概要
- 例年10月から12月にかけて行われ、将棋界における8大タイトルのなかでも名人戦とならんで最高格とされている。主催は読売新聞社で、1987年までは「十段戦」として開催されていた。
- 優勝賞金は将棋棋戦最高の4,400万円(準優勝でも賞金1,650万円)。独自のランキング戦と本戦によって挑戦者(決勝トーナメント優勝者)を決定し、挑戦者が前期竜王と七番勝負を行う。
- ランキング(組)が上位である、または成績順位が上位である(1組・2組のみ)ほど挑戦権を獲得しやすいシステムとなっている。また、羽生善治九段・藤井猛九段・渡辺明九段・糸谷哲郎八段などは3組以下から竜王位を獲得しており、かつ全員初タイトルである。また、伊藤匠七段は決勝トーナメント最下層である5組から挑戦権を獲得している。このような勢いのある若手棋士が活躍しやすい棋戦であることから、『竜王戦ドリーム』と呼ばれる。
- 第36期竜王は藤井聡太竜王(3連覇中)。
システムについて
決勝トーナメント(本戦)
- いわゆるパラマストーナメント方式。
- ランキング戦の組と順位により、上図のように位置があらかじめ定められたトーナメントを行う。本戦シードは(第1期以外)一切存在せず、他のタイトルホルダーであろうが前期の番勝負敗者であろうが、ランキング戦を勝ち抜かなければ本戦に出場できない。
- 最初の制度では組ごとに挑戦者決定戦進出に必要な勝ち数が決まっており、1組と2組からは順位に関係なく2勝、3組と4組からは3勝、5組と6組からは4勝が必要だった。
- 現行の制度では同じ組でも順位が高いほど、また、同じ順位でも上の組ほど挑戦者決定戦進出に必要な勝数が少なくなる。1組の優勝者は1勝すれば挑戦者決定戦へ進出できるが、同じ1組でも2位~4位では2勝、5位では3勝しなければ挑戦者決定戦に進出できない。また、2組2位は挑戦者決定戦に3勝必要で、2組優勝・1組2位より1回多い。
- また、6組以外の優勝者の挑戦者決定戦進出に必要な勝数は組番号と同じであり、5組と6組の優勝者は5勝しなければ挑戦者決定戦に進出できない。
- 現行のトーナメント方式に移行してからは、第36期(2023年度)における伊藤匠七段(5組優勝)が達成した6人抜きが最多である(出口六段、大石七段、広瀬八段、丸山九段、稲葉八段を破り挑戦者決定戦へ進出、永瀬王座を2連勝で下し挑戦権を獲得した)。
- 挑戦者決定戦(本戦決勝)のみ三番勝負で行い、先に2勝したものが挑戦者となる。持ち時間は各5時間。なお、前述の通り、挑戦者となった者は3組以下であっても1組に昇級する。
- 現行の制度では1組の2位と3位は1組優勝者とは挑戦者決定戦まで当たらないようになっているが、4位と5位は1組優勝者に勝たないと挑戦者決定戦に進出できない。これは、1組竜王ランキング戦は早く負けるほど本戦出場者決定戦で当たる相手が弱くなり有利になる側面があるため、わざと早く負けて低位通過を狙う棋士が出てくるのを防ぐためである。
- たとえば、1組優勝者と挑戦者決定戦まで当たらない3位以上で通過するためには準決勝まで進出しなければならない。しかし1組ランキング戦準決勝で勝てば2位以上が確定する、つまり決勝トーナメント進出が確定する。一方負けた場合、決勝トーナメント進出をかけた1組ランキング戦3位決定戦に挑まなければならなくなる。このように決勝トーナメントへ進出できなくなるリスクを踏んででもわざと負けるのは意味がないことになってしまうのだ。
ランキング戦
- 竜王戦の予選は、1組から6組までに分かれたトーナメント戦で始まり、これを「竜王ランキング戦」と呼ぶ。1組からは上位5名、2組からは上位2名、3組から6組からは優勝者各1名の計11名が本戦に出場する。
- 第18期までの本戦出場は、1組から上位4名(ベスト4)、3組から2名であったが、第19期から前述のような人数に変更された。同時に、各組の昇級枠・降級枠の人数も変更された(例:1組からの降級者と2組からの昇級枠は各々3名であった)。
- 各組において、準決勝までに敗れた棋士は、敗者復活の昇級者決定戦(1組は本戦出場者決定戦)に回り、その中で3位の昇級者(1組は本戦出場する3位-5位)や降級者が決まる。
- 昇級は1つ上の組に上がり、降級は1つ下の組に下がるのが原則である。ただし、3組以下から挑戦者が出た場合、挑戦者は、たとえ七番勝負で敗れても一気に1組へ昇級する。この場合は次期の1組は17名となり、挑戦者が本来昇級して属するはずだった組は本来の定員マイナス1名で戦われ、1組からの降級者は5名に増える。
竜王ランキング戦
- 1組・2組の決勝進出者各組2名は本戦に出場する。2組の決勝進出者2名は昇級もする。決勝戦の勝者が各組の優勝、敗者が2位となる。
- 3組以下の優勝者各組1名は本戦に出場し、昇級もする。決勝戦敗者は本戦には出場しないが、昇級はする。
- 1組の準決勝までに敗れた棋士達は、本戦出場者決定戦に回る。
- 2組以下の準決勝までに敗れた棋士達は、昇級者決定戦に回る。
本戦出場者決定戦(1組のみ)
- 1組の3位決定戦は、ランキング戦準決勝の敗者2名で行い、勝者が1組3位となる。
- 1組の4位決定戦は、ランキング戦2回戦敗者4名によるトーナメントで、勝ち抜いた1名が1組4位となる。
- 1組の5位決定戦は、ランキング戦1回戦敗者8名によるトーナメントで、勝ち抜いた1名が1組5位となる。
- 5位決定戦1回戦敗退者4名は、2組へ降級する。
昇級者決定戦(2組以下)
- 昇級者決定戦を勝ち抜いた各組2名は、昇級する。なお、昇級者決定戦はランキング戦でより上位で敗退した棋士ほど有利なトーナメントとなっており、1回戦を戦うのはランキング戦1回戦で敗れた棋士のみであり、準決勝で敗れた各組2名は1勝するだけで昇級が決定する。
- 2組・3組の昇級者決定戦の1回戦で敗れた各組4名は、降級する。
- 4組・5組の昇級者決定戦の1回戦で敗れた各組8名は、残留決定戦に回る。
残留決定戦(4組・5組)
- 1対1の形で行われ、その敗者各組4名が降級する。
- 既にフリークラスの在籍年限を満了しての引退が確定している棋士(結果がどうであれ、次期の竜王戦には出場しない)であっても、昇級者決定戦・残留決定戦まで出場が可能である。故・大内延介九段や淡路仁茂九段のように、現役最終局となった残留決定戦を白星で飾って引退する例もある。
- ただし、ランキング戦4組以上に在籍する棋士は5組に降級しない限り、また5組に在籍する棋士は2年間に限り、竜王戦において現役を続行できる規定がある(竜王戦限定棋士)。
- 2023年度(第36期)現在、ランキング戦4組に在籍する川上猛七段が上記規定における唯一の適用例である(残留決定戦で中村太地八段に勝利したため)。また、桐山清澄九段や藤倉勇樹五段のように、ランキング戦5組での残留を決めて1年間竜王戦のみの出場権を得る例もある。
各クラスの規定
クラス | 定員 | 決勝T進出者 | 昇級人数 | 降級人数 | 賞金(万円) | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
1組 | 16名 | 5名 | - | 4名 | 優勝:470、準優勝:116 | 1組以外から竜王が出た場合、17名 |
2組 | 16名 | 2名 | 4名 | 4名 | 優勝:366、準優勝:94 | |
3組 | 16名 | 1名 | 4名 | 4名 | 優勝:261、準優勝:63 | |
4組 | 32名 | 1名 | 4名 | 4名 | 優勝:209、準優勝:53 | |
5組 | 32名 | 1名 | 4名 | 4名 | 優勝:157、準優勝:42 | |
6組 | 定員なし | 1名 | 4名 | - | 優勝:94、準優勝:21 | 女流棋士4名、奨励会三段1名、アマチュア5名 |
竜王戦挑戦手合七番勝負
- 決勝トーナメントを勝ち抜いた棋士(挑戦者)が前期竜王と七番勝負を戦う。先に4勝したほうが新たな竜王となる。七番勝負は全国各地の旅館やホテルなどで開催される。
- ちなみに1990年代はほぼ毎年、以降は数年に一度のペースで、海外で七番勝負の初戦を戦うことがあり、白鳥士郎のライトノベル「りゅうおうのおしごと!」でも九頭竜八一対名人の初戦をハワイで開催する描写がある(実際に第26期竜王戦【森内俊之竜王-糸谷哲郎七段】第1局はハワイで開催されている)。2017年の第30期からは東京都渋谷区にあるセルリアンタワー地下の能楽堂で一部が公開される形で対局が実施されている。
- このようなシステム上、若手棋士が奪取する可能性が高く、竜王が初タイトルとなった棋士が少なくない。また、全員がA級在籍経験者である。
竜王戦による昇段規定
竜王戦は将棋界における最高峰のタイトル戦として、ランキング戦の昇級・優勝に伴う昇段規定が存在する。
規定 | 可能段位→昇段段位 |
---|---|
連続2期昇級or通算3回優勝 | 四段→五段、五段→六段、六段→七段 |
ランキング戦1組へ昇級 | 六段→七段 |
ランキング戦2組へ昇級 | 四段以下→六段 |
竜王挑戦 | 六段以下→七段 |
竜王獲得 | 七段→八段 |
竜王通算2期獲得 | 八段→九段 |
このうち連続2期昇級については、その間に竜王戦以外の規定による昇段を挟んでも有効である。つまり、1度目の昇級→何かしらの規定で昇段→2度目の昇級で昇段の二度の昇段が可能、ということである。勝ち星昇段による事例がほとんどだが、七段を上限として昇段回数に制限は設定されていないので、極端な例では四段で1期目の昇級をしたあとで、二度の昇段を挟んで、2期目の昇級を果たして一気に七段に昇段することも理論上ありえるのだ。この例は藤井聡太のみで、しかも順位戦C級1組昇級による五段昇段→朝日杯優勝(全棋士参加棋戦優勝)による六段昇段、のコンボを挟むという、いずれも藤井の例しか存在しない極めてレアケースである。
永世竜王
竜王位を連続5期もしくは通算7期以上保持した棋士は永世竜王の永世称号を与えられる。2019年12月現在、永世竜王の資格を持つ棋士は、渡辺明九段(2008年)と羽生善治九段(2017年)の2名である。
歴代竜王
獲得順に記載。カッコ内数字は獲得数。※は永世竜王資格保持者。
棋士 | 竜王戦における活躍(段位は2021年11月現在) |
---|---|
島朗(1) | 読みは「しま あきら」。初代竜王。ただしその一期のみで、以後は絡めなくなった。 |
羽生善治(7)※ | 将棋界のスーパースターにして日本将棋連盟現会長。2017年に渡辺明から竜王位を奪取。竜王獲得通算7期によって、永世竜王と永世七冠を達成した。 |
谷川浩司(4) | 十七世名人にして日本将棋連盟元会長。史上3人目の四冠達成者。 |
佐藤康光(1) | 日本将棋連盟前会長。1994年に羽生から竜王を奪取するが、翌年、羽生に取り返される。 |
藤井猛(3) | 藤井システムと呼ばれる独特の振り飛車戦法の開拓者。特に実戦投入当初の竜王戦では猛威をふるい、藤井猛の3連覇の原動力となった。しかし4連覇はならず、羽生に取り返された。 |
森内俊之(2) | 十八世名人資格保持者。2003年に羽生から奪取したが、翌年に渡辺に奪われる。以後9連覇と無双されるも、2014年に取り返す。しかし2015年に糸谷哲郎七段に奪われた。 |
渡辺明(11)※ | 竜王の最多獲得者(11期)。永世二冠(竜王・棋王)資格保持者。かつては羽生を竜王戦で3連敗からの4連勝で下すなどの無類の強さを誇っていたが、2017年にスランプ期と重なってしまったこともあり、羽生に竜王を奪われる。 |
糸谷哲郎(1) | 通称ダニー(先生)。将棋界では極めて珍しい修士号もちの棋士。2015年に1期だけ竜王位に就いていたが、渡辺に奪回される。 |
広瀬章人(1) | 2015年の王位戦で羽生王位に挑戦し、魂を抜かれた人という都市伝説で有名であったが(詳細は本人記事参照)、2018年にその羽生から竜王位を奪取した。ちなみに初タイトルが竜王または名人でない、初の竜王就位者である(2010年度に王位を獲得)。 |
豊島将之(2) | 長く「無冠の帝王」と言われタイトルに縁がなかったが、2018年、羽生から棋聖、菅井竜也から王位を奪取、翌年佐藤天彦から名人のタイトルも奪取した。しかし、2019年に渡辺に棋聖を、木村一基に王位を奪取されたなか、渡辺を破り挑戦権を獲得。番勝負では4勝1敗で広瀬を破り、羽生・谷川・森内に次ぐ史上4人目の竜王・名人となった。 |
藤井聡太(3) | 将棋界の記録を次々と塗替える、新世代の天才棋士。2021年、第34期竜王戦で豊島竜王を4連勝のストレートで下して奪取。豊島を無冠に落としたうえで、若干19歳にして史上5人目の四冠達成者となった。 |
歴代番勝負結果(第1期~第37期)
(注)太字は新竜王・※は将棋ソフト不正使用疑惑事件による繰り上げ挑戦
※第1期では前期十段の高橋道雄が準決勝シード、永世十段資格保持者の中原誠と大山康晴が準々決勝シードとなっていた。
第37期(2024年度)竜王戦
挑戦者決定三番勝負
決勝トーナメント
ランキング戦(1組)
※は決勝トーナメント進出者(◎は挑戦者)
ランキング戦(2組~6組)
組 | 優勝 | 2位 | 3位 | 降級者 |
---|---|---|---|---|
2組 | 佐々木勇気八段※ | 郷田真隆九段※ | 未定 / 未定 | 屋敷伸之九段 / 近藤誠也七段 / 三枚堂達也七段 / 佐藤和俊七段 / 未定 |
3組 | 池永天志六段※ | 本田奎六段 | 未定 / 未定 | 中村修九段 / 黒沢怜生六段 / 大橋貴洸七段 / 西川和宏六段 / 未定 |
4組 | 高野智史六段※ | 村中秀史七段 | 未定 / 未定 | 川上猛七段 / 北浜健介八段 / 中座真八段(引退) / 杉本昌八段か遠山六段 / 未定 |
5組 | 渡辺和史七段※ | 西尾明七段 | 未定 / 未定 | 日浦市郎八段 / 南芳一九段 / 佐藤慎一五段 / 伊奈祐介七段(引退) |
6組 | 藤本渚五段※ | 山下数毅奨励会三段 | 未定 / 未定 | 青野照市九段(引退) / 室岡克彦八段(引退) |
※1 第36期で5組優勝の伊藤匠七段が挑戦権を獲得(1組へ飛付昇級)したため、1組~3組までの降級者が5名に増加
※2 中座真八段は2024年5月13日に引退届を提出、今年度中の自主引退が決定
※3 山下数毅奨励会三段は6組準優勝のため、次期竜王戦では5組から参加
関連イラスト
※りゅうおう違い
関連タグ
将棋 棋士 将棋タイトルホルダー一覧 将棋タイトル戦の進行状況
羽生善治(2017年度) 渡辺明(2008年度) …永世竜王資格保持者(獲得年)。
藤井聡太…第36期(現)竜王。
- りゅうおうのおしごと! …主人公が竜王のタイトルを保持している。
- 九頭竜八一 …上記ライトノベルの主人公。プロ1年目の16歳で竜王のタイトルを獲得した棋士として設定されている。
- 名人(りゅうおうのおしごと!) …同ライトノベルの登場人物。今まで竜王を6期獲得しており、永世竜王の称号獲得まであと1期であると設定されている。
- バンオウ-盤王- …竜王戦を舞台とするマンガ。将棋に魅せられ凡才ながらも300年間経験を積み続けた吸血鬼の主人公が生涯最初で最後の竜王戦に挑む。