概要
ギリシャ神話に登場する青年神。
全神々の内で一番足が速く、弁が立つことから伝令役を担う。また狡猾な知恵者でもあり、ゼウスの参謀としても働いている。
トリックスターとしての顔を持ち、テュポーン討伐など、神々の難敵との戦いではその知恵と俊足と手癖の悪さを活かし、勝利への突破口を開くことが多い。他の神々の道具を応用するテクニックに優れ、ゼウスの使いであるワシを巧みに操ったり、ギガントマキア(オリンポスの神々と巨人族との大戦)ではハデスの隠れ兜を用いてギガースを討ち取ったりしている。
美術作品では、彼の素早さを象徴する翼の生えた帽子と飛行サンダル(タラリア)を身に着け、手には伝令の証として二匹の蛇がからみつく神杖(ケリュケイオン)を携えた、美しく身軽な青年として表現されることが多い。このほか、武器としてハルパー(鎌のように湾曲した刀剣)を所持している。
生まれて早々に盗みを働くなど、やんちゃでいたずら好き。さらに狡猾で弁が立ち、悪さが露見しても全く反省しない。しかし彼の被害を受けたアポロンにはちゃっかり許され、父であるゼウスにはその才能を愛でられ、嫉妬深く厳しいヘラにも我が子同様に可愛がられて育ったという、なんとも神たらしな神である。
なお、父親に似て非常に好色であり、アフロディーテやペルセポネといった大女神から人間まで幅広い肉体関係にあった。子孫にはアルゴナウタイに参加した大盗賊アウトリュコスやトロイア戦争一の軍師オデュッセウスなど、いかにも彼の息子らしい、狡知に長けた英雄たちが揃っている。
ギリシア神話では珍しい人間に好意的な神で、火の興し方や天文学、アルファベットなど、その発見や発明で人間に様々な恩恵をもたらしたとされる。ペルセウスにタラリアを貸し与えたり、オデュッセウスに魔法薬モーリュを与えるなど、英雄の活躍を助けてもいる。
その神格の起源は古く、長い歴史の中で他国の神々と同一視されたことも手伝って、様々な性格や役割を持つこととなった。
神格の歴史
ヘルメスのルーツはアルカディアの豊穣と牧畜の神であると言われ、畑の境界や三差路に置かれた石柱(ヘルマ)に姿が彫刻されていたことから、旅人、交通の守護者となった。ヘルメスの名はこのヘルマに由来するとも言われる。また、この成り立ちから死者を冥府へ送り届ける死神としての性格も併せ持つようになった。
ギリシャ神話では、誕生早々に盗みを働いたことから盗賊の守護神、そしてこの時に見せた手先の器用さや弁舌の巧みさから、音楽や技芸、商売の神ともなった。
後には、ギリシャ神話に強い影響を受けたローマ神話のマーキュリーと同一視される。さらにエジプトの知恵と魔術の神にして書記の守護者であるトート神と結び付けられ、ヘルメス・トリスメギストスとして学術や錬金術師の守護者であるともされた。
- 空を飛ぶ神であり、交通の守護神でもあることから、その名称やシンボルマークにヘルメスを使用している航空機や航空会社が多い。
- 商売・学術の神であることから、日本の大学や商業学校でも、そのシンボルマークにヘルメスの翼や杖が取り入れられている。
- 死者を導く神であり、また学者的な側面を併せ持つことから北欧神話のオーディンに比較される。タキトゥスは『ゲルマニア』において、ゲルマン人の信仰するオーディンを『メルクリウス(マーキュリーのギリシャ読み)』の名で呼んでいる。ヘルメス=マーキュリーに関連する水曜日をWednesday(オーディンの日)と呼ぶのはこれが由来だと言う。
- また俊足を持ち、死者を冥府へ導くという意味ではエジプト神話のアヌビスとも共通点があり、習合された神格は「ヘルマニビス」と呼ばれる。(メタルファイトベイブレードで「マーキュリーアヌビウス」が水星のベイブレードとされるのはこれが元ネタか。)
- 水銀を英語ではmercury(マーキュリー)と呼ぶが、これは液体金属である水銀の流動性をマーキュリー=ヘルメスの素早さになぞらえたものであるという説がある。なお、水銀は錬金術にも深いかかわりを持っている。
ギリシャ神話での活躍
誕生
ゼウスとマイアの間に生まれたヘルメスは俊足の神を名乗るだけあって生まれたのも早朝であった(雄鶏が聖獣なのもこのエピソードに由来する。)。
ヘルメスは生まれたその日にゆりかごを這い出すと、アポロンの飼っている50頭の牛を一気に盗む悪戯を思い付き、証拠隠滅を完璧に済ませて見事達成する。しかし相手が占いに長けるアポロンだったため、この悪戯はすぐにばれ、ゼウスの前に引き立てられた。
ところがヘルメスは「自分のような赤ん坊にそんなことができるわけがない」「嘘のつき方さえ知らないのにつくはずがない」と申し立てる。盗人猛々しいにもほどがあるが、ゼウスはこの様子からヘルメスに泥棒と弁士としての才能を見出し、アポロンに牛を返すようにとだけ命じた。
アポロンは当然納得しなかったが、そこでヘルメスは牛の骨と腸で竪琴を作ってプレゼントする。その出来栄えの見事さに感嘆したアポロンはヘルメスを許し、さらにケリュケイオンを与えたという。
赤ん坊時代のヘルメスは、この他にヘラの実子アレスにすり替わってヘラの乳を吸う(=ヘラの祝福を掠め取る)という事件も起こしている。これも後でばれたが、あまりにも可愛かったので嫉妬の対象にはならなかったとか。この神、どこまでも世渡り上手である。
怪物退治
あるときヘラは、夫ゼウスがよりによってヘラの神殿に仕える女神官イオに手を出したと知って激怒する。さらにゼウスが証拠隠蔽の為にイオを美しい牝牛の姿に変えて誤魔化そうとした事も見抜き、腹心の部下である巨人アルゴスに見張らせた。アルゴスは百の目を持ち、眠っている時でもいくつかの目は開いたままになっているため、この任務にうってつけだったのである。
困ったゼウスは、ヘルメスにイオを助けるよう要請。そこでヘルメスは葦笛を巧みに吹いてアルゴスを完全に眠らせて百の目全てを閉じさせ、剣を一閃。アルゴスの首をはねて殺害し、見事に牝牛を解放した。
忠実なアルゴスの死を惜しんだヘラは、彼の目をクジャクの尾羽に移植した。この時から、クジャクはあの独特な模様の美しい羽根を持つことになったという。
ペルソナでのヘルメス
黒須淳の初期ペルソナ。メタルティックな姿をしている。
伊織順平のペルソナ。鳥のような翼を持つ姿をしている。
上記のヘルメスと違い魔術師のアルカナを持ち、火炎のアギ系や物理攻撃を得意とする。
元々主人公の初期ペルソナの予定だったらしい。
『ゴッドオブウォー』シリーズでのヘルメス
CV:多田野曜平
初登場は2作目だが、本格的に登場したのは3作目からである。
頭部は光り輝き(2作目では炎だった)、タラリアはブーツとなっている。
1作目と2作目の間の物語を描いた携帯ゲームアプリ『God of War: Betrayal』(国内未配信)で息子ケリュクスがクレイトスに殺害されており、その一件で彼を恨んでいる。
オリュンポスの聖火を目指すクレイトスの前に現れて執拗に挑発する。しかし一瞬の隙を突かれて追いつかれた挙句致命傷を負わされ、命乞いをするも聞き入れられず、ブレイズオブエグザイルで両足を斬り落とされて殺害された(海外版では骨がむき出しになっている)。死後、その亡骸は無数のハエとなり、生き残っていた人間たちに疫病を広めてしまった。
タラリアは「ヘルメスのブーツ」の名称でクレイトスが使用することになり、高速ダッシュで敵を吹き飛ばすほか垂直の壁を登ることもできるようになる。終盤で他の武器諸共ゼウスによって破壊されてしまった。
ヘルメス関連物
ゲーム
関連イラスト
関連タグ
ゼウス マイア アレス アポロ オルペウス アプロディーテー ヘルマプロディートス エウドーロス イオ
トート:エジプト神話の智慧者である朱鷺頭の神。同じく朱鷺を聖獣とするヘルメス神と同一視された。
オーディン/スキールニル/ヘルモーズ:共通点の多い北欧神話の神々と英雄。
ルパン三世:人物像を端的に表すなら、創作上のキャラクターでは一番近いであろう人物。