作品解説
超能力者が実在するが、社会的に存在を秘匿・隔離されるという架空の日本社会を舞台にしたSF小説。超能力以外にも様々なSF要素を各巻ごとに取り込み、ライトノベル的な世界設定の中で発動させる趣向である。メインがSF要素を動かすことにあるため、必要なら鬱やホラー手法を用いヒロインそして主人公すら巻によって変える。すなわち、様々な観点から、ライトノベルの書法を離れた実験的作品といえる。文体は三人称で、節ごとに主な語り手が設定され、巻ごとに語り手を多く務めるものが主人公格となる。ただし、第1巻のみ主人公一人称で記述されている。
世界設定
EMP能力と呼ばれる超能力は、子供時代に発現して平均18歳前後で消えていく。その存在を秘匿するため、政府は三つのEMP学園という全寮制の学校を設立してEMP能力を持つ少年少女を半強制的に収容している。今年で17歳の高崎佳由季は何の超能力も持たない一般人の少年だが、幼くして死んだ妹春奈の幽霊に取り憑かれているため、6年にわたって第三EMP学園に住むこととなってしまった。この第三EMP学園は生徒達が悪戯あるいは喧嘩でEMP能力を用い、EMP能力者たちの無意識から生まれた想念体と呼ばれる怪物が日常的に暴れる非常識な世界である。生徒の悪さには同じく生徒による生徒自治会保安部が対処し、想念体は対魔班の宮野秀策と光明寺茉衣子らが退治して回っているが、解決しているのか問題を大きくしているのか分からないという有り様である。
そんなある日、佳由季は生徒自治会から依頼を受ける。学園の外に想念体が出現し、騒ぎを起こしているというのだ。学園の中ならばいつものことであるが、外となると学園の存在根拠に関わる重大な事態である。佳由季は結局依頼を承諾し、どこに行くにも離れない春奈と共に調査に向かうが・・・
登場人物
高崎兄妹
左から、高崎春奈、高崎佳由季、高崎若菜
- 高崎佳由季:第三EMP学園の高等部2年生で男子寮B棟の寮長。第1巻と第5、6巻の主人公格。諸事情で学園にいながら能力を持たない一般人。そのため逆に能力者を使うと危険な面倒ごとに対処できる人材として、トラブルに巻き込まれがち。
- 高崎春奈:佳由季の妹。6年前に交通事故で死亡したが、幽霊となって兄に取り憑いている。「念動力」と「不可視障壁」のEMP能力を持つ。死亡時の精神年齢そのままの悪戯好きで、佳由季に近づく女性に対して嫉妬深いところがある。
- 高崎若菜:春奈とは双子の妹。EMP能力は学園最強の「不可視障壁」(本人呼ぶところの、「ばりやー」)。防御力は絶大だが攻撃には一切使えない。のんびりとして天然が入った優しい性格。光明寺茉衣子とは中等部時代からのルームメイトである。
対魔班
宮野秀策と光明寺茉衣子
- 光明寺茉衣子:第三EMP学園の高等部1年生。生徒自治会保安部対魔班員。対象に触れると爆発する、蛍火のような球体を操るEMP能力を持つ。制服を着用せず常にゴシックロリータ風の服装を着用している。傲岸不遜かつ時代がかかったお嬢様口調で語り、プライドが高い。本心を口にするのが下手で、いわゆるツンデレの気がある。第3、4巻の主人公格。
- 宮野秀策:第三EMP学園の高等部2年生。生徒自治会保安部対魔班の班長。「ブラック・アーティスト」と呼ばれるそのEMP能力は魔法円から黒い触手を召喚して攻撃や捕縛などを行う他、古代の魔法を再現するような能力を各種行使する。夏でも常に白衣を着ている。絶大な自信家でその振る舞いは傍若無人、部下の茉衣子をはじめ周囲全てを振り回す。しかしその思考には哲学者か求道者のような奇妙な色彩がある。
生徒自治会
- 縞瀬真琴:第三EMP学園高等部2年生にして生徒自治会書記。EMP能力は「読心感応能力」(テレパスという)。その能力は学園内トップクラスの少女で、相手の思考を読むばかりか身体を制御し精神を操作することも可能、EMP能力による防御もまず通用しない。高い問題対処能力と、ひねくれた性格で他人を弄ぶ悪癖があり、強大な能力ともども生徒達から畏怖と絶大な信頼を得ている。
- 日比木朋久:第三EMP学園生徒自治会会長。能力の詳細は不明だが強大な「サイバーテレパス」らしい。不思議なほど影が薄い人物であるが、常に率直で冷静な口調で話す。
- 冷泉光洋:第1巻より登場するが名前の初出は第5巻。第三EMP学園高等部1年生にして生徒自治会執行部所属。
- 新屋敷祈:第5巻より登場。第三EMP学園高等部1年生、生徒自治会保安部遊撃班所属。常に×マークの描かれたマスクを着けている。接触しての送信限定のテレパスであるほか、詳細不明だが強力なEMP能力を持っているらしい。
第三EMP学園の一般生徒
- 蒼ノ木類:第3巻より登場。第三EMP学園の高等部1年生。癖っ毛気味と文章では表現されるその髪は、イラストでは獣耳のように見える。猫相手限定のテレパスだが、学園内に猫がいないので使い道がないという不運な娘。恐がりですぐ涙目になるが、友達思いである。
- 志賀侑里:第3巻より登場する、類のルームメイト。ある日突然失踪し、類は学生自治会に捜索依頼を出す。
- 観音崎滋:第3巻より登場。第三EMP学園の高等部2年生。EMP能力は「引き寄せ」すなわち遠くにある物体を引き寄せること。茉衣子が所属する妖撃部のメンバー。
- 雨森日世子:第5巻より登場。第三EMP学園高等部1年生。類によって、「死亡」しているのを発見される。
学外の一般生徒
- 神田健一郎:16歳の高校1年生で、EMP学園ではなく一般の学校に通っている。奇妙な事件に巻き込まれ、同級生の星名サナエに協力を仰ぐ。第2巻の主人公格。
- 海老原ユウキ:健一郎と同じ高校に通う幼馴染みでガールフレンド。強気な性格で、武術を習っており健一郎に対して怒る時は様々な技を披露して痛めつける。しかしその際見せる微笑は実に魅力的。
- 海老原ミツキ:ユウキの三歳下の妹で中学一年生。姉と対照的な大人しく可愛らしい娘。
- 星名サナエ:健一郎の同級生で超常現象研究会所属。非日常的な事件に巻き込まれて対処に窮した健一郎は、最後にこの少女に相談することを思いついた。
- 仲嶋数花:第4巻より登場。一般高校に通う17歳の少女。自分の家族、家、そして世界に奇妙な違和感を覚え、家出をしてしまう。それは3つのEMP学園を巻き込んだ事件の始まりでもあった。
第一EMP学園
- 枕木庸市:第4巻より登場。第一EMP学園高等部2年生。生徒自治会保安部から派遣される。EMP能力は想念の糸で対象を操る能力。
第二EMP学園
- 蜩篤史:第4巻より登場。第ニEMP学園高等部1年生で、生徒自治会保安部から派遣される。EMP能力は「代謝加速能力」で、主観時間を超高速で流れさせることによる瞬速の行動が可能。短気で熱血漢の少年である。
- 喜夛高多鹿:第4巻より登場。第ニEMP学園高等部2年生で、生徒自治会保安部から派遣される。EMP能力は山海経を題材にした強力な「想念憑依具現能力」。物体を想念によって変形させて幻獣と化し、操る。幼い容姿で脳天気な発言が多い明るい少女だが、巧みに直情な蜩を尻に敷いている頭脳派。
- 那岐鳥獅子丸:第5巻より登場。第ニEMP学園高等部2年生、生徒自治会保安部所属。EMP能力は「祟られ屋」、つまり一般人が装備すると危険な呪われたアイテムを身につけ、ゆっくりと無害化できる力。必要ならアイテムの能力を使用することもできる。
???
- 抜水優弥:学外に出現した想念体の調査に向かった佳由季が出会う奇妙な青年。プロフィール不明。佳由季には友好的であるが、どこか退廃的な言動を好んで繰り返し、佳由季の反応を伺うような面がある。
出版
第1巻 | Escape from The School | 2003年6月25日 | 電撃文庫 |
第2巻 | I-My-Me | 2003年8月25日 | 電撃文庫 |
第3巻 | The Laughing Bootleg | 2003年10月25日 | 電撃文庫 |
第4巻 | Final Destination | 2004年3月25日 | 電撃文庫 |
第5巻 | NOT DEAD OR NOT ALIVE | 2004年9月25日 | 電撃文庫 |
第6巻 | VAMPIRE SYNDROME | 2004年10月25日 | 電撃文庫 |