概要
江戸時代中期の学者である西川如見著の『華夷通商考』や広川獬の長崎滞在中の記録である『長崎聞見録』、そして『一宵話』などにその記述がみられる海獣、もしくは怪魚の一種。文献によっては「ラガルト」とも表記されている。
『華夷通商考』の記述によればその大きさは約二丈(約6m)で、腹の一部を除いて全身が鱗甲に覆われており、その方は左槍や刀、矢でも突き通す事ができない程の堅さを誇るとされ、口にはノコギリの様な歯がびっしりと生えているとされる。
『長崎聞見録』の記述では四本足で細長い尻尾と全身が鱗に覆われた姿をしているとされる。
性質は猛悪で、海中では魚を、陸に上がれば獣や人を襲って食らうとされるが、動きが遅い為、多くの場合はこれを避ける事ができるといわれ、また小魚には見向きもしないので、小魚たちは常にラガルの傍を泳いで、天敵から身を守っているとされる。
卵生で鷲の物に近い大きさの卵を産むとされ、陸に上がったラガルは地に涎を吐き、これを踏んで倒れた獲物に襲いかかりたちまち食らってしまう。
また、これに遭遇して逃げようと走り出せば必ず追いかけてくるが、逆に自身が追いかけられれば逃げていくという性質があるという。
ラガルにも天敵といえる存在がおり、ある魚は柔らかい腹の部分を狙って刺し殺し、またある子獣は身に泥を塗って口から腹の中へと侵入して五臓を食い荒らすとされるほか、雑腹蘭(サフラン)を植えている場所には近づく事ができないとされている。
また一説には人が鳴く様な声を出して遠くにいる人間を誘き寄せて近付いてきた所を襲い、たちまちのうちに噛み喰らい、涎で獲物を滑らせて転んだところを襲い掛かり食らう。水中にいる時は鋭い眼光が一度陸に上陸すると大いに輝くともされており、冬の間は何も食べず、舌が無いといわれている。
また『一宵話』にもこれと同種のおもわれる存在が蝦夷(北海道)に出現したとされており、それによると大きさは一丈(約3m)、鋭い爪にノコギリのような歯。鰐の様な体は鮫の様な強固な鱗甲に覆われており、如何なる大魚もこれには敵わず、たちまち食い殺され、陸に上陸して獣さえも喰らったとされる。
ただし足は速くなく、腹の部分は柔らかいという弱点が有り、人々は多くの犠牲者を出しながらこれを突き止め、何とか仕留めることに成功したとされている。
余談
ラガルトとはポルトガル語でトカゲを意味する言葉で、日本語をポルトガル語で解説した辞書である『日葡辞書』では“龍”が訳語としてあてられているらしい。