概要
世界でも有数の規模を誇る日本のゲーム会社・任天堂の法務部門。任天堂は社内構造を公表していないため具体的な情報は不明だが現在は「任天堂知的財産部」という名称の法務部署が存在していることは確からしい。業務内容は主に「知的財産の権利化と維持」「先行する知的財産権の調査」「知財紛争・訴訟」「模倣品対策」であると公表されている
任天堂法務部がなぜ有名か、それは著作権侵害や特許侵害などの民事訴訟にべらぼうに強いからである。というのも任天堂の収入の大半はゲームハードウェア、ソフトウェアからくるものである。いわばこの二つは会社の生命線。つまりこれらの存続と密接に関わる著作権や特許などの知的財産には敏感にならねばいけないため強いのではないかと推測されている。
但し幾ら強いといえど常勝ではなく、時には敗訴になったこともある。しかしそれでも負け必至と言われていた裁判で和解に持ち込む、逆転勝ちなど数々の伝説から「任天堂の最後の切りふだ」と呼ばれている。
具体的な訴訟例
キングコング裁判
1982年、「ドンキーコングはキングコングのパクリじゃねぇか!!」とアメリカの映画会社、ユニバーサルが任天堂を訴えた訴訟。言わずもがなユニバーサルは当時から世界的な大企業。任天堂はアメリカ市場に参戦したとはいえ京都の一中小企業に過ぎなかった(※1)ため、誰もが任天堂の敗訴だと思っていた。
しかし任天堂は「ユニバーサル社がキングコングのリメイク権を持っていなかったこと」、「著作権の保護期間が切れていること」で無実を主張。それだけではなく「ユニバーサルのキングコングのゲームがドンキーコングに酷似している」とユニバーサル側がドンキーコングをパクっていたことを追求。
その結果「ユニバーサル側が任天堂に対して160万ドルの賠償金の支払い+任天堂の全訴訟費用の負担」とリアル逆転裁判を成立させ、任天堂が圧勝した。任天堂法務部伝説の始まりである。
なおこの裁判で獅子奮迅の大活躍をして任天堂を勝利へと導いたジョン・カービィ弁護士は任天堂から「ドンキーコングと名付けられた3万ドルのヨット」と「ヨットにドンキーコングと名付けられる世界的な独占権」が与えられた。
また、とあるピンクの悪魔が作られた際、複数あった名前案の中に「カービィ」があり、開発陣はそれを見てカービィ弁護士との繋がりを感じ、その名前に決定したという。
可能性の話であるが、この件がなければ、あのゲームシリーズは違う名前になっていたかもしれない。
※1…訴訟当時、任天堂の名を世界に知らしめることとなるファミリーコンピュータはまだ発売されていなかった
テトリス裁判
1989年、アタリゲームズの子会社であったテンゲン社と任天堂がテトリスの販売権を巡って争った裁判。
テンゲン社は複数の会社を跨いで販売権を手にしたのだが、その権利がIBMパソコン互換機用のみのテトリスの権利であり、家庭用ゲーム機全般の販売権は取れていなかった事が判明。
一方の任天堂側は、テトリスの販売権を得るためにわざわざ当時冷戦中だったソ連にまで足を運び、テトリスの著作権を持っていたソ連外国貿易協会(ELORG)から直接手に入れていた。
結果は任天堂の勝訴となった。
なお、この裁判でテンゲン社から販売権をもらっていたセガの販売権も無効となり、メガドライブで発売予定だったテトリスの販売も立ち消えとなった。
また、現在ではテトリスの版権等はザ・テトリス・カンパニーが所有している。
ユンゲラー裁判
1999年、超能力者として著名なユリ・ゲラーが「ポケモンのユンゲラーは自分のイメージを勝手に盗用している!」として任天堂に賠償金を求めた裁判。
任天堂側は、ユンゲラーはあくまで日本名であり海外版での表記(英語版でのユンゲラーはKadabra)は違うため、ユリ・ゲラーの活動場所(イギリス)では権利侵害に当たらないと主張。結果はユリ・ゲラーの敗訴となった。
ちなみに後に創作されたエピソードで実話ではないが、この裁判で任天堂側がユリ・ゲラーに対して「ユンゲラーは超能力を使えます。ユンゲラーと自分が似ていると主張するならば、今ここで超能力を使って下さい!」と言い放ち黙らせたという伝説がある。
なお任天堂は勝訴はしたのだが、その後ゲラー氏に配慮したのかユンゲラーの露出を自粛するようになった。ポケモンカードシリーズでは20年近くユンゲラーが登場しておらず、アニメ版でもユンゲラーの登場回数は激減した。
裁判から20年を経てゲラー氏は任天堂と和解しており、騒動の発端であるユンゲラーの関連グッズ(フィギュアやポケモンカード)を大事に保管している。
マジコン裁判
2009年、任天堂を筆頭としたソフトメーカー54社(※1)と共にマジコン(※2)販売輸入業者5社を訴えた訴訟。著作権法違反ではなく不正競争防止法違反で訴えるという妙案で裁判に臨み、7年に及ぶ裁判の末、裁判所はマジコン業者に約9500万円の支払いを命令する判決が確定。これからの裁判ではこの判決が最高裁の判例として考慮されることとなり、「ゲーム業界全体にとって極めて重要な判決」を勝ち取った。
※1…バンダイナムコ、スクエニ、カプコン、セガ、レベルファイブなど、そうそうたるメンツが揃っている。
※2…正式名称「マジックコンピュータ」。データを入れて使えば製品版のソフトを買わなくても安価にゲームができる機器。要するに割れソフト。
マリカー裁判
2017年にマリオカートに出てくる車や衣装をレンタルする株式会社マリカーを著作権法、不正競争防止法違反で訴えた裁判。著作権侵害は認められず、第一審ではマリカー側に1000万円の支払いが命じられた。ただマリカー側も調子に乗って控訴。その結果第二審では5000万円の支払いが命じられた。2020年12月に任天堂の勝訴が確定。同時に「任天堂法務部」がTwitterでトレンド入りを果たした。
コロプラ裁判
2017年に、スマホゲーム白猫プロジェクトに登場する「ぷにコン」等を始めとするコロプラのゲーム技術特許が任天堂の特許を侵害しているとして「白猫プロジェクト」の配信停止、賠償金44億円の支払いを求めた裁判。
任天堂はゲーム技術の特許使用に関しては基本的に「黙認」のスタイルをとっていたのだが、コロプラは任天堂の特許を盗用して特許登録した挙句他社から特許料まで徴収していたため、任天堂がブチギレて法務部を出動させたという。
以前からコロプラの特許運用は問題視されており、中でも最たるものはVRゲームをほとんど作っていない癖にVR関連技術は片っ端から特許登録していることであり、これのせいで他社はコロプラに特許料を払わないとVRゲームを作れないという状況に陥っていた。VR業界の発展はコロプラのせいで停滞したと指摘されている。
そしてこの裁判はニュースで取り上げられた2018年1月から長らく続き、答弁の中では任天堂側や裁判所から「時間稼ぎすんじゃねぇ(意訳)」という回答が出たり、2021年2月には提訴後の時間経過を理由に賠償金を49億5000万円に増額させる。同年4月には更に50億円近く引き上げた96億9000万円にまで引き上げ…これやっぱ任天堂怒ってるだろ。と思いきや、なんと4月の増額は裁判所が提案したものらしい。コロプラに未来はあるのか、注目が集まっていた。
2021年8月4日に特許権侵害訴訟の和解成立のお知らせが掲載された。
pixivでは
任天堂法務部に目をつけられそうな作品にタグがつけられていることがある。
いわば夢の国チキンレースのような扱い。