投げすて魔人
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なげすてまじん
昭和時代に発行された『妖怪図鑑』において、冬のスウェーデンに現れると紹介される魔人。
スウェーデンでは冬の明け方になると、「ドーーン!」と民家の屋根や窓に何か重いものがぶつかった音が響き渡ることがある。
家人や近所の人々が様子を窺いに行くと、穴が開いてしまった屋根や粉々になった窓の近くに、カチコチに凍った人間の凍死体が転がっているのだという。
これこそが冬に現れるといわれる身長100mもある骸骨巨人投げすて魔人の仕業なのである。
この魔人は雪山や雪原で凍死体を見つけ出して拾ってきては、上空から民家に投げ捨ててくるために、スウェーデンの人々は冬が訪れるのを非常に恐れている。しかし、行方不明になっていた家族に再会できたと感謝する者もいるのだとか。
その正体は19世紀のベルギーの画家・版画家のフェリシアン・ロップスの描いた、『毒麦の種を蒔くサタン』という絵画作品である。
ロップスは象徴主義・デカダン派の文学運動と関わりを持っていたために、それらの文学作品のテーマである性、死、悪魔についての絵画作品が多く、異様な雰囲気なこの作品に『世界妖怪図鑑』の著者である怪奇作家佐藤有文がキャプションをつけたものだったのである。
なおこの絵画作品自体も、ジャン=フランソワ・ミレーの名画『種をまく人』のパロディであり、毒麦とは食中毒を引き起こす小麦そっくりな雑草のことである。
毒麦は聖書においては、人の子の中にいる悪魔が播いた悪しき子であると例えられた。
この魔人のことが書かれた昭和40~50年代には一部の好事家にしか知られていなかったクトゥルフ神話に登場するイタカの設定に類似しており、同書籍にはチャウグナー・フォーンやシュゴーランにも似たまだらミイラなども掲載されているため、佐藤が海外などの文献を通じて影響を受けていた可能性が考察されている。
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