「……わたくしは、世界中で今も苦しめられている魔女達を、救う。何としても」
概要
本来の計画より外れつつあるアリスを正常化するため、彼女の変化を促した『せんせい』である上条当麻の抹殺を謀る。
人物
『アラディア、あるいは魔女の福音』という本に登場する、魔女達の女神の名前を冠する女性。
同じく『橋架結社』に所属するボロニイサキュバスからは「根は真面目で、だからこそ爆発しやすい面倒な娘」「公務員としては成功するけど、賭け事としてはジリ貧で負けていく性格」と言われている。
しかし、その実力は魔術サイド全体に匹敵すると評されるほど高い。
彼女の願いは、簡潔に言えば長い歴史の中で虐げられてきた魔女達を救い、差別や偏見から守ること。
あらゆる魔女達を守る存在になり、あらゆる救済の枠組から爪弾きにされた人々を支える最後の盾となる。
彼女はそれを叶えるためならば、その手を血で汚す行為すら躊躇わない。
魔術
『熊の脂肪』
苦悶の表情を浮かべた人面のような、粘つく黄土色の臓物じみた液体を大量に作り出し、相手の居場所を『検索』する術式。
この粘液は黄土色からどんどん変色していくと、やがて黄色い人間のシルエットを形作る。そして『検索』対象の相手を感知すると、車よりも速いスピードで滑るように動き出す。対象が黄色いシルエットと同じ面(床や壁、天井といった面)に触れている時に感知するようで、空中に逃れる何かしらの方法があれば回避は可能。
しかし『検索』の精度が上がると、その条件を無視して対象に向かって襲いかかってくる。
ボロニイサキュバスが言うには、本来は冬の寒さから裸体の魔女を守るための防御用術式らしく、戦時中のイギリスで魔女達が寒さを凌ぐために『熊の脂肪』で作った膏薬が由来。
創約6巻では、それを『上条当麻のみを検索する術式』として応用するため、検索条件に雑菌やバクテリアといった、顕微鏡サイズの『小さな生態系』を入力。これらは肌質や匂いなどを決める分岐点なので、必ず人によって個性のパターンが出る。『熊の脂肪』はこのパターンを識別して上条とボロニイサキュバスを追いかけ回した。
『虫除けの術式』
10m大の楕円形に近い形の閃光を放つ術式。実際は『唇』の形のようで、作中ではこれを「死を招くキスマーク」と表現していた。
虫除けは豊作祈願に具体的な形を与える自然制御、という魔女の代表的な仕事の一つ。アラディアはそこから転じて、一帯から標的を識別して殲滅を行う術式として組み上げた。
不可視の衝撃波
唇に二本の指を当てて笛のようにそっと息を吹く事で、爆発に似た見えない暴風を生み出す術式。
これを見たボロニイサキュバスが「森で暮らす魔女は暴風を自在に操り王家の船を揺さぶる」と語っているので、そういう逸話から作り出した術式なのかもしれない。
膏薬による浮遊
魔女はホウキに跨がって、正確にはホウキに塗った膏薬で空を飛ぶ。そんな絵本の空想を実現させた術式。
必ずしもホウキである必要はなく、創約6巻では回し蹴りで切断した歩行者用の信号機に乗って空中に浮かび上がった。
『三倍率の装填(リロードスリータイムス)』
「構わないわ」
「すでに、三倍の利子をつけて返してもらっているから」
術者の行いを、善行ならば三倍の幸福、悪行ならば三倍の不幸として返す、実践魔女(ウィッカ)の術式。
実践魔女の世界では、常に三倍の法則が働く。それが善行であれ悪行であれ、一人の魔女が使った魔術は巡り巡って必ず三倍の強さで使用者に戻ってくる、という鉄則。故に魔術で金を盗んだ魔女はその三倍を失い、故に魔術で人を殺した魔女は三倍の勢いで致命傷を浴びる羽目になる。
しかしアラディアの場合、自身の様々な行動を『親切や善行』と解釈する事で、『悪い事をすれば悪い事が三倍になって舞い戻る』という魔女のストッパーを無視している。さらに、その効果を三倍の三倍の三倍……という倍々ゲームのように無限に積み重ねていく事が可能。
この「善行というものに対する解釈」の幅がとても広く、例えば「相手に攻撃を避けられたけど、攻撃を当てなかった事でお互いに衝突は避けられた」「攻撃を当てても倒せなかったけど、問答無用の一撃で殺さなかった自分は優しい」などという明らかに屁理屈な言動であっても三倍返しの術式は機能する。
ただ常日頃から善行を繰り返すだけで、あるいは、そうできたと判断を下される状況を作るだけで、やがては魔神だろうが超絶者だろうが瞬殺できるほどの力を膨らませられるほどの性能を秘めている。
実際に創約6巻の上条との戦闘では「世界救済レベルの善行を三倍で返す」にまで力を増幅させていた。
実はこの術式を扱うには必要な手順が存在し、それは魔女が薬品を作る際に用いるように、ミント、シナモン、ガーリック、バニラ、ジンジャー、カカオ、ラベンダーといった身近な『薬草』を足元で調合して『膏薬』にするといったもの。
具体的には自身の踊り子の服の柔らかい金具に、それぞれ薬を練り込んだ上で保管しておき、必要に応じて金具同士を擦り合わる事で削って粉末化する。それを足元にこぼれさせ、裸足で踏んで汗や皮脂と混ぜ合わせて調合すれば『影』をパレットとして作り変える事ができる。アラディアはこの『影』で膏薬を作り、状況に合わせて上記の魔術を使用していた。
しかしこの『影』の形は足元で固定されてしまうから、複数の方向から光を浴びた場合は影の形も濃さも変化しないため術式の正体がバレてしまう。さらには、地面に自分が調合したものと無関係な植物類を巻き散らされたり、消火ホースの放水で地面を洗われたりすると弾詰まりを起こす欠点も存在する。
一応この弾詰まりに関しては、足で地面を二回叩く事で『浄化』できる様子。
それを踏まえても強力な術式である事には変わりなく、作中では以下の現象を引き起こした。
- 素手で上条の胴体を貫く。
- 高層ビルの全ての窓が砕け散った大量の破片を静止させ、弾丸の如き速度で放つ。
- 光の壁を出現して大型トレーラーを押し返し、半ばスクラップ化する。
- 指を鳴らした瞬間にガス管を数回炸裂させる。
- ただの蹴り一発で、同格のボロニイサキュバスに致命傷を負わせる。
- 回し蹴りで歩行者用信号機を根元から切断する。
- プラネタリウムのように光の筋が夜空を埋め尽くし、世界を三回救えるほどに力を収束させる。
『布教』
「「「聖魔女様のお導きの通りに」」」
アラディアの衣装と白紙のルーズリーフ型魔道書『影の書』を布教する事で、魔術の存在を知らない一般人でも『三倍率の装填』などの魔術を扱えるようにする術式。
流行語やネットスラングのような、何でも良い秘密の合言葉を共有する事で一体感と、同時に意味を読み解けない者への優越感を生み出していく。この感覚が重要であるため、実はこの「聖魔女様のお導きの通りに」という言葉に特別な意味は無い。そういった言葉を繰り返す事で目には見えない絆を錯覚させ、自分は何か大きなものの一員となって守られていると思わせる。
得体の知れない準備期間は面白いし、みんなと一緒に手を動かして作業するのは安心できる、という集団心理を利用し、中世のサロンで横行したサバトを再現する。そうしてアラディアから『分け与えられた』者達は、みな魔女と化す。
創約6巻では渋谷に集まった、若者から老人までの約10万人もの人々が『布教』され、実質的に10万人のアラディアを作り上げた。
『影の書』
魔道書と表記されているが、これは今まで出てきた「力のある魔術師が書き記した魔道書」の事ではなく、アラディアに『布教』された一般人が彼女から授かった知識をただ記したもの。魔女になった時点で彼らも魔術師にはなっているが、特に『毒』で苦しんでいる描写は無かったため、おそらくこのルーズリーフ自体には何の力も宿っていないと思われる。
超絶の魔術
「夜と、月と、それから魔女。……ヘカテ、イシス、モリガン、フレイヤ。太古、叡智を司る女性の神は常に三つの側面をもって世界を正しく見据え、傅く巫女達を力強く守護してきた」
「解放、する……。リスク4、三重封印分解・人域離脱。この身を三相女神とするべくここに作用してッッッ!!!!!!」
上条当麻の幻想殺しによって不発で終わった、アラディアの最後の切り札。
正体が明かされないまま終わってしまった術式だが、上述の口上や作中の描写から、アラディアを人間の域から高次の存在にする、という何らかの変化(進化?)を起こす魔術であると推測できる。
余談
あのアリスと所属を同じとする魔術師で、創約6巻から新たに登場した『超絶者』という枠組み。
その初の敵として上条達と戦ったアラディアだが、読者からの評価は微妙な声が結構多かったりする。
確かに扱う魔術自体は強力なものではあるが、「試練の難度に合わせて最適な出力を行う右腕を持つ者」、「魔術サイドの総力の99.9%を占める頂点」、「相手が想像した攻撃の威力・範囲を10倍に引き上げる杖を持つ人間」といった強敵達と比べると、些かインパクトが弱かったのだと思われる。
しかし、創約6巻で「世界救済レベルの善行を三倍で返す」「世界を三回救うほどの莫大な力」と言及されている通り、アラディアが強大な存在である事も確かで、まだ彼女が超絶者としての全力を見せていない可能性だって全然ありえる(事実、創約6巻の終盤では何か切り札を出そうとした直前で上条に阻止された)
何なら超絶者の本領は、そう言った「分かりやすい強さ」とは別のところにある可能性もあるので、今後の展開に期待しよう。