概要
ガロ系作家は、個性的で独自の表現手法を用いるため、作者の独自世界が強く一般的な商業雑誌の漫画とは明らかに一線を画したオルタナティブ志向の漫画は「ガロ系」と呼ばれる。
語源は、1964年から2002年頃まで青林堂が刊行していた『月刊漫画ガロ』に掲載されるようなカルト的な漫画作品を総称して「ガロ系」と1970年代初頭から呼称され始めたのが由来。
『ガロ』をはじめとするガロ系漫画雑誌には実験精神や開放的な誌面が設けられ、個性的な作家陣が集まる混沌とした世界観が形成される。題材となるテーマとして実験的、先鋭的、刺激的、解放的、反社会的、攻撃的、変態的、叙情的、自省的、日本的、土着的、ナンセンス、アナーキー、へタウマ、エロス、ほのぼの、日常、自由、差別、闘争、無常、異常、過剰、屈折、破滅、憎悪、耽美、猟奇、卑怯、猥雑、根暗、倦怠、欲望、嫉妬、混沌、不条理などが挙げられる。
またベースとなるテーマが人間の「業」である作品が多い。
現在において『ガロ』出身でなくても、作家性が強く商業主義的でない奇異な作風の作家は「ガロ系」と表現される。また、彼等の作風は、海外の「アンダーグラウンド・コミック」「オルタナティヴ・コミック」などの作家たちとも親和性が高い。
ガロの表現性
『ガロ』は作家性が強く各々独特な独自の作風をもつ。これは大手出版社の表現の不自由さに突き当たった結果であった。
青林堂の社長・長井勝一と編集者の高野慎三(権藤晋)は”既成のマンガのワクを乗り越え、新しいマンガの創造を”と謳った「白土テーゼ」(面白主義)を信奉し、つげ義春以降の漫画表現に大いなる関心を寄せた。
『ガロ』の先見性は新たなる時代を予感させ全共闘時代の大学生に強く支持され一世を風靡、サブカルチャーの新時代を築き漫画界の異才をあまた輩出した。
『ガロ』独自の編集方針こそ「作家のオリジナリティを遵守」であることから編集者の干渉が少なく若手漫画家に自由な作品発表の場を提供し、商業性よりも作品そのものを重視した。その結果、良くも悪くも、『ガロ』は極めて自由でアナーキーな雑誌となり、編集部も他誌では敬遠される前衛的実験的な作品も意欲的に掲載する方針を貫いた。結果『ガロ』は漫画の表現を広げるに至った。
『ガロ』の評価は依然高かったが、一般層を対象としていないため、学生運動の衰退もあり慢性的な経営不振に陥いった。1980年代に商業作品を重んじるオタク文化が確立していくと、「サブカル」はオタクを下に見ているという反感を買うようになってしまう。また不況も悪化し、不条理が現実のものになったことで不条理を娯楽化するという余裕は無くなっていった。
原稿料ゼロが当たり前となる状況が続くも、『ガロ』はサブカル層にとって憧れの存在であった。ここには原稿料ゼロでもファンに支えられ「金」には変えられない、作家と雑誌との強い結びつきがあったことが窺える。
その先見性と独自性で『ガロ』は一時代を画し、単なる漫画雑誌ではない足跡を出版界に遺した。『ガロ』自体は、青林堂の内紛分裂騒動で休刊となり現存していない。しかし『ガロ』の編集方針は青林工藝舎発行の漫画雑誌『アックス』に今も受け継がれている。
近年は商業性度外視が可能なweb漫画の世界において「ネオ・ガロ系」ともいうべき芸術性の高い漫画作品が多数存在する。ただし若い世代との間で知識の隔絶が起きたために「ガロ系=戦前趣味ないし戦前回帰主義」という認識がされている傾向もある。
主な作家
月刊漫画ガロを参照
主な雑誌
刊行中
アックス(青林工藝舎)
青林堂から分裂した青林工藝舎によって1997年に創刊されたオルタナティヴ志向の隔月刊誌。青林堂の『ガロ』と同じく原稿料が出ないが、毎年行われる青林工藝舎主宰のアックスマンガ新人賞には約300点もの漫画作品が投稿されている。
幻燈(北冬書房)
漫画・評論雑誌。同社が1972年から刊行していた漫画誌『夜行』の後継誌に相当する。不定期刊行中。
コミックビーム(エンターブレイン)
漫画家の個性を生かした濃厚な作品を載せているのが特色。
月刊COMICリュウ(徳間書店)
1986年に休刊した同社の漫画雑誌『リュウ』の誌名を受け継いで2006年9月に創刊された。2011年8月号をもって休刊。2012年の3月より復刊。その後、2018年の7月より『COMICリュウWEB』として再出発。
月刊アフタヌーン(講談社)
漫画表現の自由度が高いため非常に個性的な作品が多く掲載されている。
漫画雑誌 架空(高田馬場つげ義春研究会/セミ書房)
不定期刊行の同人漫画誌。第14回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。
休廃刊
月刊漫画ガロ(青林堂)
1964年に青林堂の長井勝一によって創刊された月刊漫画誌。日本のサブカルチャーの源泉である。1997年に勃発した青林堂の内紛分裂騒動が元で休刊復刊を繰り返し、月刊から隔月刊になり季刊化した後、オンデマンド出版に移行するも1号で終わる。そのような迷走を繰り返した後、2011年2月に発売されたiPad用の電子書籍アプリ『ガロ Ver2.3』で事実上の廃刊状態となっている。
COM(虫プロ商事)
「まんがエリートのためのまんが専門誌」がキャッチフレーズで1967年から1973年まで虫プロ商事から発刊された漫画雑誌。『ガロ』を強く意識し両誌はライバル関係と目された。1973年に発行元の虫プロ商事が倒産、自然消滅となった。
Peke(みのり書房)
1978年に『月刊OUT』の姉妹誌として創刊された漫画マニア向けの新興誌として登場。作家陣に吾妻ひでお、いしかわじゅん、さべあのま、大友克洋などのニューウェーブ漫画家を多数起用した。誌名を『月刊COMIC AGAIN』『月刊コミックアゲイン』『季刊コミックアゲイン』と変更しながら1985年まで刊行。
夜行(北冬書房)
1972年に創刊された不定期刊行の漫画・評論雑誌。1995年以降刊行されておらず廃刊状態となっている。
漫金超(チャンネルゼロ)
季刊漫画誌。”まんがゴールデンスーパーデラックス”が正式名称。ニューウェーブ漫画家を多数起用した幻の雑誌として知られる。 全5号が1980年から1981年にかけて刊行。告知されていた6号の刊行は現在まで行われていない。
Jam/HEAVEN(エルシー企画→アリス出版→群雄社出版)
高杉弾が創刊した伝説の自販機本。主な連載陣は蛭子能収と渡辺和博。
漫画エロス(司書房)
エロ劇画誌。1983年から1984年にかけて丸尾末広が代表作『少女椿』を連載した。
COMICばく(日本文芸社)
日本文芸社編集長・夜久弘がつげ義春に新作発表の舞台を提供するために創刊した漫画雑誌。1984年から4年間で全15号が刊行。
イヴ(アリス出版)
1980年代中頃に刊行されていた自販機本。蛭子能収、根本敬、山野一、平口広美、桜沢エリカ、永田トマト、杉作J太郎、霜田恵美子、湯浅学、幻の名盤解放同盟などが執筆していた。ちなみに漫画家の山田花子は根本敬の死体漫画を読むために自販機で同誌を毎月買っていたという。
アメージングコミックス(笠倉出版社)
1988年から1989年にかけて全5冊刊行。
漫画スカット(みのり書房)
エロ劇画誌。1980年代後期は山野一(ねこぢるy)や山田花子などが執筆。
COMICアレ!(マガジンハウス)
1993年から1997年まで刊行。
COMIC CUE(イースト・プレス)
1994年から2003年までイースト・プレスから刊行されていた漫画雑誌。独自の作風を持つ作家を起用し「読み捨てにできない漫画雑誌」を目指した。全300号刊行。
コミックエデン(兎菊書房)
新『ガロ』編集部により企画されたとされるアングラ色の強いアンソロジーコミック。Vol.1のみが発行され、Vol.2以降は発行されなかった。そのため事実上の『3号雑誌』といえる。兎菊書房も1999年に本誌創刊号を上梓した以外、活動が確認されず、すでに廃業しているものと思われる。
月刊IKKI(小学館)
「小学館のガロ」「小学館のアフタヌーン」と形容されるほど、マニア好みの作品が多い。2014年に休刊。
漫画少年ドグマ(ドグマ出版)
もともと商業ベースにのせる目的で作られていないアンダーグラウンドなミニコミ誌。現在4号までの刊行が確認。同社の類似雑誌に「キッチュ」がある。
少年少女SFマンガ競作大全集(東京三世社)
1978年創刊のニューウェーブ漫画誌。誌名を『SFマンガ競作大全集』『SFマンガ大全集』『月刊WHAT』と変更しながら1985年まで刊行。
コミック☆ワイドショー(洋泉社)
2004年創刊。青林堂や青林工藝舎系の作家が、テレビのワイドショーをネタに描いたサブカル系漫画雑誌。
走馬灯(高田馬場つげ義春研究会/セミ書房)
漫画主義
1967年創刊。権藤晋、石子順造、菊池浅次郎(山根貞男)、梶井純らが漫画研究のために創刊した日本初の評論漫画同人誌。白土三平、つげ義春、水木しげる等を評論の対象とした。
何の雑誌(幻堂出版)
なかのしげる主宰のインディーズ季刊漫画誌。幻堂出版の書籍は模索舎にて少数部数の取り扱いは行われていた。実売部数は1000部未満。
関連イラスト
入門書
- 長井勝一『「ガロ」編集長 』1982年 筑摩書房
- ガロ20年史『木造モルタルの王国』1984年 青林堂
- 文春文庫 ビジュアル版『マンガ黄金時代'60年代傑作集』1986年
- ガロ史編纂委員会『ガロ曼陀羅』1991年 TBSブリタニカ
- 白取千夏雄『全身編集者』2019年 おおかみ書房
関連タグ
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