概要
英語ではamyotrophic lateral sclerosisと称し、頭文字を取ってALSと略される。
運動ニューロン病の一つで、全身の筋肉の萎縮と筋力の低下をきたし、徐々に動くことや話すことができなくなっていく病気。
運動をつかさどる神経(運動ニューロン)が何らかの障害を受け、「体を動かす」という脳からの命令を筋肉に伝えられなくなり発症する。
筋肉を動かすことに障害が起こる一方で、全身の五感や内臓の機能はそのままの状態を保っている。このため、(比較的)軽度のうちは、紙に手書きするのは難しくてもコンピュータに文字を打ち込んで筆談をしたり、手足が動かなくなってきても口でペンを咥えて絵を描いたりということで意思疎通を図る人もいる。
症状が現れる場所やその進行具合には個人差が大きく、足から徐々に動かなくなっていく人、口周りの筋肉から進行してまず上手く話せなくなってしまう人などさまざまである。
重度になると、肺や気道など呼吸器の機能が停止してしまうため、話すことはおろか自発呼吸もままならなくなる。この場合は気管切開・人工呼吸器の装着により呼吸を補助することになる。
呼吸筋が麻痺してしまった場合、食事にも影響が及ぶ(嚥下障害などが起こりやすくなる)ため、胃の中に直接栄養剤を送り込む胃ろうの造設手術を受けることも多い。
2023年時点でも、発症に至る根本的な原因は解明されておらず、根治的な治療方法は見つかっていない。基本的には病気自体の進行をある程度遅らせるための治療と、それぞれの症状に合わせた対処療法的な治療が行われている。
自身もALS当事者である医師の梶浦智嗣によれば、かつては発症した人の平均寿命は2〜5年ほどとかなり短かったが、テクノロジーの進歩や治療法の確立で患者の寿命は伸びてきており(都立神経病院の調査では「胃ろう造設をして栄養管理を行いながらTPPV(※侵襲的人工呼吸療法。気管切開して人工呼吸器を装着する療法のこと)をしているALS患者の生存期間中央値は20年」となっている)、梶浦も「ALSは死ぬ病気ではなく、ともに生きていく病気」になっていくであろうと考えているという。→参考
症状の進行で自発呼吸ができなくなり、人工呼吸器を利用することになった患者は、会話による意思疎通が難しくなってしまう。
そこで、眼球運動の読み取り(アイトラッキング)、脳波によるコンピューターのコントロール(意思伝達装置の利用)がコミュニケーションの手法として研究されている。また、患者の中には、これらの手法と並行して、声の出るうちに自分の音声を録音し、音声合成ソフトを活用して会話を行う方法を取っている人もいる。
一方で、ALS患者の約10%が眼球を動かす筋肉にまで影響が及んで、目を開けられなくなってしまうとされる。この状態を「TLS(TOTALLY LOCKED-IN STATE、完全な閉じ込め状態)」といい、当事者の中でも非常に不安視されている。
発病の詳しい原因やメカニズムは不明であるが、神経の老化との関連や、興奮性アミノ酸の代謝異常、酸化ストレス、タンパク質の分解障害、あるいはミトコンドリアの機能異常などが考えられている。
50〜70代での発症が最も多いとされるが、若年層でも発症する可能性はある。
1年で人口10万人あたり1.1 - 2.5人が罹患・発症するとされており、女性よりも男性のほうが1.2-3倍多く発症するとされている。
10%の患者が発症から1年以内に亡くなるとされる一方で、5〜10%の患者が発症から10年後も生存しているという調査結果が存在し、発症の原因や経過には個人差も大きい。
筋ジストロフィーやパーキンソン病などは似た症状を呈するが、その性質や原因、病理は異なる。
ALSのyoutubeCM
アイス・バケツ・チャレンジ
2014年にアメリカで始まった、ALSの支援と啓蒙を目的とした社会運動のこと。
バケツに入った氷水を頭からかけている様子を撮影し、それをFacebookやTwitterといった交流サイトで公開する、あるいは100ドルをALS支援団体に寄付する、あるいはその両方を行うかを選択する。
さらに、次にやってもらいたい人物を3人指名し、指名された人物は24時間以内にいずれかの方法を選択するという活動である。
詳細は当該項目を参照のこと。
罹患した人物、キャラクターなど
50音順。百科事典内に記事のある人物、キャラクターに限定。
現実
- 瑳川哲朗:俳優
- 篠沢秀夫:フランス語学者
- スティーヴン・ホーキング:物理学者※罹患者としては非常に珍しく、途中で症状の進行が止まり、その後も数十年間生存していた。
- 津久井教生:声優
- 徳田虎雄:医師、政治家
- 毛沢東:中華人民共和国初代国家主席※ただし、実際にALSであったか、似た症状の別の病気であったかは現在でも議論がなされている
- ルー・ゲーリッグ:元メジャーリーガー※同病の別名「ルー・ゲーリッグ病」の由来。実母も発症していた。
フィクション
- 金子シャロン(宇宙兄弟)※作中では伊東せりかの父親も同病で他界している。なお、現実でもせりかにちなんでALS研究支援のための「せりか基金」が設立されている。
- 呂布奉先(一騎当千)※漫画版でのみ病名に言及
そのほか
- スポンジ・ボブ:原作者のステファン・ヒーレンバーグが同病が原因の心不全で亡くなっており、世界中のファンから哀悼のコメントが寄せられた。
関連タグ
関連リンク
END ALS:ALS当事者であるヒロ(藤田正裕)によるyoutubeチャンネル。2019年には同名の一般社団法人を立ち上げている。