智と小夜子の子供の成人後には、犬神家の財産の半分の譲渡と事業への参画を取り計らうよう、珠世と佐清に言い残した。
自害した際、犯人と看破した金田一耕助は「しまったぁぁぁ!!」と松子の死を止められなかったことを悔やむように叫んでいる。
人物
常に悠然としていて、無事に生還していた佐清が連れてこられても、取り乱すことなく終始落ち着いた態度をとっていた。その胆力には金田一も舌を巻いていた。
これは佐武、佐智の殺害において単独犯として実行したにもかかわらず、佐清と静馬の事後共犯による覚えのない見立て殺人として発見されることを不審に思いはしても、うろたえることなくやり過ごしたことからも窺える。
本人曰く「私はあまり頭がよくない」とのことだが、殺害した静馬の死体を湖に逆さに入れて、連続殺人に見立てるなど、利口で狡猾。
また青沼静馬の殺害に関しても、昔やるべきことを今やっただけであり「あいつを殺したことに関しては、私はこれっぽっちも後悔しませんでしたよ」と冷酷に言い切っていた。
犬神佐兵衛の長女であるが、正確には野々宮珠世の母・祝子が佐兵衛の長女なので松子は次女になる。
余談
- 2006年版の犬神家の一族(1976年版のリメイク)で松子を演じた富司純子は同じく佐清を演じた実子・五代目尾上菊之助と母子共演となった。
- 死ぬ直前の松子が、妹たちへの罪滅ぼしを口にする場面は、映画やドラマではたいていカットされている。これがあるだけでも、少しは松子に対する印象が変わると思うのだが、静馬に対する態度や、息子の為に鬼になることを厭わない様子から、苛烈で狡猾な悪女としての部分を重視する演出の方が多いのかもしれない。