児童文学者、あまんきみこ(阿萬紀美子)によって執筆された幼年向けの絵本作品。絵は上野紀子が担当。
概説
1982年8月に、あかね書房より、同社発刊の絵本シリーズ「あかね創作えほん」の第11巻として発刊された。
のち本文は光村図書によって小学三年生の国語教科書に教材として採用されており、現在に至るまで収録され続けている。そのため同社の教科書で国語教育を受けている人々には非常に知名度が高い。
話の内容は第二次世界大戦(太平洋戦争/大東亜戦争)末期の日本において、どこにでもあたりまえにあった、全く特別ではない光景を描いた悲劇である。
基本的に「子どもにとって戦争とは何か」という、力無き者が為す術なく押し潰される悲劇を扱った作品であり、オチが諸行無常であるためカタルシスがほぼ無い作品といえる。
そのためみんなのトラウマ扱いする人もいるが、本作の結末に少しでも涙できるなら、それは決して忘れてはいけないものである。
「かげおくり」とは
漢字では「影送り」となる。
日差しで地面に写る影を長時間(作内では「十数える間」)見つめて空を見上げる遊び。
いわゆる残像現象によって、見つめた影の形がそのまま見上げた空に残るように見える。
目が空に慣れると影の残像は消えてしまうため、まるで影が空に移り、そのまま空の果てへと消えていくように見える。
これが「影を見送っている」ように見えるため「影送り」という。
登場人物
- ちいちゃん - 本作の主人公。かげおくりが大好き。
- お父さん - ちいちゃんのお父さん。ちいちゃんにかげおくりを教えた。体は丈夫ではないのに召集令状を受けて戦争に行かされてしまう。
- お母さん - ちいちゃんのお母さん。お父さんを見送り、ちいちゃんたちを守ろうと励むが、空襲に翻弄される。
- お兄ちゃん - ちいちゃんのお兄ちゃん。空襲で大けがを負い、お母さんはやむなく、お兄ちゃんをかばわねばならなくなる。
- (知らない)おじさん - 家族とはぐれたちいちゃんを、みんながいる避難場所へ連れて行ってくれる。
- はす向かいのおばさん - ちいちゃんのおうちの斜向かいに住んでいるおばさん。ちいちゃんを家まで連れて行ってくれる。
あらすじ
太平洋戦争の戦局が厳しくなった頃。
体が丈夫ではない、ちいちゃんのお父さんも召集令状によって戦場へと行かねばならなくなった。その事をお母さんやお兄ちゃんたち家族そろってご先祖のお墓に報告に行った帰り、ちいちゃんはお父さんから空を見上げる「かげおくり」という遊びを教えてもらう。ちいちゃんは、かげおくりが気に入り、空が大好きになった。
お父さんが戦場へと行って、少し経った頃には、もう、ちいちゃんの住む町の空にはアメリカ軍の爆撃機が頻繁に押し寄せるようになっていた。ちいちゃんの大好きだった空は、「いやなもの」「こわいもの」に変わってしまった。
そして、ついにちいちゃんの住む町に焼夷弾が落とされた。街の中を逃げ惑う、ちいちゃん一家だったが混乱の中でついにちいちゃんは、お母さん・お兄ちゃんとはぐれてしまう。
ちいちゃんは何とか家に戻るが、肝心の家は焼け落ちて跡形もなくなってしまっていた。ちいちゃんは家族が帰ってくることを信じ、持たされたわずかな干し飯を食べながら防空壕で夜を過ごす。
それから幾ばくも時のたたぬ朝。防空壕から出てきたちいちゃんは真っ青な空を見て、家族恋しさに「かげおくり」を行う。すると送ったはずの影とともに、ちいちゃんは空へと昇り、空の上のお花畑に来た。そこには、ちいちゃんのお父さん、お母さん、お兄ちゃんが先に待っていた。ちいちゃんは、やっと会えた家族とともに花畑の向こうへと行ったのだった。
そこから幾年もの時が過ぎた。ちいちゃんのおうちは小さな公園になっていた。
公園ではちいちゃんの事など全く知らない子どもたちが、かつてのちいちゃんのように健やかな笑い声をあげて遊んでいた。