概要
アイテム番号:SCP-3477
オブジェクトクラス:Euclid
SCP財団が管理するSCPオブジェクトの一つ……と言っていいものか。
このSCPオブジェクトについて語る前に、皆様は「ハロルド・ホルト」という人物についてご存じだろうか?
フルネームは「Harold Edward Holt」(ハロルド・エドワード・ホルト)。1908年生まれの第17代オーストラリア首相を務めた政治家である。彼は1967年の年末頃に友人と海水浴に出かけ、その際の遊泳中に突如として消息を絶ってしまった。現在に至るまで彼の遺体はおろか遺留品の一つも発見されておらず、任期真っ最中であった彼があまりにも唐突に失踪した事から陰謀論を含めて様々な噂が流れたが、その真相は未だに謎のままである。2005年には遂に遊泳中に荒波にさらわれて水死したという最終判断が下され、世間的には既に死亡した人物として扱われている。
ところが、実は彼は死亡していたわけではなかった。謎の失踪からおよそ3年が経過した1970年にちゃんと発見されたのである。ただ、外見的にも能力的にも普通の人間のものではなくなっていたが。しかも、どういう訳かその後も「ハロルド・ホルト」を名乗る異常性を持った人物が次から次へと発見され続けた。失踪からおよそ50年の間に確認された34人のホルト元首相はそれぞれが異なる経緯で体得した特殊な異常性を有しており、SCP財団によってSCPオブジェクトとして収容される事になった。
というわけで、
少々前置きが長くなったがSCP-3477「本物のハロルド・ホルトさんはご起立願います。」のご紹介である。
彼らは全員途中までは全く同じ記憶や経歴を有しており、性格や思考回路もほぼ同一人物とみて問題ないレベルで一致している。しかし、表舞台からの失踪以降の異常性を獲得した経緯などは異なり、発見された場所やそのきっかけなどもバラバラ。最初に発見された個体からもう既に半ばシャーカンと化していたし、「あの有名人のそっくりさん」としてテレビ出演した事で財団に存在を把握された個体もいるし、中には完全にヒトとしての原形を留めていない個体までいる。あろう事か財団の最高位であるO5だったものまで。
ただ、異常性についてはある共通点がある。それは極めて長命であるというもの。数百年生きると言われるサメ並の生命力を持つ個体、他のSCPオブジェクトの影響を受けている個体、既に骸骨や霊体と化している個体(それは「生きている」と言えるのか微妙だが)等々、とにかく何らかの形で不老不死かそれに近い特性を獲得している。
これは元々ホルト氏が死について強い恐怖を抱いており、不老不死に強い憧れを持っていた事に起因するらしい。一国の首相となったホルト氏は財団などの特殊な超国家組織やSCPオブジェクトのような超自然的存在について知り、それを活用すれば念願の「不死」に近付けると判断。協力者と契約を取り付け、自らの存在を表舞台から消し、新たな人生をスタートさせたのだった。ところが、何がどう拗れたのかその人生は34パターンに分岐し、あろう事かそれぞれが独立した状態で顕現してしまった。その結果が今のSCP-3477である。ちなみにほとんどの個体は財団に確保されるまで他の「自分」の存在には全く気付いておらず、そもそも「自分」が34人も存在するなんて想像した事も無かった模様。
財団に確保された34人のホルト氏は、実験やインタビューも兼ねて1つのミーティングルームに召集された。すると全個体は互いの存在を認め合い、非常にフレンドリーに対応した。思考回路やリアクションも同一なので、全く同じタイミングでほぼ全個体が同じ声で笑い出すなど、傍から見れば異様な光景ではあったようだが。
しかし、立て続けにホルト氏が発見されていくため、財団はほとんど同じ収容プロトコルを長らく改定せずに使い回していた。そして彼らの「思考回路も同じ」という点を財団は甘く見ていた。
その結果、遂に事件は起きた。ある日、彼らは全く同じタイミングで全く同じアイディアを思いつき、それぞれが隔離されていたにもかかわらず事前に打ち合わせていたかのような見事な連携で包囲網を突破、全個体が一斉に脱走してしまうという深刻な収容違反が発生してしまったのである。
報告書にはこの収容違反に関しての結末が書かれていない。つまりSCP-3477は財団の下から逃げ仰せ、完全な自由を手にしてしまっている可能性が高い。積極的に他人に危害を加えるような凶悪な性質を持つ人物がほぼ居ない事は不幸中の幸いだが、財団としてはかなりのやらかしである事は否定できない。現在、収容プロトコルの見直しとSCP-3477の再補足が急ピッチで行われている。
余談
SCP-3477が1つの記事として公開された時点では、一部の個体を除いて全34個体の詳細は不明だった。報告書の中に「別紙参照」とは書かれているが、その「別紙」が存在していなかったのである。しかし、現在は完成した「別紙」へのリンクが追加されており、全ての個体の詳細を知る事ができる。