劇症肝炎
げきしょうかんえん
肝臓は、身体に必要な物質を合成し、薬物や身体に有害となる物質を解毒、排泄するなど、生命活動にとって重要な役割を担っている。肝臓の中で、これらの働きを担う細胞(肝細胞)が急激にかつ大量に壊れることによって、その機能が低下する病気が劇症肝炎である。
肝臓の機能が低下すると、血液を凝固させるために必要なタンパク質(凝固因子)の産生が失われ、また、身体に有害な物質が蓄積して意識障害(肝性脳症)が出現する。もともと健康な人に全身のだるさ(倦怠感)、吐き気、食欲不振など急性肝炎と同じ症状が現れてから8週間以内に肝性脳症が見られ、血液中の凝固因子が著しく低下した場合に劇症肝炎と診断される。
肝細胞は増殖する能力に富んでいるために、急性肝炎の大部分は、肝細胞が壊されても自然に元の状態に戻る(肝再生)。しかし、劇症肝炎ではこの破壊が広くおよぶために、肝細胞の増殖が障害されて、適切な治療を行わないと高い確率で死亡する。
A型肝炎・B型肝炎・E型肝炎などのウイルス性肝炎、アルコールによる肝障害、薬物による肝障害、毒キノコ(特にドクツルタケなどの猛毒きのこ)の中毒などが原因となり得るが、日本では特にB型肝炎による劇症肝炎が多い。
最初の症状としては、発熱、筋肉痛などの風邪のような症状、全身のだるさや食欲不振などが多くみられる。次いで、尿が濃褐色になったり、皮膚が黄色くなったりする(黄疸)。最初の症状が軽度で、黄疸がでて初めて病気に気づく場合もある。
通常の急性肝炎では黄疸がでてからは全身のだるさなどの症状が軽くなるが、劇症肝炎に進む場合は、これらの症状が持続するかまたは逆に強くなり、やがて肝性脳症が現れる。
肝性脳症の程度は様々である。昼と夜の睡眠リズムの逆転、服装や姿勢が乱れていても無関心でいたり、さらには、TPOなどを間違えたり、興奮して暴れたりするようにもなる。重症になると、眠ったままで呼びかけや痛み刺激に反応しない状態(肝性昏睡)に陥る。
劇症肝炎では、多臓器不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)、消化管出血、腎不全(尿毒症)など、様々な重大な合併症が起こることが多い。