概要
二刀流(two-way player)とは、投手と野手を兼任する選手のことであり、その試合内で投手と野手を同時に熟すことをリアル二刀流(real two-way player)と呼ばれている。
反対に投手なら投手一本、野手なら野手一本に専念する選手をそれぞれ専業投手(specialistic pitcher)、専業野手(specialistic fielder)と呼ばれている。
古くからは野球の神様と称されるベーブ・ルース氏のプレイスタイルとして扱われる。
漫画やゲームといったフィクションの世界でも投打に優れる登場人物が二刀流と呼ばれ、物語を盛り上げる役割を担うことが多かった。
しかし、前者は現代と野球の環境が違ったことや後述の経緯が詳しく判明しており、後者はあくまでフィクションやファンタジーとして受け入れられているといった状態で現実性に非常に欠いていたことから、2010年代に入るまでプロ野球の世界ではほぼ幻のプレイスタイルであった。
二刀流選手と専業選手のコントラスト
条件\選手 | 専業投手 | 専業野手 | 二刀流 |
---|---|---|---|
ポジション |
| ||
プレイスタイル |
|
| |
獲得可能なタイトル |
|
|
|
消耗度 |
|
|
|
メジャー昇格の比率 |
|
|
|
プロに対するスタンス |
|
|
|
試合に対する取り組み方 |
|
|
|
二刀流がプロで敬遠される偽らざる本音と道理
アマチュア野球では「エースで主砲」という二刀流選手が意外と多いのは、野球レベルの違いもさることながら、試合数も公式・親善を含めて年間30試合前後とプロほど多くもなく、また高校野球の中心たる甲子園が9人制を採用していることもあって、二刀流ができる余地が辛うじてあるからである。WBSCが公開している野球ランクが低い国の代表チームには二刀流が複数在籍していることもあるが、これも人材不足や要求されるレベルの違いでアマチュア野球の傾向が強いことから成立している事情がある。
アマチュア野球はあくまでも趣味やレクリエーション、スポーツ教育の範疇であり、お仕事でも商売のためでもない。特に学生は学業こそが本分であり、野球もあくまでも教育の一環でもあるため、二刀流にも冒険や体験という意味合いで寛容な部分もあるのだろう。
しかしプロは文字通り職業で試合数も143~162試合と半年間ほぼ毎日集中的に行なわれるため、身体の疲労や消耗を考慮して専業投手や専業野手でプレイするのが一般常識や既成概念となってしまった。
近代化された現代プロ野球(現代メジャーも含む)で二刀流が全く定着できなかった&忌避・敬遠された主な理由は
- ケガのリスク回避
- 規定投球回、規定打席数双方の達成が最も難しい(オオタニルール以前)
- 規定が未達成では、記録はすべて参考記録扱いとなり、タイトル争いに加入できない
- 一部門のスペシャリストになれず、個人タイトルの獲得が難しい
- 年俸評価の基準がない
- 投手と野手ではトレーニングが別物になるため、双方に時間を割く必要がある
- 疲労や消耗が単純に倍以上になる
- 選手生命が脅かされるリスクが増える
- 商業的視点なら二刀流は色物として注目は集められるが、運営視点ではチーム全体でリソースを新たに割く必要があり、本来は間尺に全く合わない
- 練習時間やリスクマネジメントの観点から、他の専業選手よりも外出やレジャー等の自由が利かなくなる。
などが挙げられる。これだけのハードルをクリアしても、双方の成績がプロとして評価できる基準に達していなければ、いずれ片方への専念を余儀なくされるのか、どちらも中途半端になって契約を切られる厳しい現実が常に迫っている。実際になれた選手がNPBやMLBでたった1人のみ現れて、二刀流のハードルやスタンダードそのものも上げてしまった。つまり、プロでの二刀流はそれだけ途轍もない高く分厚いハードルでもあることが窺い知ることができるだろう。
チーム視点で見ても二刀流の運用は難易度が非常に高い。長い歴史を見ても投打共に優れた素晴らしい投手こそ存在こそしていたが、プロの世界となれば専門職の野手にはどうしても見劣ってしまう。DHに投手を置くとしても現代のDHはホームランが期待出来たり、打撃に極めて優れた選手に割り当てるのが一般的で、勝利を目指すのなら「そこそこ打てる投手」をわざわざ配置する余裕は全くない。選手本人が二刀流をやりたいと意思を示しても、チーム側の理解と方針が一致していなければ、プロで二刀流を挑戦すること自体ができないだろう。
損得勘定をそれこそ完全に度外視してまで夢やロマンを追求する気満々な、永遠且つ純粋な野球バカ&野球小僧と外部からの批判や誹謗中傷も覚悟で、選手が投打双方どちらでも活躍してくれると信じて挑戦させてくれるチームの責任者が存在して、二刀流選手がプロの世界でも大成できる環境が初めて整えられるのである。
二刀流の歴史と変遷
現代よりも選手層や人材が慢性的に不足していた戦前には、誰かが一人二役を熟さないと試合そのものが成立しなかったため、投手野手兼任で渋々ながらプレイしていた選手は決して少なくなかったし格段に珍しくもなかった。
詰まる処、プロ野球やメジャー黎明期の二刀流は、慢性的な選手不足と選手層の薄さを補うための「苦肉の策」と言った塩梅であり、選手を使う首脳陣からしても実際にプレイする選手からしても、双方納得済み&ポジティブなプレースタイルでは決してなかったことが窺える。ましてやそれを積極的&継続的にプレイしたい選手は、それこそ国宝級な変わり種として奇異な目で見られたのが、今日までの現状である。
後述されるベーブ・ルース氏は二刀流における身体的限界の観点から、仮病をつかってまで登板回避して当時の監督との確執が決定的となり、ヤンキースへ移籍するとほぼ野手一本でプレイしたことで、「二刀流をこれ以上続けたくない」と解釈され、これが起因となって後に分業制とスペシャリスト化へと舵を大きく切る最大な切っ掛けとなり、大谷選手がプロデビューする前の「NPB最後の二刀流」と称される嘉㔟敏弘氏は「(二刀流は)しんどいイメージしかなかった」「どっちかに専念したいと常に考えていた」と述べたほど、二刀流はプロでは本来忌避されるほどの禁忌扱いであった。
そして戦後になると人材が増え、選手層に厚みが増して行くことで、投手野手の分業制が進み、試合のレベルが上がって行くと一部門のスペシャリスト化を推進するようになっていき、投打両方に非凡な才能がある選手でもどちらかひとつに専念せざるを得なかった。
選手を使う首脳陣の立場からすると、役割が明確な専業選手のほうが使い勝手がいいし選手管理もしやすい。ところが二刀流選手は、一芸に特化した能力に秀でていても投手としての途中それを捨てるような起用法が出てくるため器用貧乏に陥りやすく、専業選手よりも怪我や故障のリスクも考慮しなければならない分、使い勝手も頗る良くないし選手管理もやりづらい。何より、二刀流選手が途絶えてしまった以上データも取れないので、チームとして二刀流を起用する戦略は、データによる分析も試験的な運用もできなくなってしまったのである。
選手も選手で長丁場で戦うペナントレースに向けて、未知の領域で中途半端な成績になる危険性を孕む二刀流を捨て、専業投手・専業野手・専業走者・専業守備・指名打者のいずれかで与えられた専門職を全うするようになったのが、2012年までの球界の常識と不文律だった。
ところが2012年のドラフトであの男の出現によって、これまでの球界の常識と不文律は音を立てて崩れ去った。
二刀流との奇跡的な出逢い
甲子園制覇は夢に終わってしまったが、その規格外すぎる投打の才能とパフォーマンスでジャパンのみならずメジャー関係者をも虜にした大谷翔平選手は、現代プロ野球で誰もやったことがない・真似できない野球に挑戦するために、高卒でメジャー挑戦を表明。高卒でいきなりメジャー挑戦するのは、前代未聞な試みだった。
プロで二刀流ができるとはこの時点で全く想像できなかった彼は、投手一本でメジャー挑戦をする覚悟をすでに決めていた。
仮にメジャー挑戦が成功しメジャーリーガーになったとしても、マイナー生活はルーキーリーグから始まり3Aを乗り越えて、メジャー昇格するまでに最低でも2年は経過すると言われており、彼が最短で20歳のメジャーリーガーデビューを果たしても、二刀流選手にはなってはいなかっただろう。
メジャーはジャパン以上に分業制とスペシャリスト化・データ研究が進んでおり、当時のアリーグのチームなら投手しかやらせてもらえず(ただし、ナリーグ主催のインターリーグで登板する場合は投手も打席に入ることになる)、反対にナリーグのチームなら登板する試合しかバッティングをやらせてもらえず(ただし、アリーグ主催のインターリーグで登板する場合はDH制になるので、打席には入らないことになる)、最終的には「専業投手」か「打撃力がある一投手」止まりに終わってしまった可能性もあった。
しかし彼に内在する規格外すぎる才能、飽くなき貪欲さとフロンティア&パイオニア精神を見い出した栗山英樹氏をはじめとするファイターズ陣営は二刀流育成プランを彼に提示することで、彼の胸中に眠る琴線に触れることとなり、彼の即メジャー挑戦を一旦翻意させることに成功し、これこそが新しい二刀流伝説の幕開けとなったのである。
ベーブ・ルースと知られざる二刀流の苦悩
メジャーで非常に輝かしい実績を投打両方で叩き上げてきたベーブ・ルース氏だったが、そんな彼にも知られざる苦悩のエピソードがあった。それは他ならぬ二刀流に対する苦悩であった。それが起因となって、最終的に当時の監督との確執が決定的となってしまい、1920年にレッドソックスからヤンキースへ移籍しヤンキースは黄金時代を謳歌した一方、レッドソックスは1916のワールドシリーズ制覇を最後に世界一から88年間も遠ざかってしまう、所謂「バンビーノの呪い」に罹ってしまった。
まずは1918年のルース氏の足跡をたどろう。当時、野球報道は隆盛をすでに誇っており、新聞などの資料からシーズンの詳細が分かる。作家のロバート・クリーマー氏は1974年にルース伝説を検証。二刀流についても記している。ルース氏はプロ5年目だったレッドソックス時代の1918年に初めて野手で出場した。打撃力を早くから買われていたが、投手として20勝を挙げるエースであり、1917年まで投げない日の出場は代打に限られていた。
当時のレッドソックスのエド・バロー監督は、先発投手のコンディション維持を重視し、野手起用には「球界の笑いものになる」と反対した。だがコーチの進言で5月6日のヤンキース戦に「6番・一塁」で起用すると、ルース氏はその試合で本塁打。翌7日はセネタース戦に「4番・一塁」で出てまた本塁打を放った。登板日の打撃ですら、9日のセネタース戦では延長10回を完投し、5打数5安打だった。
だが5月後半に風邪をこじらせて休養すると、復帰後は登板を嫌がるようになる。6月に入ると、手首に革のサポーターを巻いて球場に現れ、痛みで投げられないと訴える。監督が構わず6月24日のヤンキース戦での先発を発表すると、前の試合で二塁へ滑り込んで手首を押さえて退場。結局投げなかった。ところがケガ人に代わって25日に野手で緊急出場すると、手首痛など全く感じさせず本塁打。上記通りルース氏と監督の確執は決定的となっしまった。打撃に目覚めたルース氏は野手でしばらくプレイすると思われたが、7月末に状況が一変した。折しも激化する第1次世界大戦の影響でシーズン短縮が決まった。レギュラーシーズン最終戦は9月2日。ペナントレースは突然終盤戦に入った。バロー監督はルース氏を説得して、7月29日から先発投手に戻した。成績はこの時点で6勝、11本塁打。ルース氏は残り1カ月余りで7勝を挙げて優勝に貢献し、投打のシーズン成績は13勝、11本塁打となった。1919年は希望通り野手としての出番が増え、1920年にヤンキースへ移籍すると、投手を本格的に務めることはなくなった。メジャー史上屈指な選手ですら、投打両方をこなし続けることはできなかったとの見方が広まった。したがってルース氏は「投手が定期的に登板して、その上で他のポジションで毎日出場するなんて、そんな芸当ができるとはオレには全く思えない!ましてやそれをシーズン通して何年も繰り返すなんて尚更なことだ!」と本音を赤裸々に吐露し、「続けられなかった」というより「続けたくなかった」のであった。ルース氏が二刀流をやめてしまったことが、二刀流消滅の最大な理由に他ならない。バロー監督のその後も二刀流が無理との見解に影響した。バロー氏はルース氏と同じ年にヤンキースへ移り、20年以上にわたりフロントで編成を担当。その実績で野球殿堂にも入った。二刀流に反対だったバロー氏がルース氏の周囲に常にいて意見を述べたことで、不可能説が固まったことは想像に難くない。
役割分化されたDH制が二刀流を可能にした
その後は時代が進むとともに球界のシステムが確立され、二刀流が入り込む余地はどんどん小さくなっていった。1973年にア・リーグで導入された指名打者(DH)制は、投手と野手の役割分化を固定した。この分業制の象徴のような制度は、アメリカではプロ野球から球界全体に広がり、アマ野球に強く影響した。現在はアメリカ大学体育協会(NCAA)が1~3部の全レベルで採用し、高校でもほとんどのリーグが使っている。プロと違い、学生はルール上「投手兼DH」で出場することも可能だが、それでも制度の導入で投手専念の傾向が強まったことは否定できない。一方で、そのDH制が大谷選手の二刀流を可能にしているのは面白い。大谷選手は「投球を含めたゲームに出場する間隔がボクのリズム」と二刀流にこだわり、アメリカでのチーム選びも投打両方でのプレイ環境を重視した。鍵となったのがDH制だ。メジャーで松井秀喜氏、岩村明憲氏らが守備中に大ケガを負ったように、守備はリスクが意外と高い。DH制のパ・リーグで調整法を確立した大谷選手が、同じDH制のア・リーグのエンジェルスを選んだのは必然だった。昨年、MLBTVの解説者リック・アンキール氏は「大谷選手がアメリカン・リーグに行くことを祈っている」と話した。当時は投手が打席に立つナリーグを勧める声が多かったが、投手から外野手に転向した経験のあるアンキール氏は二刀流にDH制が欠かせないとの考えだった。
二刀流がMLBでNPB以上に難しい理由
中4日での先発登板を基本とするMLBでは、NPB以上に二刀流が難しいと思われてきた。投手として調整に専念する期間が短くなるからである。そこに欠けていたのは、二刀流のために中4日を変えるという発想である。登板間隔を特別に考慮するなら、二刀流であることによって投手としては守られる面もある。日ハムでの5年間で大谷選手の最多投球回数は2015年の160回2/3。パリーグの最優秀選手(MVP)に選出された2016年は規定投球回数を下回る140回だった。日ハムの先輩ダルビッシュ有選手は、NPBでの7シーズンで200イニング以上が4度。田中将大選手は、高卒1年目だった2007年に楽天でいきなり186回1/3を投げている。メジャーに移籍してからも基本的に中4日のローテーションを守り、ともに右肘の靱帯損傷で離脱を経験した。大谷選手はエンジェルスでも登板間隔は中6日。投手にとって大切な肩、肘の負担をある程度抑えつつ、打者としても活躍できる機会に恵まれた。
専念すればうまくなれるのか?
一つの事柄に専念すれば、上達するという考えはそもそも正しいのか。大谷選手が日ハムでプロ生活を始めた2013年、大多数な評論家の議論は投打どちらを選ぶのかで二刀流を続けないことが大前提だった。両方だと、どちらも中途半端になるという主張だった。野球の二刀流は、まったく違う世界の二足の草鞋ではない。本人に能力さえあれば、野球という競技を総合的に捉えるためには、むしろ両方経験した方がいいのではないのか。むしろ160キロの速球を投げられる選手ならば、打席で感じる160キロの球の感覚や投手知識を活かせる可能性もある。だが役割分担が進んだ現代野球は、主要な役割二つを1人の人間に与えようとはしなかった。
先発投手はマイナー時代から特別扱いを受ける
投打で主力となるためには安定した起用プランが必要で、先発投手でなくてはならない。このハードルが意外と高い。先発投手はチームの浮沈を握っており、マイナー時代から特別扱いを受ける。中継ぎと違って簡単に代えが利かない駒というわけである。
優れた才能ほど囲われ、フロント主導のプランで育てられる。個人の希望や現場の意見などで育成プランが変わることはない。つまり大谷選手のように二刀流が前提で入団しない限り、先発投手が余計な練習をすることすら難しいだろう。レンジャーズ傘下のマイナーに所属するアダム・ローウェン選手は先発投手としても野手としてもメジャー経験があるが、同一シーズンで両方に取り組んだことはない。「自分が入団した時、球団に新しい考えを受け入れる用意は全くなかった。オオタニ選手のおかげで、投打に優れた選手に新しいチャンスが生まれた」とメジャー公式サイトで期待を口にしている。
二刀流に対する賛否両論とその後の変遷
「プロ野球で誰もやったことがない野球に挑戦したい」「世界一の野球選手になりたい」と臆面もなく公言した大谷翔平選手は、二刀流をプロでも継続することをプロ入団時で高々と宣言した。
しかしこれに対して保守派が非常に多いプロOBや専門家から凄まじい批判や否定論が数多く飛び交うことと相成った。
そして良くも悪くもネット社会になった現代では、野球ド素人な一般人や野球経験や心得があるアマチュア選手からも賛否両論が大体的に繰り広げられていった。
一般人やアマチュア選手
- アマチュアならいざ知らず、長丁場なプロで二刀流は不可能
- 夢とロマンがあるが、プロで二刀流はいくらなんでも無謀すぎる
- どっちも中途半端になる可能性が高い
- 怪我が増えて試合に出られる回数が減ってしまう
- どっちかに専念すれば、王貞治・張本勲・金田正一の通算記録(868本塁打・3085安打・400勝)を更新できるポテンシャルがあるのに、非常に勿体ない
などが挙げられた。専門家の意見は以下の通り。
投手派
野村克也:当初は二刀流起用について「ジャパンプロ野球界を舐めるな」といった旨の意見を持っていたが、その後の活躍を見て二刀流を続けることを勧めるようになり、「あれだけのバッティングとピッチングができるなら、大賛成。今まで誰もやったことがないことをやるというのも、魅力である。『10年に1人の逸材』と呼ばれる者はよくいるが、プロ野球80年の歴史で、あんな選手は初めてやろう」と語っていた。しかし2017年4月のインタビューでは「『二兎を追うもの一兎をも得ず』にならへんのか」「ピッチャーは五体満足じゃなければ投げられへん。全力投球は全身を使った仕事だから、どこのケガも本当はダメ。ただ、ワシが監督やったら、大谷は文句なしにピッチャーで使いたいね。バッターにはいつでも転向できるけど、165キロを投げる選手なんて居ないんやから」と二刀流起用の懸念点を述べている。野村氏の没後、孫でエンジェルス職員の野村沙亜也氏は、晩年の野村氏が「投手でも打者でも本当に凄い野球選手なんや」と二刀流の大谷選手を評価していたという回想を述べている。
ダルビッシュ有:「ナンバーワンになれる可能性があるとしたら投手なので、ナンバーワンになれる可能性を取ったほうがいい」「(二刀流は)プロ野球の人気を考えれば見ていて面白いし興味があることになると思うけど、本人がメジャーに行きたいと思った時は絶対に足を引っ張ることになる」と述べ、投手に専念することを推奨している。大谷選手がMVPとなる活躍を果たした2021年シーズンにおいても、パドレスの地元紙のインタビューで「彼には投手と打者の両方をやれる能力がある。それが驚異的なのは間違いないが、彼の身体のことをいつも心配している。投手としてだけでもフルシーズンを戦うのはきつい。それなのに彼は毎日DHでプレイしながら、7~8日に一度はピッチングをしている。それって身体に相当なストレスがあると思う。普通の2倍以上は感じているはず」と負担を心配するコメントをしている。
高橋直樹:「大金を出して獲得する選手に、MLBはそんなリスキーなことはさせない。各チームとも、DHは年俸が最も高いスラッガーが打つだろうし、守る場所も無い。投手として可能性がせっかくあるのだから、MLBを本気で目指すなら、打者は早々に諦めるべきです」とコメントした。
ジョン・スモルツ:MLB1年目のシーズンとなった2018年から「投手に専念すべき」と主張していたが、2021年の打者としての活躍を見て「ボクの予想は間違っていた」と述べた。しかし以降も投手に専念することを勧めており、「世界一の投手になれるのは投手に専念したら、という条件がつく。今でもそう思っているくらい、投手としてボクは評価しているんだ」、「現時点で彼の身体能力によって再現性が高いファストボールはメジャーでも他の追随を許さないし、スプリットは間違いなく球界一だよ。もし投手に専念していたら球界を代表する変化球を3つ有している、そんな投手になるような気がしているんだ」と述べている。また、投手に専念すればジェイコブ・デグローム(2018年、2019年のサイ・ヤング賞投手)のような投手になれると述べている。
打者派
清原和博:大谷選手の1年目開幕後には「大谷は開幕直後からプロの投手の球に対応できておる」「とてもじゃないが、高卒ルーキーの打撃ではあらへん。あいつは本物の天才や。」「ストレートで三振を奪える球を武器として身に着けているなら投手一本で行け。せやけど変化球で躱す投球を主体にしなければ抑えられないと感じたなら、思い切って打者一本にすることをワシは勧めたい。『一流投手』にはなれると思うが、野茂・松坂クラスの『怪物』には及ばないと思ってもらいたい。せやったら、打者に専念してほしいわ。」と述べ、投球スタイルに関する条件をつけての打者専念を勧めた。しかし、1年目が終わった後では「両刀使い」「何がしたかったんや、アンタ?みたいなカンジや」と揶揄し、「160キロも出るんやから、ピッチャーでええんちゃうんか?ピッチャーでアカンかったら、バッターになればええんやで」と述べた。
高橋由伸:「絶対どっちかにしないといけないなら」という仮定のもとで、「ボクが監督だったらバッターで毎日使いたい」「飛距離が非常にすごい」と評価している。
長谷川滋利:二刀流にも賛成はしているものの、ジャパンでは松井秀喜氏に匹敵あるいはそれ以上のホームランバッターで、打者に専念したら50本以上を打てる潜在能力を秘めた選手と評している。走塁にもすぐれ、ホームランも打てる点からバリー・ボンズタイプのバッターだと述べている。
二刀流否定派
江本孟紀:二刀流という起用法に頑として反対しているが、大谷選手の投手、打者それぞれの能力は高く評価しており、どちらかに専念すればシーズン記録や通算記録の更新は容易くしてしまうだろうという持論を展開している。
二刀流賛成派
長嶋茂雄:入団直後の大谷選手を見て、「バッターも良いけど、やっぱりボクはピッチャーだな。とにかく彼はこれまでの日本人が持っていない物を持っている。何より体がいい。(身長も)194~5(cm)あるわけでしょう。それでいてあの身のこなしができる。あの動きを見ると、やっぱりMLBのピッチャーだなと思う」と投手派の意見を語っていたが、後に「今は(二刀流をやめろとは)言えないね、スケールが全く違う。二刀流のままでいいさ」と意見を変えた。
王貞治:将来的に投手と打者のどちらかに専念していくという見解を持ちつつも、「200勝、2000安打のどちらかなんて言わず、両方達成して名球会に来ればいい。二刀流を続けるというのなら、それぐらいの意気込みでやってほしいよな」と語った。
イチロー/鈴木一朗:2015年のインタビューにおいて「バッターをやればいいのにと思いました。すごいピッチャーはいくらでも出てきます。でも、あんなバッターはなかなか出てこない。実際にグラウンドで対戦したわけでもない距離感の中での話ですけど、彼ほどのバッターはなかなかいないと思います」「(二刀流は)ピッチャーをやって、その翌日に外野を守れるなら両方やってもいいと思います。」と述べ、MLBでは大谷レベルの投手が希少ではないことを指摘し、打者寄りの二刀流、もしくは打者に専念することを推奨していた。しかし、2021年シーズン終了後に所属事務所を通じてコメントを発表し、大谷選手の今季の活躍を称賛した。 「大谷翔平と言えば二刀流、無限な可能性、類いまれな才能の持ち主、そんなぼんやりした表現をされることが多かったように思う。比較対象がないこと自体が誰も経験したことがない境地に挑んでいるすごみであり、その物差しを自らつくらなければならない宿命でもある。外野からの視点だが、けがなくシーズンを通して活躍した2021年は具体的な数字で一定な答えを示した年だと思う。中心選手として長い間プレイするには1年間、全力でプレイした軸となるシーズンが不可欠。それが今年築けたのではないのか。アスリートとしての時間は限られる。考え方はさまざまだろうが、無理はできる間にしかできない。2021年のシーズンを機に、できる限り無理をしながら翔平にしか描けない時代を築いていってほしい」と述べた。
松井秀喜:本人の意思を尊重した選択を勧めており、大谷選手のプロ入り1年目途中であった2013年夏の時点で「両方やっていては超一流になれないという意見もあるようだが、これまでほとんどいなかったわけだから、無理だと言うこと自体がおかしいとボクは感じる。難しいのは分かるが、前例のないことをいきなり否定できない。可能なら両方続けたらいいし、いずれどちらかに決めるならそれもいいと思う。」「両方いいから両方やってみるというのは極めて単純な考え方だが、球界の常識には全くなかった。常識と思われていることを突き詰めれば、中には覆ることもあるのだろう。」などと語っている。2021年に自身の持っていたシーズン日本人最多本塁打『31』を更新された際も大谷選手を祝福し、「シーズン32本塁打は、大谷選手のバッティングを持ってすれば、単なる通過点に過ぎないと思います。メジャーではボクも長距離打者とは呼ばれたことはありましたが、彼こそが真の長距離打者だと感じます。また、大谷選手は素晴らしいピッチャーです。メジャーの常識を変えた唯一無二な存在です。今後もファンの方々や少年たちの夢を背負い、シーズンを乗り切って欲しいと思います。ボクも一野球ファンとして、楽しみにしています」などと惜しみなき賛辞を贈った。
田中将大:2014年冬に、プロ入り2年目を終えた大谷選手について「ピッチャーとして今年ここまでよくなっているのは正直驚いた。すごい成長スピード」と話し、二刀流について「なかなかできることではない。納得するまでやればいい」と応援した。
張本勲:投手としての大谷選手を「あの投げ方を見ると、アメリカのバッターは打てないと思う」と称賛し「二刀流は怪我するし、世界一のピッチャーになれるのかもしれないのに、そのチャンスを二刀流で怪我して逃すのはもったいない。このような逸材を二刀流で怪我して失うのは球界においての大損失だ」と述べ怪我のリスクの点から二刀流を批判したが、バッティングの技術があることも認めており、「あの打ち方を見たら、代打起用くらいだったら良い」とほんの一部だけ二刀流を認めていた。かつてはこのような発言をしていたが、2021年12月5日放送のサンデーモーニングにおいて出演した際に「わたしはピッチャーの方がいいんじゃないかと言っていましたが、ここのところに来てバッターもすごく成長してきましたから、誰が見ても2つやらせたいと思ったんじゃないでしょうか」とコメントするなど、二刀流を容認する考えに変わってきている。
バリー・ボンズ:2021年に投打で活躍した大谷選手について「本当に信じられないし、驚異的な活躍だ。これまで、オレにとってイチローが日本選手のパイオニアというべき存在だった。アメリカだけで3000安打以上を放ち、日米合わせて4000安打以上を記録した。大谷選手が今年見せた投手と打者の二刀流は、本当に素晴らしいことだ。今後(大谷以外に)このような選手を見ることはできないのではないだろうか。今までこのような選手を見たことがなかった。信じられないという言葉しか出てこない」「大谷選手は他に類を見ない存在と言えるだろう。投手としても打者としてもエリート級。彼のような選手はこれからも現れないのではないだろうか」と絶賛し、「もしオレが監督なら、うまくいっていることを直そうとは絶対にしない。大谷選手がハッピーであることが一番大事だからだ。力を最大限に引き出してあげたいし、今の二刀流を継続させるべきだろう」と二刀流に好意的な意見を述べている。
落合博満:NHKのとあるスポーツ番組で同じ専門家の大野豊氏とのやり取りで
- 自分がやりたいとせっかく言っているのに、その芽を摘む必要がどこにあるのか
- やらせてみて、結果責任は自分で取ればいい
- 人のことなんだけど、気にはなるじゃないですか。見てみたい。野球をやっていた人間として、これがアメリカで本当にできるのかどうかっていうのを見たいっていうのは人は多いのかもしれない
- プロ野球でもここ30年、選手に個性がないと叫ばれて非常に久しいが、大谷翔平の二刀流ほど個性が強いものはない
- プロにおいて投打同時にダブル規定をクリア出来れば、それはもう大奇跡。本塁打を何本打とうが、投手で何勝しようが結果はもうどうでもいい
と豪語し、大谷選手本人の意志とメジャーリーグにおける二刀流の可能性に興味を持っていることを語り、大谷選手が2022年にダブル規定達成した未来を予想したオレ流の慧眼ぶりを専門家で唯一見事に証明した。
総括
2012年のドラフト後の「二刀流継続宣言」当初はプロアマ一般人問わず、大多数が二刀流に否定的だった。
(大谷選手のプロ入団時から一貫して賛成したのは、落合博満氏、野茂英雄氏、松井秀喜氏、田中将大選手のたったの4名のみである)
ところが「打撃力が高い一投手」程度の器を超えて、本格的な二刀流選手として大活躍するようになってからは、専念派だった上記の野村氏、長嶋氏、王氏、張本氏、イチロー氏、ダルビッシュ投手などの専門家や不特定多数な一般人やアマチュア選手が賛成するようになり、頑なに否定する声はほとんど聞かれない。
ここで誤解して欲しくないのは、賛否両論に関わった人達が大谷選手を決して嫌ってはいないことである。それどころか、国宝級な捻くれ者でもない限り、彼はみんなからむしろ大変好かれ愛されているのである。否定派・専念派が否定したのは飽くまでもプロで禁忌扱いされている二刀流であって、能力面では投打どちらにおいても「100年に1人の超逸材」と高く評価し、球界の至宝扱いをしている。
歴代の記録が手に届くのかもしれない才能とわかっていたからこそ、彼が二刀流をすることでどちらも大成せずに球界から去ってしまう事が「あまりにも勿体なさすぎる」と恐れていたのである。
しかし彼がプロで目指す夢と目標は、既存の記録更新より誰もがやったことがない道に邁進することを最優先し、他選手が忌避する二刀流を進んで選択した。
また、大谷は非常にパイオニア精神の負けず嫌いの性格であり、上記のように猛反対があったからより成功できたということも考えられる。
前人の偉大な記録か、それとも未知なる領域への挑戦なのか。選手としての目指す方向性・考え方の相違がハッキリと白日の下となったからこそ、二刀流への賛否両論という形となって満天下に表れることと相成った。これ程の凄まじい賛否両論に発展したのも彼がそれだけ才能に溢れていたことの証左であり、投打どちらの道からも期待されていたからこそ彼の選択を心配していた声が上がっていたのである。
大谷の成功を受け、ドラフト会議では根尾昂、上原健太といった二刀流候補の選手が年に一人はいるかいないかの期待値で指名されるに至っている。未だ大谷翔平のような成果を残した選手は現れていないものの、栗山氏が彼をスカウトした時に言った「誰も見たことがない大谷の道」はこれからも新たな道を創り上げていくだろう。
二刀流が可能だったのかもしれない選手
過去、アマチュア時代に才能を投打で発揮していた選手も決して少なくなかった。そんな才能とセンスの塊みたいな選手は以下の通り。なお、実際にやっている大谷選手やプロでこれからプレイする矢沢宏太選手と上原健太選手はここでは割愛する。
NPB
- 三原脩
- 水原茂
- 沢村栄治
- 別当薫
- 青田昇
- 杉下茂
- 馬場正平
- 藤村富美男
- 景浦将
- 金田正一
- 米田哲也
- 別所毅彦
- 稲尾和久
- 杉下茂
- 権藤博
- 鈴木啓示
- 長嶋茂雄
- 王貞治
- 張本勲
- 柴田勲
- 尾崎将司
- 江夏豊
- 山田久志
- 江本孟紀
- 星野仙一
- 堀内恒夫
- 池永正明
- 落合博満
- 村田兆治
- 平松政次
- 北別府学
- 渡辺久信
- 工藤公康
- 川口和久
- 大野豊
- 岡田彰布
- 掛布雅之
- 江川卓
- 定岡正二
- 駒田徳広
- 水野雄仁
- 西本聖
- 角盈男
- 吉村禎章
- 金村義明
- 栗山英樹:二刀流大谷選手の産みの親・栗山氏も元々は創価高校野球部の主将兼エース
- 秋山幸二
- 山本昌
- 斎藤雅樹
- 槙原寛己
- 川相昌弘
- 桑田真澄
- 清原和博
- 佐々岡真司
- 吉井理人
- 野茂英雄
- 伊良部秀輝
- 長谷川滋利
- 小宮山悟
- 佐々木主浩
- 石井琢朗
- 伊藤智仁
- 今中慎二
- 新庄剛志
- イチロー
- 石井一久
- 三浦大輔
- 中村紀洋
- 小笠原道大
- 松中信彦
- 松井秀喜
- 上原浩治
- 川上憲伸
- 黒田博樹
- 高橋由伸
- 松井稼頭央
- 三浦貴
- 石川雅規
- 能見篤史
- 松坂大輔
- 岩隈久志
- 村田修一
- 井川慶
- 斉藤和巳
- 鳥谷敬
- 青木宣親
- 糸井嘉男
- ダルビッシュ有
- 涌井秀章
- 田中将大
- 前田健太
- 大野雄大
- 坂本勇人
- 柳田悠岐
- 菅野智之
- 中田翔
- 則本昂大
- 菊池雄星
- 千賀滉大
- 今永昇太
- 藤浪晋太郎
- 鈴木誠也
- 松井裕樹
- 東浜巨
- 松本裕樹
- 山本由伸
- 森下暢仁
- 戸郷翔征
- 根尾昂
- 清宮幸太郎
- 村上宗隆
- 佐々木朗希
- 西純矢
- 万波中正
- 秋広優人
- 村上頌樹
- 伊藤将司
- 才木浩人
- 佐々木麟太郎
MLB
- マイク・トラウト
- フレディ・フリーマン
- アーロン・ジャッジ
- ムーキー・ベッツ
- カイル・シュワーヴァー
- ブライス・ハーパー
- ノーラン・アレナド
- ジャスティン・ターナー
- ピート・アロンソ
- フランシスコ・リンドーア
- ホセ・ラミレス
- フェルナンド・タティースJR
- ニッキー・ロペス
- マディソン・バンガーナー
- クレイトン・カーショウ
- ゲリット・コール
- ジャスティン・ヴァーランダー
- ロナルド・アクーニャJR
- アレックス・ベルドゥーゴ
- マックス・シャーザー
- ジェイコブ・デグローム
- サンディ・アルカンタラ
- マーカス・ストローマン
- スティーヴン・ストラスバーグ
- スペンサー・ストライダー
- トレバー・バウアー
- ケヴィン・ゴーズマン
- ルイス・カスティーヨ
- ホセ・オスナ
- チャーリー・カルバーソン
- アレックス・ブランディーノ
- J・B・シャック
- パブロ・サンドヴァル
- ラッセル・マーティン
- ティム・リンスカム
- ネイト・イートン
- アダム・イートン
- フランミル・レイエス
- ザック・グレインキー
- シンス・チュ
- クリス・デイヴィス
- ランディ・ジョンソン
- ペドロ・マルティネス
- ロジャー・クレメンス
- グレッグ・マダックス
- ティム・ウェイクフィールド
- アレックス・ロドリゲス
- デレク・ジーター
- デビッド・オルティーズ
- バリー・ボンズ
- マーク・マグワイア
- サミー・ソーサ
- ケン・グリフィーJR
- CC・サバシア
- マリアーノ・リヴェラ
- マイク・ハンプトン
- マーク・グビザ
- フェルナンド・ヴァレンズエラ
- フランク・トーマス
- ハンク・アーロン
- ピート・ローズ
- スタン・ミュージアル
- ジャッキー・ロビンソン
- ジョー・ディマジオ
- ノーラン・ライアン
- サイ・ヤング
などが挙げられる。ここに挙げられた選手達は、やはり金田氏を筆頭とするアマチュア時代は「エースで主砲」揃いで、プロでは専業エースで名を馳せた投手や世代を代表する打者も多い。王氏、イチロー氏、糸井氏、根尾選手のように元々は「エースで主砲」だったが、チームの方針やどちらかの能力が足りない、または個人的な一身上の都合により断念して専業に転向したケースも多い。能力が足りずに断念させられるケースは当然の結果ではあるものの、大谷選手が二刀流選手として大活躍して以降、上記の彼らも二刀流として活躍する世界線を観てみたい、と思う野球ファンは決して少なくないはずである。
ただし、成功した大谷選手の二刀流のレベルは投手として160キロ以上を投げられる剛腕であり、打者としても50本塁打50盗塁を達成するなど、ジャパンの野球史でもトップオブトップというべき圧倒的な実力があることで二刀流が成り立っているという点は考慮しなければならない。
それだけでなく、ハードな投手と野手の両立に耐えられる頑丈な肉体や生活の全てを野球に捧げる程の厳しい自己管理や質実剛健さも二刀流には求められるだろう。
メジャーリーガーにはなれたが、オオタニにはなれなかった
実際に二刀流に挑戦したことがあるマイケル・ローレンゼン現投手は「オオタニが設定した二刀流のハードルが高すぎる」と嘆き、ジャレット・ウォルシュ現一塁手も「(二刀流挑戦は)問題ないだろうと思っていた。しかし、彼(オオタニ)を見て『あぁ、俺はもうやめておこう』となったんだ」と彼にドン引きした。
さらに二刀流選手としてアマチュア時代から名を馳せ、2022年ドラフト以降二刀流枠としてプロ入りしたブライス・エルドリッジ現内野手、レジー・クロフォード現投手、ポール・スキーンズ現投手、ジャック・カグリオーン現内野手、ボビー・ウィットJR現遊撃手もプロ入り後は二刀流をすんなりと断念し、それぞれ専業選手に舵を切るなど二刀流がプロの世界で如何に辛くて難しいのかがうかがえるコメントやエピソードを残している。
挑戦中の二刀流選手、或いは経験者
大谷選手やベーブ・ルース氏は勿論、キャリアを問わず二刀流を経験したことがある、またはこれからプレイするであろう選手は以下の通り。
- 大谷翔平
- ベーブ・ルース
- 愛甲猛
- 浅岡三郎
- 浅野勝三郎
- アル・グルンワルド
- アンソニー・ゴース
- 石井琢朗
- 井筒研一
- 井手峻
- 李度潤
- 李炯宗
- 伊藤次郎
- 上原健太
- 遠藤忠二郎
- オーウェン・マーフィー
- 大隅正人
- 大友一明
- 呉胤碩
- 景浦將
- 嘉㔟敏弘
- 川上哲治
- 姜炅学
- 姜知光
- 姜泰颱
- 姜白虎
- 金江珉
- 金光三
- 金乾𠘕
- 金載潤
- 金城漢
- 金大宇
- 金旻洙
- 金庾寧(ただし2軍のみ)
- 楠安夫
- クリスチャン・ベタンコート
- 黒尾重明
- ケイシー・ケリー
- 呉昌征
- 五井孝蔵
- 小松原博喜
- ジェイク・クロネンワース
- ジャレット・ウォルシュ
- ジョージ・シスラー
- ジョン・オルルド
- スモーキー・ジョー・ウッド
- 関根潤三
- 武田陸玖
- 崔廷
- 崔廷龍
- 張珉碩
- 張英錫
- 秋材賢
- 朱炫相
- 鄭振浩
- ティップ・オニール
- 戸根千明
- 羅畇雁(改名前は羅種德)
- 羅成範
- 野口二郎
- 盧施煥
- 河載勲(ジェフン)
- 河晙鎬
- 朴俊泳
- ハンター・グリーン
- 黄潤琥
- 藤村富美男
- ブライス・エルドリッジ
- ブルックス・キーシュニック
- ブレット・ローガン
- ブレンダン・マッケイ
- 白昇玄
- 裵晟劤
- ベン・ヴァーランダー
- ポール・スキーンズ
- ボブ・カラザーズ
- マイケル・ローレンゼン
- モンテ・ウォード
- 矢澤宏太
- 尹臺卿(ただし2軍のみ)
- リック・アンキール
- レジー・クロフォード
- レフティ・オドール
二刀流選手のスタンダードとキャリアハイ
二刀流選手故に一部門のスペシャリストにはどうしてもなれず、主要タイトルをどうしても獲得できないのは一種の宿命とも呼べるだろう。しかしながら投打どちらか一本に専念してもタイトル獲得がなかなかできない中、下手な専業選手達よりも結果を残せた二刀流選手が約1名存在する。そんな夢物語みたいな選手こそ、他ならぬあの大谷翔平選手である。
その大谷選手のキャリアハイは以下の通り。
※ L=リーグ M=メジャー全体
投手成績
タイトル | 達成年度 | 順位 | 指数 |
---|---|---|---|
防御率 | 2022 | L4位 | 2.33 |
登板 | 2022 | L152位 | 28 |
先発 | 2022 | ||
完投 | 2022 | ||
完封 | 2022 | ||
QS | 2022 | L15位 | 16 |
勝利 | 2022 | L4位タイ | 15 |
敗戦 | 2022 | ||
勝率 | 2022 | L9位 | .625 |
投球回 | 2022 | L20位 | 166 |
被安打 | 2022 | ||
被本塁打 | 2022 | ||
奪三振 | 2022 | L3位 | 219 |
奪三振率 | 2022 | L1位 | 11.87 |
与四球 | 2022 | ||
与死球 | 2022 | ||
暴投 | 2022 | ||
ボーク | 2022 | ||
失点 | 2022 | ||
自責点 | 2022 | ||
被打率 | 2022 | L6位 | .203 |
K/BB | 2022 | ||
QS率 | 2022 | ||
whip | 2022 | L5位 | 1.01 |
打者成績
タイトル | 達成年度 | 順位 | 指数 |
---|---|---|---|
打率 | 2024 | L2位 | .310 |
試合 | 2024 | L7位 | 159 |
打席 | 2024 | L1位 | 731 |
打数 | 2024 | L3位 | 636 |
安打 | 2024 | L2位 | 197 |
単打 | 2024 | L2位 | 98 |
二塁打 | 2024 | L6位 | 38 |
三塁打 | 2021 | L1位 | 8 |
本塁打 | 2024 | L1位 | 54 |
塁打 | 2024 | M1位 | 408 |
打点 | 2024 | L1位 | 130 |
得点 | 2024 | M1位 | 133 |
三振 | |||
四球 | 2021 | L3位 | 96 |
死球 | |||
犠打 | |||
犠飛 | |||
盗塁 | 2024 | L2位 | 59 |
出塁率 | 2023 | L1位 | .412 |
長打率 | 2023 | M1位 | .654 |
OPS | 2023 | M1位 | 1.066 |
得点圏 |
打者として大成したのは2021年で松井秀喜氏の31本塁打を前半戦のうちに更新し、プラディミール・ゲレーロJR選手やサルヴァドール・ペレス選手をリードし、9月上旬までは暫定本塁打王にもなった。
投手として大成したのは2022年で勝利、防御率、奪三振、whip、奪三振率がすべてベスト5入りし奪三振率も1位に輝いた。サイヤング賞は残念ながらジャスティン・ヴァーランダー投手に輝いたが、サイヤング賞候補にもノミネイトされた。二刀流をしながら「エースで主砲」をプロでもハイレベルで文字通り体現し、その証として投打同時にダブル規定達成という前人未到前代未聞な大偉業をやってのけてしまった。ここまでくると「生きるレジェンド」と言っても決して過言ではないだろう。
大谷選手のこのキャリアハイを拝むと、今まで専念派だった野村氏達が己の眼力の無さを素直に認めて賛成したくなるのも頷けるだろう。逆に二刀流でこの先キャリア的にも数字的にもどれくらいやっていけるのか、期待と希望しかないくらいに観てみたい気にもさせる結果でもある。ここで関係者やファン全員が共通して思うことは、やはり怪我と故障だけは絶対にしないで、無事之名馬でプレイして元気な姿で生還してもらいたいという切なる懇願だろう。
下記のフリーマン選手が後述するように「オオタニは別格すぎる。オオタニ基準で考えたら、二刀流育成はすべて失敗する。あんな選手が次から次へとすぐには出て来ない。オオタニは別モノとして考えるべき」と述べたのも頷けるキャリアハイだろう。
二刀流をこれからプロでやるであろう若い選手達にとっては、文字通り非常に高く分厚いハードルとなってしまったキャリアハイである。「100年に1人の超逸材」は決して伊達や酔狂ではないことが窺い知ることができるだろう。
二刀流のハードルを上げすぎた大谷翔平
上記のキャリアハイは投打共に規定達成時の数字である。ルース氏も60本塁打など輝かしい実績を叩き出したが、それらはすべてあくまでも専業野手としての数字であり、二刀流選手としては大谷選手には及んでいない。2人以外の上記の二刀流選手は尚更推して知るべしという結果となるだろう。
ドジャースの一塁手のフレディ・フリーマン選手は「ありえないことが起きている。開幕直後のホワイトソックス戦だったかな?100マイル(約161キロ)の球を投げたその裏、打球初速100マイル以上のホームランを打ったのは。あのときは選手だってテレビのハイライトにくぎ付けになった。本当なのか?って。これまでの長い野球経験を整理しても、理解が正直できなかった」「アメリカにも高校、大学までなら二刀流選手は勿論いる。ここにいるオールスターの連中なら、みんなそうだったんじゃないかな。ボクだってそうだった。でも、いろんな理由でそれをあきらめる。ボクはケガをしたけれど、先が見えない、ということが一番大きい。でもこうやって、オオタニがその先にゴールがあることを示してくれた。これで将来才能がある若い選手が、どっちかに絞らなければいけないと、自分で限界を決めなくてもすむんじゃないだろうか。どちらかに――という考えは、もう時代遅れなのかもしれない」「確かに扉は開いたと思うし、若い選手が二刀流を目指す流れはできたと思うけど、だからといってあんな選手またすぐ出てくるのか?1年見て思った。あれは別格すぎる。時代や世代に1人、出てくるのかどうか」「分けて考えるべきだ。二刀流選手を育成する流れを否定するつもりは全くない。やりたければどんどんトライすればいいさ。ただ、第2のオオタニをすぐに育てられるのかといったら、また違うんじゃないのかな。あんな選手が次から次へとすぐに出てくるとは思えない。オオタニを基準にしたら、おそらくすべてが失敗となってしまう。だからといってそれで『二刀流はやはり無理だな』と決めつけるのもまた違う。とにかくオオタニは別モノとして考えなければならない」と述べた。
「2つやっている人が単純にいなかっただけなのかなと思う。それが当たり前になってくれば、もしかしたら普通の数字なのかもしれない」と大谷選手は述べたが、いやいや挑戦例が今後増え、育成システムに一定なパターンが生まれたとしても、2桁勝利、2桁本塁打が普通の数字になるとは、にわかには信じがたい。それが二刀流選手の登場を阻んできた固定観念そのものなのかもしれないが、例えば昨年、10本塁打以上を記録したのは224選手。100打席以上の選手は463人。100回打席に立てば、2人に1人は2桁本塁打を記録する計算。一方で、10勝以上した投手は46人。その中で先発回数が最も少ないのは21回。21回以上先発した投手は112人なので、21回以上先発すれば約41.1%が2桁勝利をマークしたという計算だが、21回以上先発できるのは、そもそもかなりなエリート。1回でも先発したことがある投手が396人だったので、比率は約28%。先発ローテーションに入れるのかどうかの時点で、大きなハードルがある。また勝ち星は打線の援護や、リリーフの出来にも左右されるので、難度はそこでも更に上がる。
フリーマン選手が指摘したように、大谷選手になることはもちろん難しくても、2桁本塁打、2桁勝利は、二刀流を目指す選手達の目安とはなりえよう。ただ今年は先発に専念するため二刀流を封印しているが、2018年に4勝、4本塁打を記録したマイケル・ローレンゼン選手は「スタート地点に立つだけでも大変なこと」と話し、腹案を披露した。「先発して、指名打者でスタメン出場するとか、そういう形にこだわるのではなく、守備固めで出場する先発投手がいたり柔軟な起用が増えれば、二刀流の裾野は更に広がるはず」と持論を展開した。
矢澤選手やクロフォード選手など若い選手達が二刀流にこれからプロで挑戦し、大谷選手クラスには及ばずとも、プロでも継続可能な二刀流をこれから模索するであろう。しかしながら大谷選手のキャリアハイを超えることは決して容易ではないことが、メジャー150年の歴史を鑑みても窺い知ることができるだろう。
投手顔負けなガチ野手登板
野手顔負けなガチ投手打撃
大谷翔平とベーブ・ルースのコントラスト
二刀流を1シーズン以上プレイしたことがあるのは大谷選手とルース氏の2人のみ。共に「野球の神様」と讃えられる2人のプロフィールは下記の通り。
項目\選手名 | ベーブ・ルース | 大谷翔平 |
---|---|---|
肖像画 | ||
本名 | ジョージ・ハーマン・ルース・ジュニア | (選手名と同じ) |
英字表記 | Babe Ruth/George Herman Ruth Jr | Shouhei Ohtani |
愛称 | ベイブ(BABE)、バンビーノ(BAMBINO) | オオタニサン、ショウ、ショウタイム |
国籍 | アメリカ | ジャパン |
故郷 | メリーランド州ボルティモア | 岩手県水沢市(現:奥州市) |
人種 | ドイツ系アメリカ人 | 岩手県民日本人 |
生年月日 | 1895年2月6日 | 1994年7月5日 |
没年月日 | 1948年8月16日 | 存命中 |
享年 | 53歳 | 存命中 |
身長 | 188cm | 193cm |
体重 | 97.5kg | 95.3kg |
背番号 |
|
|
家族 |
|
|
生い立ち |
| |
子孫 |
|
|
最終学歴 | セント・メアリー少年工業学校 | 花巻東高等学校 |
プロ入り前の恩師 | マティアス・バウトラー | 佐々木洋(佐々木麟太郎選手の実父) |
恩師の職業 | ローマ・カトリックの神父 | 高校教師(社会科) |
ドラフト指名 |
| |
初年俸 |
|
|
年俸推移 |
|
|
プロ選手歴 |
|
|
プロでお世話になった監督 |
| |
プロ初出場 |
|
|
プロ最終出場 | 1936年5月30日 | 現役中 |
コーチ歴 |
|
|
経験したポジション | 捕手、投手、外野手 | 投手、指名打者、外野手 |
プロデビュー時の進路選択 | 当初から野手一本で全うしたかったので、野手一本を選択 | 二刀流がプロでできるとは高校時代に全く想像できなかっただけでなく、投手を一度断念すると投手が二度と出来なくなるので、投手一本を選択 |
プレイスタイル変遷 |
|
|
二刀流スタイル |
|
|
二刀流への影響 |
|
|
おカネに対する価値観 |
|
|
国際大会 |
| |
獲得メダル |
|
|
タイトル |
|
|
寄付・寄贈 |
|
|
都市伝説 |
|
|
映画 |
|
|
MVP |
|
|
アメリカ野球殿堂 |
|
|
野球の神様のコントラスト動画
DUNLOP新ブランドCM「BABE→SHOHEI編」
2024年に住友ゴム企業のブランドの1つである「DUNLOP」のCMの中でベーブ・ルース氏と大谷翔平選手の共演が実現した。
…とはいえ、当然ではあるがルース氏は既に故人であるため、CMに登場するルース氏は俳優に特殊メイクとCG合成を駆使してそれらしい姿にしたものである。また、CMで流れるルース氏の独白も、本人の肉声や喋り方・訛りの癖を基に人工的に作られたものだとか。
このCMの制作にあたっては、アメリカのベーブ・ルース財団が全面協力している。
関連タグ
大谷翔平 ベーブ・ルース 野球 NPB MLB 器用万能 器用貧乏