概要
千葉ロッテマリーンズでの活躍を経て、2024年11月現在はFA宣言中。
岩手県陸前高田市出身。日本プロ野球界における21世紀および令和初の完全試合達成者である。
プロフィール
名前 | 佐々木朗希 |
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読み方 | ささきろうき |
英字表記 | ROUKI SASAKI |
愛称 | 労基、ロキ、ササロー、ろーたん |
所属 | 千葉ロッテマリーンズ(背番号17) |
出身 | 岩手県陸前高田市 |
最終学歴 | 岩手県立大船渡高校 |
生年月日 | 2001年11月3日 |
身長・体重 | 190cm⇒192cm、85kg |
投球・打撃 | 右投右打 |
ポジション | 投手 |
プロ入り | 2019年ドラフト1位 |
ロッテの契約金 | 1億5000万円 |
同初年俸 | 1500万円(2019年) |
同最高年俸 | 3000万円(2022年・推定) |
プロ一軍デビュー | 2021年5月16日・西武戦 |
背番号
プロ野球
背番号 | 使用年 | 所属チーム |
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17 | 2020年〜 | 千葉ロッテマリーンズ |
国際大会
背番号 | 使用年 | 大会名 |
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14 | 2023年 | 2023WBC |
※野球界には佐々木姓(佐々木主浩氏・佐々木千隼投手・佐々木洋氏・佐々木麟太郎選手など)が意外と多く存在するので、ここでは以後朗希投手で統一。
経歴
小学校の頃に野球を始めるが、東日本大震災に遭遇・父と祖父母を亡くし、その後大船渡市へ転居。名門校からの誘いもあったが、愛する大船渡を離れることなく大船渡高校へそのまま進学した。
高校3年生の時の2019年、高校生の日本歴代最速となる163km/hを計測したことで注目を浴びるようになった。この年は奥川恭伸(ヤクルト1位指名)・西純矢(阪神1位指名)・及川雅貴(阪神3位指名)と合わせた4人で『高校BIG4』と称された。
この年、夏の高校野球岩手県大会では決勝進出に貢献するほどの活躍を果たしたが、アメリカ独立リーグでのプレイ経験がある国保陽平監督(当時)の「故障予防のため」との判断で決勝戦・花巻東戦では登板回避。チームは2-12と大敗したため甲子園出場は逃した(なお花巻東の胴上げ投手は西舘勇陽投手で、2023年読売ジャイアンツから1位指名)。この「登板回避問題」にはメディアでも取り上げられるほど物議を大いに醸した。
特に球界の大物であった張本勲氏は
「絶対に投げさせるべきですよ」
「怪我が怖いならスポーツ選手をやめたほうがいいですよ。みんなスポーツ選手の宿命ですから」
と昔さながらな精神論を「サンデーモーニング」で振りかざし、その張本氏の精神論に噛みついた日本人メジャーリーガーのダルビッシュ有投手が
「神龍(シェンロン)が願いを一つだけ叶えてあげると言ってきたら、このコーナーを消して下さいと迷いなく言う」
「ずっと停滞していた日本球界を変えていくには勉強し、今までのことに疑問を感じ、新しいことを取り入れていく。その中で議論というのは外せないルーツ。それを黙って仕事しろとはまさに日本球界の成長を止めてきた原因と気付けへんのかな?」
と自身のtwitterにツイートし、これらに反応したサッカー界の長友佑都選手も
「(張本氏の)この記事が事実だとしたら非常に残念。苦境に立たせて大怪我をしたらマイナスでしかない。プロ野球で生きていく選手ならなおさら。国保監督は選手の将来を批判覚悟で守った英断。何度も言うが、日程を選手ファーストで考えてほしい」
と自身のtwitterにツイートするなど、野球界に留まらず、スポーツ界全体で大きな論争を呼ぶことになった。
NPB時代
キャリアは身体づくりからスタート
同年秋のドラフト会議にて、1巡目指名で千葉ロッテマリーンズが東北楽天ゴールデンイーグルス、北海道日本ハムファイターズ、埼玉西武ライオンズの4球団競合を経て交渉権を手に入れた。
その後12月9日に入団記者会見が開かれ、背番号が「17」になったことが公表された。
しかし、最初のルーキーイヤー(2020年)は登板機会が一軍はおろか二軍でも全くなく、鳴り物入りで入団しながら登板機会が全く与えられないことから、「投げない怪物」といつしか揶揄する向きも出始めた。
これは、私立の強豪校ではなく元々県立高校出身ということもあり、プロでやっていけるだけの身体がまだ出来ていなかったと首脳陣が判断したため。このため、一年目は体力・筋力作りから始まるという文字通りゼロからのスタートとなった。
2021年の二年目に登板機会がようやく与えられるようになり、投手としての実力をこの頃から開花させていき、怪物としての片鱗を徐々に披露することになる。ただし、彼への扱い方は「過保護」と呼ばれるぐらいに慎重に慎重を重ねたものであり、「球数は常時100球以下・登板間隔は10日以上を必ず空ける」ことをロッテ首脳陣は彼の育成計画を踏まえて常に徹底させた。なお、この方針はメジャーでのプレイ経験がある吉井理人投手コーチ(現ロッテ監督)によるものである。
そして、迎えたキャリア3年目の2022年…………中6日のローテイションを一年間しっかりと守りきることを目標に臨んだこのシーズンで、朗希投手は自身の一つの転換点となる偉業を達成する。
覚醒、「令和の怪物」の真骨頂
4月10日のオリックス戦で完全試合を達成し、元巨人の槙原寛己氏以来28年ぶり16度目16人目の達成者となった。20歳5ヶ月での完全試合達成はプロ野球史上最年少記録となった。その他にもこの試合で最多奪三振「19」のプロ野球タイ記録、連続打者奪三振「13」のプロ野球新記録もそれぞれマークした。
実は、彼にとってこの完全試合がプロ初完投、初完封でもある。プロ初完投・初完封が完全試合なのはプロ野球史上初となる大偉業。本来であれば「プロ初完投」は大きな話題となるはずだが、とんでもなさすぎる大偉業だっただけに、こちらは大きな注目とはならなかった。さらに、プロ通算14試合目、プロ通算5勝目での達成もプロ野球史上最速記録。2021年の5月16日の西武戦でプロ一軍デビューしてからたった1年未満での達成だから、その驚異的すぎる化け物ぶりが「令和の怪物」たる所以でもあるのだろう。
なお、朗希投手とバッテリーを組んだ松川虎生捕手も前年にドラフト1位でロッテに入団したばかりの高卒ルーキーであり、こちらもプロ野球史上最年少である。彼の意表を突いたリードがなければ、朗希投手の完全試合は成し遂げられなかったのである。また、守備だけでなく打撃でも相手の先発投手の宮城大弥投手から走者一掃のタイムリースリーベースを放つ大活躍を見せており、この試合の解説を担当したロッテOBの有藤通世氏も「なぜヒーローインタビューに彼(松川捕手)も呼ばないのか」と不満を漏らしていた。
「昭和の怪物」江川卓氏、「平成の怪物」松坂大輔氏、「二刀流の怪物」大谷翔平選手など時代や世代を代表する怪物ですらプロ入り後に完全試合はおろかノーヒットノーランすら達成できなかったのだから、この大偉業のインパクトは全く計り知れないだろう(江川氏は高校・大学時代にノーノー9回、完全試合2回を達成しており、松坂氏は高校時代に夏の甲子園決勝でノーノーを達成済み。また、大谷選手は現役であるため完全試合とノーノー達成の可能性がまだ残されている)。
また、この大偉業は海の向こうのアメリカにも届くこととなり、現地のメディアが「日本のプロ野球で若い投手がとんでもないことを成し遂げた」と話題になった他、先の登板回避問題で国保監督を擁護したダルビッシュ投手も「今すぐにメジャーリーグに来ても十分通用するだろう」と太鼓判を押したほど。当然MLBの各球団も朗希投手に大変大きな興味を示すようになり、当時から既に将来的に大きな契約が結ばれるのではないか…?という話が出ていた。
「投げない怪物」を汚名返上
この3年間「投げない怪物」と多方面から散々揶揄され続けた彼だったが、今回の完全試合達成で上記の岩手県予選決勝の「登板回避」とロッテ首脳陣の焦らずじっくりとした「佐々木朗希育成計画」が正しかったことが図らずも証明されることとなり、行き過ぎた勝利至上主義による、高校野球や大学野球の「登板過多」問題・「球数過多」問題・「エース酷使」問題に一石を投じたという点でも、彼の大偉業は極めて意義深いものだったと言われている。
あわや2試合連続完全試合未遂&まさかの交代事件簿
さらに同年4月17日の日本ハム戦で先発登板し、8回まで14奪三振を含む前回のオリックス戦から継続中の17イニング連続パーフェクト、3日の西武戦の8回2死から継続中の52者連続アウトを達成し、2014年8月28日にサンフランシスコ・ジャイアンツの右腕ユスメリオ・ペティット投手(当時29)がコロラド・ロッキーズ戦で記録した46者連続アウトを大幅に更新した。
ただし、この日のロッテ打線の援護点が0だったことで、井口資仁監督が彼の今後の大事を取って9回にクローザーの益田直也投手に交代させたため(なお、井口監督は仮に援護点が1点入っていたとしても、続投させずに100球前後を目途に交代させるつもりだったと試合後に明かした)、世界野球史上初となる2試合連続の完全試合達成は果たせなかった。っとはいえ2007年の日本シリーズ第7戦の山井大介氏の交代騒動の時代とは異なり「ローテイションを崩さないこと」の重要性が野球ファン一般に認知されていたため、山井氏の時のような否定意見は殆どなく、寧ろこの場面での完投を望む意見を出す者が叩かれる時代となっていた。
ちなみに、彼の交代後、試合は延長戦で3番手の西野勇士投手が、日本ハムの万波中正選手にこの試合日本ハム唯一の安打となる決勝ソロホームランを打たれたために0-1で惜しくも敗れ、彼に勝ち星が転がらなかった。日本ハムにとっては、正に「(彼との)勝負には負けたが、試合には勝った」内容となった。
その後
4月24日のオリックス戦で今季3度目の先発登板となるも、初球を相手の1番バッター福田周平選手にヒットにされ、連続アウトは52で途絶える。さらに、この日は球審の白井一行氏がストライクゾーンの判定に厳しかったこともあって制球に苦しみ(2回には判定に不服そうな態度を示したため、球審の白井から詰め寄られるという異例の事態にもなった)、自己ワーストとなる四死球5をマーク、これが祟って5回にノーアウト満塁から一挙2失点を喫し(この時点で3-2と1点差にまで詰め寄られた)、連続無失点記録も23で途絶えることとなった。
それでも5回を投げ切り、試合もロッテが6-3で勝利したため、苦しみながらもなんとか今季3勝目を手にすることとなったが、前回、前々回で素晴らしい投球を見せていただけに、ほろ苦い勝利になってしまったといえよう。
翌4月25日、疲労の蓄積を理由に朗希投手は一度一軍登録を抹消され、しばしの休養期間の後、5月上旬より一軍に復帰した。これにより、2022年も中6日のローテイションを最後まで守り切るという目標は果たせないままシーズンを終えることになった。
これ以降も登板間隔を少しずつ短くしつつ、体を慣らしていく方向で調整していたようだが、日本球界時代は規定投球回到達はおろか年間を通してフル稼働できたシーズンは結局1度もないまま終わってしまっている(2桁勝利に関しては、2024年シーズンに10勝を上げたことでようやく達成できた)。
高いポテンシャルを秘めながらも投手としてはまだまだ成長途上にあると言えよう。
あるいは、これを指して「日本でプレイし続けた方が幸せ」という意見もある。
2023年WBC出場
前述の活躍もあり、2023年に行われる第5回WBCの日本代表メンバー(侍ジャパン)に選出された。彼ですら3番手投手と目されることから、侍ジャパンの投手層が如何に厚いのかが分かる。
2023年3月4日にナゴヤドーム(バンテリンドーム)で行われた中日ドラゴンズとの強化試合で登板した際は、自身最速かつ同じく日本代表の大谷翔平選手に並ぶ165km/hを記録。
また、父と祖父母の命日である3月11日に東京ドームで行われた1次リーグB組のチェコ共和国戦で先発投手として登板。ここでも164km/hを記録し、4回1失点と好投して勝利に貢献した。
なお侍ジャパンの栗山英樹監督は震災発生日であるこの日に朗希投手を登板させる事を事前に決めており、「野球の神様が朗希に頑張れとメッセージを送っていると思う。」とコメントしている。
アメリカでは野球マニアが知る人ぞ知るというくらいの注目度だったが、twitterでSASAKIがトレンド入りしたほか、MLB公式を世界で最もエグい投手の証拠を得たと、驚愕させた。さらにWBCで25球以上投げた先発投手で100マイル超えの速球を投げた確率が90%をマークしたのは、佐々木朗希投手が初めてとの事。
試合の外では、チェコ戦にてデッドボールを与えてしまったウィリー・エスカラ選手に対し、後日ロッテ製のお菓子を持って謝罪に向かうという一幕があり、これにはエスカラ選手だけでなくチェコ野球協会も感激。
日本のプロ野球シーズンが始まると佐々木朗希投手の登板をチェコの野球専門twitterが取り上げるなど、これをきっかけにチェコと野球の本格的な交流が始まることとなった。
その後は、準決勝のメキシコ戦に先発。MLBでも活躍する選手たちを相手に上々の立ち上がりを見せるが、4回にルイス・ウリアス選手に3ランホームランを打たれてしまい、この回で無念の途中降板となった(罪悪感と悔しさ故か、ベンチ裏に引っ込んだ後は号泣していた)。
その後、落ち着きを取り戻した後はベンチで応援に回り、吉田正尚選手が同点ホームランを打った際には、被っていた帽子を思いっきり地面に叩きつけて喜びを爆発させ、9回裏に村上宗隆選手がサヨナラヒットを打った際には、他のチーム名と共にベンチから飛び出して村上選手を出迎え祝福した。
最終的に日本代表が優勝を果たしたことで、自身初の優勝経験をすることとなった。
メジャー挑戦の表明
2024年シーズン終了後の11月9日(自身の23歳の誕生日の6日後)に、球団を通してポスティングシステムを利用したMLB挑戦を正式に表明した。
25歳未満でのMLB挑戦は、同じく23歳でMLB挑戦を正式に表明した同郷の大谷翔平選手に次ぐ二例目であり、野茂英雄氏、大谷選手に次ぐ3人目のマイナー契約からのスタートとなった(ちなみに、当時26歳の野茂氏の場合は近鉄からの任意引退選手あがりの980万円のマイナー契約である)。
マイナー契約により支払われる上限がすでに決まっており、「契約金+年俸」で優劣や格差が全くつけられない故に、どんな球団でも朗希投手を格安で獲得できるという、正に格安バーゲンセール状態である。そのため2017年オフの大谷選手同様、このポスティング行使はMLBの球団にとっては事実上約3億円という契約金付きのFA移籍であり、全30球団が朗希投手の獲得交渉に平等に乗り出すことができるのである。
なお、金銭面では奴隷契約同然だが、一方でそのお買い得さ故に朗希投手が全30球団に対してマウントを取ったも同然の完全な売り手市場状態でもあり、朗希投手は年俸以外の好きな条件や付帯条項(登板数・中6日ローテ・イニング数・球数・育成環境・リハビリ&トレイニング法・住居費・往復渡航のフライト代など)を球団に対して設けることができるというメジャー契約(逆にメジャー契約を下手に交わすと、大金を獲得できる代わりに条件や付帯条項などは球団にマウントを取られてしまうだけでなく、個人成績の更新やチームの勝利を地元メディアやファンから性急に求められてしまう。それが却って大きなプレッシャーとストレスに変わり、それこそが日本人選手がメジャーでなかなか成功できない大きな要因となっている)にはない、これはこれで美味しいメリットがある(例えば、大谷選手の場合はマイナー契約を逆手に取ってエンジェルスに二刀流をやらせてもらうために「中6日ローテと専門DH枠」を確約させ、メジャーリーガーとして大成した現在も所属中のドジャースに対しても、同様の措置を無利子後払い契約で取らせてもらっている)。
朗希投手がMLB移籍するのにあたって………………
- 侍ジャパンの元チームメイトで気心が知れる大谷選手と山本投手がいる上に、伝統的に日本人選手とも交流が深く、故ジャッキー・ロビンソン氏の下で白人・黒人・東洋人・ラテン人・アラブ人など人種の多様性が容認されており(球団によっては人種差別が未だに根強く残っている処も存在する)、ナ・リーグ屈指の常勝球団であるドジャースにそのまま移籍する(とはいえ常勝球団である以上、朗希投手も最低限の結果という名のノルマが当然ながら課せられる)
- ドジャース以外の日本人がいる中堅球団に移籍する。
- 日本人選手が誰もいない球団に移籍する、特に、メジャーの過酷な環境やルーティーンに慣れるために、大谷選手やロッテの大先輩である里崎智也氏と同様のルートにあやかって、アスレチックスやホワイトソックスなどの弱小球団若しくは再建モードに入っている球団にまず入団し、そこでメジャーで生き残るためのノウハウを吸収する。
………という大まかに5通りの選択肢がある。果たして、朗希投手はどの選択肢を選ぶのだろうか。
国内からの批判
しかし、ファンや球界OBからは「恩知らず」「裏切者」と反発の声や冷ややかな意見が多く、お世辞にも日本から気持ちよく送り出してもらえたとは言い難い。
これは、移籍を発表するまでの間に、球団との交渉に色々と不可解な点が見受けられた上に、朗希投手自身も(そのような意図はなかったのだろうが)ファンの心理を逆撫でするような行動や説明不足な点が見受けられ、ファンや球界から様々な疑念や反発を抱かれてしまったためである。
状況を追って見てみよう。
朗希投手に関しては、完全試合を達成した頃から、遅かれ早かれメジャーに挑戦するだろうという見方が関係者の間で噂されていた。しかし、朗希投手自身が長年メジャー挑戦に対する姿勢を明らかにしていなかったために具体的な挑戦のタイミングは不透明であった。
ところが、2023年シーズン終了後に、契約更改の交渉が難航し、越年となったことから、球団との間で契約を巡って何か揉めているのではないかとする見方が強まり、兼ねてより取り沙汰されていたメジャー挑戦の噂が持ち上がり始めた。
結局、2024年シーズンは残留することとなり、球団側も朗希投手自身もメジャー挑戦に関して具体的な発言をすることはなかった。
しかし、シーズン本番に突入すると、プロ野球選手会から突然脱退したり、肩の消耗や体の故障を防ぐためとも受け取られかねない長期の登板回避(本人はコンディション不良が原因としている)等、メジャー挑戦を見据えての行動と疑われても仕方のない行動をとり始めたため、ファンからは「ロッテや日本球界を蔑ろにしているのではないのか?」という疑念の声が上がるようになる。
さらに、これに乗じて一部の週刊誌やスポーツ新聞が朗希投手に関するネガキャン・ゴシップめいた記事を次々に投稿・連載してファンの反感を余計に煽ったために、朗希投手への世間の風当たりは日増しに強まっていくことになった。
このため、いざ朗希投手がメジャー挑戦を発表してもファンの大半は到底心の底から喜ぶことなどできず、「球団への裏切り」というマイナスの感情を抱かれてしまったのである。
ロッテの所属選手のメジャー移籍を巡ってここまでの大騒動に発展したのは1996年オフにヤンキース移籍をロッテに直訴し、ロッテ・パドレス・ヤンキースのゴリ押し三角トレードを経て艱難辛苦の末にヤンキース移籍を決めたロッテの大先輩エースでもあった故・伊良部秀輝氏以来である(ちなみにポスティングシステムが設立したのもこの時の伊良部氏の一件が原因である。それから約30年近い時を経て、伊良部氏の後輩が今度はそのポスティングの運用を巡って揉め事を起こすというのは何とも皮肉な話であり、隔世の感を感じずにはいられないだろう)。
ファンの主張とそれに対する反論等
朗希投手に対する批判的な意見としては、「NPBを軽視している」「自チームの勝利よりも自らのキャリアのことを最優先している」と見做された他に、以下のようなものがある。
身体面や体力面での不安
上記の通り、中6日という緩い先発ローテですら年間を通して一度も守れたことがなく、規定投球回到達も一度もない。これでは日本よりもさらに過酷とも言われるMLBの環境に適応できるとは到底考えられない。実際、アメリカメディアの間でも一部ではこの点を指摘した上で「MLBに来てもチームのお荷物になるだけでは?」と朗希投手に対して手厳しい論調がある。
とはいえ、MLBのスカウトたちはそんなことなど百も承知で朗希投手への視察やスカウトを行っていたはずである。恐らく、MLB球団側も朗希投手をいきなり一線級の投手としてフル稼働させるようなことはせず、球数・登板数・イニング数を段階的に増やしながらメジャーのマウンドに少しずつ慣らしていく方向性で運用していくはずである(実際、朗希投手とほぼ同年代であるポール・スキーンズ投手はそうした運用法でも十分活躍しており、規定投球回未達ながらも2024年シーズンに新人王になっている)。
さらに言えば、現在のMLBでは年々球速が上昇した弊害からなのか投手の故障やそれが起因しての「トミージョンサージェリー」が相次いでおり、これを受けてなのか先発投手の負担を減らすべく、中5日や中6日での登板を行う方向へと球界全体がシフトしつつある。これも身体面や体力面で課題を抱える朗希投手にとっては追い風と言える(特に大谷選手を抱えているドジャースは彼に二刀流をやらせるために、大谷選手中心の中6日ローテで行う予定である)。
結局チームを優勝に導くことができず、球団に満足な恩返しもできていない。
そもそも野球はチームスポーツであり、チームの総合力が求められる。エースピッチャー1人でチームを優勝させることができる程プロは決して甘いものではなく、野球の実状をきちんと理解しているファンからは「優勝できるチームを編成・育成できなかったフロントと現場首脳陣の責任であり、朗希投手にチーム勝敗の責任を追及するのは全くもってお門違い」と逆に否定的な意見が多い。
加えて、恩返しとはそもそも何をすることを指すのか?という疑問もある。勝利投手としてチームを後押しすることなのか?もしそうだとしたら最低何勝すればいいのか?何かしらのタイトルを獲得することなのか?チームにお金を落とすことだとすれば、それは移籍時の譲渡金なのか在籍期間中の入場料やグッズ売り上げなのか?等々。こんな漠然とした事柄を基にしている時点で論理として完全に破綻しているとも言える。
これ以外にも、「タイトル獲得や優勝などチームへの貢献や恩返しがなければ、ポスティングの行使を絶対に認めない」という極端な風潮が強まれば、それはそれで国内の優秀なプロスペクトがNPBを忌避する流れを却って増長させかねないと危惧する意見もある。
あまりにも少なすぎる譲渡金
所謂「25歳ルール(24歳以下)」により朗希投手はMLB側とマイナー契約しか結ぶことができない。したがって、ロッテ側にも満足な譲渡金が入ってこない(2億~3億円程度と試算されている)。あと2年ロッテでプレイすれば、最低でもこの10倍程度の譲渡金がロッテに入ってきたはずであり、そこまで待つことはできなかったのか?それこそがここまで自分を育ててくれた球団に対する最低限の恩返しだったのではないのか?という意見もある。
ちなみに、前年に同じくポスティングによりオリックスからドジャースへ移籍した山本由伸投手の譲渡金は約70億円だった。
同様にイチロー氏・松坂大輔氏・岩隈久志氏、ダルヴィッシュ投手・田中将大投手・朗希投手同様、今オフにMLB移籍予定の菅野智之投手、2025年オフに25歳でのポスティング行使でMLB移籍予定の村上宗隆選手なども個人タイトルや表彰の他にリーグ優勝や日本一に貢献し、その後ポスティング行使でMLB移籍し元所属先の球団に譲渡金を置き土産として多かれ少なかれ残した(松井秀喜氏の場合はFAでヤンキース移籍を果たし、個人タイトルや表彰の他にリーグ優勝や日本一に貢献し、本来なら球団やファンから惜しまれつつも気持ちよく送り出してもらえるはずだったのだが、球界の老害を含む巨人フロントや一部の巨人ファンから「裏切り者」の誹りを受けてしまった)。
また、同じくマイナー契約でMLB入りした大谷選手の場合、MLBに遅かれ早かれ挑戦することがファンや球界からすでに周知されていた事や(大谷選手はメジャー一本で元々考えていたが、栗山英樹監督(当時)の説得により日本球界を経ての挑戦へとシフトした経緯があった)、制度の移行期間であったこともあり、さらに2016年にパリーグ優勝や日本一に貢献した経済効果のおかげで纏まった金額を球団にある程度齎せたことから、朗希投手のようなトラブルには全く発展せず、むしろその逆で同僚・首脳陣・フロント・チームスタッフ・裏方・野球ファンから惜しまれつつも気持ちよく送り出してもらえたのである。
日本球界でほぼ禁忌とされていた25歳未満での渡米を半ば強行するような形になってしまったため、「今後も朗希投手の例を引き合いに25歳未満でポスティング申請を要求したり、入団交渉時に早期のメジャー挑戦を要求する選手が増えるのでは」「このままではNPBがMLBのただの草刈り場に成り下がってしまう」という懸念の声もあり、譲渡金の一件も含めてポスティングの制度について今一度再考すべきだという意見が上がっている。
NPBを経由する必要が本当にあったのか?
ロッテの松本球団本部長は、兼ねてから噂されていた「早期のMLB挑戦を容認していたとする内容の密約」についてはきっぱりと否定しており、「朗希投手はかなり前からメジャー挑戦の意思を固めていた」と発言。
しかし、今度はこれを受けて「そうだとしたらバルザー・ブライアン選手(常総学院⇒パドレス傘下マイナー)、佐々木麟太郎選手(花巻東高⇒スタンフォード大)、森井翔太郎選手(桐朋高)のように高卒後に即渡米して米球界に挑戦するべきではなかったのか」という批判が噴出した。
とはいえ、ブライアン選手・麟太郎選手・森井選手は、いずれも朗希投手よりも後の時代の選手で時代背景が同じとは言えないことには留意する必要がある。
そもそも朗希投手が高校を卒業した2019年当時は、まだ「田澤ルール」という日本球界独自のルールが存在しており、NPBを経由せずにMLB等の海外のプロリーグに挑戦するハードルやリスクが現在よりも遥かに高かったのである(なお、「田澤ルール」は選手会側の申し送りや独占禁止法に抵触する恐れがあると判断されたこと等により、朗希投手がプロ入りした翌年の2020年に廃止されている)。
それに加えて、ブライアン選手・麟太郎選手・森井選手のいずれもアメリカで生活していけるだけの語学力と海外での生活をバックアップできるだけの家庭の経済力があった(ブライアン選手は父親がアメリカ人であるため元々語学力に問題はなかった。また、麟太郎選手は父である佐々木洋氏が母校の野球指導者&社会科教諭で、教え子である大谷選手や菊池雄星投手とも繋がりや個人的なコネがあるというかなり恵まれた環境にあった)からこそこうした手段が取れたのであり、誰にでも真似できることではない。
ここで忘れてはならないのは、朗希投手とその一家は歴とした大震災の被災者だということである。被災後は経済的にも精神的にも筆舌に尽くしがたい程の大変な思いや塗炭な苦しみをしていたはずであり、そんな切羽詰まった生活を送る中で、渡米してのキャリア形成など実行することは勿論、じっくり考える余裕すらも全くなかったであろうことは想像に難くない。朗希投手は上記3名の後輩選手と比べて決してゆとりのある生活を送っていたわけではないのである。
また、朗希投手をずっと取材してきた記者によれば、朗希投手は高校3年生の時点でも骨の成長がまだ続いており、160kmの剛速球を投げ続けられる体がまだ出来上がっていなかったようである。当時監督を務めていた国母氏は医師などに体を診てもらってこのことを知ると、高卒後に即渡米すれば体が米国流の野球に耐え切れずに体に深刻なダメージを負うことを見抜き、朗希投手に体が完成するまでは渡米しないよう忠告したと言われている。これも朗希投手が直接マイナー経由でメジャー昇格を目指せなかった理由である。
ドジャースのタンパリング疑惑
これに関しては朗希投手に直接の落ち度はないが、獲得を目指すドジャースのやり方にも国内外から反発の声が上がっており、移籍の盛り上がりに水を差してしまっている。
上記のように、MLBの全30球団に獲得のチャンスがあるとはいえ、現状では大谷選手の無利子後払いの超大型7億ドル契約のおかげで資金力に余裕があるドジャースが圧倒的に優位だとされ(週刊誌報道では朗希投手自身もドジャースを志望しているとされているが、当然ながら本人は明言していない)、国内外の野球ファンからは“出来レース”だの“ドジャース確定ガチャ”だのといった冷めた意見もちらほら。
さらにドジャースは以前から視察に訪れたフリードマン編成本部長が朗希投手に熱烈なラブコールを送る等の言動を取ったことから、一部のファンや米球界関係者からタンパリング(不正接触)疑惑を掛けられている。今年の春にMLBは、日本を含む一部の国のプロ野球選手に許可なく接触することを禁止する通達を出しているが、どうやら大した効果は上がっていないようである。
…もっとも、これにも事情があり、MLB側としては「対策を取りたくても取れない」というのが本音のようである。
主に大谷選手の歴史的な活躍のお陰でドジャースは2024年シーズンだけでも総売り上げは約1170億円に達したとされ、大谷選手の7億ドル契約(1015億円)の採算を通り越して、プラマイ約155億円の黒字をたったの1年で叩き出したことが判明している(これから10年間、大谷選手のコンディションやパフォーマンスが万全な状態を維持すれば、ドジャースの総売り上げは約1.1兆円以上にも膨れ上がるとの試算もある)。さらに、大谷選手の出場したその年のポストシーズンの視聴率も、前年度と比べて大幅にアップしたことが明らかになっている。このため、大谷選手の7億ドル契約は、彼がドジャース、ひいてはMLBにもたらした経済効果に対してあまりにも安すぎるという意見まで出始めており、「彼に追加報酬を支払うべき」との声も挙がっており、ソト選手が大谷選手を超える大規模契約を結んだ後はさらにそうした論調が強まることになった。
長々と書いたが、要するに、MLB機構にとってドジャースは今やこれ以上ない金のなる巨木(意地悪な見方をすれば超巨大なカネづるとも言えるが)となっているのである。いくらタンパリング疑惑があるとは言え、MLB機構側にはそんな巨大なカネづるであるドジャースに対して大鉈を本気で振るうわけにはいかないというジレンマを抱えており、ドジャースのルール違反スレスレの行為をMLB機構は殆ど黙認しているのである。
そんな経緯もあってなのか、最近ではスタインブレナー氏一族主導で隆盛を極めたヤンキースに取って代わって、ドジャースがMLBの悪の帝国と揶揄されている。
とはいえ、さすがにタンパリング疑惑が強まりすぎたためか、朗希投手の代理人のジョエル・ウルフ氏が抗議の声明を出した上、だんまりを続けていたMLB機構側も「不正行為があった場合は厳重な処罰を下す」と明言、以降ドジャースはあからさまな動きは見せなくなっていった。
ちなみに、こういったタンパリングスレスレの交渉はドジャース以外の球団も大なり小なり行っている(若しくは行っていた)と言われており、もし本格的な規制に乗り出せば海外からの選手の獲得が非常に困難になり、せっかく再び盛り上がりを見せ始めたMLBの現状にやはり水を差すことになりかねないとの意見もある。
総括
思い返せば、1994年に野茂氏が近鉄の任意引退選手扱いからのMLB挑戦を表明した時も、日本の球界・ファン・マスコミからは「無謀」「ワガママ」「自己中」「愚か者」「裏切り者」と批判や誹謗中傷の一色だった。しかし、野茂氏はそんなネガティヴな意見を圧倒的なピッチングで黙らせ、「MLB挑戦の道を切り拓いたパイオニア」へと自身の評価を改めさせた。
果たして、朗希投手は野茂氏と同様批判の声を乗り越え、圧巻のパフォーマンスで日米、ひいては世界を席捲することができるのか。それとも過酷なアメリカ野球の荒波に飲み込まれて、このまま野球の歴史の闇へと消えていくのか………………
すべては野球の神様のみぞ知るところだろう。
余談
- 彼の「ろうき」という名前は、「百獣戦隊ガオレンジャー」に登場した狼鬼が由来とされている。誕生当時(2001年11月)、3歳上の兄がガオレンジャー(及び狼鬼)ファンだった事や、「ろうき」なら他人と名前が被りにくいという母親の考えから、この名前になったのだとか。
- 完全試合達成後、様々なところで影響を与えている。
- 圧倒的なピッチングで無双している彼だが、一方で前述の2度目の完全試合未遂の時も共通しているが、ムエンゴに泣かされる事も多く、同チームの小島和哉投手と並んで悲運の投手と言われている。
- 朗希投手は東日本大震災が無ければプロ野球選手の道に進まなかったと話している。震災に遭った仲間達を元気づけたいという気持ちがあったのか、あるいは震災に遭った地元にトラウマを抱いていたのだろうか。
- また、ダルビッシュ投手は、侍ジャパンでチームメイトとなった際に、朗希投手のことを「すごく他人を信用しない。悲壮感もあるし他人に表情を見せない。」と評しており、「彼の精神状態が心配だ。」と朗希投手の繊細すぎる一面を気にかける発言もしている。こうした一面もまた震災で家族を失った経験が影響しているのではないのかとの見方もある。