概要
元々、ポスティングシステムとは、海外FA権を取得していない選手でも特例的にMLBへと挑戦することを可能とする移籍制度のことである。
しかし、日本のプロ野球(NPB)では、この制度に穴があり、ポスティングを利用してメジャー挑戦をした後、日本球界に復帰する際に選手側が古巣以外の任意のチームと入団交渉することが認められている。
このため、このポスティングシステムを利用すれば、本来であれば国内FA権すら取得していない稼働年数であっても、海外移籍を挟むことにより早い段階でNPB他球団へと移籍が出来てしまうのである。
特に、有原航平(福岡ソフトバンクホークス)が行った事例が有名であることから、“有原式FA”と呼ばれている。
成立までの経緯
2020年オフに有原がポスティングを利用して北海道日本ハムファイターズからMLBのテキサス・レンジャーズに移籍するも通用せず、2年後の2022年オフに自由契約となり日本球界に戻ることになった。その際古巣は有原にオファーを出したものの、より高額な年俸(3年12億。なお、2020年の年俸は1億4500万、レンジャーズ所属時は2年総額6億8000万円だった)を提示したソフトバンクと契約を結ぶ。
この行為は、後述の理由で日本ハムファンから顰蹙(と怒り)を買うことになった。
また、ソフトバンクは球団方針としてポスティングシステムの行使を認めていないにもかかわらず、ポスティングを利用して海外に移籍し、その後日本へ戻ってきた選手は積極的に獲得しようとする動きを見せる傾向にあり、これもファンから「自分たちの都合がいいようにポスティングを利用している」と反発を買う原因となってしまったと言える。これに対して三笠杉彦GMは後述の上沢の獲得の際に「(前略)与えられたルールの中で最大限の努力をするということで、(中略)それ以上でもそれ以下でもない」と反論しており、ルールには反していないことを強調している。
2024年オフには、上沢直之が有原式FAを再現し、福岡ソフトバンクホークスに入団することとなった。下記の理由で有原の時よりも悪質なため上沢式FAと呼ぶ向きも出ている。
彼の場合スプリット契約(マイナー契約)のため譲渡金が92万円という雀の涙にもならない額だったこと、移籍期間が1年と有原の2年よりも短い期間であったことから、有原の時よりも悪質とみなされ、メディアでもこのフレーズが使われるようになった。
上沢の一連の動きについては、球界OBの斎藤佑樹や高木豊、さらには大の野球通として知られるタレントの石橋貴明までもが懸念を表明していた。
それ以前にも
有原・上沢の前にもこの方法を使った移籍をした選手はおり、(松坂、岩村、井川、西岡、牧田)の5名が挙げられる。
しかし、彼らは大きく批判されなかったのに対して有原・上沢の2名が殊更に槍玉に挙げられる原因としては、以下の要件を全て満たしているためである。
- FA権を取得しないままポスティングでMLBに挑戦した
- ポスティングの譲渡金が安すぎた(所属球団の損失だけが大きい)
- NPB復帰の際に所属していた球団からオファーが出ていたのに交渉を断る
- にも関わらずNPB時代に所属していた球団と同じリーグの別球団への移籍、かつ過去の所属球団以上の年俸額を提示を理由に元所属球団のオファーを拒否する
- ポスティングからNPB復帰までの期間があまりにも短い(基準として在籍期間は3年未満)
(参考:有原式FAのフローチャート)
前述の5人のうち松坂、岩村、井川はMLBに長期間在籍していたため除外され、西岡は別リーグに移籍しており現在でも批判されることはまずない。
牧田は譲渡金が安すぎかつMLB在籍期間は1年と短かったが、仮にNPBに留まっていたとしても国内FA権の取得権利があったため、槍玉に挙げられることはなかったと思われる(それでも批判はあったが有原達ほどではなかった)。
問題点
現在の日本のポスティング制度では、ポスティングによる契約が成立した時点で古巣の球団が所有権を他球団(大抵はMLBの球団だが)へ売却したと見做される。つまり、競売が成立した時点で古巣の球団は譲渡金と引き換えにその選手に対する所有権の一切を失ってしまう。
そして、その選手が球団から自由契約となると、通常のFAと同様の扱いを受けるため、他の球団でも獲得に向けた動きを行うことが可能となる。
これが有原式FAと呼ばれる方法が実現可能となっている原因である。
ちなみに、当然、FAとして扱われるので、選手が古巣以外の球団への入団を選択した場合でも古巣の球団は金銭的補償や人的補償等を受けることはできず、一方的に損をする形になってしまう。
こうした制度上の抜け穴があることに加え、日本球界では、球団側がポスティングを許諾する条件が厳密に規定されていないことも問題視されており、発展途上の選手や球団に対する十分な貢献ができていない選手がポスティング申請によるメジャー挑戦を表明してファンから疑念の声が上がることも少なくない。
有原の一件以降は特にそれが顕著になっており、「ポスティングシステムそのものを廃止するか、制度の大々的な見直しを行うべきだ」と主張するファンも増えてきており、ポスティング制度に対する信頼そのものが大きく揺らぎ始めていると言っても過言ではない。
上沢の一件の際には、当時日本ハムの監督を務めていた新庄剛志氏も「プロ野球自体が、ポスティングで(MLBに)行く選手たちが、行ってあまりいい活躍ができなくてソフトバンクに行くっていう流れになってほしくない。(こんなやり方で)福岡のソフトバンクのファンたちは心から喜べるのか」と現行のポスティングの制度に苦言を呈している。
上原浩治氏のように球界OBの中にもこのことを指摘する者がおり、「FA権未取得の場合若しくは3年未満でMLBからNPBへ復帰する場合は古巣の球団に優先的に交渉権を与え、(球団側が交渉権を放棄しない限り)古巣の球団に戻れるようにする制度へと改めるべき」「若しくは、NPBに復帰する際に古巣以外のチームを選択した場合、古巣のチームが何らかの金銭的ないしは人的補償が得られるようにするべき」という意見も上がっている。
しかし、残念ながら2024年現在、これら諸問題への対策はNPBでは一切なされていないのが現状である。
余談・エピソード
- 結果的にではあるが有原と同じことを十年前に漫画でやってしまったキャラクターがおり、それが『グラゼニ』の主人公凡田夏之介である。凡田の場合は帰国後に所属元球団からの獲得オファーは出ていない。
- NPB復帰時に古巣以外の球団を選択した選手は、他にも伊良部秀輝や秋山翔吾などがいるが、伊良部は当時まだポスティング自体が存在しておらず(というより、彼がMLB移籍の際に色々と揉めたためにその反省からポスティングシステムが制定されたのだが)、また秋山や福留孝介のように海外FA権を行使してのMLB挑戦のケースも多数あるため、こちらも槍玉に挙げられることはなかった。
- 2024年オフ、上沢のNPB復帰報道があったその日の夕方に斉藤和巳のSNSの投稿が上沢のことではないかとして炎上したが、翌日の甲斐拓也の巨人FA移籍決定的の報道のことをほのめかしていたのではないか…ということになった。そうだとしてもSNSの使い方が悪すぎる。
関連タグ
空白の一日 同じく規約の穴を突いたことで起きた事件
札幌ドーム 栗山英樹 有原式FAを引き起こした遠因。前者は2022年まで日ハムの資金難を起こしていた原因であり、後者は上沢の有原式FA成立に際して「北海道の人も応援してやってほしい」と答えたため批判を浴びている(あとこれもある)。
佐々木朗希 次に有原式FAを行使する渡米選手。