概要
WBSC(国際野球及びソフトボール連盟)が主催する、野球のナショナルチーム世界ランク上位12チーム男子による国際大会。
第4回大会以降は従来の12チームに加え、新たに予選を勝ち抜いてきたチームも交えたさらに大規模な大会になることが発表されている(このため、12という厳密な括りは事実上消滅することになる)。
歴史
2015年11月8日から同21日まで第1回大会開催。優勝:韓国代表、日本代表(侍ジャパン)は3位。
2019年11月2日から同17日開催の第2回大会で20秒以内に投球動作開始をしなければボールが1つ追加される規程(ピッチクロック)が導入され、日本代表が初優勝。
2024年11月10日より第3回大会が開催(年内の五輪で追加競技では無い関係上)。
優勝は台湾代表で、またしても大会初優勝国が出ることとなった。なお、台湾はトップ球界史上初の国際大会での優勝となった(これまではU-21優勝があった物、オリンピックでの準優勝が最高成績だった)。一方、日本代表は惜しくも決勝で敗れて準優勝となり、国際大会での連勝記録が27で止まったものの、オープニングラウンド・スーパーラウンド(準決勝相当)で全勝を上げ、今大会で歴代当大会獲得最終成績数ではトップに立った(下述の表確認)。
このように、今のところ大会ごとに優勝する国が異なっており、連覇を達成できた国は現時点で存在していない。また、意外なことに近代野球の宗主国たるアメリカはまだ優勝したことがないが、これは色々と複雑な事情が関係している(詳細は後述)。
大会の結果まとめ
太字は初優勝
優勝 | 準優勝 | 第3位 | |
---|---|---|---|
第1回(2015年) | 韓国 | アメリカ | 日本 |
第2回(2019年) | 日本 | 韓国 | メキシコ |
第3回(2024年) | 台湾 | 日本 | アメリカ |
WBCとの違い
野球競技で年齢制限のない国際大会は他にワールド・ベースボール・クラシック(WBC)があるため、混同されることが多い。
大まかに違いをまとめると、以下のようになる。
WBC | プレミア12 | |
---|---|---|
主催者 | WBCI(※1) | WBSC(野球) |
出場国数 | 30ヶ国(本大会+予選) | 12ヶ国→20ヶ国(第4回大会以降、本大会+予選 ※3) |
開催時期 | 3月(シーズン開始前) | 11月(シーズン終了後) |
投球制限 | あり(※2) | 特になし |
代表資格 | 当該国の国籍保持者および両親のどちらかが当該国の国籍を保持していた場合は代表資格がある | 当該国の国籍保持者のみ |
メジャーリーガーの参加 | 可能 | 規則上は出場可能(後述) |
※1 ワールド・ベースボール・クラシック・インク。MLB機構とMLB選手会が立ち上げた大会の実行委員会。早い話が、事実上MLB主催のWBSC公認野球大会ということである。
※2 1次ラウンドは1試合につき65球まで、準々決勝は80球まで、準決勝以降は95球までで、球数を超過して投げることはできない。 50球以上を投げた場合は中4日以上、30球以上は中1日以上の登板間隔を空けなければならない。 また、2試合連続で投球した場合は球数に関わらず、登板間隔を中1日空ける必要がある。
※3 従来の12ヶ国はシード枠としての扱い。残りの8カ国は招待枠で、13位から18位およびワイルドカード2チームを加えた8チームを予選に招待し、勝ち上がった上位4チームがオープニングラウンドから本戦に出場する。
問題点
WBC同様、スポーツの国際大会としてはまだ日が浅いこともあり、運営上様々な課題や問題点を抱えている。
選手選考の問題
WBCでも問題になっているが、プレミア12ではMLB選手の参加はMLBポストシーズンと期間の近さもあって事実上参加不可能といっても良い(充電第一の為)。これに加えて、アメリカ国内ではプレミア12の知名度はWBCよりもさらに低く、そもそもそのような大会が開催されていることすら知らないメジャーリーガーやメディア関係者も多い。
主力選手やスター選手の欠場と言う問題は、当然日本とて例外ではなく、そもそもプレミア12の開催はNPBもちょうど日本シリーズを終えた直後になるため選手の調整がうまくいかず、特にピッチャーはシーズンの疲れや故障の心配から出場辞退となる選手が多い。こうしたこともあり、侍ジャパンもWBCに比べて将来を考慮させ、かなり実験的な編成となることが多く、日本トップ球界からはどちらかと言えばWBCの為の戦力調整や経験を積ませるための場と位置付けられている節がある。
とはいえ、自国で有力なプロ野球リーグを持つ日本・韓国・台湾はまだマシな方で、MLB選手を多数輩出しているメキシコ・プエルトリコ・ドミニカ共和国・キューバ・ベネズエラといったアメリカ近隣の野球大国は、メジャーリーガーたちを招集できない関係上、編成面で大きな見直しを迫られることになる。こうした国はMiLBでプレイしている若手や、かつてはメジャーでプレイしていたが、加齢や故障による衰えなどでマイナー落ちしたり独立リーグでプレイするようになった、云わば二軍・三軍相当の選手を中心にメンバー編成をせざるをえず、WBC以上に本気で大会に臨むのが難しい状況に置かれている。
また、代表資格がオリンピックに準じた厳しいもの(というよりWBCがメジャーリーガーを出したいがために緩すぎるのだが)であるため、助っ人的な海外選手を連れてくることも難しく、WBCに比べると盛り上がりに欠ける大会となってしまっている。
そんな中、2028年ロサンゼルス五輪野球競技でMLB選手を送り出す話も出ており、2026年WBCでテスト大会としての側面が出ている。この機運がプレミア12にも波及してくれば、状況は変わってくるかもしれない。
とはいえ、この大会に出場した選手たちが数年後にはメジャーの大舞台で活躍するスター選手になっていることも珍しくない。日本人選手では大谷翔平・山本由伸・鈴木誠也が今やメジャーの一線で活躍していることはご存じであろう。海外に目を向けても、韓国のキム・ハソン、ドミニカ共和国のテオスカー・ヘルナンデス等枚挙にいとまがない。
以上のことから、今大会はスター選手の集う大会ではなく将来のスター候補となる若い選手たちのアピールの場という見方もできる。
ランキング制度の不平等さ
プレミア12の参加資格は野球男子の国際ランキング上位12か国であるが、WBSCはFIFAと違い、実力をポイント制にしたランキングの信憑性があまり高くない。
確かに日本は国際大会で何度も優勝し、長らく世界ランキング1位をキープしているが、それでも野球ファン、一般的な日本人ですら「本気でやればアメリカが断トツで1位になるだろう」という認識をしていることがほとんどである。
このWBSC野球ランクはU-18やU-23の成績もポイントに含まれるため、幼少期から野球育成環境が整っている日本・韓国・台湾・アメリカ・中米諸国は非常に有利であり、逆にU-23以降野球を専業・もしくは専業に近い状態で育成できる環境のない欧州やアフリカは非常に不利となっており、実際現時点で欧州から本大会に出場できているのは野球の盛んな中米のキュラソーに領土を持つオランダ1ヶ国のみで、アフリカからは参加国が全く出ていない。
そもそも、野球は国際大会以外で年齢制限のないフル代表が他国と試合を行う機会が非常に少なく、ランキングを変動させるチャンスが非常に限られている為、結局は次のプレミア12も同じような組み合わせとなってしまう。
一応、主催者側もこの課題に対応すべく、第4回大会からは招待枠を設け、8チームで予選を争い、勝ち上がった4チームをオープニングラウンドに追加して合計16チーム(予選も加味すれば合計20チーム)で成績を争う方式に変更することなったが、それが根本的な解決にどこまで繋がるかは未知数である。…そもそも本戦への参加チームが16チームになった時点で“プレミア12”とは言えないのではないか?という身も蓋もないツッコミもあるが。
気象災害に対する対応
2024年に開催された第3回大会では、台風が接近する危険性が指摘される中、台湾でのオープニングラウンドが行われることとなり、運営側の対応に疑問の声が挙げられた。
結果的に台風は台湾島に接近する頃には低気圧に変化していたが、その影響で強風や雨は続いており、さらには主催者側も予備日が設けられていないことを理由に一部の屋外球場での試合をそうした悪天候の中で強行せざるをえず、参加した国からは批判の声が上がった(日本もその被害者の1人で、結果的に僅差で勝利できたとはいえ、悪天候の中選手が思うようなプレイができずにキューバにあわや逆転負けを喫する寸前まで追いつめられた)。
もっとも、11月に台風が勢力を維持した状況で活動するようになったのは、地球温暖化の影響が顕著になり始めたここ数年のことで、大会が始まった当初は11月にそのような事態が起きること等当然ながら想定されていなかったのもまた事実だろう。
とはいえ、年々気温が上昇を続け、異常気象も頻発するようになっている昨今では、最早そんな言い訳は通用しないと言って良く、主催者がも不測の事態に備えた対策が求められる。今回の一件がそれを考える切っ掛けとなることを願うばかりである。
スイスドロー及びトーナメントの問題
参加国数が限られる中で少しでも興行的な盛り上がりを見せるためか、スイスドローやトーナメントの進行形式が大会ごとに大きく変わっているが、これも一部で大きな混乱を招く要因となっている。
- 第1回大会:2グループ6チームに分かれて1次ラウンドとして総当り戦(各5試合)を行い、各グループ上位4チームの計8チームが準々決勝からのトーナメント戦を行う
- 第2回大会:3グループ4チームに分かれてオープニングラウンド(前回の1次ラウンドに相当)として総当たり戦(各3試合)を行い、各グループ上位2チームの6チームがスーパーラウンドに進出し(トーナメント戦の廃止)、オープニングラウンドで当たった対戦以外の総当たり戦(各4試合)の結果により上位2チームで決勝・下位2チームで3位決定戦を行う完全スイスドロー制。
- 第3回大会:2グループ6チームに分かれてオープニングラウンドとして総当たり戦(各5試合)を行い、各グループ上位2チームがスーパーラウンドに進出し、オープニングラウンドで当たった対戦も含むスーパーラウンドの総当たり戦(各3試合)の結果により上位2チームで決勝・下位2チームで3位決定戦を行う。
といった具合である。ものの見事に大会ごとにバラバラである。
このうち、最も物議を醸したのは第3回大会で、オープニングラウンドと同じ対戦カードがスーパーラウンドでも組まれた結果、日本対台湾、アメリカ対ベネズエラの試合がそれぞれ合計3回も組まれることになった。特に日本はここまで全勝(台湾にもオープニングラウンド・スーパーラウンド共に勝利していた)で来ていながら、決勝戦での台湾の試合にたった1回敗れただけで優勝を逃すという悲劇に見舞われ、日本側からは「こんな形で優勝を逃すなんて、そんな馬鹿な話があるか!」という主催者側の設定したトーナメント形式に対する不満の声が溢れかえることになった。
…ちなみに、同じようなことが第1回WBCでも起きており、この時は韓国が大会中既に2度日本に勝利していながら、準決勝でのたった1回の敗北、雪辱を被った事がきっかけで敗退に追いやられ、3位(逆ブロック準決勝敗退チームの勝敗数と比較し優勢)となった韓国側から不満が噴出したことがある(この時の反省から次回以降WBCのスイスドロー及びトーナメント形式は大きく変更されていくことになる)。
主催者側もこの時と同様、さすがにマズかったと思ったのか、第4回大会ではさらにスイスドローの形式が変更されることになると発表されたが……
- 第4回大会:招待枠も含む4グループ4チームに分かれてオープニングラウンドとして総当たり戦(各3試合)を行い、各グループ上位2チームの8チームがセカンドラウンドに進出。セカンドラウンドは2グループ4チームに分かれてオープニングラウンドで当たった対戦以外の総当たり戦(各2試合)を行い、各グループ上位2チームがスーパーラウンドに進出。スーパーラウンドの総当たり戦(各3試合)の結果により上位2チームで決勝・下位2チームで3位決定戦を行う
となっており、極力同じ対戦カードが連続して生じることがないよう配慮されたものになった。
もっとも、そのせいでさらに大会の形式が複雑化した感は否めず、セカンドラウンドはともかくスーパーラウンドと決勝で必然的にまた同じ対戦カードが組まれる点に関してはまったく解決できていない(さらに言えば、さすがに前回と比べると確率は多少下がるだろうとはいえ、オープニングラウンドからスーパーラウンドまで同じチームが上位2位以内に入り続ける可能性に関しても全く考慮できていない)。
また、サッカー(FIFA)のワールドカップのように、直前のラウンドでの成績が次のラウンドに一切影響しないという点も不満点として挙げられることが多い。例えば、サッカー(FIFA)のワールドカップやオリンピックサッカー競技では、トーナメントでグループステージ1位通過のチームと別のグループを2位通過したチームとの対戦が組まれるなど、グループステージを首位で通過したチームに有利になる(かつ同じチーム同士の対戦が極力回避できる)ようなトーナメント形式になっているが、プレミア12ではどれだけ直前のラウンドを好成績で勝ち上がってもそれが次のラウンドに反映されることは一切ない。
加えて、現在の勝ち抜きを併せ持つ総当たり戦を繰り返すスイスドロー方式は日程が長丁場となり、選手に対する肉体的な負担も大きいことは否めない。第1回大会のようなトーナメント方式に戻せば、負ければそれで終わりというリスクはあるが、選手の負担も軽くできるのでその点では利点はあると言える。
総じて、総当たりなのかトーナメントなのか何とも言えない中途半端な現在のスイスドロー対戦形式に構造的な問題があることは間違いない。
ファンからは、「なぜそこまで頑なにグループラウンドを続ける形式に拘るのか」「いい加減に白星数を加味したノックアウト方式のトーナメントに変更しろ」といった批判の声も多く上がっている。
もっとも、こればかりは、更に参加国数が増え、各国の実力が拮抗してこない限りは根本的な解決策とはならないのかもしれないが…。
その他の問題点
- 第3回大会のオープニングラウンドで、キューバ代表のリバン・モイネロ投手がインフルエンザに感染(本人は胃腸炎だと否定したが)。しかし、その後も試合出場を強行したことで、大きな物議を醸した。モイネロ投手はNPBのソフトバンクに在籍していることから日本でも知名度が高く、ファンの間では心配する声が上がった他、欠場させないキューバチームや、何の勧告も行わない主催者側へも選手の扱いが雑だとして大きな批判を浴びることになった。
- なお、モイネロ投手は結局体調の不良の影響もあって、思うような投球ができず、チームもオープニングラウンドで敗退となった。
- 同じく第3回大会のスーパーラウンドの日本対台湾戦で、試合の直前に台湾側が先発投手を突然変更するということがあった。これは、直前のアメリカ対ベネズエラ戦の結果から台湾の決勝進出が確定し、ベストメンバー(特に投手陣)をぶつける必要がなくなったため。結果的にこれが功を奏して台湾は戦力の温存に成功し、決勝戦での勝利の切っ掛けを作ったが、「怪我などの正当な理由もなく直前になってから先発投手を変更するのはありなのか?」という批判の声も上がった。