概要
1182〜1226スポレート公国(現イタリアウンブリア州)生まれの修道士。
キリスト教の最大教派であるローマカトリック(カトリック教会)を信仰する修道士であり、中世イタリアで最も著名な聖人の一人で、カトリック教会と聖公会で崇敬されており、イタリアの守護聖人の一人でもある。
また、自身独自のカトリックの会派『フランシスコ会(フランチェスコ会)』を創設し、現在も会派は続いている。
キリスト教とイスラム教の宗教対立の時代、そしてまたキリスト教世界が十字軍の熱狂のただなかにあった時代に、他宗教との対話のため、対立する陣営にみずから赴いている点も注目される。
思想
「アッシジのフランチェスコ・平和を求める祈り」は、カトリックのみならず、他の宗派でも知られる祈祷文である。現在のカトリック教会でも、礼拝で音読することがある。
絶対清貧を旨とし、人間にとって本当に必要なものは愛と平和だけであり、それ以外のものはすべて不要だと主張し、いさかいや対立は所有することに端を発すると説いたように、その清貧の思想は彼の平和主義と分かちがたく結びついていた。
西洋では近代以降、基本的に自然と人類は対立する関係で、人類は自然の驚異を克服し、管理しなければならないとされている。
しかし、当時は近代以降ほど極端ではなかったが、それを差し引いても彼は西洋人としては非常に珍しく、自然との調和を重んじていた聖人として有名であり、国や宗派を超えて世界中の人々から敬慕されている。
彼の思想をよくあらわしたものに、彼の死の床で歌われたという有名な讃歌である『被造物の讃歌』があり、この讃歌には
「もの皆こぞりて御神を讃えよ、光のはらから(同胞)なる日を讃えよ」
という著名な一節があり、これは『(兄弟たる)太陽の讃歌』と呼ばれることもある。
そこで彼は、『太陽』『月』『風』『水』『火』『空気』『大地』をも「兄弟姉妹」として主(神)への讃美に参加させており、はては『死』でさえも「姉妹なる死」として讃美に迎えているのである。
彼は、この世のありとあらゆるもの(森羅万象)は、みな神の下に生まれた兄弟姉妹であり、この世界は『清貧』『自由』『神の摂理』とが分かち難く結びついていて、この三者が調和してこそ明るい生活を営むことができると考えていた。
逸話
フランチェスコはウサギ、セミ、キジ、ハト、ロバ、オオカミに話しかけて、心がよく通じ合ったといわれており、魚に説法を試みたり、オオカミを回心(信仰に心を向けること)させたという伝説があり、小鳥に説法を説いたという逸話は特に有名である。
彼のそういった事績から、1978年から2005年までローマ教皇の位にあったヨハネ・パウロ2世は、1980年にフランチェスコを『自然環境保護(エコロジー)の聖人』に指定した。
チェラノのトマス著『アシジの聖フランシスコの第二伝記』86章によると、彼と共に修行していた修道士が天国の様子を見る神秘体験をした際、そこに多くの座席があった。そのうちの一つはもっとも貴く見え、宝石で飾られ玉座のようであった。これは誰に与えられたものだろうと思っていると何処からか声が聞こえた。
「この席はかつて堕落天使の一人に与えられていたが、今は謙遜なフランシスコのために置かれている」
この幻視が意味する所は「(フランシスコの)謙遜さが、(ルシファーの)傲慢さによって失われた席にフランシスコを上がらせた」という事であった。
この伝説において、高慢の罪で天から落ちた悪魔と、己の罪深さを見つめその謙遜さにより地から天に上げられる聖人が対比されている。
晩年、聖痕を発現させており、カトリック教会の記録において最初の聖痕発現者であり、同時に数少ない男性発現者でもある。