見つからない迷子は、いずれ忘れられる。
概要
アイテム番号:SCP-544-JP
オブジェクトクラス:euclid
このSCPオブジェクトはSCP財団日本支部にて管理されているアイテム。
アイテムの名称は「孤独な放送室」
その正体はとある県内にある「██デパート」と呼ばれていた5階建ての百貨店。
19██年に廃業。取り壊し工事が行われたにもかかわらず、翌日には全て復元されていた異常性を財団が見つけた事で収容された。
カバーストーリーとしてはこの土地を「改装工事予定地」とした上で、4人の警備員を配置する事によって民間人の侵入を防ぐ。
異常性
上述の通りに一度壊されたにもかかわらず元に戻る事が目につけられたが、このオブジェクトの復元できるのは見かけだけで水道、電気、ガスなどの営業に必要な物はすべて動かない様子。
それらも異常だが、それ以上の異常性がこのオブジェクトには存在する。
このデパート内部に人間が入ると3分ごとに
「お知らせです。「対象A」さん、「対象B」さんがお待ちでした。」
この放送の場合だと、「対象A」は「対象B」の記憶から完全に忘却され、その後も知覚する事が不可能になる。どんな手段であろうと。
しかもこの「対象B」は「対象A」と直接/間接を問わずに面識のある人物からランダムに選ばれる。当然だがこのSCP内部に「対象B」がいようといなかろうと問題としない。
上記のように「一個人」が対象である場合もあるが、「親戚」や「友人」、「同僚」…等々、一括りにされた上で指定されることもあり、この場合は「親族にあたる人物」、「友人にあたる人物」全員が「対象A」を忘れてしまう。
最終的に待つのは世界中の誰もが「対象A」を忘れ去り、存在そのものすら認知されず孤独になる。
なお、この迷子の放送以外にもアナウンスはあるのだが、それらは異常性もなく、上記のような影響を及ぼさない。
このアナウンスはSCP-544-JPの5階の放送室に当たる部屋から行われていると思われるのだが、内部の確認や侵入は不可能。
なお扉には如月工務店と書かれている。
この如月工務店、実は財団から目をつけられている要注意団体の一つである。そんな所が関わっているのだからこのオブジェクト、ロクなものでない事は明白だろう。
これらの条件から、もしSCP-544-JP内部に入る場合は3分以内、実験の内容次第で3分以上入る必要があるならばDクラス職員を投入する。
調査記録
内部についての調査、そして「対象B」がいなくなった時のアナウンス内容がどうなるのか調査をするべく、20██/██/██、Dクラスを使った調査が行われた。
調査を行うのは、自ら志願したD-1104というDクラス職員。
彼にはカメラとマイク、そして脱走時に彼を終了するための遠隔起動型小型爆弾を持たせた。
さらに彼にはこのオブジェクトの異常性を伝えて同意の元で投入させる。
ここでは抜粋した記録を記載するが、会話内容等の詳細は公式の調査記録を参照してほしい。
一階探索
やはり百貨店の内部そのものは特に異常性は見られなかったが、入口付近のエレベーターを調べている際にD-1104の母親がアナウンスされた。
いくらDクラス職員といえど容赦のなさすぎる洗礼を浴びせてくる。
その後、レストランの探索を行っている間に3分経過。今度は弟の名がアナウンスされた。
了承していたとはいえ、彼も「容赦ねぇな。」と少々精神的なダメージを受けていた。
二階探索
二階の果実、野菜コーナーの探索中、なんと殺人犯である彼が殺害した人物の娘の名前がアナウンスされた。
この名前には聞き覚えがあったのかかなり参った様子となったD-1104。ハイペースで精神力が削られていく。
その3分後、今回の調査に協力していた財団の研究員の名前がアナウンスされた。
しかし、D-1104は彼の名前を知らなかった(或いは印象が薄過ぎたか古過ぎたかで覚えていなかった)。これにより、やはり指定される人間には呼ばれる側にとっては当たり外れ、そして一貫性はない事が見て取れる。
三階への移動中、D-1104がアナウンスの違和感に気づく。まるで呼ばれているようだと。(自分の解釈だから違うかもしれないとも溢している)
三階探索
三階到着直後、一括りに彼の親戚がアナウンスされた。
唐突すぎるうえいきなり範囲が広がり過ぎだが、これも異常性の一環故どうにもならない。(「おい、いきなり多くなりすぎだろ」とツッコミを入れていた)
服売場の探索開始直後、彼と同宿舎内にいたD-1203の本名がアナウンスされた。
D-1104は「彼と仲が良かった為に優先されたのか」と推察していた。
この直後、彼は博士に当初「忘れられて死ぬなら理想的だ」とそう思っており、立候補したと語る
しかしこうもあからさまに自身が忘れられていく様に参ってきたのか「嫌になってきた」と語る程に弱っており、その心情を吐露する。
その後、財団職員の博士(記録者とは別人)の名前がアナウンスされた。
どうやらこの博士は彼と別オブジェクトの実験で面識があったようだ。
四階探索
四階への移動中、彼は「アナウンスの速度が速くなっているような気がする」と指摘した、アナウンス毎のラップタイムは正常と返答されるが「読み上げる速度とか声色はどうか?」と返し想定外だったため以後記録することになる。
しかし四階に到着するとすぐさまここまで彼に指示を送っていた博士の名前がアナウンスされた。
これにより通信自体は繋がっているものの会話は断絶、新しい博士が入れ替わりに担当に就く。
担当者の交代中にまたも一気に同級生達がアナウンスされた。
D-1104はアナウンスが焦っているようだと、そしてその『裏』の何かに気づいていた。
報告の一環にはこうも語っている。「人間味がある」と。
四階の探索を開始すると先程の娘に続いて被害者一族らがアナウンスされた。
これにはD-1104も「あぁくそ。恨んでくれてたって良いから俺を忘れないでくれ…」と正気の沙汰ではいられない状態になりつつあった。
書籍コーナーを見終え、文房具コーナーに入ると次は警察の皆さんと大きな括りでアナウンスされた。
さらに文房具コーナーの探索中には同僚の皆さん…詰まるところの彼と同じ宿舎のDクラス職員全員がアナウンスされた。
ついに財団研究員のみが彼を覚えている事となり、どんどん彼は孤独へと近づいていく。
あまりに残酷な程に関係性の深い人間からもあっさりと忘れ去られるという、このシステムを生み出した者の悪意を感じさせる。
五階探索
とうとうD-1104は元凶たる放送室のある五階へ到達。
ボイラー室、空調室には異常はなかった。しかし放送室の前に立った時…扉にはとある文章が書かれていた。
赤いマーカーで「迷子通知システム(自動) 停電中でも動くようにハードウェアを(人…ここには文字を消すように線が引かれていた様子。)高性能にしました。 -如月工務店」
…と。
扉が開かない以上、これ以上の内部調査は不要。これにて調査終了なのだが…あくまで今回の調査の目的は「対象B」がいなくなった時、要するに彼を知るものがこの世に一人もいなくなった場合のアナウンス内容がどうなるのかである。
それは初めから彼が孤独になる事を前提とした調査という事。
…「財団は冷酷だが残酷ではない」とは言うが、ここまでするとは。
財団も彼を認知できなくなるが、知らない誰かが出ようとしたら即座に終了されるので脱走は無意味という通信を最後に以降の通信は無くなる。
再びアナウンスがされる。
「██ ██さん、勤務先の皆さんがお待ちでした。」と。
とうとう財団からも忘れ去られ、正真正銘、この場で話す相手もいなくなり孤独となったD-1104。通信はここで途絶した。
真実
彼はアナウンスに問いかける。だがアナウンスから返ってくるのは解析不能なノイズばかり。
まだアナウンスは終わらない。次に呼ばれたのは彼の友達全員を示すアナウンスだった。
その後も問いかけるD-1104。その内に音源不明の女の子による返答が訪れる。
しかしそうしている内にまたアナウンスが行われる。知り合いというかなり不明瞭ながらも確実な形で。
そして音源不明の少女からついにこのオブジェクト、そして彼女が何故ここにいるのか、その真相が語られた。
「私はこのデパートの、最後の迷子だった。」
「皆が私を忘れたの……お母さんもお父さんも、皆。そして私は出られなくなったの」
彼女は「如月工務店」が作ったこの放送室というオブジェクトに閉じ込められた、このデパートの最後の迷子だった。そして彼女は閉じ込められた時点で、この世界から忘れ去られて隔絶されていた。
彼女は最後の警告を繰り返す。「手遅れになる前に逃げて」と。しかし、D-1104は
「もう十分手遅れだ。それに放送室に二人はちょっと狭いだろうし、アナウンス役は一人で十分だ。そう思わないか? そしてアナウンスをやるのは普通は大人だ、子供に任せる仕事じゃない。」
「俺は犯罪者だから償いをしなくちゃダメなんだ。でも皆は俺を忘れちまっただろうから、代わりにお前に償う事にする。」
正真正銘 最後のアナウンスが鳴り響く。
お知らせです。██ ██さん、皆さんがお待ちでした。
こうして、D-1104はこの世界から忘れ去られた。
ただし、この映像にはまだ続きがある。
鍵が開かれ、2~3秒間の激しいノイズの後、映像が途絶。そして…
「よう、お嬢ちゃん。」
7分の間激しいノイズが走り、映像が復旧。四階、三階、二階を写し…映像記録は終了した。
このオブジェクトの真なる異常性は「最後の迷子を閉じ込め、新たな迷子を生み出し、それをまた閉じ込めること」であった。
その迷子をこれ以上生み出さないために、そして彼女自身のためにD-1104は身を呈して新たな『迷子』となり…そして放送室へと閉じ込められた。
彼の行動は本来であれば勲章ものである。…財団の誰かが覚えていてくれたならきっと。
その後
追記によると、突然少女が飛び出してきたことで財団員は彼女を確保、どう考えても実験に子供が使われるわけがなく、そもそも子供がDクラスな訳がないということで、実験に使用されたDクラスと入れ替わりに出てきた者と推測され、保護されることとなる。
SCP-544-JP-A(放送室の少女)へのインタビューで得られた情報からその身元が判明。
彼女には異常性が無く、ただの少女であったため、家族の元にSCP-544-JP-Aを返還される…はずだった。
当然、あのSCPの影響下にあった少女を家族は覚えておらず、知覚もできなかった。結果的に彼女はサイト-81██へ正式に引き取られる事となった。
少女のその後はtale『進路相談』にて明かされている。
詳しくは自分の目で確かめてほしい。
そして
……数年後。
財団のエージェントとなった少女は、新しい仲間達と再びこのデパートへ訪れた。
彼女は忘れていなかった。自らの身を犠牲にして自分を助けてくれたあの男性を。
警告は「要件は2分で済ませろ 過ぎたら無理矢理でも連れ出す」。
彼女は声を大にして叫ぶ。
自分が助けてもらったこと。
友達ができたこと。彼氏ができたこと。
旅行に行ったこと。大学を卒業したこと。
財団職員になったこと。
そして自分が、彼を忘れていない事。
「私は、楽しく生きてこれました!ありがとう、ごめんなさい、私は貴方の優しさに甘えます!貴方を覚えて、生きていきます!」
しかし、返事は来ない。
彼女もわかりきっていた。返事が来ない事も予測して。
その時小さなノイズが走る。
そして。
「…久しぶりだな お嬢ちゃん」
アナウンスが、流れた。
外部リンク
関連タグ
SCP-1983‐Dクラス職員による事件解決案件。こちらはその死に勲章を与えられた。
SCP-213-JP‐Dクラスが大活躍した事件の一つ。正確には現在も活躍中と思われる。