概要
装填手は、榴弾砲、加農砲、戦車の主砲、無反動砲などの複数名で運用される大型の火砲において、主に火砲に弾薬を装填する役割を与えられた者。
現在は、アニメーション作品「ガールズ&パンツァー」のキャラクターを描いた作品が多くを占める。
戦車の装填手
戦車兵の装填手は、主砲に弾を込めるのが主な仕事である。
操縦手や砲手となるとある程度の経験が要るので、通常は経験の浅い兵が充てられることが多いようである。とはいえ、戦車兵は非常時に備えて車長も含めて全ての役割をこなせるよう教育を受けるので、装填手でも(機会の多寡はともかく)他の仕事が全くできない訳でもないとか。
また、主砲を使わない時でも、車長と共に外の見張りや、無線通信など車長の補佐に回る。
装填作業の機械化
戦車に乗り組む装填手は、戦闘行動中に最も重労働を強いられる乗員であった。
主砲の弾薬は、例えば74式戦車の105mm砲で概ね15kg、口径120mmクラスとなれば20kgを超える(しかも双方ともたいへん長い)とも云われているが、戦闘行動中にこれをできるだけ早く砲身に放り込むのは大変な重労働である。
- M1エイブラムスの装填作業。安全上の理由で後向きに弾薬庫に入れられた砲弾を引き抜いて一旦ひっくり返してから主砲に装填する。
加えて、いかに鍛え上げられた軍人といえど、重量物を無理な姿勢で扱えば不意に「魔女の一撃」を喰らうリスクもある。
一方で装填作業を機械力で行えば、戦車兵を苦役から開放し怪我から守れるだけでなく、砲塔も車体もよりコンパクトにできる。戦車が装填手に求めているのは腕の部分だけなので、設計次第では装填手がいる場合より容積を有効に使える。
また自動装填装置は激しい揺れの中でも確実で迅速な装填が可能である。熟練した装填手でも激しい揺れの中で迅速な装填を行うのは困難だが、自動装填装置であればどのような状況でも素早く装填が可能となる。
昨今の戦車は照準装置の発達により行進間射撃能力が当然のものとなりつつあるが、自動装填装置が無ければ、性能の発揮は装填手の練度次第となってしまう。
また、より少ない人員で運用できるようになるので人員確保の面でも有利になるとされた。4名体制の車両から3名体制の車両に転換した場合は、戦車1両あたりでは1人減だが、部隊の戦車乗員は(単純計算で)25%も減らせるのである。
後述するデメリットはあるものの、それを差し引いても自動装填装置のメリットが大きいと判断し、戦車に搭載した国は複数ある。
1950年代になると自動装填装置が実用化されフランスのAMX-13軽戦車が搭載。1960年代にはスウェーデンのStrv.103や旧ソ連でT-64を皮切りに主力戦車にも搭載されるようになった。
必要意見
一方で、自動装填装置を採用した戦車は、それまでの戦車乗員から装填手を減らした車長、砲手、操縦手の3名が乗る事になった。
しかしながら、戦車兵は単に戦車を動かす事だけでなく、整備や補給もしなければならない。ところが戦車の部品や備品類は大きく重いので大変な重労働である。これに加えて掩体壕の構築や故障車の牽引、脱輪した車両の引き上げなど、定期整備以外の仕事もマンパワーを求められるものが多い。
このため、装填手を減らした結果、残った乗員から怨嗟の声が上がった。4人で分担してできた仕事を3人で熟さなければならなくなったからだ。
実際は3人で熟せればいい方で、車長が会議などに呼ばれると1両あたり2人となり、こうなるとできる作業はかなり限られる事になる。
一方で装填手が居る車両の場合、メンテナンス以外でも、戦闘中や移動中も主砲の射撃前でなければ索敵・監視や通信といった車長の補助や、負傷者が出た際の救護、交代要員の役割も熟せるので、車長が本来の業務に専念でき、また非常時の戦車(チーム)のパフォーマンスの低下が少ないという利点がある。
実際、戦後最大級の戦車戦を経験したイスラエルは、「戦車が戦場で生き残るには最低4人の乗員が必要」としている。
結局、自動装填装置を実用化させて以降乗員3名体制が標準となった東側諸国以外では、現在フランスのルクレール、日本の90式や10式、韓国のK2などが自動装填装置を導入しているものの、イスラエル以外では輸出も含めて大きなシェアを誇るアメリカ、ドイツ、あるいはイギリスやイタリア製の戦車は現在でも装填手を含めた4人体制を維持しており、装填手の有無は使用環境や戦略などを総合的に考えると簡単に結論が出る問題ではないことが窺える。
ただし、装填手を残している場合でも装填作業が身体に大きな負担が掛かる役割である事には変わりなく、近年登場した車両は装填補助装置を備えて装填手の負担軽減が試みられている。
また、今後戦車の主砲がさらに大口径化すれば、もはや人力での装填が現実的でなくなるのは明白である。そのためアメリカでは装填手をUAVオペレーターに置き換えて情報収集能力を高める事も検討しているんだとか。