概要
2S19 152mm自走榴弾砲は、旧ソ連で開発された自走砲。ペットネームは『ムスタ-S』。
旧式化し、また西側のM109 155mm自走榴弾砲と比較した場合に運用面で難のあった2S3・2S5自走砲を置き換えるため、1980年代後半に開発が進められ、1989年に制式採用された。
T-80戦車のシャシーをベースとしているが、T-80初期型でその燃費の悪さが問題とされたガスタービンエンジンはV-84Aスーパーチャージャー付ディーゼルエンジンに変更されている。
この他小型の補助ガスタービンエンジンを搭載しており、主エンジンを停止させたまま射撃を行うことができる。
搭載砲は2A64 48口径152mm榴弾砲。旧ソ連で開発されたコンベンショナルな152mm砲弾を射撃することができるが、一部の特殊弾については、2S3・2S5との互換性を失っている。
最大射程は通常装薬で約24.7km、ロケットアシスト弾で約36km。
自車内に50発分の砲弾と装薬を搭載可能としている。自動装填装置を持ち、外部の弾薬輸送車から給弾することもできる。発射速度は自車搭載分は7~8発/min、外部給弾の場合は6~7発/min。
正式採用後間もなくソ連が崩壊し、その後は主にロシアとウクライナで生産が行われた。
宇露戦争において
開戦時にはウクライナ・ロシア双方で運用されていた。どちらもすでに次期主力自走砲を策定しつつあったが、ロシアの2S35は制式化されているものの10数両程度しか製造されていない。背景にはおそらく2014年のクリミア併合の際の西側各国からの経済制裁があると見られ、置き換えは進まないと思われる。
一方、ウクライナでは旧ワルシャワ条約機構時代の規格である152mm砲から、NATO規格の155mm砲に変更した2S22は評価試験中であり、こちらもゲームチェンジャーとなれる数が揃っていいなかった。
ロシアは約800両以上を保有していると思われたが、その活躍はあまり報告されていない。
一方、ウクライナには40両程度しかなく、数の上では2S3が未だ主力であった。
しかし、ウクライナ軍の2S19はハルキウ追撃戦・イジュームの戦いで四面六臂の活躍を見せている。この背景には、ZOF-39『クラスノポール』レーザー誘導弾を用いた精確無比な砲撃が行われたことにある。
『クラスノポール』レーザー誘導砲弾は、アメリカのM982『エクスカリバー』誘導砲弾と異なり、完全な自己誘導方式ではなく、目標に照準用レーザーを照射する必要がある。1986年の開発時には、前線観測班が危険を冒して目標に接近し、レーザー照射を行う必要があった。兵員をドライに数で計算する旧ソ連らしい考え方である。
しかし、今回の戦争ではその前提が一変。ウクライナ軍は最初から片道覚悟でドローンを使い、レーザーマーカーを目標に投下、そこに砲弾が集中するという、兵員を命の危険に晒すことなく『クラスノポール』を運用した。
ハルキウ追撃戦の象徴にもなったドネツ川の戦いでも用いられたと言う。
散々ロシア軍を痛めつけてきたウクライナ軍の2S19と『クラスノポール』だが、今後は支援として供与された西側各国の155mm(自走)榴弾砲がM982とともに前線に出るため、射程で劣る2S19は二線級の扱いとなるかもしれない。