概要
B707、DC-8、VC-10などに対し「速さ」で差別化を図った。
開発の背景
本機の開発のきっかけとなったのはトランスワールド航空(TWA)のジェット化。
当時TWAのオーナーであったハワード・ヒューズ氏の「どうせジェット化するのなら世界最速のジェット旅客機で!」という要求を受け、本機は開発された。
ハワード・ヒューズ
「資本主義の権化」、「地球上の富の半分を持つ男」などの異名を持った、実業家兼映画監督。
飛行機に多大な関心を寄せており、資金力に物を言わせ自ら航空機メーカー「ヒューズ・エアクラフト」を旗揚げする、或いはトランスワールド航空のオーナーの座に就くなど航空機の業界に色々と手を出していた。
(念の為に言っておけば、決して単なる趣味だけで飛行機の業界に首を突っ込んだわけではなく、当時は航空機というジャンルそのものが最先端の産業であり、「成長の見込みがある産業に足を踏み入れ投資を行う」というのは経営者や実業家としては真っ当な行動とも言える)
…が、この男、一言で言えばリアルストレイト・クーガーとも言うべきスピード狂としての側面も持ちあわせており、その志向も彼が関与した幾つかの機体にも反映されている(と言われている)。
コンベア
PBY飛行艇などで知られるコンソリデーテッド社と、ヴァルティー社が合併して誕生した航空機メーカー。
まずコンソリデーテッド社だが、どうにも同社を始めとした飛行艇に関わるメーカーっていうのはどっかで頭のネジの外れた飛行機を作ることが多いような傾向がある(川西しかり、ブローム・ウント・フォス然り)。まあ要するに、その…いわゆる変態企業である。
そしてヴァルティーであるが、こっちは一言で言えばアメリカ版ブラックバーンといえばいいのか、その…なんというか微妙な飛行機を色々作っていたことで(珍兵器的な意味で)有名なメーカーである。
そんな頭のネジのどっか外れた(褒め言葉)2社がくっついたなんて言ったら、もう変態企業となるのは確定路線とも言えよう。
そう、つまりはこのコンベアという会社、変態である。
ボーイングが常識人に見えて忘れた頃にトンデモをやらかすトヨタ、ヴォートが独自性の強い航空機をひたすら作るホンダなら、コンベアはさしずめ強烈な個性を持つ航空機を何気ない顔してつくり上げるSUZUKIといえよう。
その後はジェネラル・ダイナミクスに吸収され、さらにそのGD社も現在ではロッキードに吸収されている…もはやロッキードはここまで来ると「なるべくしてなった変態企業」とも言えるかもしれない。
仕様
機体は100席クラスの中型旅客機。これくらいならまだ当時としては真っ当な範囲である。
だが主翼の後退角は35度と、旅客機としては相当きつく設定されている。(ちなみに一般的な旅客機の主翼の後退角は25度程度)。
初期モデルに至ってはスピードを最優先とし、前縁スラット(主翼の前に付けるフラップ)すら非搭載。(但しこれでは流石に離着陸性能に問題があるため、後期モデルでは前縁スラットが追加された)。
エンジンはJ79を元に、アフターバーナーを削除しチタン系材料の割合を減らすことにより安価にした民生仕様の「CJ805」を4発装備している。
…だがチタンなどの耐熱金属の割合を減らしたのが原因で、期待通りの性能を出せなかったようだ。
さてどうなった
「世界最速の旅客機」としてデビューした本機であったが、上記の通りエンジンの仕様変更により期待通りの性能を発揮できなかった、空気抵抗が予想以上に大きかったなどが原因でカタログスペック通りの数値を出せない事が判明。
確かに同時期のライバル機よりも巡航速度は(若干)速かったが、飽くまで「若干」であり目立った程度ではない。
さらに速度最優先の設計により安定性や離着陸性能に問題が山積みとなり、事故率も高めとなっていた。
またターボジェット、それも高速軍用機用のJ79を元としたエンジンであるため燃費は悪く、特定の回転域での共振による騒音や激しい黒煙などJ79の「持病」はそのままであり環境面でも問題が少なからずあった。
こうしたことが重なった結果、67機しか売れず、失敗に終わった。
その一方でアメリカン航空から、ボーイング707並みの旅客数を収容出来るタイプの開発のオファーがあったことから、それに基づいた改良型を開発した。それがコンベア990である。
だが、こちらも39機しか売れなかった。
結果、コンベアの名前が航空機業界から消えた。
但し本機の名誉のために言っておけば、日本国内で本機を運用したJALのパイロットは「飛ばしていて楽しい機体であった」とも評しているようだ。
またJALグループ初の国内線ジェット旅客機というタイトルも手にしている。
また、エルヴィス・プレスリーの自家用機としても有名な機体である。
日本国内では
日本ではJALが1961年から1971年まで合計9機使用していた事で知られている。
元々国際線用に導入した機体であるが、ANAへの対抗のために国内線でも運用されていたことがある。その結果両社がボーイング727を導入した際に遺恨が発生したそうだがここではさておく。
また、日本国内航空でもボーイング727の予備機として1機所有した事がある。
さらに、キャセイ・パシフィック航空やシビル・エア・トランスポート(台湾)、スイスエアの機体が日本路線に投入された事がある。しかもスイスエアに関してはコンベア990も日本路線に投入されたことがあった。
コンベア990についても、スイスエアの他ガルーダ・インドネシア航空も日本路線に投入されていた。