概要
家庭に要介護の高齢者や障害者、難病やがん、精神疾患など慢性的な病人、世話をするべき幼児など、一人で満足に行動するのが難しい人がいる場合、(行政や医療機関、各種団体などを通じたサポートを受けることもあるが)基本的には同居する家族が生活の面倒を見ることとなる。つまり子供の事情に当てはまるが、ここではその社会問題について解説する。
子ども(大人の保護下にある未成年者)も家庭の一員として、そうした世話の手伝いをしたり、あるいは負担の大きなことを大人に任せて負担の軽めな家事を手伝うことも多い。
ところが、子どもでありながら本来大人が担うような負担の大きい役割まで任せられ、日常生活や勉学、友達づきあい、進路、心身の調子など、様々な場面に支障を来すケースが起こってしまっている。
そうした状態に陥っている子どもがヤングケアラーである。現時点では法令上の定義はないが、概ね18歳未満の未成年のことを指す。
家事や介助・介護を担わなければならない、というだけではなく、家族を養うため働いたり、精神的なケアをしなければならなかったり、といった状態も含まれる。
2021年の厚生労働省と文部科学省の調査によれば、世話をしている家族がいると答えた中学2年生は5.7%、全日制高校2年生は4.1%である。
「若者ケアラー」
「ヤングケアラー」は概ね18歳以下を指すが、実際には概ね30歳以下の若者も同じような問題に直面しているケースも少なくないため、家庭で家事や家族の世話などを担っている18〜30歳程度の人のことを「若者ケアラー」と呼び、さらに従来のヤングケアラーにあたる年齢層を「こどもケアラー」と呼ぶことも提唱されている。
若者ケアラーの場合、ヤングケアラーと同様に勉学に支障が出るだけでなく、就職活動、就労(キャリア形成)への影響や、人によっては家を離れられないため、結婚による独立や本人および配偶者の出産・育児など、将来設計への不安といった問題がある。
問題点
ヤングケアラーは負担と責任が大きすぎるため、子どもとして当然に認められる権利や自由が実質的に行使できなくなってしまう。
さらに、子ども自身が困っていることを発信しにくいため、なかなか周囲に気が付かれず、受けられるはずのサポートに繋がれないケースも存在する。
- 学業や友達づきあいなどに支障を来す。
- 精神的・身体的負担が大きすぎる。
- 通学と介護を両立しようとすれば、睡眠時間を削るなど体力が奪われやすい。特に身体的成長が十分でない子どもへの負担は大人以上になる。
- 身体的負担が精神的負担に転化することも多く、ストレスが大きい。心身ともに未成熟なため大人以上に重篤な状態に陥りやすい。子ども自身が精神疾患などを発症する原因となる。
- 精神的に追い詰められた末、世話をしている家族に手を出してしまう、家庭の外で不良行為に走るなどのリスクがある。
発生原因
親や同居する大人の怠慢の場合も中にはあるが、親の離婚や死別といった事情、親自身が病人や障害者である、仕事が多忙であるなどの理由で、家事をサポートできる存在が子どもしかいないというケースが多い。
実際に、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2019年に実施した「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」では、ヤングケアラーの家族構成は半数近くが「ひとり親とこども」であり、家族の人数が少ない分負担が大きくなってしまう状況にある。
金銭的な都合や情報不足から外部へのサポートを求められない家庭や、大人がいても幼い兄弟がいる、兄弟が要介護者である(きょうだい児)、複数要介護者がいるなどの事情により、子どもの面倒を見ることが困難な状況に陥っている家庭もある。
また、家族や子ども自身が「ヤングケアラー」という存在についてよく知らず、負担には感じているが支援体制があることを把握できていない場合ももちろんある。
どうしても「家庭の中だけで解決しよう」という姿勢が強く、周囲や家族に「家族なのだから子どもであれ手伝うのは当然」という意識が根強い人がいたり、「誰かに家のことを任せるのは恥ずかしい、気がひける」と考えていたりして、家族や子供が周囲にサポートを求められず(あるいは求めようという意識自体が起こらず)、気が付かれない状況であることも起こっていると考えられる。
先に挙げた調査研究においても、ヤングケアラーの子供のうち44.5%が「子ども自身は自分をヤングケアラーとして認識していない」状態であり、またヤングケアラーが行うケアそのものを支援する人がいない、と答えた人は54.3%にも及ぶ。このため、本人が「多少なりとも負担には感じているが、助けを求める方法がわからない」「周りに助けを求めるような状況だとは考えていない」ため支援に繋がれていない、というケースも少なくないといえる。
対策
介護などを巡る公的な支援制度は存在するものの、こうした制度は「介護される者の権利を守る」方向に集中しており、ヤングケアラーのように「介護する側」に注目した支援制度は十分とは言い難いのが実状である。
地方自治体が支援条例を制定するなど、問題意識も持たれるようになってきているが国がヤングケアラー対策を障害者基本計画の原案に盛り込んだのは令和4年に入ってのことであり、まだまだ対策は途上である。
家庭内における子どもの立場は弱く、子どもが声を上げることを前提とした仕組みでは大量の保護からの取りこぼしが起きてしまう。
また、親自身にケア・サポートが必要な状況となっており、非難することも難しい場合が多い。
結局の所は、公的な積極的支援、ひいては支援体制構築、支援の拡充が重要であり、さらに支援が必要な子ども本人にそれが周知される環境づくりが必要不可欠となる。