概要
パーキンソン病とは、手の震えや日常の動作、歩行の困難など運動障害が起こる、進行性の神経変性疾患である。
厚生労働省が指定した難病(特定疾患)の一つに数えられている。
中脳の黒質という部位にある神経伝達物質「ドーパミン(ドパミン神経細胞)」の分泌が何らかの理由で減少することにより、神経に正常な情報伝達が行われなくなり、体を動かすのが難しくなる。
どの患者も例外なく進行し、年齢を重ねるごとに症状が悪化することになる。完全な治療法は未だ見つかっておらず、現状は薬でドーパミンの不足を補いながら、運動機能が大きく損なわれないようにリハビリ・ トレーニングをしていくという対処療法が主流となっている。
20代から80代までの幅広い年代で発症し、特に60代以上では100人に1人が罹るなど決して珍しい病気ではない。
2012年での日本国内の患者数は約108,000人。
人口階層の高齢化に伴い、患者数も増加していくと予想される。
病因
ドーパミンの中に「αシヌクレイン」という特殊なタンパク質からなるレビー小体が蓄積することで、ドーパミンの減少が起きるというところまでは解明されているが、αシヌクレインが蓄積する原因は完全には分かっていない。
食事や住んでいる地域など、発症の原因となる特別な理由はない。親から子への遺伝もしないが、ごく一部のケースは特定の遺伝子により発症しやすくなることが確認されている。
幅広い年代で発症するが、高齢になるにつれて発症しやすくなることがわかっており、加齢に伴い脳の細胞が変質していくためではないかと考えられている。
また、ドーパミンの欠乏によりパーキンソン病同様の症状が出るが、実際にはパーキンソン病ではない病気が原因の「パーキンソン症候群」も存在する。
「パーキンソン病」と比較したときの「パーキンソン症候群」の特徴は以下の通り。
- 症状の進行が非常に早い
- パーキンソン病の治療薬の効果が出にくい
- 自律神経症状や認知機能障害などが早くから出る
- 症状が左右対称、もしくは左右に極端な差がある
パーキンソン症候群は、パーキンソン病と同じく脳細胞(神経細胞)の病気が原因のものと、脳の血管にダメージを負う脳卒中(特に脳梗塞)や、ドーパミンの働きを妨げる薬が原因の薬剤性のものに大別される。脳細胞の病気では多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症などが挙げられる。
CTやMRIで判断しやすい脳梗塞を除いて、初期症状の段階ではパーキンソン病と区別しての診断が難しいため、治療も難航する傾向にある。
認知症(アルツハイマー病)や慢性外傷性脳症(いわゆるパンチドランカー)とも類似する部分が多い。
症状
以下の4つがパーキンソン病特有の大きな症状として挙げられる。
- 意識してないのに体が震える(振戦)
- 筋肉が固い、凝りやすい(筋固縮)
- 体が動かしにくい、動作が鈍くなる(動作緩慢)
- 腰が曲がる、歩幅が小さくなる(姿勢・歩行障害)
これらの運動症状が見られることで診断に至る。
他にも、同時に2つの動作をしたり、自分でリズムを作って動いたりするのが難しくなるというものがある。
また、運動機能以外の症状もあり、自律神経の乱れによって起こると考えられている。
- 便秘
- 頻尿
- 発汗
- 立ちくらみ
- 気分が晴れない(うつ状態)、脱力感や不安
- 手足の痛みやしびれ
などの非運動症状があり、またこれらは運動症状の「前触れ」として起こることが多い。
認知機能障害を起こすことも多く、脳の損傷による高次脳機能障害に近い傾向がある。
治療法
現状、完治できる治療法は見つかっていないため、基本的に予防・対症療法となる。
一般的には不足したドーパミンを薬で補い、運動症状を抑える薬物療法が用いられる。経口薬や貼付剤が基本だが、症状が進行してきた患者向けに、装置(デバイス)を体と繋いで治療を行うデバイス補助療法もあり、現在の日本では専用のポンプとチューブを利用して小腸に直接薬剤を送る「経腸療法」と、脳の特定の部位に電極を入れて電気刺激を与える「脳深部刺激療法」が行われている。
1980年代には、中絶胎児から得た脳細胞を移植することで症状改善が見られたという報告があるものの、倫理的問題などから実用化はされなかった。
代わってIPS細胞による移植で黒質などの再生を図る、細胞移植療法の治験が2018年から試みられている。
体を動かさなくなることで症状がさらに進行し、転倒(またこれによる骨折)のリスクも高まることから、散歩やストレッチなどの運動療法、リハビリテーションも重要である。
現代におけるパーキンソン病患者の平均寿命は、患者でない人のそれと大きな差はないとされ、適切な治療を行えば発症から10年程度は普通の生活を送ることが可能である。
一方、認知症を合併すると余命が3年程度にまで縮むという報告もあり、中でもレビー小体型認知症の発症率は高い。
珍しくない病気ではあるが、筋肉がこわばることで表情が固くなりがちであり、手足の震えや独特の姿勢の悪さなどから不気味がられることがあり、また舌やあごの筋肉が動きにくくろれつが回らない、抑うつ・不安をはじめとする気分障害や、時に幻覚・幻聴などが見られることから、周囲とのコミュニケーションにも影響する場合がある。
パーキンソン病の著名人
公表している人物として、海外の人物ではモハメド・アリ、マイケル・J・フォックス、ヒラリー・クリントンなど。
マイケル・J・フォックスは「私がパーキンソン病になったことで、逆に多くの人々にこの病気のことを知ってもらう機会を得た」と語っている。
このほか、アドルフ・ヒトラーは生前の映像や音声からパーキンソン病の傾向が見られるという指摘がある。