概要
SCP-701とはシェアード・ワールドSCP_Foundationに登場するオブジェクトである。
初期のSCPの中でも「殿堂入りコレクション」に認定されており、すべての始まりである彫像、みんなだいすきクソトカゲやたまに大暴れする弟くん、あの特別職員要件らと肩を並べている。
全五幕からなるチャールズ1世時代(1625年 - 1642年)の戯曲『吊られた王の悲劇』の台本。
上演すると3~4割ほどの確率で、死者が出る暴動・集団自殺、生き残った場合でも重度の精神障害を発生させる。
ストーリーはシェイクスピアの『ハムレット』に似ているが、暴力的なシーンは「謀略で成り上がった王が謀略を知った公爵を殺し、人肉シチューを作る」ことくらいで、その場面も容易にカットできるため、『ハムレット』の非暴力版として演じられていたらしい。
異常が発生した場合、上演開始の1~2週間前から、台本とは異なるシナリオでリハーサルを行いだす。この時スタッフ・キャスト共に全く異常に気づかない。
そして上演時、何の予告もなく全身を長い布で覆った人型実体が舞台脇に登場。クライマックスの第五幕にて、元の台本では回避された王役のキャストへの絞首刑が実行される。
その後人型実体が舞台に立つ中、演者と観客に精神影響を及ぼし、大殺戮が展開されるのである。
複数の台本の回収が財団によって行われているが、アップロードされた台本がオンラインで入手できたり、大学と高校の図書館に出現したりと、完全には収容できていない。
一度はあやうくテレビで放映されそうになったが、財団が手を回して放送前の差し止めに成功している。
それ以外にも確認できている過去のインシデントを総合すると犠牲者は甚大だが、オブジェクトクラスはEuclid据え置きとなっている。
Keterにアップグレードする提案がなされたが、O5議会からは「10年おきに100人程度失うだけなら我々は幸運だと判断せざるを得ない」として却下されている。
ええ……
あらすじ
トリンクーロなる国が舞台。
セルコ王スフォルツァは、表舞台から引退後、程なくして病死した。
その後に王となったのは、スフォルツァの弟ゴンサーロ。ゴンサーロはスフォルツァの元妻にして前王妃イザベラと結婚し、即位式を開く。
第一幕
即位式において、晴れて王となったゴンサーロは集まった貴族たちと乾杯をして一旦退場。イザベラは酒に酔って「スフォルツァは病死ではなく、ゴンサーロと私が共謀して殺した」としゃべり始める。
睡眠薬を与えた後、ゴンサーロとその配下はスフォルツァを殺害。ゴンサーロは彼を侮辱するため、罪人のように木に吊るした。更には、即位式に参加した下級貴族アントニオは実はスフォルツァとイザベラの息子であり、正統後継者だとまで言う。
悪酔いしたイザベラは昏倒し、召使によって祝宴から運び出される。
これを聞いたアントニオは酔っ払いの戯言として取り合わず、宮廷を後にする。おいてけぼりを食らった従者は、主人と共にとった宿で高級娼婦としけこもうとしたが、そこにアントニオが狂乱しながら戻ってくる。
「前王の幽霊を見た!王妃の言葉は本当だった!」
第二幕
報告を受けたゴンサーロは怒り狂い、彼の共謀者である召使ロドヴィーコと相談。ロドヴィーコはソルティーノ公爵とその娘アリンダ、そして聖職者コルナリが告発を目撃していたと報告し、ゴンサーロは彼らを口封じする事を決意する。
ゴンサーロは手始めにイザベラを「発狂した」として、治療と称し修道院に監禁。そして異国アラガッダの大使と約束を交わし、「秘密の協力」と引き換えに無味無臭の恐ろしい毒を入手した。
一方でアントニオはフランシスコから「イザベラが修道院に入れられた」と教えられ、父の仇をとるべく復讐を開始する。
第三幕
ゴンサーロと、彼と同盟を結んだ貴族ペトルッチオは、晩餐にソルティーノ公爵を招待するとこれを殺害。コックに人肉シチューを作るよう命じた上で、アリンダを修道院に収監した。
アントニオは、わざと狂気を装って修道院に入る事に成功。
アントニオの来訪を知らされたイザベラは、彼が復讐に来ると考えて殺害を決意、毒を用意した。しかしアントニオはその計画を見抜くと、逆にイザベラに毒を飲ませて彼女を殺害する。
一方、アントニオと共に修道院に入ったフランシスコは迷子になってしまうが、偶然にもアリンダが監禁されている部屋へとたどり着き、彼女を解放した。
第四幕
ゴンサーロは先に入手した毒を人肉シチューに入れて、宮廷で振舞って邪魔者を皆殺しにした上で真実の隠蔽を確実にしようとする。
この重大な局面で僅かに良心を見せるゴンサーロだったが、自ら決めた道を逸れる事は出来なかった。
フランシスコはアリンダをアントニオと引き合わせ、三人は首尾よく修道院を脱出する。
アリンダは彼女の父が殺された事を恐ろしい口調で語り、アントニオは彼の復讐が終わった後でアリンダと結婚することを約束する。憎むべき簒奪者ゴンサーロを殺すための刃を得るため、一旦立ち去るアントニオ。
王宮の警護兵と、道化じみた聖職者コルナリによるちょっとした幕間の喜劇が展開。最後にロドヴィーコがコルナリを尾行し、その後コルナリは二度と登場する事がない(ロドヴィーコに殺害されたと見られる)。
第五幕
ゴンサーロの晩餐会には、各国の大使を初め多数の貴族が正体された。乾杯の後にいよいよ食事となるが、その瞬間アントニオが晩餐会に乱入する。
アントニオが提示したのは、舞台裏でペトルッチオから入手した署名入りの供述書。そこには前王スフォルツァの殺害、およびアントニオの王の血筋が証明されていた。
事の真偽が明らかとなり、ゴンサーロは王の座を追われる事となった。しかしアントニオはゴンサーロを助命し、代わりに修道院に入れることと決定する。そしてアリンダとの結婚計画を進めるようフランシスコに命じ、最後はダンスによって大団円となる。
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インシデント(ネタバレ)
さて上記の台本に基づいた劇だが、異常が発生するとこの内容が徐々に破綻する事となる。
偶然にも当時の様子をおさめた映像記録が生きており、某日某所の高校の演劇発表会におけるインシデント、通称「イベント」が確認できる。
舞台の袖に異常な影が現れたのを皮切りに、キャストの登場場面や台詞が逸脱。
遂には全身を布で覆った人型実体が舞台上に登場し、キャストと共に移動し、お互いを認識するに至る。
本格的な逸脱は、終盤の第五幕。
アントニオが持ってきたのは供述書ではなく、アラガッダの大使からの請求書。そこには「秘密の協力」よりも多めの金銭をアラガッダに提供する事が記されていた。
ゴンサーロは観客に向かい呪詛の言葉を叩きつけて逃げようとするが、アリンダ達によって引きずり戻される。
舞台中央の玉座に人型実体が立つ中、絞首刑の輪が舞台の天井から降りてくる。
イタリア語で罵倒を繰り返すゴンサーロは首を吊られて痙攣を始めるが、キャストもスタッフも観客も反応は見せない。
「そして、これで『秘密の協力』は完済される」
アントニオはそう宣言し、短剣でゴンサーロの腹を引き裂いてはらわたをぶちまける。
「そして、この愚者の血によって王は吊るされる」
アリンダはそう宣言し、受け取った短剣でアントニオの喉を切り裂く。
天井から、キャストの人数と同じ数だけの絞首刑の輪が下りてくると、キャストはその下へと集まる。
アリンダは人型実体の隣に立ち、こう宣言する。
「そして、私たちの血こそが『吊られた王達』となる」
キャストは一斉に首を吊り、人型実体が舞台中央へと進む。
照明が落ちて暗闇となり、周囲から一斉に悲鳴が上がり──……
『アラガッダの宮廷で』
本作が投稿された2009年から、ちょっとだけ経過した2015年のこと。
ある一つのSCPが本家に投稿された。
SCP-2264 - In the Court of Alagadda(アラガッダの宮廷で)。
台本に登場する謎の異国『アラガッダ』を舞台としたこの作品について、追加で説明する。
このSCPオブジェクトが何かというと、イギリスはロンドン塔の一角、通称「マーティン・タワー」下部にある隠し部屋の設置された鉄扉である。
鉄扉は従来の手段では開錠することができず、高度に儀式的なプロセスを必要とする。室内には錬金術器具の複合装置があり、かつてこの塔に政治犯として収監されたさる貴族によるものだと思われた。
儀式によって鉄扉は解放され、空の色が黄色い異世界へとアクセスできる。
この時侵入した者の服装や装備はヴェネツィアのカーニバル風のものとなり、強制的に仮面をかぶらされる。
別世界は巨大な都市であり、黒・白・黄・赤の4色しか存在しない。建物や重力も異常で、黒い液体の海に囲まれた島にあると推察されている。
人型の「住民」が確認されており、似たような服装と仮面をまとっている。
後述する機動部隊による探索では、宮廷での仮面舞踏会で服を脱いで乱交に耽る実体が確認されている。その肉体は、触手や多足を無視できるほどに美しいものだった。
第1回探査において、カリスト・ナルバエス博士が接触した、鳥類めいた特徴を持つ人型実体「クル=マナスの堂守(Wandsman of Kul-Manas)」へのインタビューにより、次の事が判明した。
この都市の名前は「アラガッダ(Alagadda)」である。
そして都市の頂点にある「アラガッダの王」の最高顧問として直接的に都市を支配しているのは、4人の仮面を被った君主である。
苦悩の面被りし黒の君主。
勤勉の面被りし白の君主。
嫌悪の面被りし黄の君主。
陽気の面被りし赤の君主。
このうち黒の君主は政治闘争に敗れ、異次元へと追放されてしまったという。
堂守は「アラガッダの王」について詳しく語る事を拒絶し、同時に「アラガッダの大使」なる存在を避けるべきだと忠告し、その場を去った。
博士たちも報告の為に一旦帰還し、第一回探査は終了となる。
その後、二回目の探査で博士は堂守と再会。
堂守は変わらず愛想よく応対したものの、博士にこう告げる。
「アラガッダの大使がアディトゥムから帰還した。もはや此処には狂気しか残らないでしょう」
「話によれば、アディトゥムの魔術師王は、アラガッダの吊られたる王に匹敵するほど恐るべき太古の存在に仕えているとか」
そして慌ただしく立ち去ってしまった。
……察しの良いものは気づくだろう。
吊られた王の悲劇が、「にくのカルト」と繋がった事に。
その後、「アラガッダの大使」および「アラガッダの王」の発見を目的とし、機動部隊プサイ-9(深淵を見つめる者)が派遣される。
しかしその結果は12名中11名の未帰還、1名の帰還という悲惨なものだった。白兵戦とオカルト交戦時戦略(COS)を叩き込まれた精鋭が、である。
唯一の生還者であるエージェント・パパドプロスは重傷を負っており、3週間の入院を余儀なくされたが会話が出来る程度に回復。その後インタビューを受けた。
それによると……
アラガッダに到着した機動部隊は、例の如く仮面と衣装を纏った状態で都市を探索。「宮廷」と目される豪奢な建造物内へと進入する事に成功した。
そこでは美しい異形による淫らな仮面舞踏会が催されており、どうにかして抜け出す事に成功。同じ所を何度も堂々巡りした果てに、最初に進入したポイントと思しき地点に出る。しかし空からは色が失われ、都市は荒れ果て、住民の姿は見えなかった。
その後も彼らは探索を続け、最初に確認したものと似て非なる「宮廷」へと至る。
そこに足を踏み入れた時……
「私たちはお互いに殺し合った。」
「…何ですって?」
機動部隊は、「アラガッダの大使」に「見つかった」。
口も、鼻も、目もない顔。
体にぴったり張りつく服とハイヒールに見える、黒く、背が高く、しなやかで、両性具有的な美しさを持つ体。
それは理解できない言葉をささやき、嘲笑った。
そして12人は、ただ娯楽のために殺し合うことを余儀なくされた。互いに命乞いをし、謝りながら、仲間を殺し続けなければならなかった。
最後に生き残ったエージェント・パパドプロスは、ここで起きた出来事とメッセージを伝える為の「目撃者」にされた事を理解した。同僚の、原型をとどめない無残な死体に囲まれながら。
そして満身創痍の彼は「アラガッダの大使」に引きずられてゆき、王座の前に掲げられる。
そこには「アラガッダの吊られたる王」がいた。
死体のような手と、首の周りに「神聖なる拘束」が施され、顔をベールに隠していた。
ぼろぼろのローブの中で青白い触手がうごめき、身体の上を二匹の小悪魔めいた何かがはい回っていた。痙攣する王を癒そうとするかのように撫でさすり、拘束を引っ張ってきつく締めあげながら。
そしてベールはめくられ、その顔が……
以後インタビューに応じなくなったエージェント・パパドプロスは、平静状態を示唆するトーンの声で語り始める。
死にたい。私がやったことを抱えて生きていくことは出来ない。殺してください。終わらせてください。私は私の足を感じることができません。私は私の腕を感じることができません。これを好きではありません。好きではありません。お願いします…
神の形をした穴です。堕落し失敗した創造物の不毛な荒廃です。貴方が見ているのは遥か昔に死んだ星の光なのです。貴方の存在は死に逝く神が上げた悲鳴の残響に過ぎないのです。
目に見えない収束があります。貴方を取り囲んでいます。
そしてそれは絞首縄のように引き絞られるのです。
これ以後、『アラガッダ』を題材としたTaleやハブが作成。サーキック・カルトの物語における舞台装置となった。
後付けでサーキック・カルトと紐づけされた「SCP-610 - The Flesh that Hates (にくにくしいもの)」と同じ経緯をたどっているものの、特に反発らしいものは起きていない。
「上演すると一定の確率でヤバい事になる戯曲」というシンプルな構造ゆえ、Taleや他オブジェクトに登場させやすいのかも知れない。
また、「黒の君主」については古参のオブジェクトであるSCP-035(取り憑くマスク)との関連が示唆されており、これに基づく創作もなされるようになった。