「僕なんかいなくても、誰も気にしないんだ…」
演：菅原剛、安藤彗(幼少期)《本編》／山寺宏一《boys invent great hero》
概要
主人公である翔直人たちの同級生で、一平からは「ジメジメしたナメクジ野郎」、ナレーターからも「わがまま」「歪んでいる」と評される根暗で陰鬱なオタク少年。大きな屋敷に住んでおり、両親は仕事で海外に行っているため不在。
ファンからは「悪いのび太」という名称もある。
かつては世話役だったばあやことお清(演:安田洋子)から愛情を一身に受けていたことにより純真で温和な気質であり「ばあやと一緒に旅行をするのが夢」と語る程に慕っていた。
その一方で両親(演:森富士夫,山本孝代)からは普段は放任状態にされ、会えた時でも命令しかしてこないという我が子のことを実質ロボット感覚でしか見ておらず、両親によって心の支えだったお清と引き離されてしまった。以降、孤独な家庭環境に追いやられたことが原因で屈折した性格になってしまう。
両親のことは「金さえあれば幸せだと思っている」「命令しかしてこない」と評しており、特に最愛の存在であったお清と無理やり引き離したことには現在でも根に持って憎んでいるようであり、表面上は従順としているが、内心では既に見限っている（過去に自分とばあやの眼の前で父親は思い出の紙飛行機を踏み躙っており、それだけで両親がどんな人間性の持ち主か伺い知れる）。
こうした劣悪な家庭環境のせいで口下手に育ったばかりか、自身を天才と称し（実際に下記のように天才と自称するに恥じないだけの才覚を持つ）それ以外のすべての存在を見下すようになる。コミュ力に乏しく友達を作ろうとしても上手く行かず、コンピューターオタクとなってハッキングソフト「THE Castle of Torture~怪物ギラルスの拷問屋敷~」を自作。それを使ったハッキング行為を日常的にゲーム感覚で行っていた。
直人の仲間の一人である井上ゆかに密かに好意を寄せており、ラブレターを渡す機会を伺っているがいつも渡せずにいた。その腹いせに彼女の父が経営する井上病院にハッキングしていたところ、その邪な心をカーンデジファーに利用され、病院内のコンピューターを実体化したギラルスで荒らし回った。
そのギラルスが敗北した後、デジファーと手を組み、コンピューターワールドで暴れる怪獣をデザインする係となる。
それ以降は基本的に彼が何らかのひどい目にあったり(例：スーパーの前を歩いていたら倒れてきた物品の下敷きになった挙句通りがかった主婦に笑いものにされた。塾の成績が下がった。占い通りに行動したらオカマにセクハラされたetc…)、イライラしたりする(例：遅刻した。CGコンテストに落選した。二人組の不良にカツアゲされた。etc…)とコンピューターワールドに怪獣を送り込んで大混乱を巻き起こすといった事がテンプレとなる。そしてそのたびにグリッドマンに阻止され、デジファーから電流を流されるなどのお仕置きを喰らう。
電流のお仕置きはかわいそうだと思う人もいそうであるが、下記のような事例の場合ならともかく手術妨害などのよくよく考えれば殺人に発展しかねないと容易にわかる事件を嬉々として起こしていたり、立小便を咎められたという九分九厘彼に非がある言動すら逆恨みして法律を改ざんしたり、ショッピングビルのコンピューターのハッキングしようとして失敗し「自分を馬鹿にした」と勝手に逆恨みしたりしている本人の性根にも十分問題はあるので、因果応報と言えるだろう。
それでも、彼なりに最低限の正義感及び倫理観はちゃんと弁えてるらしく、道端にガムを吐き捨てた男に注意したりすることもある(結果この男に逆切れされ暴行を振るわれ「公衆道徳を守らない奴は許せない」「クズは所詮クズ、生かしておいても役に立たない」とギュルンバを誕生させた)。
また、デジファーがコンピューター制御の犬の首輪を爆弾にしようと企んだり、武史の秘密メモが入った雑誌を持っていってしまった婦警をメモごと火災で始末しようと言い出したりした時にはやりすぎだと反論することもあった(ちなみにその後、反論もむなしくデジファーに洗脳されて計画を実行に移してしまったが、グリッドマンに阻止され、婦警も中身をろくに見なかったので何事も起きずに済んだ)。
武史がどんなにひねくれてもそういう良心を残すことができていたのは、上述のお清のお陰と言ってもよく、もしお清の存在がなければ2018年アニメ版の神様(笑)のように命にさえ価値を見いだせない人間になってしまっていた可能性が高い。
…と、さんざん言ってきたが
さて、この武史であるが、しょっぱいやられ役のような描かれ方に反して、実は案外スペックも高い。
怪獣のデザインセンスは方向性は違えど天性の才能を発揮し、グリッドマンの勝利に貢献している馬場一平にも引けを取らない。また、怪獣用のAIを自前で構築してみせるなどゆかに勝るプログラミング技術、ジャンクからアシストウェポンのデータを奪い取る程のスキルを持つ一流クラッカー 「スニーカー」こと田宮シゲルの所在を侵入の痕跡を相手に気づかせることなく突き止めてみせるハッキング技術などその技術力はもはやウィザード級の領域に達しているといって過言ではない程の天才ハッカーである。
また、怪獣のデザインもマウスもペンタブも使わずキーボードだけで行うというある意味すごいことをやってのけている(これに関しては、あくまで子供向けフィクションなので描写を簡略化しているだけかもしれないが)。
成績も良い方で、下がったとはいえ塾の全国模試で30万人近い中学生たちの中から50位圏内に入れる。また、意外なことに自立と摂生を心がけて健康管理や整理整頓をしっかりと行っており、ゴミを放置したりせず夕飯の買い出しなども自分で赴くなど私生活はきっちりとした自己管理による規則正しい行動を取っている。
運動神経は低いが、運動神経抜群だった謎の少年タケオが自分の理想の姿またはIFの未来を辿った姿とするなら、素質はある方だと思われる（実力を磨けばの話だが）。
誰もがヒーローになれるよ
そんな武史であったが、終盤にて最高の自信作だと自慢する怪獣スカボーンを一時の怒りに任せて暴走させ、グリッドマンに敗北させてしまった事からとうとうカーンデジファーに見限られ、「能無し」などと散々馬鹿にされた挙句「お前はもういらん」と家から叩き出されてしまった。
失意のどん底に落とされ街を彷徨っていたところを直人たちに助けられ、そこで始めてお互いの正体を知る。そして今まで自分の作る怪獣たちを倒してきたグリッドマンを宿していたものが自分のものとは比べ物にならないボロボロの自作パソコンだったことに愕然とした。
愛するゆかに平手打ちを食らいつつも反省することはなく、むしろ「君のビンタに愛を感じた！」とこの期に及んでまだのんきなことをのたまい続けた為に、ついに一平に殴られてしまった。
一平「お前のせいで一体どれだけ人が迷惑をこうむったと思ってるんだ！」
武史「……いじめる……みんな僕をいじめるんだ。僕は何も悪いことをしてないのに……」
一平「お前まだそんなことを！」
直人「一平！……どうして君のコンピューターにカーンデジファーが現れたんだ？」
武史「僕が気に入ったって言って、突然現れたんだ。それから僕の友達になってくれた」
ゆか「友達ですって？！」
武史「僕は孤独だったんだ。誰も相手にしてくれなかった。でもカーンデジファー様は違った。僕を頼りにしてくれたし、力を合わせて戦ってくれた」
直人「そのために世界中の人がどうなってもよかったのか！？」
ゆか「そうよ！今カーンデジファーのせいで世界中が大混乱してるのよ！？」
武史「僕は、僕だって怖かったさ！だけどどうしようもなかったんだ！どうせ僕のせいなんだ！僕が全部悪いんだ！」
愛してくれたお清はもうそばにおらず、両親は海外から仕送りしかしてこず命令ばかり。そんな環境に置かれ、壊れてしまった武史にとって略取され続ける関係だったとはいえカーンデジファーは救世主といえる存在だった。そんな自分の境遇を涙ながらに吐露する武史。
直人はグリッドマンと合体しデジファーと再戦。デジファーを拘束しフロッピーディスクに封印するゆかと一平の作戦も、デジファーの抵抗で失敗に終わった。
やがて武史がジャンクの部屋にいることはデジファーに知られ、制裁の電撃を受けるが一平とゆかは彼を助ける。
武史「な、何で僕のために……？」
ゆか「私たちはあなたを救いたいのよ。……いいえ、あなただけじゃない。世界中の人を助けたいの」
一平「お前だって、カーンデジファーにこのまま好き勝手やらせていいとは思ってないだろ！？」
アシストウェポンを失いながらも戦い続けるグリッドマン。自分を身を挺して守ってくれたゆかと一平。戦いがジャンクから武史のパソコンに移る中、 ついに武史の心境にも変化が起こり、自分のパソコンの全データを破壊することでカーンデジファーの現実世界進出阻止を図る。
「カーンデジファーは僕の心の醜さに引き寄せられた怪物なんだ！奴を倒さない限り僕は立ち直ることができない！！」
これまで自分の落ち度を周りに責任転嫁し続けた武史は初めて己の醜さを認め、今までの行いは間違いだったと改心。かつて自分を必要としてくれたカーンデジファーと涙ながらに決別を受け入れ、作成した破壊プログラムはグリッドマンの逆転の切り札となる。
闘いの後はハイパーワールドに帰るグリッドマンに「君はもう一人じゃない」というメッセージをもらい彼の帰還を見送った。
武史は1話でゆかに渡そうとしていたラブレターを取り出し、破り捨てる。
直人「何だい、それは？」
武史「……もういいんだ。君たちが、友達になってくれるなら」
ゆか「もう友達じゃない！」
一平「ただし、もうあんま根暗なことすんなよな。お前、陰険そうだから……」
武史「……そういうこと言うと、またカーンデジファーを呼び出すぞ！」
直人「何だって！？」
武史「……冗談だよ、冗談！」
かくして孤独だった武史はグリッドマンの戦いを通じて直人たちの良き友人として迎え入れられ、お清と楽しく笑って過ごしていた頃の本来の自分を取り戻すことができたのだった。
雑誌展開「電光超人グリッドマン魔王の逆襲」では現実世界に進出したネオカーンデジファーに敗れたグリッドマンを助けるため、これまでの罪を償うという名目でグリッドマンの弟であるグリッドマンシグマと合体。ネオカーンデジファーに立ち向かった。
以上のように、武史は歪んだ過去こそ持ちながらも『ヒーローの素質』を持った少年であることは紛れもない事実であり、『電光超人グリッドマン』のもう一人の主人公にして、『誰もがヒーローになれるよ』と言う番組主題歌の歌詞を体現してみせた人物であると言えよう。
陰惨だった過去は似た境遇を持つ誰かの心の受け皿として、かつて悪事に利用していた技術力は誰かを守るための力として活躍することだろう。
そして22年後…
「アクセス・フラッシュ！」
『日本アニメ(ーター)見本市』の第9話として制作された短編アニメ『電光超人グリッドマン boys invent great hero』に22年後の武史が登場。
以前のグリッドマンの戦いを振り返った後、現実世界に現れた怪獣たちと戦うためグリッドマンシグマに変身した。
余談
ちなみにグリッドマンの放送当時はまだパソコンが一般家庭には普及していなかったそうで(内閣府「消費動向調査」だと、グリッドマン放送当時の1993年のパソコンの普及率は、11.9％)、彼の家はお金持ちであることが分かる。
初期案では中盤でグリッドマンのデータを盗み、悪の戦士カーンナイトへと変身してライバルとなり、途中で改心して味方となりグリッドナイトとなるという展開が想定されていた。これは前述のグリッドマンシグマへと引き継がれている。また、悪の戦士が味方となってグリッドナイトとなる展開は、SSSS.GRIDMANにおいて採用された。
髪型のせいで解り難いが、実は結構イケメンである。アニメ版監督の雨宮哲も指摘している。演者の菅原氏は当初直人役でオーディションを受けていたが、演技力の高さから「あえて悪役にしよう」というスタッフの意向で武史役に選ばれた。
関連タグ
電光超人グリッドマン カーンデジファー 哀しき悪役 グリッドマン怪獣
新条アカネ：アニメ版グリッドマンであるSSSS.GRIDMANにおける類似ポジション。最初はただの小悪党と思われていたが…。
グルメッポーイ…こちらも又、裕福な家に生まれながら、両親に恵まれなかったせいで悪の道に進んだ悪役繋がり。彼もまた、最終的に主人公達と和解している。
ポーキー…こちらも又、裕福な家に生まれながら、親に恵まれなかったせいで悪の道に進んだ悪役繋がり。ただし彼は最後まで改心しなかった。
勅使河原優…親の身勝手な仕打ちで心が歪んだインテリ繋がり。武史と同じく眼鏡をかけており、理解者がおばあちゃんという点も共通している。
天津垓…ある意味「改心しないまま大人になった武史のIF」とも言える特撮悪役。
朝霧要…毒父の仕打ちで心が歪んた人間。眼鏡をかけていたり、実はイケメンだったりするところも同じ。しかし武史とは異なり殺人も平気で犯したり、自分を神と称するなど性格は新条アカネに近い。
ビリーザ星人ヴィーノ:名前の由来がのび太とされている異星人。ある意味彼も「悪いのび太」とも言えるが、彼は武史や上記の人物達のような悲惨な経歴から悪の道に進んだわけでは無いため同情の余地が全くない人物である。
