実名報道
じつめいほうどう
報道においては「実名で報道する」ほうがその信憑性が高まるが、「冤罪や精神障害の疑いなどにより無罪の可能性が高い」「被害者はそっとしておいてほしいことがある」「未成年の犯罪」「風評被害等、厄介な問題が絡む」などの理由により、その報道が困難な場合が存在する。
また、一度実名を報道してしまうと後から匿名の方が良かったと判明したケースであってもweb上などに残ってしまい、取り返しがつかないことも問題を大きくしている(匿名なら後から実名を出すことで取り返しがつくケースも多い)。
プライバシー
災害や事故等の被害者、あるいはデリケートな内容を含む事件において、当事者や家族が実名で報道されることを望まない場合が存在している(例:相模原障害者施設殺傷事件)。被害者側に対して心無い噂を立てる者も多く、そうした中傷をする者を取り締まることは難しいのが実情である。
またマスコミや読者はえてして推定無罪を無視することも多く、それも問題を大きくしている。結果的に無罪になった場合であっても、それが大きく報道されることは多くないし、また「灰色無罪であって実際はやっているんだろう」「火のない所に煙は立たぬ」と中傷をする者もいるのである。
少年法との兼ね合い
また、少年法61条においては、出版物にて実名等個人情報を報道することが禁止されており、e-Gov法令検索:少年法61条を引用すると、「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。」とある。
なお、令和4年4月1日に施行される改正少年法によって、少年が家庭裁判所から検察庁に送致された(逆送)案件については実名報道が可能となる。ただし、逮捕された時点での実名報道は許されていない。
例外は浅沼稲次郎暗殺事件で、犯人は17歳の少年だったが、事の重大さから実名報道された。
無罪の公算が高い
たとえば「別件逮捕された人物を任意に聴取する」などの場合、まだ有罪と決定したわけではないため実名での報道は差し控えられ、また「精神異常」の場合も同様に取り扱われる場合があり、この場合は「当初実名報道していたにもかかわらず匿名で報道される」状況になる。
特に問題となるのは「プライバシー」と「知る権利」の問題であり、たとえば災害の被害者が疑われる人物の実名を発表して安否確認を行うことが果たして是か非か、という問題が存在しているほか、忘れられる権利、すなわち「過去報じられた実名等が各種不具合が存在するため(インターネットの検索エンジンに対して)削除を申し込める権利」というものも提唱されている。
とはいえ、裁判所は間違った報道で名誉毀損をすることには厳しく対応することが多いが、実名報道を行うことそのものについて違法とすることについては消極的に解している。裁判所がこうした報道を違法と判断する場合、公権力による表現の自由に対する干渉となる危険性が高いためである。
最後に
事件や事故の内容が凶悪・悲愴であればあるほど「犯罪者に人権はないから手続なんか踏んでないでさっさと牢屋にぶちこめ!」「黙秘するなんてとんでもない!」「実名顔写真を晒せ!」 と言う声が高くなりがちである。
だが、上記と重なるが逮捕の段階では別の犯人や事故原因があるかもしれない容疑者であり(推定無罪)、例えば自分が痴漢冤罪で手続保障もなく実刑にされたり黙秘権行使しただけで世間に非難されたり実名報道されて社会的に抹殺されたり・・・となってしまう事態がいかに恐ろしいものか想像しなければならない。
逮捕という「国家権力による合法的な人権侵害」が本当に合法なのかを、国民が監視・検証するために実名(そして顔出し)報道は重要(どこの誰を国家が拘束したのかを誰も知らないというのは危険)なのだが、その大前提は何度も言うように「推定無罪」であり、その点を(報道内容やそれに引きずられる形で視聴者も)軽視する風潮が問題を難しくしている。