概要
兵藤和尊率いる大手消費者金融企業『帝愛グループ』が秘密裏に経営する裏カジノの店長。
原作では苗字のみであったが、2011年に製作された実写映画版の設定で『聖也』の名が付与され、同年に製作されたTVアニメ版でもカイジが破った名刺にこの名が写り、さらに2015年に発売された公式グッズでその設定が正式に反映されたことで姓名が明確となった。
パチスロ『回胴黙示録カイジ』では置鮎龍太郎、『回胴黙示録カイジ2』では遊佐浩二、アニメ『逆境無頼カイジ 破戒録篇』及び以降のパチンコ・パチスロでは浪川大輔が声優を務め、実写映画『カイジ2 人生奪回ゲーム』では俳優の伊勢谷友介が演じた。
来歴
高校在学時は優秀な成績を誇る秀才として学内にその名を轟かせていたが大学進学の道を選ばす、帝愛グループに就職して裏カジノの従業員としての勤務を始める。
懸命に勤務に励みつつ兵藤の気まぐれに任せた理不尽な振る舞いに敢えて従い、大学進学を経て一流企業への内定を掴み取ったと浮かれるかつての同級生の嫌味にも耐え忍び、最高幹部の1人として絶大な影響力を持つ黒崎義裕の庇護の下に力を蓄える中で徐々に頭角を現し、入社7年目にして裏カジノの店長に抜擢される。店長就任後は「一玉4,000円で最低750発を買う300万円の勝負から挑戦可能」という度外視の賭け金と、「一度でも当たればそれまでに累積された賭け金を総取りできる一発台」という博打の醍醐味を体現した裏カジノの目玉である巨大パチンコ台『沼』を編み出し、設定や構造にさらなる改造を施す。
黒崎の対抗勢力であった利根川幸雄の失脚という強力な追い風を受けて有力な幹部候補生として堅実に歩みを進めていた最中、一時的に地上に生還したカイジと沼の攻略に燃える坂崎孝太郎が結託して訪れた一度目の挑戦を軽くあしらい、新たな企みを携えて訪れた二度目の挑戦もあっさりと退けた上でカイジに制裁『血のマニキュア』を施す。その後、利根川の失脚以降に自身の立場を危うくしていた遠藤勇次を巻き込んだカイジと坂崎が三度目の挑戦に訪れ、お互いの知略と奇策を駆使して一喜一憂の戦いを繰り広げるが、幾重にも張り巡らせた鉄壁の防御を踏破する予期せぬハプニングの連続で追い詰められ、ついには万策尽き果てて敗北を喫する。
この勝負の顛末と7億円に昇る巨額の損失で兵藤の怒りを買うと即座に制裁『地下行き』(1000万円の損失で15年とされる目安の70倍に当たる1050年の懲役)が執行され、地下の何たるかをその身に刻むカイジが発した「雑魚を蹴散らし追い払い、這い上がって来い!倒してみろ、俺を!」とする再戦の誓いともせめてもの激励とも取れる言葉を満身創痍の背に受けて思わず感涙し、「当然だ!待ってろ!叩き潰す…、次は!」の返答を最後に兵藤の命を受けた黒服たちに連行される形で裏カジノを去って以降は音信不通、生死不明の状態となる。
ただし、作者である福本伸行曰く「一条はすでに地下から生還している」とする旨を2012年に開催された自身の原画展という公の場で発言しており、今後の出演の有無に関わらず生存の事実が示唆されている。
人物
男臭さを漂わせる登場人物が多い作中には珍しい美男子で、端正な顔立ちに形良く整えた長髪を持ち、かつ頭脳明晰という才色兼備の存在。普段は温和な雰囲気を醸し、スマートな物腰に反して多少の事では動じない豪胆を装っているが、その本性は冷酷にして狡猾。
入社から7年という速さで帝愛グループにおける幹部候補生としての立場を確立するに相応する野望の持ち主であり、それを支える確固たる思想や実力については黒崎も一目置いているが、沼に対する絶対的な自信が生み出す慢心に溺れている面があり、そうした自信を揺るがす想定外の事態に陥ると途端に慌てふためいて愚策に走る点や危険人物であるカイジの存在を軽視していた点など、帝愛グループで責任ある立場に身を置く者としての心構えの未熟さについては黒崎や兵藤から痛烈な指摘を受けている。
中間管理録トネガワ
スピンオフ『中間管理録トネガワ』において2回目の「沼」接待(定期的に沼の玉を抜くための演出)の様子が描かれている。
「接待とは言え手は抜かない」と発言しておきながら、実際には
・10玉中9玉は突破できる設定Y(釘の森を縫うように釘がYの字に打たれている)
・センサーを通るとタイミングよく開くように設定された役物(普段の逆)
・三段クルーンではフェニックスシステムなる装置を使用(はずれ穴に入った玉がそっから飛び出してくる)
という超激甘設定。(なお、原作でははずれ玉が復活したのは、ビルとクルーンの二重傾斜がもたらしたものだったが、フェニックスシステムは原理不明である)
最初は上記の発言もあって内心評価を上げて意気揚々と挑んだ利根川はこれらの甘すぎる接待に「接待が下手」「子ども扱い」「馬鹿にされてる気分」と呆れてしまい、沼の泣き声に関して「沼が泣いている…っ!」と腰を抜かしているフリをする一条に対し「バカッ…!そりゃあ泣きたくなるだろっ…!沼もっ…!」と嘆かれていた。
アニメ版では、これらの他に「話が長い」「くどい」も追加されている。
恐らく会長の横に並んでいる記念撮影の際の利根川の笑顔も本当は相当無理をしていたか、引き攣っていたのだろう
上京生活録イチジョウ
スピンオフ『上京生活録イチジョウ』では主人公に抜擢された。
上述の高校時代の後から帝愛グループに就職する前の彼の活躍であり、どうやって沼を開発したのかが描かれている。
岡山県の出であり、原作でも出ていた部下の村上とともに東京で成り上がることを夢見て上京している。理由は不明だが、大学には進学できなかったらしい。
日々ファミレスのアルバイトに精を出しながらオンボロの1Kアパートで村上と同居している。
意識高い系の若者だが自堕落なところもあり、自身の欠点に気づいてはひたすら己を卑下する癖がある。
基本的に金欠なので自炊しながら「貧乏メシ」と呼ぶオリジナルレシピを編み出している。
30話にて帝愛に対して「帝愛なんて入るぐらいなら死んだ方がマシ…オレはただ純粋に…やりたくないだけなんだ…!誰でも代わりがきく歩兵みたいな仕事なんて…!」と強烈な拒否反応を示していたが、帝愛で黒服をやっている芦田という知人から、エンタメ複合施設(とどのつまり裏カジノ)のプロジェクトメンバーの募集への参加を勧められ、そこで将来の上司となる黒崎と出会い、帝愛への就職を決めて住み慣れたアパートを離れた。
最終回では、カイジ本編後に帝愛を退社した村上が、かつての住まいだったアパートの部屋で思いを馳せていたところ、部屋の玄関ドアが開き、それを開けたのが地下を脱出した一条である事を匂わせるコマで本作は終了している。
(ただし一条の姿ははっきりとは描写されず、結末は読者に委ねる形で終了している。また、村上が直前でうたた寝しかけていることから、夢オチとも読み取れるような演出が施されている)
実写映画版
元々はカイジと同じ様に親友に騙される形で借金の連帯保証人になってしまい、地下帝国に送られた人物でカイジと同じブレイブメン・ロードの生還者でもある。
今までたくさん裏切りにあってもお人よしのカイジとは違い、裏切りや罵りあいをたくさん見てきた事で人間不信になっており、仲間を助けたいと思うカイジの事を「偽善者」として原作以上に敵視している。
終盤で追い詰められた際もカイジに「引き分けにし、3憶をやるから周りのクズ(利根川・坂崎・石田・E班の皆)を切れ」と言い、周りから冷たい目で見られた際も「皆都合が悪くなれば切る、他人なんて利用されるかされないか」と自分の理論を発言するが、カイジからは「可哀そうな奴」と評された。
最終的に原作と同じく敗北し、原作より少し刑期は短めとはいえ1035年の再び『地下行き』決まり連行される事になった。最後は原作通りにカイジに再戦の誓いともせめてもの激励とも取れる言葉を贈られるが、原作とは違い笑みを浮かべながら自らの意思で再び地下へと向かって行った。
なお、カイジは沼攻略後に利根川に嵌められて自身の取り分の金をまんまと騙し取られ、「他人なんて利用されるかされないか」と言った一条の言葉通りの末路を迎えるという皮肉な展開になっている。
(ただし、カイジは嵌められたという自覚無し)
余談
作中随一の美形であり、目的のためには手段を選ばないとする行動理念や7年の間に想像を絶する経験を経て現在の地位を射止めた苦労人であるという事実から、二次創作ではこれらを誇張して性表現を絡めた作品が少なくなく、実にその大半は被害者、または野望成就のために甘んじて相手の要求をのんで事に至る受け手として描かれる傾向にある。
原作から独立した二次創作では一条の前後譚を描く方向性が強く、カイジが裏カジノに訪れるまでの順風満帆な店長時代やカイジに敗れて地下送りとなった苦渋の囚人時代の2つを主題とする原作準拠、あるいは全くのパラレルワールドを主題とする完全創作の2系統に大別される。