CV:古谷徹(アニメ版)/井田國彦(1998年ドラマ版)/矢野聖人(2012年ドラマ版)
概要
「GTO」の登場人物。
私立吉祥学苑の数学担当教師で鬼塚英吉の同僚。
人物
幼い頃から高級官僚をめざしてエリート教育を受けるも、国家公務員試験に不合格(実は勅使川原家を嫌う官僚による差し金であった)となったため教師になる。
端正な風貌とは裏腹に病的にプライドが高く時折稚拙な思考や言動も見られた。
父と兄は共に大蔵省(現・財務省)勤務のエリートであり、本来は真面目で優しい性格だが、他愛の無い父親を始め、その兄と常に比較されてきたことが心に影を落とす。
表向きの性格は熱心で真面目、加えて教え方も丁寧で理性的と理想的な教育者だが、裏では冬月あずさに対して過激なストーカー行為を働き、部屋中に彼女の写真(中には合成写真も)がびっしりと貼ってある他、彼女の写真でパジャマや抱き枕などといった自作のグッズも作っている。
冬月が家に来る予定になると「脳下エンドルフィンが分泌される」と言って自分の興奮度を表現している。傍から見れば彼も一種の変質者であるが、袋田らと比べると常識的な理性があり、人前で露骨に変質行為をすることはない。
学苑で行われる全国統一模擬試験(東文社全国共通学力テスト。通称「東学」)は毎回生徒と共に受けており、毎回1位を獲得。それを鬼塚をクビにする材料に利用しようとしたが、学園一の秀才である3年4組の菊地はおろか、500点満点を取った鬼塚(桜井理事長の根回しによるもの)にも負けて3位になってしまったことを授業中に女子生徒からバカにされたことに激昂し、体罰を加えた上に怪我までさせてしまったため、停職処分を受けてしまう。
また、模擬試験に加え、教え子である太田秀美の両親や模試当日に鬼塚と太田を拉致したヤクザの集団との乱闘事件のネタをマスコミに流し鬼塚をクビにする材料として利用しようとしたが、鬼塚に救出された娘から事の顛末を聞いた太田の両親は鬼塚に対する誤解を解いて訴えを取り下げ、「彼こそ教師の鑑です」と桜井理事長に謝罪し、娘の命の恩人である鬼塚に大いに感謝した(アニメ版では事件後に太田が鬼塚の部屋を訪れている場面が描かれている)。
このため社会的に鬼塚を抹殺するはずが、逆に彼を一躍良い意味での有名人にしてしまい目論見は大きく外れてしまった。
謹慎が解けた後、鬼塚に事故で肘鉄を食らわされた際に「大丈夫ですか!?テッシー先生!」と言われてしまった。そのことからなのか、読者・ファンの間でも「テッシー」「テッシー先生」という愛称で呼ばれることが多い。
なお、実は何気に後述の事件を起こした際に秀才である菊池とIQ200の天才少女神崎を罠に嵌める形で出し抜いて無力化させたことがある数少ない人物。
復帰後の動向
謹慎が解けてもなお、鬼塚に対しての憎悪は消えることはなく再登場して早々にPC内に『鬼塚殺害計画』を書き込む描写があるなど精神状態は悪化の一途を辿っていた。
神崎の失踪騒ぎを機に本格的に動き始め、手始めに鬼塚を恨んでいた内山田教頭が騒動に錯乱してナイフを片手に校内を走り回っていたのを利用し、内山田を後ろから突き飛ばして鬼塚をナイフで刺させた後に怪文書で鬼塚を陥れるよう唆す。だがその一部始終を目撃した冬月に疑いの眼差しを向けられ、怪文書の存在を怪しんで証拠探しをしていた冬月をとうとう口封じも兼ねてスーツケースの中に詰め込んで拉致監禁を行うという暴挙に出てしまう(この時、ケースの中身を怪しんで軽い気持ちで声をかけてきた先輩教師を殴って気絶させている)。
尚、冬月は鬼塚が内山田に刺された件で勅使河原を追求しようとした際、錯乱した彼に迫られたことで彼のその異常性に気付くが、その時の勅使河原をどう振り払ったかは描かれていない。内山田も保護者たちに怪文書を流したことを自白して謝罪したが、その際も唆されたことは明かさなかった。
神崎の失踪騒ぎが収まった後は冬月をウェディングドレス姿で自分の部屋に監禁し、そして自身は冬月の部屋で下着を漁ったり掃除をしたりと好き勝手な生活を続けていた。だがそこへ姉の失踪を怪しんだ冬月の妹・まことと鬼塚が部屋へと侵入したことで窮地に立たされることとなる。まことによって次々に自身のアリバイと隠蔽工作を論破されてしまい、鬼塚と冬月にこれまでのストーカー行為をすべて知られてしまった。
暴走
すべてがバレたことで自暴自棄になり、鬼塚の言動に逆上し、その場から逃走。偶然通りかかった警察官から制服と拳銃を奪い街中で破壊行動を起こす(「コンビニでたむろする不良」や「援交を持ち掛ける中年」を含む人々への暴行、駐車違反のレガシィやチラシが張られた電話ボックスへの破壊を実行してしまった)。追いかけてきた鬼塚に銃を発砲して重傷を負わせ、今度は説得に来た冬月を始めとする桜井理事長、神崎、菊地、藤吉を人質に取り、吉祥学苑で籠城事件を起こす。
当初、冬月は勅使河原が自らの半生を綴って書いた『蝉日記』を読んで彼が歩んできたこれまでの苦労や境遇を知って同情的だったが、自分の説得にも耳を傾けず、何もかも鬼塚や他人のせいにする勅使河原に愛想を尽かし、「大っ嫌いっ!」「大嫌いよ、あなたみたいな一人よがりの弱虫。あー最低!」と拒絶した(さらに理事長からも自身が小さいことをしていると自覚している心中と、本当は人の痛みがわかる性格のはずだと指摘されている)。
冬月から徹底して拒絶された上、またしても追いついてきた鬼塚と、加勢しについてきた冴島に追い詰められた挙句、事件を知って駆け付けた兄の武流から勅使河原家に起こった全ての事実(兄と父が5年前から社会的に破滅している事や、国家試験に落ちたのが勅使河原を嫌う官僚が手を回していた事等々)を聞かされて更に絶望し、事実を知ってもなお信じようとせず、挙句の果てには兄や理事長や冬月も含めたその場にいる者全員を“鬼塚”に見立て(作中では『勅使河原アイ』と表記され、全員服装はそのままで顔が鬼塚そのものとなっていた)、隠し持っていたダイナマイトで全てを吹き飛ばそうとしたが、鬼塚に爆破を阻止されたことで武器もプライドも勅使河原の血も学歴もすべて失う。
その時、脳裏に過ったのは幼い頃の記憶。
「ゼロになる勇気」「重たすぎる荷物を下ろしてもいい」という、理解者であるおばあちゃんの言葉だった。
結末
「笑っちゃうよね、本当はとっくにゼロだったのに、学歴とかにしがみついて・・・」
自分が背負っていた荷物を全て下ろしたことでようやく落ち着きを取り戻し、そしてなぜ自分が鬼塚を嫌っていたのかを理解したことで自分の過ちを後悔、自分自身を許せなくなったことから屋上から飛び降り自殺を図る。…が間一髪鬼塚に命を救われる。そして彼からケガを負わせたことに対する慰謝料を請求されながら、「飛び降りる勇気があるなら死ぬ気で働いて金を稼いでみせろ」「エリートからハズれても偉くなれると証明してやれ」と𠮟咤激励を受け、遂に鬼塚と和解を果たす。その後は警察へと足を運び教師も辞めて学園も解雇されることとなった。そして武流に見送られる形で涙を流しながら警察に連行されていった。
事件収束後、冬月はモノローグにおいて
「勅使河原先生に必要なのはあたしなんかじゃなく、重い荷物を背負い過ぎて押しつぶされ、冷たい岩のように凝り固まってしまった彼にかわって、軽々と荷物を背負ってとなりを歩いてくれる友達だったんです」
と語っている。
その後、鬼塚が渋谷翔の襲撃で脳動脈瘤を破裂させ生死の境を彷徨った際は、刑務所の中から彼を心配する描写がある。
アニメ版では停職処分になる場面がカットされており、第15話の東学模試の後で復活した鬼塚の「教師で満点取れない方が恥」という言葉を聞いて怒り狂う場面を最後に登場していない。最終話のストーリーが原作の途中までだった事もあってか、冬月への拉致監禁などをするまでには至らず、情緒不安定による引きこもり程度で済んでいる。全てが明らかになり改心して逮捕された原作とどちらがマシなのやら…
ドラマ版においても冬月への執着心は変わらないが反町版・AKIRA版いずれにおいても逮捕される結末までには至らない。前者ではワインに睡眠薬を持って眠らせた冬月を襲おうとしたが鬼塚に阻止される。それ以降は冬月から軽蔑されるが、最終話で改心して学園乗っ取りを目論む陰謀に立ち向かい、首謀者の1人にパンチを喰らわせた。後者では冬月にイジメを行っていた生徒に制裁を行う、原作通りマスコミに鬼塚の行いを暴露する苛烈さを見せるが、ある程度の常識と理性は持ち合わせている。こちらの最終話でも大門美鈴のやり方に「反面教師にさせてもらう」と啖呵を切った。
よって逮捕されるのは原作のみとなっている。
家族
勅使河原武流(てしがわら たける)
優の兄。幼少時から文武の才能を発揮している上に絶対音感まで備わっている、「勅使河原家の誇り」とまで言われた完璧人間。また人当たりがよく、人望もある。
父同様に大蔵省に勤めていたが、不正ギリギリのプロジェクトに一枚噛んでいたため、それが公となり父共々大蔵省から追放となった。その後は中卒の社長が経営している情報サービス会社に勤めており、当初は学歴のプライドから腹を立てていたが、汗水流して働くうちに将来の目標が見え、同時に「自分たち兄弟は父の道具として育てられた」、「学歴の価値は人生の支えになってくれるほどのものではない」と悟った。
幼少時から優の苦しみをだれよりも理解していたが、父の暴力から母を守るために弟までは助けることができず、今でもそのことに負い目を感じており、大蔵省から追放された後も、5年間隠し続けていた。
弟が精神的に限界を迎え、籠城事件を起こした際には吉祥学園に出向き、勅使河原家に起こった真実を語る。その後、鬼塚の活躍により一段落した後、警察に連行される優に「父さんのことは俺が何とかする」「これからは自分のために生きるんだぞ」と激励し、見送った。父親の現実逃避、弟が逮捕されてしまったためこれからはより一層彼の苦労が重くなることは想像に難くない…。
勅使河原家の父親(仮称)
優・武流の父で元・大蔵省官僚。家柄に誇りを持っているが、家族に対する愛情はなく、自分が偉くなること、名誉のために家族を道具としか見ていないなど、幼稚なまでに虚栄心と自己愛の強い傲慢で下劣な性格をした人間。兄弟が生まれた時から「勉強しろ。そうすれば偉くなれる」と虐待に等しいエリート教育を施し、その才能を早くから発揮した長男の武流を寵愛し、それに劣る優を卑下していた。優を「(悪くてもテストの平均が)98点じゃないと意味がないんだよ!」、クラスでは優等生であるゆえにいじめを受け、その報復を行ったことで「き…貴様…よくも勅使河原の血に泥を~」と平手打ちをし、更に優が武流に及ばない理由を妻のせいにして暴力を振るうなど家族の気持ちを理解せず、自分自身のことしか頭になかった。
後年、あと一歩で次官という地位に在りつき、さらなる名誉のために不正ギリギリのプロジェクトに武流と共に踏み込んでいたために、そのことが公となり、大蔵省から武流共々追放された。以降、社会に向き合っている武流と違い、5年間そのショックで「自分はまだ大蔵省の官僚だ」と現実逃避し、出勤時間になると公園の噴水にて繋がっていない電話に話しかけるボケ老人同然の末路を辿った。そのことを棚に上げて、スキャンダルまみれの勅使河原家を嫌う官僚の差し金により、公務員試験不合格になった優を「官僚になれなかったのはお前が初めてだ!」と罵倒した。逮捕される直前の優と顔を合わせた際も武流以外全く視界に入っていなかった。
武流はこのことを「競争社会の犠牲者」と表現しており、父が「大蔵省は官僚の中の官僚だ」、「もう少しで偉くなってみせる」と言い、「ずっと上しか見てこなかった」と語っていたが、それ故に家族や周囲の人間の気持ちを顧みずに地位・名誉・家柄という虚栄心に執着して暴走した結果、敗北の果てに(武流以外)誰からも手を差し伸べてもらえず孤立し、却って取り返しがつかなくなってしまったということだろう……。
かつて中学時代にいじめや放火などのトラウマを抱えていた大門美鈴が、鬼塚と出会わなかった場合の吉祥学苑元2年4組・現3年4組の生徒たちのIFを体現した大人であるのに対して、内山田ひろしが自己保身ばかりに現実逃避しつつも、家族や生徒、同僚教師など周囲の人間を顧みることをしなければ、(鬼塚によって)改心するきっかけを作る運命にめぐり合えなかったかもしれない(勅使河原兄弟の父は家族を道具としか見ていない上に周囲を見下し過ぎ、官僚をクビになった後もなお自分の過ちを認めようとしなかった)IFを体現した大人とも言える存在である。