絶対諦めない
ぜったいあきらめない
「譜面が完成した!!!」
「勝ちに行くぞォオ!!!」
吾峠呼世晴氏の漫画作品『鬼滅の刃』のアニメ遊郭編の第10話におけるサブタイトルであり、原作漫画では第11巻に掲載されている遊郭編終盤での最終決戦である。
音柱・宇髄天元が率いる主人公・竈門炭治郎ら隊士たちと、十二鬼月の上弦の鬼である妓夫太郎と堕姫の兄妹との死闘と、その決着が描かれている。
音柱・宇髄に連れられ吉原遊郭に潜入し、遂に見つけ出した十二鬼月最強の鬼の一角である、上弦の陸の鬼・妓夫太郎と堕姫の兄妹と激闘を繰り広げる炭治郎たち。
しかし、戦いの中で徐々に追い詰められ一人また一人と倒れ、遂に炭治郎を残し全滅してしまい、宇髄隊は境地に陥る。
自身と同じように兄妹を持ち、境遇の似た炭治郎に親近感を持った妓夫太郎は、かつて彼の心の師の命を奪った鬼と同様に、「妹のために」と炭治郎に鬼となる道を薦める。
だが、炭治郎の心は決して折れることはなく、隠し持っていた藤の花の毒のクナイを妓夫太郎に突き刺し、弱った彼の首に日輪刀を振り下ろす。
激昂した妓夫太郎は炭治郎に襲いかかるが、そこに復活し反撃の機をうかがっていた宇髄が割って入り、独自の戦闘計算式『譜面』により敵の動きを読み勝機を導き出し、一気に畳み掛けていく。
そして傷つきながら宇髄が作った首を狙う好機に、妓夫太郎の鎌に貫かれながらも刀を斬り込ませる炭治郎。限界をとうに超えていてなお全身の力を捻り出す彼の額に、以前煉獄槇寿郎が手紙で言っていた痣が浮かび上がる。
更に瓦礫から脱出した善逸が、渾身の一閃『霹靂一閃・神速』を放ち、妹の堕姫の首を狙う。それでも勢いが足りず反撃を喰らいそうになり万事休すかと思われたその時、妓夫太郎から致命傷を受けたと思われた伊之助が目覚め、堕姫の首に食らいつく。
絶対諦めない執念を乗せて、死力を尽くした全員の一撃は、それまで100年前後に渡り決して敗れることの無かった、最強の鬼の一角を遂に打ち負かす大業を成し遂げた。
原作の中でも人気の高いエピソードである遊郭編における、もっとも盛り上がる場面であり、アニメ版では更に思わず手に汗握ってしまうほどの凄まじい激闘に仕上げられていて、放送の際は海外を含め多くの視聴者から「神回」「神作画」という声が上がっていた。
基本的に、原作に忠実に描くことをモットーとするufotableの鬼滅スタッフが、見どころに関しては今回も粋な計らいをしてくれた。
漫画でも熱い名場面ではあるのだが、あまり長くはなく刹那のような出来事に描かれている。しかしアニメでは、宇髄が炭治郎と妓夫太郎の間に割って入り、一騎打ちを仕掛てからがまさに怒濤の展開に仕上がっており、互いに素早く激しい動きからの斬撃の応酬と、音の呼吸による爆撃や血鬼術による飛び交う血鎌の連発で辺りが派手に吹き飛びまくり、雄叫びを上げながら死力を尽くしぶつかり合う様子は、まるで劇場版と間違いそうなほどの圧巻の迫力である。
無限列車編において、侍の家柄である煉獄と、人間時代は武術家であった猗窩座は、互いに武術の達人同士だった故に洗練された技の応酬で、迫力と同時にどこか静けさもあるものだったのに対し、忍者の出である故に正統派な戦い方ではない宇髄と、そもそも完全に我流で鎌を扱っている妓夫太郎の戦いは、煉獄と猗窩座の戦いに比べかなり派手で荒々しく、それが迫力をより引き立てている面もあるだろう。
また、原作漫画では解説文による説明しかされていなかった、宇髄の能力である『譜面』が、アニメではかなりわかり易くかつ格好いい演出で描かれており、彼の「音柱」と呼ばれる所以を垣間見ることができる。
もちろん炭治郎たちも負けておらず、ボロボロに傷つきながらも妓夫太郎と堕姫の首を捉えてから、3人が限界を超えて力を捻り出すこの場面は、原作とは異なって表情が側面ではなく正面近くから描かれており、より気迫が伝わって(特に炭治郎は鬼よりも鬼の形相に見えるほど)見ているこちらも思わず力が入ってしまう熱い展開となっている。
細かいところでは、炭治郎が妓夫太郎に使う毒のクナイは、原作では雛鶴からこっそりもらっているのだが、アニメでは逃げているフリをして匂いでクナイを見つけるという演出に変えられており、これはサブタイトル「絶対諦めない」をより強調するためだと思われる。
また、炭治郎が初めて全集中の呼吸の極みの域である『痣』を発現させた際は、炙り出されたように浮かび上がる演出となった。