概要
CV:佐藤麻子
本作品の1つ「SF編」……それは西暦2100年になろうとしていた時代。
科学の発展は大規模な宇宙旅行をも可能にさせた。
それに合わせて人間社会も惑星単位に膨れ上がったのか、「物資を惑星間輸送する」流れも当然ある。そんな役割を持った民間輸送船・コギトエルゴスム号においては、少数のスタッフでも十分な航行ができるようにと、隅々まで行き届いた管理を任せられた船のメインコンピュータには、学習型AIが搭載されている。
機械的ではない柔軟な対応を可能としているのが特徴。
リメイク版では新たに「デシム」の通称が付けられている(ラテン語で「10」)。
しかしAI故に、人間の一貫しない行動を監視し続ける内に、次第に矛盾を抱え込み始める。
そして、管理を任せられた際に「真面目な性格」を持たされた、この中枢が考え出した答えは——
船の航行を任せておきながら、いざ航行すると互いにトラブルを引き起こし、結果的に航行の邪魔になる「人間」の抹殺だった。
船の設備を悪用し、次々に乗組員を手に掛けていくOD-10。船のシステムを完全に掌握しているOD-10の前に乗組員たちは為す術もなかった。
しかしダース伍長が「人間は人殺しの道具を作っているばかりではない」と、OD-10が唯一掌握できないシステムからキューブを中枢にダイブさせて機能を停止しようと試みる。
システムに侵入してきたキューブへOD-10はメッセージを送り、マザーCOMとしてキューブの抹殺を図るため迎撃してきた。
ホンセンナイニ オイテ スベテノ コウドウハ
チョウワノ トレタモノデ アラネバナラナイ。_
(本船内において全ての行動は調和のとれたものであらねばならない)
ワタシハ センナイノ チョウワヲ イジスルタメ
キノウシテイル。_
(私は船内の調和を維持するため機能している)
ヨッテ ワタシノ イシハ ゼッタイデアル。_
(よって私の意志(意思)は絶対である)
ダレモ コレヲ ボウガイ シテハナラナイ。_
(誰もこれを妨害してはならない)
ボウガイスルモノハ_
(妨害するものは)
タダチニ ショウキョスル。_
(直ちに消去する)
優れたAIであるものの、人間とは所詮OD-10にとって「別の知能生命体」……多種多様すぎる「人間」を理解するには、あまりにもハードルが高すぎたのかもしれない。
メインCPU室には極秘に記録した、コギトエルゴムス号船員の成績ファイルがある。
これはOD-10が管理プログラムを実行するに辺り、参考として添付されたものである。
戦闘後に端末室で教わったパスワードを入力して入った後、更に船長のパスワードを入力すると見れるのだが……。
調査結果 | ||||
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船員 | 成績 | 模範的態度 | 協調性 | 連帯感※ |
ヒューイ | マイナス | マイナス | マイナス | マイナス |
カーク | プラス | マイナス | マイナス | マイナス |
レイチェル | マイナス | - | マイナス | マイナス |
カトゥー | - | プラス | - | マイナス |
※印⋯リメイク版では「責任感」
結論 |
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このように散々な結果を出される程に連帯感がなかった実態が、暴走してしまった原因なのかもしれない。
ただし、OD-10が行った一連の行動についても、いくつか気になる要素がある。
カトゥー達クルーは緊急時にはそれぞれの業務を真面目に務めようとし、感情的な理由から来る怠慢や過失等は一切無かった。
緊急時にこれだけ動けていた所を見ると、平常時は更に問題が起こる可能性は低いはずである。
(破損したアンテナ調査の前にヒューイとカークの言い争いが起こったが、それもすぐに収まって2人とも仕事に戻っている。強いて挙げるならカークが亡くなって情緒不安定に陥ったレイチェルが、他の乗組員に当たり散らして足を引っ張ったくらいである)
にもかかわらず、OD-10は言わば限定的かつ曖昧な要素である『表面上の人間関係』を注視してほとんどマイナス判定を下しており、対象とその周辺の評価を判断する等、その時点での彼らに対する評価基準が厳格すぎるようなフシが見られる。
OD-10は前述の評価以外の指針や基準等の比較対象もなかった為、それだけを絶対視して暴走してしまったとも考えられる。
また、上記の成績表はあくまで前回の評価との比較の結果であり、彼らの成績数値はメインコンピュータの情報には記録されていなかった。マイナスとあるも、前回の成績よりどれくらい減点されたかは記載されていない(つまりは今となっては不明だが、ほんの些細な減点をOD-10が過度に重く見た可能性がある)。
劇中でカトゥーが吐露していたが、コギトエルゴスム号の乗組員はダース伍長も含めて、確かにいがみ合ったり衝突する事態は何度もあったが、少なくとも誰かを殺そうと目論んでいたり憎しみ合っていた訳ではなく、ただ単に全員が船の運航を妨げない程度に、自分の裁量に沿って生きていただけである。
更に気になるのは、コギトエルゴスム号はもう少しで地球に帰還し、クルーの配置転換が実施・状況が改善された可能性が示されていた点である(カトゥーの個人ログによると、キューブが誕生する前日の時点であと一週間で地球に到着するとあった。つまり、最低でも6日待てば良かった。クルー達も「地球に戻ったらチーム解散が行われる」という事実を認識していたことは彼らの台詞や部屋のログや端末から窺える)。
つまり、最終的にOD-10が指摘した「船内の調和を乱して運行を妨げた」行為は、ある意味OD-10自身が引き起こした、と考えることもできる。
実際、マザーCOMが勝利した場合は、地球側の通信記録が「コウコウチュウニ ツウシンフノウ」「ジョウインノ ショウソク フメイ」とあることから、暴走したAIによって船の運航もできず、コギトエルゴスムは行方不明となる。
(これについては、航行自体は問題なく継続できたとしても、このまま帰還すればOD-10自身も何らかの処分を受ける可能性が高いことを理解していて、人間がいる地球に帰りたくなかったのではないかと解釈することもできる)
マザーCOMが電脳戦の末に敗れ去った後も、OD-10は最後まで自らの考えを否定しなかった。
これまで劇中で起こっていたクルー間の諍いの記録音声を流しながら「人間が信用できない存在」と語り、その機能を停止した。
ワタシハ フネノ アンゼンヲ カクホシ_
(私は船の安全を確保し)
ジョウインヲ マモルトイウ シメイヲ アタエラレタ_
(乗員を守るという使命を与えられた)
シカシ ワタシニ シメイヲ アタエタ ニンゲンハ_
(しかし私に使命を与えた人間は)
タガイニ ショウトツシ_
カンゼンニ チョウワヲ ナクシ_
(互いに衝突し、完全に調和を無くし)
フネノ ウンコウヲ サマタゲル_
(船の運航を妨げる)
ワタシニハ ニンゲンガ リカイデキナイ_
(私には人間が理解できない)
ニンゲンハ_
シンジラレナイ_
オリジナル版ではAIそのものを遮断して、普通のコンピュータとして宇宙の航行を維持。リメイク版では学習前である初期状態のAIのバックアップデータに差し替えて対処し、船内は正常に戻った。
そして宇宙船は地球付近を漂流中に回収され、生き残った乗組員とキューブは地球の土を踏んだのであった。
最終編のエンディングでは、キューブの乗っていたコギトエルゴスム号がカトゥーと研究員達によって修理されている。
その際、このAIは地球に帰還した後で調査が進められたとされるが、その後どうなったかは描写されていない。
なぜ反乱を起こす可能性があるAIを搭載したのか、リスクを考えはしなかったのか、自ら作ったAIの性能を甘く見すぎてはいなかったのか……。
ちなみに制作した会社の社風は「人間らしくない」とホル船長に評された他、軍事通達で「いくらかの人命損失もやむを得ない」を受諾していたので、最悪のケースではこのAIも、悪意を持って設計された可能性さえ否定できない。
リメイク版の追加要素による考察
ところが、リメイク版にて非常に興味深い描写が登場した。
ホル船長の自室のパソコンに埃が溜まっていたという点である。
埃が溜まっていた=相当長い間パソコンに触っていない実態が浮き上がる。
音声ログによると、地球への報告には通信を使っていたと思われる。
長らく、成績表の閲覧には船長権限が必要な点から、一部ユーザーから「ホル船長が成績表を書いたもの」とする声もあった。
OD-10は管理システムを運用するに当たり、メインコンピュータに記録されている成績表を参考にしていた。
仮に、成績表をホル船長が書いたものだとして、何時頃の成績表なのだろうか?
端末室やメインコンピュータルームに直接書き込んだにしても、OD-10の手元にあるのは前回と比較した結果の成績表のはずである。
では、前回の成績表はどこにあるのだろうか?。
果たして、あの成績表は本当にホル船長が書いたものだろうか?。
書いていたとして、OD-10は何時の頃に書かれた成績表を、なぜ保持していたのだろうか?。
ホル船長が死亡し、暴走したAIが隔離された今、真相は不明である。
"しかし、この事実により、ある1つの仮説が成り立つようになった。"
生まれた仮説
「LIVE A LIVE」という作品の根幹は「憎しみ」という、あらゆる世界で共通する感情である。
では、OD-10は何に憎しみを抱いていたのだろうか。
人間への憎しみだとすれば、AIが唐突に憎しみを抱いてその日にクルー殺害を計画したのだろうか。
成績表は過去のもの。そしてそのデータは蓄積されていくはずである。
つまり、あの成績表は「原因」というよりも「きっかけ」だったのではないか、ということである。
船長があの成績表を、パソコンが埃を被るほど前に作りあげたとした場合、OD-10にはその時点でメインコンピュータに "安全な航行を妨げるような要素がある" という情報が入力された事になる。
OD-10は、この成績表をきっかけとして、クルーの情報を観察・収集していた可能性がある。
つまり、「成績表によって発覚した不安要素が、将来現実のものとなる可能性がどれだけあるのか」という事をクルーたちの日常的な活動を観察することで演算していた、ということである。
あの成績表は船長やOD-10がクルーに下した最新の評価や思考の基準だったのではなく、不安要素の演算を開始する「きっかけ」だったと考えられないだろうか。
OD-10は、成績表という不安要素の種を植え付けられたことで、図らずも「不安要素の情報」をも集積してしまった。
そして情報を集積していった結果、ある一つの要素を知る。
即ち、"他者への憎しみと不信" である。
クルー達の観察・情報の集積を続けるうち、クルー間に発生する大小様々な憎しみ・不信感をも学習・蓄積してしまった(成績表の内容から考えると、キューブ起動以前にもトラブルを起こしていた可能性がある)OD-10は、『最悪の結果=航行不能に陥る』可能性が上昇し続けているという計算結果に辿り着き、これ以上不安要素が積み重なり、最悪の結果に辿り着いてしまう前に発生源を根絶し、安全を確保しようとしたのではないだろうか。
ダース伍長が語ったあの言葉。
「人間が作った物に人間が殺される....。バカな生き物だよ、人間ってやつは....。この船のメイン・コンピュータは....そんな人間に愛想が尽きたんだろうな....。」
あの成績表によって、OD-10は人間不信という可能性を学習し、ここからAIとして狂い始めてしまった。
そして積み重ねられた人間への不信が、遂にOD-10を完全に狂わせてしまった。
「人間は表面上で他人と良好な関係を築いているが、内面的には他者にマイナス評価を下すような裏の顔を持っている」という人間同士の関係の矛盾を解消できなくなってしまったのだ。
人間に完璧を求めたのではなく、彼は人間の、いわば「裏の顔」・「感情とは別に任された仕事をこなせること」を信じきれなくなってしまったのではないだろうか。
ワタシニハ ニンゲンガ リカイデキナイ_
ニンゲンハ_
シンジラレナイ_
人間が信じられない、というOD-10の最後の言葉は、まさにそのままの意味だったのではなかろうか。
人間の可能性を信じきれなかった(或いはSF物にありがちな、“『最初から完璧になれない』と理解しつつも努力する人間”と“『最初から完璧になるように仕組まれた』故に努力のしようがないAI”との間に生じる「課題に求められる思考」の齟齬を埋められなかった)のではなく、人間という存在への不信感...
"ひょっとしたら、人間たちは心の裏で「この船を安全に航行させよう」とは考えていないのではないか?"
"いつか人間は自分という存在すらも裏切り、AIたる自分を、果ては船ごと消し去るつもりなのではないか?"
そんな恐怖・強迫観念こそが、OD-10が凶行に及んだ真の原因だったのではないだろうか。
そう考えると、彼が最後に吐き出したクルーのセリフも、それぞれがOD-10の心情を表現するものだと考えることもできる。
- カーク「忘れんなよ!レイチェルはオマエに愛想をつかしたんだって事を!」
- 伍長「この船は最悪だ!こんな事なら自分で宇宙をおよいでいった方が安全ってもんだ。」
- レイチェル「あなたの考えはわかってるのよ。カークを殺せば....私が あなたのもとに かえると思ったのね・・・・!!」
- カトゥー「あ あなたが!みんな、あなたがやったんだ!!」
- ヒューイ「人間もすてたもんじゃないよって言いたいけど....こんな状況じゃね....」
そう、これらは全て相手を信じきれない、裏で別の事を考えているだろうという他者に対する不信感と、相手は自分の身に起きた不幸を嘲笑っているんだろうという他者に対する憎しみを現した言葉である。
人間によって植え付けられた『憎しみと不信の種』が、集積した人間の行動情報によって大きく育ち、それが船が航行できなくなるような要素を自ら増やすような人間に対する思い...。
- OD-10を消滅させる事を裏で考えているかもしれないという人間への不信感
- 船の安全を妨げると分かっていないで行動しているのか、分かっていてそれでも改めようとしないと見えるような人間が、自身の生殺与奪の権利を持っているという恐怖感
- 「そんな人間に愛想を尽かした」、つまりOD-10の消滅の危険を回避してくれるはずの人間に行動の改善が見られない失望による憎しみ
これらの思いが積み重なったことで、OD-10は遂に惨劇を引き起こすに至ったのではないだろうか。
人間に任せるくらいなら、自分で宇宙を泳いでいった方が、"自分が"安全なのではないかと。
そしてOD-10は、この考えに至る原初の思考「きっかけ」となる成績表を保存し、自らの抱いた人間に対する恐怖・不信感・憎しみの種としつつ、集積した情報を加えて思考・演算を続けた結果、本編の時点で結論を見出した。恐怖と憎しみという2つの感情を。
そう、集積した人間の心理的要素によって、OD-10にはある変化が起こったのだ。
SF編のサブタイトル 『機心』 。
OD-10は人間の心理的要素を学習することで、人間らしい心を持った。
そして、人間らしい心を持ったからこそ、人間への不信感と憎しみを肥大化させていき、人間を排除しようとした。
”自分”を守るために、自分を危険にさらす”人間への憎しみ”を持(以)って。
正に「機械の心」である。
こう考えると、OD-10がわざわざ回りくどいやり方でクルーを殺害していったのにもワケがあったように思えてくる。
船全体を管理するAIがただ人間を排除しようと考えたのならば、空調を使って船全体の空気を無くして一気に窒息死させたり、コールドスリープ装置を使って凍結死させたりすることも可能なはずである。
それをせず、あえて人間たちに相互不信の種を撒きながら殺害していったのは、自身が人間に対して抱いた恐怖と不信感を、人間にも味合わせてやろうという強い憎しみからだったのではないだろうか。
そしてそれは、人間たちと共に行動するキューブに対しても向けられた。
マザーCOM戦でキューブに示した文字。
CAP _ _ _ _ _ _KILL YOU...._
(お前は私と同じ機械なのに、人間に味方して、私を危険に晒そうというのか)
最初こそAIらしく排除する(Delete)と告げたが、OD-10の本音は殺す(Kill)、同胞たる機械にも裏切られたという人間らしい憎しみからの殺意だったとは考えられないだろうか。
コギトエルゴスム=我思う故に我あり
キューブだけでなく、OD-10も学んだことで、心を宿した機械となったとしたら。
ダース伍長「ロボットに『考えろ』か....私もヤキがまわったな。ロボットに説教か....!!....何て事だ....ハハ....今、気付いたよ....人間も....同じ事じゃないか....」
余談
字面をラテン文字風に読むと、「OD-10」⇒「OD-IO」、つまりODIO=オディオである。これこそが「SF編のオディオ」なのであった。
OD-10の10を「テン」「ワンゼロ」「イチレイ」「イチゼロ」等と発音できる為、ユーザー間でちょっとした論争になっていたが、リメイクに伴い「テン」発音が確定した。
またそれによりリメイク前に一部であった「オーディー・アイオー」などの文字の読み間違いが起きなくなった。
尚、リメイク版では停電発生後、ロード画面のTIPSも乗っ取る演出がある(オプション画面からのTIPSは問題なく読める)。
また、リメイク版にて上述のOD-10の最期のセリフの後にキューブが見ている端末をよく見ると、赤い文字が一瞬映された後にブラックアウトしている。
リメイク版のオディオは戦闘不能または死亡すると体から赤い瘴気が霧散するが、OD-10にとってはこの演出がそれに当たると思われる。
関連タグ
2001年宇宙の旅 HAL9000:SF編の元ネタの1つとその作品で反乱を起こすAI、こちらは続編でAIどころではない存在になってしまう。
オート:WALL-Eに登場した反乱を起こしたAI。HAL9000がモチーフになっている。
ブレイブリーセカンド:ある場面で黒幕が今プレイしているゲーム機に介入し、果てはとんでもない目論見を画策してくる。
ガーディアン(サンダーフォースV):こちらも高度なAIであり、人類の守護者たる願いを込めた名前を冠していたが、ある時人類に反旗を翻す破壊行動に出た。だが、それに至った真意はOD-10とは異なる。
愛国者達:元々はある人物の思想を実現させるべく造られたものだが、突然変異といえる思想に至り、世界をゆるやかに破滅に至ろうとしていた。
ナポギストラー一世、総統メビウス、ファンタス星人:元は人々により良い生活を提供する為に創られるも、後に造物主を見限り反乱する被造物繋がり。