概要
羽生善治永世七冠が将棋の中終盤でみせる勝利に導くための逆転の一手のこと。まるでマジックをみせられたかのような信じられない手を指して逆転勝利することからこの名がついた。また羽生の棋風そのものを表現する言葉としても用いられる。加藤一二三九段曰く、「状況を複雑にし、相手の出方を利用して返し技を仕掛ける1手」であるとのこと。
羽生マジックの例
弱冠18歳の羽生と「一分将棋」の状況になっても誤らないことから「一分将棋の神様」と言われる加藤の対局。羽生は加藤の得意戦法である「棒銀」を採用した。その終盤、61手目に放った▲5二銀(打った銀を飛車で取っても金で取っても加藤の玉が詰む)を打った。加藤は仕方なく△4二玉としたが、その5手後(67手目)に投了に追い込まれた。その後、羽生は準決勝で谷川浩司名人・決勝で中原誠NHK杯を破り、3回戦の大山康晴十五世名人を含めて歴代名人を全て倒してのNHK杯初優勝となった。
羽生が七冠王時代のNHK杯戦決勝と同じ顔合わせとなった。序中盤は中川が優位を拡大し続け、中川の必勝形になっていたが、終盤で中川が自分の玉のトン死の筋に気づかず、羽生の逆転勝ちとなった。最後は歩1枚さえも余らない、ぴったりの詰み。解説の加藤一二三は「NHK杯戦史上に残る大逆転じゃないかな」と述べた。
戦法は相振り飛車となり、中盤に羽生が勝負手を放ち駒損ながら森内の王様に迫るがわずかに足らず絶体絶命になるが、その時に放った△9四歩が玉の逃げ道を広げる勝負手であった。実はこの手は受けになっておらず、羽生玉には詰みが生じていたが30秒将棋だった森内は読み切れずに詰みを逃し、逆転勝利。不正解を正解にしてしまう羽生マジックの真髄が現れた1手。
序盤から苦しい将棋を勝負形に持ち込んだ終盤、郷田玉を詰ませれば勝ちの局面で解説者の先崎八段も見つけられないなか、いきなり歩の頭に銀を打ち込む△8六銀が急所の1手で詰まし切って勝利。先崎曰く、「普通は桂馬より銀を残すのが自然」「やっぱり羽生さん天才です」とのこと。
終盤、完全に必至となった渡辺玉。渡辺が勝つには羽生玉を詰ますしかない状況で凄まじい王手ラッシュが始まりましたが、最終盤で渡辺が放った▽7三角に対して他に価値の安い駒がある中で、唯一の正解である▲8三金を30秒将棋のなかで放ち勝利。NHK杯戦4連覇20連勝を達成し、通算10回優勝により名誉NHK杯の称号を得た。
本人の見解
- 羽生本人も自身の手がしばしば「羽生マジック」と形容されることは自覚しているが、「マジック」という言葉の響きにある「奇術」や「ペテン」といったニュアンスには違和感があると繰り返し述べている。彼によれば、あくまでも自分が最善手だと考える手を指しているのであり、「相手を罠にはめる」「起死回生の大逆転」を目指しているわけではないという。また羽生はそういった言葉を使われることに対して、自分の勝負観の違いや、「これでいける」という踏み込みの甘さがそういった表現を呼ぶのではないかと語っている。