デスティニー・プラン
ですてぃにーぷらん
概要
プラント最高議長ギルバート・デュランダルによって提唱された社会システム構想。
デュランダルは「戦争の原因は自身への不当な評価や現状への不満」にあると考え、「人は自分を知り、精一杯できることをして役立ち、満ち足りて生きるのが一番幸せだろう」という思想に基づき、このプラン導入により、効率的な社会システムの完成を目指していた。
内容と問題点
その内容は人間の遺伝子を解析する事による人材の再評価と人員の再配置である。
遺伝子の解析によって個人の適性や個性を見出し、その解析結果に合った職業に就くことで誰も不満を抱かず、争いも生まれないことを理想とし、さらには国家間の争いを失くすことも視野に入れていた。
生まれ持った「性格」「知能」「才能」「重篤な疾病の有無」を遺伝子解析で解明し、その情報に基づきその人間の特性に適した役割を与え、親のコネ等不正な手段で地位を手に入れた人間を蹴落とし、年齢や経験に関わらず、その職や地位に適した人間がその地位を与えられる事となる。ある意味では「徹底的な能力主義」とも言える社会構造を作り出す。
しかし、このシステムは基本的に強制であり、また職業振り分けは遺伝子解析の結果のみで本人の実力や希望は無視されるため、後天的な努力によって職業を得た人間はその職を追われることになる等、プランが実施された場合は徹底的に才能だけが重視される弱肉強食の世界となり「職業選択の自由」は消滅すると言える。
事実ラクス・クライン達は「人々から決定権を国家が取り上げて管理する」「世界を殺すシステム」と断じ、アスラン・ザラも「そぐわないものは淘汰、調整、管理される」と予想していた。
またキラ・ヤマトは漫画『THEEDGE』内で「遺伝子で職業が決まるなら、より職業の適性の高い優れた人間を狙って製造する方向へと加速する」と危惧している。
デュランダルはこのプランが急速な社会の変化をもたらす事から支持を得にくいと考え、プラント内部でも極秘に計画を進めており、ブレイク・ザ・ワールド後の戦争を経て戦争の原因と断じたロゴス壊滅とロード・ジブリールの死をもって世界の気運が高まった段階で実施を公表した。
当然ながらプラント・ザフト内には動揺が広がった。しかしプランの全貌が把握しにくい事とコーディネイターには有利になる為明確な反対意見は出なかった。
シン・アスカは「今の世界を根底から変えようとするシステム」と評して期待を寄せていたが、同時に小説版では「野球選手になりたくて頑張ってきた人が、ある日突然『君の能力では無理だ。歌手になりなさい』と言われて『はいそうですか』と納得できるものだろうか」とこのプランの問題点を解りやすく例えて考えていた。
発表後の混乱と結末
地球の各国家は突然の発表とマニュアル公布に混乱。以前からプランの詳細をつかんでいたクライン派やオーブ連合首長国はもちろん、スカンジナビア王国、そして地球連合も反対を表明。
これに対してデュランダルは反対派を「人類の敵」とみなして修復したレクイエムを発射し月のアルザッヘル基地を連合艦隊諸共壊滅させた。
この、今までの穏健路線をも捨てた強硬姿勢が仇となり、反対派はデュランダルとの戦闘を決断。さらにはザフト内部でもプランに懐疑的だった者達の疑念が深まり、イザーク・ジュール達の離反にもつながった。
その後のメサイア攻防戦にてデュランダルが戦死。さらにプランの要となるデータバンクが収められている要塞メサイアが破壊されたことで、プランはとん挫した。
ただし、いったん落ち着いたとはいえ、ナチュラルとコーディネイターの戦争の危険が続いているSEEDの世界にとって、デスティニー・プランが間違っていたかは断言できない状況であり、メサイア攻防戦は言わば「自由=明日を捨ててでも平和を取る」か「次の戦争が起こる危険を残してでも希望と可能性を取る」という戦いであった。
上記の通りプランは否定されたが、見方を変えれば、このような反発必至の策を取らなければいけないほどに両種族間の「負の連鎖」が悪化しているということでもあり、これが次の戦争への序章になってしまうか否かは誰にもわからない。
また、民衆、特にナチュラル側からすればデュランダルに半ば騙された形になってしまっており、ロゴス壊滅により沈静化したブルーコスモスが活発化する危険がある。
幸いにして、ASTRAYシリーズ等のその後を描いた作品を参照する限り、小競り合い程度はあるものの、少なくとも本格的な戦争状態にはなっていない模様である(未確認ではあるが、「戦争が泥沼化した」という説もある)。
※もちろん、仮にデュランダルが勝っていてプランが続行され、反対勢力が弾圧されたとしても、さらに人々の反発を招く可能性も十分にあり、平和どころかさらなる混乱を生んでいたかもしれない。
ちなみに、このプランでは「才能のある人が高い地位を得られる」のでコーディネイターが圧倒的に有利なように思われるが、遺伝子解析によって潜在的な素質も含めて評価されることによってナチュラルの側がむしろ有利になる可能性も否定はできない。(実際パイロットとしてのラウやムウ、マリューの白兵戦能力などコーディネーターより優れている、匹敵するナチュラルも存在する。)
ただコーディネイターはプランに対応して、ナチュラル以上の“素質”を持った個体を作り出せばいいし大半のナチュラルは不利なことには変わりがない。
また公平な選抜によって選ばれてもナチュラルはコーディネーター側に裏取引を疑われたりコーディネーターは遺伝子操作を妬まれる可能性もある。
遺伝子操作の有無で終末戦争になりかけた世界ではやはり劇薬のようなものかもしれない。
デスティニー・プランは劇中では実現しなかったが、仮に実行されて、人が皆自分の才能を生かせる分野へ進めるようになったとしても、それで戦争が無くなるかと言われれば疑問符が残る。
たとえ最も才能の優れた分野に進めたとしても、その中で優劣がつかないわけではない。例えばサッカー選手の才がある者が12人いれば、いくらサッカーに関して他の人物の追従を許さない才能を持っていたとしても、12人のうち1人は試合に参加できず、日の目を見られない。
しかもその1人は、既にこれ以上ない才能に好条件の訓練を受けた果てであるため、これ以上の伸び代は期待できず、さりとて別の道を選ぶことも許されない。つまりその1人は実力でのし上がる術がなく、一生日陰者でいるか、非合法な手段に出るしかない。
たとえ一番自分を生かせる分野にいたとしても、人の承認欲求には果てが無く、勝ちたい、上位に進みたいと言う欲望がある限り、デスティニー・プランは広い視点では争いを抑制しても、狭い範囲ではむしろ人の争いを悪化させてしまう…のかもしれない
遺伝子上の問題
また一口に遺伝子と言っても生まれた時から発現しているものと、まだ眠っている潜在的なものの二種類が存在しており、後者の方は取り巻く環境や本人の生活スタイルによって発現するか否かが決まってくる。
例えば遺伝子上は野球選手の適性があったとしても、適切な食事や練習ができない環境ではその能力は発現しない。仮にプランの導入によって適切な環境が確約されたとしても、そういった潜在的な遺伝子が確実に発現するとも限らない。
遺伝子による適性と本人の望む職業に齟齬が生じた場合にも不満が生じる。
その場合、適性のある職業がきちんと割り当てられる仕組みならば、不満が生じるのを抑えられるかもしれないが、そういった説明は本編中にはなかった。
また人によっては天が二物を与えるという言葉があるように、最も高い適性を持つ天才が複数同時に生じる場合も考えられ、その場合どう判断するのかも不明である。
そして天才の子どもが天才とは限らないように、親は優秀だったが本人には才能がなく、親や知り合いのコネを使って組織の重鎮に納まっているタイプの人間の場合、このプランが導入されることで地位や権力、果ては職を失うことにもなり、そういった人々からの反発や、それに伴う大規模な社会的混乱も必至である(「オーブが即真っ向から反対したのはカガリの適性を調べられた時に政治家に向いていないと出たら国の存亡に関わるから」とキラやラクス側に否定的な人間(デュランダル肯定側)からもこの様にプランへの批判的な意見が出てしまっている)。
一番どうしようもないのが後天的な事故や病気による身体の欠損・麻痺、トラウマ・ストレス、鬱等によって働くことが困難になる場合である。その場合どうなるのかも不明。
製作スタッフによると、あの世界の場合(デュランダルのやり方では問題があると前置きした上で)プランが導入されれば戦争はなくなっていたとインタビューによって回答されている。ただ、このプランのみで人類から憎しみや争いをなくすというのは困難である。あくまでも格差や先天的特質を理由にした争いの解決手段となりうるだけで、思想などに端を発するものについては不可能。
計画の内容としては聞こえはいいが、これらの問題点をデュランダルが想定していたかまでは不明。
また、プラン自体はデュランダルがメンデルコロニーの研究施設に勤めていた時から草案が練られていたようで、デュランダルの同僚と思わしき人物が書いた私用のノートには、「今の世界には有益」という前置きをしながらも「人は世界の為に生きるのではない。人が生きる場所、それが世界。」とその上から殴り書きされていた。
基本的には主人公勢力はこのプランと敵対する事になるが、他作品のネタを絡めたアレンジが加えられている。
スーパーロボット大戦Zでは黒歴史の遺産の一つとして「ニュータイプに覚醒する可能性を持った人物を探し出す」という目的のためにプランが流用され、遺伝子的に不適応と判断されたフロスト兄弟が人類に憎悪を抱くきっかけとなった。
また第3次Z天獄編ではプラント国防委員長となったレイ・ザ・バレルがこのプランの真の目的は「御使いに立ち向かうためにSEEDの素質を持つ人間を探し出し、クロノ保守派から守る為」であったと説明された。
最も大胆な解釈が行われたスーパーロボット大戦Lではバジュラやクトゥルフといった宇宙からの勢力への対策の延長上として提唱される。
「SEED能力の持ち主の発見」「人間のゼントラ化」の為にプランを用いて、そういった人間たちを集めて地球を防衛する組織を作る対異星人戦略の延長線として提唱されている。
またこの政策によって「遺伝子だけで人間の適性が決まるのか」という問題点が解決されている(人間のゼントラ化は完全に遺伝子で決まる為)。
このほかにも、作中の敵勢力の中でも特に大きな「統一意思セントラル」という「エネルギー問題を解決するために徹底的な効率化を図った結果、個々人の自由意思を完全に消滅させ全人類を単一の意識の基に統一・システム化したもの」もの、デスティニー・プランを極限徹底的に突き詰めたような政策を行っている。
彼らは一切の無駄を切り捨てて人類を均一化するが、それはそれとして新たな可能性を見出せる突出した能力を利用しようとする意志はある。
これに真っ向から軍事力で今すぐ対抗することは難しいと考えたデュランダルはそこに漬け込み、セントラルへの協力体制を装いながらカウンターの準備ができる苦肉の策として、デュランダルは遺伝子解析による戦力の発見というプランを考え出したのだった。
今作ではシンなどデュランダル側についた人間たちは多数の仲間に助けられて自らの意思で進む道を決めているため、ザフト軍のメンバーも全て自軍部隊に残留してデュランダルと敵対し、デュランダル側に付いたのはレイのみとなっている。
しかし今作におけるデュランダルはこういった外敵への脅威のためにアークエンジェルをわざと見逃すなど全人類のためを真に考えた行動を取る人物になっており、たとえ敵対してもなおプレイヤー部隊から最後まで説得を試みられるなど、上述のプランの背景もあり、デュランダルおよびデスティニー・プランそのものはそこまで敵視されておらず「人類の未来を憂う者として一定の理解ができるが、主義主張の違いから止むを得ず対立しなければならなかった相手」となっている。
スーパーロボット大戦SC2もこれまた大胆なアレンジがなされており、こちらではデュランダルの協力者であるシロッコのクローンによる何万という軍勢で外宇宙の驚異に対抗するといったものである。数年でクローンが成体になるまで成長し、教育も同時に行えるだけでなく、レイやクルーゼが長く生きられない「テロメアの欠損」も克服しており、自軍部隊を撃破した暁にはマクロスや特機群を運営しようとしていた。尤も、その場にいたレイにこの計画の全容を聞かれてしまい、結果的にレイに銃撃される形で頓挫してしまった。
原作終了後の世界観であるスーパーロボット大戦UXではシンが皆城総士に「かつて実行されようしたが、その思想は人々に受け入れられなかった」とプランについて語っている。
またシンは生まれながらにしてファフナーのパイロットとなる運命にある竜宮島の子供たちをデスティニー・プランと重ねており、「人は生まれながらに生き方を左右されたりはしない」と暗にデスティニープランを否定している。
スーパーロボット大戦Vでは敵対組織である超文明ガーディムはかつて徹底的な管理体制を敷く文明体制ゆえに自身の文明を滅ぼした話を聞かされたアスラン・ザラがデスティニー・プランを連想している。
余談
- 現実のドイツにおいては、日本でいう小学校ぐらいの段階で早々と大まかな進路が決定されるという制度があり、類似点が指摘されることがある。
- とは言え、あくまで「大まかな進路」が定められるだけでそこから先は自由だし、その大まかな進路に逆らうことが許されないなんてことはない(ドイツはEUに属していて、EUは加盟国間の移動が自由なので、ドイツ語を公用語とする他EU諸国に移住して進路を蹴っ飛ばすのも大いにアリである)。さらに言うならその進路を正しいと決定づける根拠もどこにもない。デスティニープランの特徴である「不自由さ」や「容赦のなさ」はドイツの教育制度には無いと言えるだろう。
- 他作品においてもデスティニープランと似たような社会システムが完成した世界が描かれており、実際にアスランの言う「そぐわないもの(他作品で言うなら犯罪係数という数値の高い者、M型遺伝子異常者)」が隔離或いは即時処刑されたりといったことが日常茶飯事となっている。