人権を侵害したり、著作権を侵害したり、宗教的規範に反したり、犯罪などを誘発しかねない表現に対する規制である。
しかし、暴力や性的表現が犯罪を誘発するという証拠はなく(むしろ、表現規制が強化されると性犯罪が増加する傾向がある)、日本国憲法第21条第1項において規定されている国民の権利である「表現の自由」と相反することであるため、しばしば論争が巻き起こっている。
主な表現規制
法令による規制
第174条の「公然わいせつ罪」と第175条「わいせつ物頒布等の罪」が該当。性や裸体を扱った作品で、局部への修正が必要な理由にもなっている。
児童ポルノ禁止法
成人していない児童に対する性的虐待や性犯罪を防止するための法律である。日本では二次元の絵に関しては「被害者」が存在しないため、現状は規制対象とはされていないが、今後は諸外国と同様に二次元も規制対象とすべきとする意見も根強い。
著作権法
一次創作において、著作者の知的財産権の一つである著作権の範囲と内容について定める法律。主にコピー製品である海賊版を取り締まる際の根拠となる法律であるが、二次創作が海賊版とみなされることがある。
業界による自主規制
テレビなどでの差別発言を禁止する自主規制。しかし、差別されているとされる側の「この表現が不快である」という主観的感覚にもとづいているため、差別されているとされる当事者の発言は許容されることが多い。
作品を閲覧できる年齢を定める規制。年齢指定。日本では、コンピューターゲームにおいて「CERO」によるレイティングが導入されている。
二次創作のガイドライン
著作者側で設定した二次創作に関するライセンス制度。導入の代表的な例としては「東方Project」のなどガイドライン。基本的に二次創作を許可しているので規制緩和というべきものなのだが、「何でも自由に描いてもいい」というわけではない。
表現規制の政治史
20世紀
表現規制賛成派は伝統的には保守層が主導することが多く、江戸幕府は度々禁令を発し、戦前には大日本帝国による表現弾圧や、ピューリタン思想を軸とするキリスト教系女性団体の矯風会による活動が行われた。
GHQによる検閲期を経て、チャタレー事件等の逆コースの動きもあったものの、戦後日本では特に二次創作や性的表現について徐々に規制が緩やかとなっていった。また、表現の自由を守る観点から、法律よりも業界の自主規制で処理されるようになった。
しかし保守派はこれを快く思っておらず、悪書追放運動や「低俗番組」規制など、サブカルに対して度々圧迫をした(ビートルズとかも批判対象だった)。
世紀末
1989年、宮崎勤事件が発生。これによりオタクバッシングが激化したが、これに関しては自然発生的でありどこが主導したとは言い難い。いずれにせよ同時期のバブル崩壊もあってさまざまな締付けが強くなっていったが、エログロ満載の新世紀エヴァンゲリオンが夕方に放送されていたように、なんとか踏みとどまっていた。
しかし更に情勢は悪化する。1997年、劇場型犯罪である酒鬼薔薇聖斗事件が発生。1998年、ドラマに影響を受けたという栃木女性教師刺殺事件が発生。「体感治安」なるマッチポンプ的な用語が広まり、少年犯罪のたびにメディアの悪影響が言われる傾向が強まる。
この頃よりアニメでのエログロ描写が激減しているが、それ以上に全日帯アニメ自体が衰退しており、鶏が先か、卵が先かというところ。
台風の目だったのがゲーム産業で、もともと規制機関が存在することもあるが、公共の電波で放送しない、立ち読みできないという閉鎖性ゆえかフリーダムな状況だった。
21世紀
2000年代になると目に見えて規制は増えていったが、オタク産業という形で新しい解放区が生まれていた。そうしたオタク産業に飛びついたのは意外なことに保守派の若者だった。
もともと理系寄りのオタクな人々とミリタリーは親和性が高い。また不況により、若者の間で「海外に産業移転したからだ」という不満と国家主義が高まっていた。そんななかで愛国心を満たせたのが、日本独自のコンテンツであるAnimeやManga。そして彼らによって「表現規制は朝日新聞と日本社会党が主導した」という都市伝説的に広まっている史観が流布されるようになった。
リベラル派のオタクも当然いた。しかしリベラル言論の世界はフェミニストが制圧しており、同じ土俵でそれに対抗することは難しかった。したがって彼らはオタクからもリベラルからも異端扱いされ、埋没していった。
自民党側も「ローゼン麻生」ネタ等この動きはキャッチしていたようだが、いまいち鈍く、当時の石原慎太郎都知事による東京都青少年健全育成条例の表現規制に賛成したりと一貫性が無かった。政権転落前後には保守派オタクの間で表現規制反対の日本共産党を評価する声がじわりと増加する有様だった。
2010年代にはオタク文化に生まれながら浸かったデジタルネイティブ世代が成人を迎え、彼らを引き込むために行政等でもご当地萌えキャラの使用が急増した。自民党・公明党も2012年の政権復帰後はオタク媚び路線に転じ、表現規制のことは言わなくなった。逆にヘイトスピーチを野放しにすることで、リベラル派の外堀を埋める戦略をとるようになった。
このため上記の保守/リベラルと表現規制支持層の相関は2010年代から入れ替わりが起きており、令和初頭時点では表現規制支持派はリベラルを自認する者が多い。理由は諸説あるが、アメリカ合衆国のキャンセルカルチャーが日本のリベラル層に輸入されたことや、日本の一部のフェミニストが保守団体である前述の矯風会を再発見・再評価したことによるとも言われている。
2019年、「表現の不自由展」騒動が発生。表現規制賛成寄りのリベラル派が規制に反対し、表現規制反対寄りの保守派が規制に賛成するという訳のわからない事態となった。
2021年末には、それまで強硬な表現規制反対派であった共産党が表現規制賛成を表明し、逆に表現規制反対派の漫画家の赤松健が次の参院選の自民党公認候補となったことで話題になった。