概要
別の作品やキャラクターにも関わらず、ハンコ(スタンプ)で押したように(特に顔立ちが)同じような絵となっている場合に、揶揄する意図で使われる。
なお、アニメーションのような連続した絵、3Dモデルなどで角度による崩れがないことや、表現の一種として意図的に同じように描いている場合には使われない。
判子絵となる原因
イラストや漫画では描き手の手癖や画風、趣味や角度などでキャラクターの顔が同じという現象が往々にして起こる。
これがひどい場合は性別や年齢の描き分けができず、老若男女みな同じ顔になってしまうことがある。
描き分けが得意な場合、表面的なキャラクターデザインだけでなく、表情やポーズなどで似たキャラクターでも差をつけることができるが、描き分けが得意ではない場合、髪色をカラフルにするだけ、髪型や目の色、形を変える(釣り目⇄垂れ目⇄糸目など)だけ、といった安易な差別化を行ってしまいがちになる。これにより、「同じ顔に見えるが別のキャラクター」という存在が生まれ、読者や視聴者が区別できなくなってしまうという問題が発生する。
モーフィングなどを利用して、複数の顔写真を合成すると、出来上がった平均顔はより美形に近づく、という説が存在する。(フランシス・ゴールトンの研究。正確には「美形と認識されている顔は、実際には最も平均的な顔立ちである」という仮説である)
この説に基づくと、いわゆるブサイクな顔とはパーツの形状や大きさ、配置などに特徴があり、美形の顔は平均的で特徴が薄いということが考えられる。
実際には、「(美形の)人物のルックスはみな同じ」ではない。整っている=平均的な配置に近い、という共通する部分を持つが、それぞれパーツに微妙な差異があるからである。また、時代や地域によって好ましいとされる特徴や、観る側の美醜に関する感覚が影響する。
この、「時代や地域によって好まれる姿が異なる」ことの一つの例として、2015年に行われたある実験を紹介する。
世界18カ国の女性グラフィックデザイナーに対し一枚の女性の写真を提示し、「このモデルをあなたの国の人にとって美しいと思えるような姿にPhotoshopでレタッチ(加工)してほしい」と依頼した。すると、完成した写真は各国で全く異なる姿となっていた。
ふくよかなモデルが国によっては極端にスレンダーな姿に加工されていたり、髪の色や肌の色が違っていたりといった、同じ時代に同じ仕事をしている人でも大きな差が出ることが明らかとなっている。→元となった実験を紹介するページ(英語)
アニメや漫画のように簡略化・デフォルメされた絵では、現実の人間のような微細なパーツの大きさや配置の差異を表現することは難しい。(カリカチュアのように、その人物の特徴的なパーツを極端に誇張して描く場合を除く)また、先述のように、描いている側の技術により、差異を表現するための引き出しが足りないということも挙げられる。
以上から「判子絵」の原因は「現実の人間のような微妙な差異を技術的に表現することができず、平均的な表現で統一してしまうこと」であるといえる。
判子絵の実例
あだち充作品では同じ顔のキャラクターが多数登場するが、通常言われる判子絵とは違い、主人公とヒロインを常に同じ顔にして、他のキャラも顔を使い回している。別作品だと同じ顔のキャラクターばかりであるが、一作品内で同じ顔の人物は(双子など意図的に似せている場合を除き)登場しない。これは手塚治虫のスターシステムの手法に近い。
また、作画の能率化目的であえて似たような絵柄にするケースもある。ギャルゲーをはじめとする複数のキャラクターが登場するADVなどの場合は、作画コストやリソース、納期の関係で判子絵的な作画に揃えていることがある。
以下、キャラクターの実例や取り上げられた際の反応など。
鳥山明作品
- 木緑あかねと則巻みどり…別作品に登場する赤の他人だが、あかねが髪型を変える(+胸に風船を入れる)だけでみどりに入れ替われる事を劇中で披露。
- サイヤ人…作中で「我々サイヤ人は顔のパーツの種類が少ないのだ」というセリフがある。また、地球人やサイヤ人以外の星のキャラは顔のパーツの種類が豊富である。
あだち充作品関連
- 蟹沢きぬ…特技が「あだちヒロインの見分け」。
- アメトーク…「タッチ芸人」回を見た原作者(あだち充)本人が「上杉達也はどれ?」と言う問題に対し、不正解した上で「あんなのわかるわけないだろ」と発言したことを『ゲッサン』編集者部がツイッターで言及。ちなみに担当編集者の方は正解出来たようである。
- リカちゃん…「りからいず」など、彼女の容姿(特にボディ)をフォーマットとした様々な作品とのコラボドールが販売されている。また、「おともだち」にはリカちゃんのヘッド・ボディをそのまま利用したドールが存在する。
- ピンキーストリート…共通した外見のドールフィギュアを着せ替えさせて楽しむことができる。また、同様のコンセプトを持ったドール、フィギュアは複数存在する。
特撮作品
- ドキータ粘土(恐竜戦隊ジュウレンジャー)…大人の事情で怪人の着ぐるみを作る費用が<お察し下さい>になった為、話の途中からドーラモンスターをたい焼きのような粘土型で量産するようになった。
- 機動刑事ジバン…お見合いの回で、男側は一人一人職業が細かく説明されたが、女は全員「お嬢様」としか説明されなかった。
なお、コミPO!のような3D素材(アセット)を用いた漫画・イラストなどの制作や、Vroid・カスタムキャスト(カスタムメイド3Dシリーズの技術を用いたバーチャルYouTuber支援サービス)など、既存の3Dモデルをユーザーがカスタムするような場合、結果として判子絵的な形になって表現されてしまうことがある。
顔、人体以外
判子は特定の場面でのお約束的な展開に使われることもある。いわゆるバンクシステムの場合、「判子絵」には含まれない。
例えば、漫☆画太郎作品では職場にコピー機を導入した喜びから同じ絵を何度も同じ漫画内で使い続け、それ自体をギャグとして利用していたほか、『魁!!クロマティ高校』では別の回でも意図的に何度も同じ角度でキャラクターが描かれることがあった。『ポプテピピック』では同じような絵であっても一見コピーアンドペーストで制作しているように見えて、全て一から描き起こされている、というコマが複数存在する。
お約束を繋ぎ合わせたシチュエーション、その連鎖自体をお約束化したシチュエーションは、俗に数珠繋ぎ、ハリボテ、天丼などといわれる。
「どこかで見たことのある話が何度も出てくる」ような展開は受け取り手によって評価が分かれるところであり、また、(ギャグなどで意図的に外す場合を除いて)数珠繋ぎをしつつストーリーを破綻せず進行させるのは決して簡単な技ではない。
そのほか
いわゆる「他人の空似」(この場合は、たまたま作風が似ている作者によって、似たようなキャラクターや構図が使われていたときなど)は本来判子絵とは無関係であるが、一部で誤解されて「判子絵」といわれることもある。
既存の作品の模造・オマージュが新たな価値を持つ「カップ焼きそば現象」のように、はじめは判子で生み出されたものが、判子の元とは異なる形で評価されることもある。例えば先述のあだち充作品などは、別の作品同士だと見分けがつきにくいが「その作品の中では一貫してそのキャラに見える」ことが評価されている。