「君にはまだ、科学というものが分かっていないようだな」
「科学など所詮、政治の道具でしかないのだ」
演:高橋幸治
概要
『ゴジラvsビオランテ』の登場人物。作中では白神博士と呼ばれることが多い。
DNA工学の世界的権威で、生命工学界では知らぬ者はいないほどの人物。
1984年、中近東のサラジア共和国の生命工学研究所に招聘され、助手でもあった娘の白神英理加と共に砂漠でも育つ植物の研究をしていた。しかし、研究所はG細胞争奪戦の標的となって爆破テロの被害に遭い、その際に英理加が死亡してしまう。
大国間の血みどろの抗争を目の当たりにした白神は科学に失望し、日本に帰国。芦ノ湖湖畔に建てた住居兼研究所に隠居し、植物研究者として静かに余生を過ごしていた。
だが、その裏では英理加の亡骸から遺伝子を抽出し薔薇に移植、疑似的クローンとして蘇生する研究を行っていた。
5年後(1989年)。三原山内にて再び活動を開始したゴジラに備え、自衛隊の黒木特佐から抗核エネルギーバクテリア(ANEB)開発を依頼されるも「国よりも大切な娘をG細胞のために失った」と一度は断った。しかし、三原山の噴火に伴う地震で英理加の宿った薔薇が損傷し枯れかけた事で「G細胞の強力な回復力をバラに宿させ、英理加を不死にする」という妄執に憑りつかれ、抗核エネルギーバクテリア開発協力する代わりに「一週間、自らの研究所にG細胞を預ける」という条件を飲ませ、預ったG細胞を薔薇に移植してしまう。
薔薇は当初こそ普通のバラと変わりなく生育していたが、やがて組み込まれたG細胞の影響で想定外の凶暴化を遂げ、バイオ怪獣ビオランテに成り果ててしまう。
同時期にANEBも完成し、G細胞を巡る大国間の抗争が再び本格化することになった。
かつては娘と良好な関係を築いていたよき父親だったが、この時期には様々な物事を他人事のように語るニヒリストめいた発言が目立った。娘の死や、それを歪める己の業に疲れ果てたのかもしれない。こうした言動は同じ遺伝子工学者の桐島からも反感を抱かれていた。
また、実は遺伝子実験には成功しており、英理加の意識は薔薇に宿っていた。しかし、彼女は「声を聞きたい」と願う父に対して沈黙を守り、ビオランテ化して以降は父ではなく、親友の明日香に「お願い、助けて」という悲鳴のような言葉を発していた。
ビオランテはゴジラとの交戦の末に焼失したが、白神は「永遠の植物が死ぬはずがない」と評して芦ノ湖を見守っていた。その後、サンダービーム作戦の発令に伴い、ANEB関連のアドバイザーとして自衛隊に同行する形で若狭に赴くことになる。そこで植獣形態となって復活したビオランテがゴジラと闘う姿を目撃した。
戦いはビオランテの勝利に終わり、ゴジラは海辺で昏倒する。しかし、白神は一連の事件の中で己の所業を見つめ直しており、ANEBを量産するよう依頼された際には「ゴジラでもビオランテでもない。本当の怪獣は、それを作った人間です」と答えて拒絶している。ビオランテはその言葉に対する返答のごとく、在りし日の英理加の幻影を空に映し、三枝未希を通して「ありがとう」という言葉を残して昇天していった。
しかし、白神の技術力を恐れるサラジア共和国は、これ以上ANEBが日本の手に渡ることを阻止するため、彼の暗殺を決定。最終的に白神は天へと昇るビオランテの粒子を見届けている中、サラジアのエージェント・SSS9によって射殺されてしまった。
非業の最期を遂げる形になったものの、死の直前に妄執から解放され、娘と和解を果たせた事は彼にとって救いであったと言える。
余談
小林晋一郎による原案では不知火博士という名前で、助手は娘の英理加(原案では不知火エリカ)ではなく立花という男が務めている。原案の中では、ビオランテの他にもその作成過程で魚とネズミを合成させたデューテリオスという怪獣も生み出していた。
なお、エリカは立花の婚約者で、将来を嘱望されながらも不治の病に斃れた有能なピアニストという設定だった。そのため、原案ではピアノを這うビオランテの蔦がショパンの代表作の一つ「英雄ポロネーズ」を弾くシーンも描かれている。