概要
ウリ科キュウリ属の蔓性植物で、学名は「Cucumis melo var.Makino」。
果物として有名なメロン(C,melo)や漬け物でよく知られるシロウリ(C,melo var.conomon)とは近縁種にあたる。
現在まで原産地の特定はなされていないが、おそらく中近東辺りと考えられ、原種が東洋に伝わってできたのがシロウリやマクワウリ、西洋に伝わってできたのがメロンとする学説が有力視されている。
原種として推定されているものに雑草メロンと呼ばれるものがあり、うずらの卵から鶏卵ほどの大きさで色も様々である。しかし、果実は猛烈な苦味を持ち、熟しても甘くはならない。
歴史
日本への渡来時はおよそ弥生時代ごろと言われ、当時の遺跡から炭化した種子と果実が発見されている。名の由来は美濃国真桑村(現岐阜県本巣市)が一大産地であったことから。当時から水菓子として食されており、有名な例では奈良時代の歌人・山上憶良が「子らを思ふ歌」にマクワウリを詠んだ例がある。他にも、織田信長が朝廷にマクワウリを献上したことが桃山時代の公卿の記録(山科時経日記)に残っている。
江戸時代には特に人気があり、当時はスイカやキュウリよりも好まれていた。江戸時代当時のスイカは現在のものほど甘みは強くなく、また、キュウリは全体的に苦いものが多かったためである。
こうして、戦後までマクワウリは庶民の果物として好まれていたが、昭和三十年代の終わりの頃昭和天皇の皇太子殿下(平成上皇)のご成婚の年にマクワウリとヨーロッパ系メロンの交配種であるプリンスメロンが世に出てからは、甘みが西洋のメロンほどはないマクワウリはほぼ顧みられなくなった。
現在は地元の農家の方々が農協に出荷しているくらいだが、地産地消のブームもあり珍しい伝統的品種が再注目されている。
しかし、韓国など他のアジア圏では現在でもよく食べられているとされる。
品種
地方ごとに色や形が様々な品種がある。
黄マクワ
果皮が鮮やかな黄色をしており、果肉は白。多くは米俵型か柄に近い部分がやや細くなった洋梨型。
愛知県の金俵まくわうりや奈良県の黄金まくわうりがこのタイプ。福岡県ではこの系統の品種をお盆のお供物にする。
銀マクワ
果皮が黒みがかった黄緑色で、縦に濃い緑色の細い縦縞があり、熟すとやや光沢が出る。果肉は鮮やかな黄緑色。果実の形状は俵型か柄に近い部分がやや細くなった洋梨型。
新潟県の甘露マクワウリ、滋賀県のなり駒、東京都の本田ウリがこのタイプ。岐阜県本巣市真桑村の種類は一見すると黄緑色で銀マクワの系統だが熟すと黄色みが強くなる。
真渡瓜
福島県会津地方で明治時代から栽培されていた品種。銀マクワの系統とされる。果皮は鮮やかな緑色をしている。果実は甘味はさっぱりとしていて美味しいが柔らかくなりすぎやすいので一時栽培が途絶えた。
菊メロン
果実が上から見るとキクの花のように見える珍しいマクワウリ。カボチャのように縦溝が走り、果皮も果肉も純白である。熊本県での栽培が多い。色は違うが岩手県の南部金マクワ(黄マクワ)や滋賀県のなりくらマクワ(銀マクワ)は形がよく似ている。
虎御前(成款)
滋賀県で栽培されてきた品種。果皮はペールグリーンで、不規則な黒っぽい緑色の豹柄にもみえる模様が入る。熟した果実を果物として生食し、未熟果を漬け物に加工して食用にする。
バナナマクワ
果実が細長い洋梨型に成長する品種。メロン類には珍しく、ねっとりとしたバナナに似た食感がある。果皮は黄色。
銀泉マクワ
黄色地に白いたて溝が入る富山県の伝統品種。菊メロンと黄マクワの自然交配が固定化されてできたものとも言われる。韓国でも同形の「チャメ」というウリが栽培されている。
コヒメウリ
新潟県で古くから栽培され、お盆のお供えや子供のおもちゃとして利用されてきた。果実は純白で模様はなく、個体によってはクリーム色になる。大きさは温州ミカンほどで、見た目の可愛らしさや用途から「ひめうり(姫瓜)」「ごしょうりょうさまのうり(御精霊様の瓜)」とも呼ばれる。
未熟果を漬け物とし、完熟果を果物として食す。枕草子の「瓜に描きたるちごの顔」はコヒメウリに描いた顔を指すのではないかという説がある。
ナシウリ
梨のようなしゃきしゃきした食感が特徴。果皮も果肉も純白である。果実は芳香が強くてあまり大型にはならず、そのままかじることができるほどである。若い果実を漬け物や炒めものにして食べることもある。栽培条件によっては全体が薄っすらと緑がかった色合いになるが、味は変わらない。
シマウリ
マクワウリの中でも大きい部類で、黄色地にスイカのように緑色の縦縞模様が入る。植物学上ではモモルディカメロンという品種群に属する。果実は甘い香りが強いにもかかわらず、果肉には甘みがなくしかも果汁が含まれず粉っぽいため、これを食べたお婆さんが喉をつまらせむせることからババゴロシという物騒な地方名もある。現在は八丈島と福江島に見られる。コンデンスミルクや蜂蜜、砂糖など甘味の強いものと食す。こうしたタイプの品種は中近東にも見られるという。
網干メロン
兵庫県網干で栽培されているマクワウリ。1930年代に作出され、マクワウリと西洋メロンの交配種が栽培されていくに伴い固定化したものであるとされる。
果肉はきれいな黄緑色で、マクワウリの中では甘味が強い。他に加古川メロンや妻鹿(メガ)メロン、ペッチンウリなど兵庫県にはマクワウリの古くからの栽培品種が多い。加古川メロンや妻鹿メロンは生食用だが、ペッチンウリはもっぱら若い果実を漬物にする。
タイガーメロン
果実は俵型で、黄色地にスイカのように緑色の縞模様が入る面白い品種。八丈島や福江島で栽培されるシマウリ(ババゴロシ)とよく外観が似ているが、関連性は不明。
さっぱりとした味が特徴で、果肉は黄緑色。マクワウリの中では病気に強めで育てやすい。
ニューメロン
日本梨に似た丸っこい形が特徴のマクワウリ。戦前に育成され、マクワウリの中でも栽培が容易。果皮は白っぽい緑色だが、熟すと黄色みが出てくる。果肉は黄緑色もしくは白色。甘味は比較的強いものの、ベタベタに甘いわけではなく、さっぱりとしたほどよい甘さ。家庭菜園で人気の一種で、固定種であるため、美味しかった果実の種をとっておいて来年の春に撒いて栽培できる(ここで紹介したマクワウリの品種はすべて固定種で、種を取っておいて翌年栽培しても形質に変化が見られにくい)。鹿児島県には、甫立メロンという本種に形状がよく似た品種がある。
現在、初夏になると市場で見かけるプリンスメロンは本種(ニューメロン)とフランスのCharentaisというメロンの交配種である。
利用法
果実を割って種を取り出し、そのまま生食する。このとき、わずかにワタを残す。一番甘味が強いのは種子のある中心の部分であるから、切り分けるのには多少の注意を要する。しっかり熟してから食すとスイカよりも甘くなるという。完全に熟すと蔕の回りを囲むようにヒビが入る。ただ、見栄えが悪いため市場で完熟のマクワウリを手に入れるのは難しく、「思ったより甘くない」という意見の多く出る理由は完全に熟した状態で収穫されていないため、追熟しても甘みが乗りにくいのである。
また、未熟な果実は漬け物や炒め物等、シロウリのように食べる。
他にも、丸くくりぬいて白ワインを入れても良い。中世ヨーロッパではメロン類の種子を抜いてから白ワインを入れ地下室で冷やす(現在ならば冷蔵庫が良い)のが流行ったそうだ。
また、未熟な果実や蔕を瓜蔕(かてい)として漢方薬に利用し、催吐剤に用いる。
マクワウリは火照った体を冷ましてくれる果物だが、スイカと同様に食べすぎに注意すべきである。
備考
家庭菜園についての書籍では、メロンの栽培法に準じて記載されることが多い。現在では通販やホームセンターでマクワウリの種や苗を簡単に購入することができる。
また、購入して食べておいしかったマクワウリの種を保存しておき春に栽培してもよい。