解説
メカニックデザイナーの永野護によって考案・ネーミングされた、架空のロボットの内部構造の形式。
基本的にはロボットの自重を支持し、且つモーターや動力炉、エネルギーを送り込むためのジェネレーターや動力パイプといった必要最低限の駆動装置を内蔵する独立した内骨格に装甲を被せる(貼り付ける)という構造形式を指し、1984年のTVアニメ『重戦機エルガイム』にて初めて登場した。
「骨組みに外装を被せてロボットを構成する」というアイディア自体は古くからあり、『重戦機エルガイム』以前にも1981年の『太陽の牙ダグラム』に登場するコンバットアーマーなどのように類似する構造を持ったロボットは存在していた。
ムーバブルフレームが独創的かつ画期的だったのは、装甲の無い骨組みの状態で既に独立作動することができる一つのロボットとして完成しているという点にあった。
それまでの創作物のロボットの内部構造は外側のデザインに辻褄を合わせるといういわゆる後付け設定で設定されているものであったが、ムーバブルフレームでは予め最低単位となる内部フレームを想定、或いは前提としてからロボットをデザインするため、関節可動域を計算・検討して装甲やパーツ同士が干渉しないようなデザインを考えることができる。
永野はこの構造概念を基にニ重関節やサスペンション機構を組み込み、「二次元の嘘」に頼ることなく人間と同様の関節可動域で画面上で動かすことができるデザインと「関節の動きに連動する細かく分割された装甲」や「装甲の隙間から見えるダンパーや動力ピストンなどの内部機構」といった緻密で合理的なディテールを持ったヘビーメタルを発表し、それまでアニメーションさせるとデッサンやデザインの破綻も多く、ディテールも記号的であった日本の創作物における巨大ロボットのメカニックデザインに多大なる影響を及ぼした(ついでにアニメーターの作画の負担も増大した)。
まだまだ関節可動域に制約の多かった当時のロボットのプラモデルの中で、エルガイムのプラモデルは旧キットの時点でもかなり自由に無理なく様々なポーズをとることが出来たことは有名な話である。
『エルガイム』の後、『機動戦士Ζガンダム』以降のガンダムシリーズや『機甲戦記ドラグナー』などのサンライズ制作のリアルロボットアニメにも設定として輸入され、やがてムーバブルフレームの「装甲と内骨格を分割する」というアイディアはロボットのデザインにおける一般的な構造概念の一つとして普及していった。
なお、たまに散見されるガンダムシリーズにおける「ムーバルフレーム」という表記は間違いである(英語表記の「Movable Frame」から、そのような読みをしない事は明らか)。
一時期、ホビージャパン誌上において、この違いが混同され使用され続けていたことにより混乱を招いていたが、近年はガンダム系書籍やホビー類の説明書等において、この誤表現はほぼ見られなくなった。
ただし、『重戦機エルガイム』の場合は資料によってはヘビーメタルのフレームをその様にカナ表記、発音するようにしている場合があり、これは英語としては正しくないものの、実際に設定名として存在している。
重戦機エルガイム
ヘビーメタルのフレーム構造。
機体の骨格をフレームによって構成し運動性の向上をはかる目的で採用された。また、規格を共通させることによって生産性を高める役割も持っている。
ガンダムシリーズ
機動戦士Ζガンダムで登場した、モビルスーツ(MS)のフレーム構造。
一年戦争時のMS(第一世代MS)は装甲そのものを機体を支える外骨格とするモノコック・セミモノコック構造によって構成されていたため、各関節稼動部の可動範囲や強度に問題が発生していた。
そこで新たに駆動系を集約した内骨格を形成し、各種電子機器の配線や動力パイプを人間の筋肉や血管に見立てて配置、装甲は外装として内骨格に装着する形式にしたのが本構造である。
この構造の採用によって前述の問題を解決しただけではなく、メンテナンス性や実弾兵器に対する防御力が格段に向上(一例を挙げると本構造が本格的に導入されたガンダムMk-Ⅱは、従来の装甲材を採用しながらもバズーカの直撃にも耐え得る堅牢な機体となっている)、より複雑で繊細な機構を搭載することが可能となり、新たに可変MSや可変MAを設計することができるようになった。
また、本来ならば内骨格形成によって機体重量は増加するはずだが、後にガンダリウムγといった新素材の普及や技術更新によって軽量化にも成功している。
グリプス戦役及び第一次ネオ・ジオン抗争以降、宇宙世紀102年にサナリィのフォーミュラ計画が発動するまでの間に登場したMSのほぼ全部がこの構造を採用している(ただしアクシズのガザシリーズは例外)。
その後、宇宙世紀100年代初頭までのMSの多機能化・高火力化に伴う搭載機器の増加により、今度はムーバブルフレームの構造的・物理的限界によってMSの大型化が問題になる。
そこで大幅な軽量化とダウンサイジングのために、サイコフレームの製造技術を応用する形で装甲やフレーム材そのものに電子デバイスの機能を付与する『マルチプル・コンストラクション・アーマー』がフォーミュラ計画で実用化され、これ以降のMSの構造はエンジンを外付けしたりフレーム材の一部を装甲と兼用にしたりするセミモノコック構造とムーバブルフレームの中間の形態が主流となっていく。
なおムーバブルフレーム開発以前に開発されたRX-78(ガンダム)も元々はモノコック構造だったが、MG発表以降は初期作品を除きどの機体にも内部フレームが設定されることとなり、以降のシリーズではガンダムはムーバブルフレームとは別の内部フレームに外装を被せた機体ということにされてしまった。
一応肩アーマーやニーガードのフレームを第一外装と見なすことでセミモノコック構造であるという苦し紛れな解釈で矛盾を解消しようとしているが…
余談
あくまでも「モビルスーツと言うトンデモ兵器」を描くために作られた設定であるため、必ずしも現実のロボット工学にかなっているわけではない(そもそも『人間が着込む』ことを前提とした医療用パワードスーツでさえ「可動部が人間の姿である必要はない」と言う結論が出ている)。
戦車や飛行機で考えれば、外装に強度・剛性を負担させないというのは構造上むしろ無駄であり、フレームの分だけ内容積を食われてしまう。
余談だがMS少女に代表される「(エロさ重視で)腹(背骨)や股間が補強されていないパワードスーツ」に対して「装備重量が背骨や股関節に圧し掛かって死ねる」という突っ込みもままある(一方でモスピーダは腰アーマーに見える部分が脛アーマーと連結して股関節を補強している)。
……とは言え、もしも巨大人型兵器と言う複雑で稼働率の悪そうな馬鹿げた兵器が存在するとすれば、頻繁な予備部品との交換や、四肢の形状変更を含めた大幅なハードウェア・アップデートを可能とするムーバブルフレームは、大きなメリットもあるため、一概に非現的という訳ではないかもしれない。と言うかプラモ的にはムーバブルフレームの登場で可動範囲が広がった事が前述のエルガイムのプラモで証明されている。
本件については、プロレスも出来る巨大人型ロボットというマシーンが量産化されることは、(ほぼ)絶対に無いため、永遠に決着がつかない議題かもしれない。
ちなみに、ガンダムにモノコック構造が主流だった時代の最後の映像作品に当たる機動戦士ガンダム0083のモビルスーツ群は、機動戦士Ζガンダムのそれよりも遥かにスペックが高いことで有名である。
やっぱりムーバブルフレーム採用して、かえってモビルスーツ全体の性能が落ちたんじゃ…
関連タグ
機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズに登場する内部骨格規格の一種。
宇宙世紀を除いたアナザーガンダムとしては珍しく、登場するMSの全てが「何かしらの内部骨格を有する」設定を明確化している
コトブキヤからリリースされているプラモデル・フレームアームズを構成する内部骨格。
フレーム単体で稼働できる作業用重機として開発された設定を持ち、構造部材に駆動部品やジェネレータを配置しているなど共通点も多い。